日本語の面白い語源・由来(く-③)楠・苦肉の策・狂う・栗・釘煮・靴・腐る

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クスノキ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.楠/樟/楠木/クスノキ(くすのき)

クスノキの実

クスノキ」とは、暖地に自生するクスノキ科の常緑高木です。長寿で、高さ20メートル以上にもなります。全体に芳香があり、樟脳(しょうのう)をとります。

クスノキの語源は諸説ありますが、「クスリノキ(薬の木)」や「クスシキ(奇し木)の説が妥当です。

クスノキからは樟脳をとり、香料・殺虫剤・防臭剤などにすることから「薬の木」。
「奇し」は「霊妙だ」「不思議だ」という意味の形容詞。
「薬」は霊妙な薬効があるものいい、「奇し」と同源であるため、クスノキの語源は「薬の木」と「奇し木」のどちらともいえます。

クスノキの漢字「樟」は「高く伸びる木」を表し、「楠」は「南方原産の木」を表しています。ただし、中国で「楠」はタブノキを指します。

余談ですが、福山雅治の「クスノキ」という歌は長崎の原爆に逢いながらも生き残った被爆樹木のクスノキを歌っています。

また、「楠学問」と「梅の木学問」という言葉(*)があります。

「楠学問」とは、 楠は生長は遅いが着実に大木になるところから、 進歩は遅くても、堅実に成長して行く学問のことです。一方、「梅の木学問」とは、 梅の木は初め生長が早いけれども結局大木にならないところから)、にわか仕込みの不確実な学問、小手先の学問、大成しない学問のことを指します。

(*)わらんべ草(1660)三「きやうなる者は、頼てかならず由断あり。ぶきようなる者は、わが身をかへり見、おくれじと嗜むゆへ、おひこす。〈略〉梅の木、楠の木学文と云事思ふべし。」

なお、「楠若葉(くすわかば)」「楠落葉(くすおちば)」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・献燈は 丸亀汽船 樟若葉(高澤良一)

・樟落葉 首塚といふ 石囲(高橋喜祐)

・楠若葉 団地全棟 全戸老ゆ(小川軽舟)

「楠落葉」に関連した「完全リタイアを控えて常緑樹と落葉樹の生き方に思いを馳せる」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。

2.苦肉の策(くにくのさく)

苦肉の策

苦肉の策」とは、苦しまぎれに考えだした手段のことです。「苦肉の謀(はかりごと)」「苦肉の計」とも言います。

苦肉の策の「苦肉」は、敵をあざむくために自分の身(肉)や味方を苦しめることを意味しました。
これは、人は自ら傷つけることはなく、他人に傷つけられるものなので、傷つけられた人を信用してしまうといった心理を逆手にとった考えです。

兵法三十六計』の第三十四計の戦術には、この心理を使った「苦肉計」があり、その代表的な例は『三国志演義』の赤壁の戦いで描かれている偽計で、これが「苦肉」の語源ともいわれます。

自身や味方を苦しめて相手をあざむくことをいった「苦肉」ですが、「苦」という語の連想から、苦し紛れに考え出した手段、切羽詰った状態から逃れるためにとる手段をいうようになりました。

3.狂う(くるう)

狂う

狂う」とは、精神・物事・機械の状態が正常でなくなる、我を忘れて物事に熱中する、予想が外れる、計画通りにならないことなどを意味します。

狂うは、気が転じるところから。また、神がかりになって激しく動き回るところから回転するさまの「クルクル」を活用した語と思われます。
漢字の「狂」は、「犬」に音符の「王」からなる字で、大袈裟に走り回る犬を表し、枠から外れて広がるといった意味を含んでいる。

4.栗(くり)

栗

」とは、ブナ科の落葉高木です。山地に生え、いがに包まれた実は食用に、材は建材や枕木にします。

栗の語源には、果皮の色が黒いことから「くろ(黒)」が転じたとする説
「クロミ(黒実)」の縮約など、黒い色を語源とする説
落ちた実が石のようであることから、「石」を意味する古語「クリ」からとする説
朝鮮語で「栗」を意味する「kul(クル)」からなど諸説あります。

石を意味する古語「クリ」は、水底によどむ黒い土を表す「くり(涅)」と同源であるため、栗の語源は色の「黒」や石の「クリ」と同系と考えられます。

漢字の「栗」は、実が落ちて木の上にいがが残っているさまを表しています。

「栗」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・夜ル竊(ひそか)ニ 虫は月下の 栗を穿ツ(松尾芭蕉

・栗備ふ 恵心の作の 弥陀仏(与謝蕪村

・栗拾ひ ねんねんころり 言ひながら(小林一茶

5.釘煮/くぎ煮(くぎに)

釘煮

くぎ煮」とは、佃煮の一種で、生のいかなごを醤油やみりん・砂糖・生姜などで甘辛く煮込んだものです。

くぎ煮は、「釘」に由来する名前であることは間違いありませんが、その中にも細かな説がいくつかあります。
この食べ物が茶色く折れ曲がっており、錆びて折れ曲がった釘に見えるところから、「くぎ煮」と呼ぶようになったという説
錆びた釘に似ていることから、「釘似」で「くぎ煮」になったとする説
くぎ煮を作る様子が釘を煎っているように見えたことから、元々は「釘煎り」と呼ばれており、「釘煎り」が「釘り」、そして「くぎ煮」に変化したとする説があり、錆びて折れ曲がった釘の説が有力と考えられています。

「くぎ煮」という名前は、1960年代頃、神戸市垂水漁協の組合長による命名といわれますが、定かではありません。

6.靴/沓/履(くつ)

靴

」とは、履物の一種で、足先全体を覆い、歩行するのに用いる具です。

靴の語源は、「ケルタル(蹴足)」の転や、足を納めるさまを表す擬態語「クツ」など諸説ありますが、朝鮮から日本に多くの文物が持ち込まれたことから、朝鮮語の「kuit(グドゥ)」説が有力です。

世界で最も古い履物は古代エジプトのサンダルで、西洋靴のルーツとなっています。

日本では、軍靴の必要から明治初年に西洋靴が作られるようになりましたが、履物という意味での靴は、奈良・平安時代には既に履かれていました。ただし、当時は上流階級のみが履き、庶民は裸足でした。

鎌倉・室町時代には、鼻緒のある履物が発達し、靴は公家階級だけのものとなりました。

現在は、ほとんどが「靴」と漢字表記されますが、装束の履物を指す際の靴は「履」と表記され、革製の履は「沓」と表記されました。

7.腐る(くさる)

腐る・リンゴ

腐る」とは、細菌の作用で変質し、腐敗する。食べ物などがいたむ。ぼろぼろになる。がっかりする。めいる。博打で負けることなどを意味します。

腐るの語源は、「くちる(朽ちる)」の「くち」「くたばる」の「くた」などに通じる語と考えられますが、それ以上のことは不明です。

動植物が腐ると悪臭を発することから「くさあるる(臭荒)」とする説もありますが、「くさい(臭い)」は「くさる」が語源なので、前後関係が逆転しています。

「くそある(糞生)」から「くさる」に転じたとする説もありますが、「くそ」も「くさる」もしくは「くさい」から生じた語と考えられるため、この説も考えられません。