日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.付け焼刃(つけやきば)
「付け焼き刃」とは、その場をしのぐために、にわかに覚えた知識や技術のことです。
付け焼き刃は、刀鍛冶用語に由来する言葉です。
刀鍛冶用語では、切れ味の良くない刀に、鋼(はがね)の焼き刃を付け足したものを「付け焼き刃」といいました。
切れ味が良く長持ちする刀は、何度も地金を打って作られますが、鋼を足しただけの付け焼き刃は、すぐに切れなくなり使い物にならなくなってしまいます。
そこから、その場しのぎに覚えた知識や技術を「付け焼き刃」と言うようになりました。
2.妻(つま)
「妻」とは、配偶者である女性のことです。夫の対。
妻の語源は、連れ添う夫婦の意味に由来し、「つ」は粘り気のある意味の語根、「ま」は「身(み)」の転。
もしくは、「つ」が「連(つら)」の語幹で、「連れ身(つれみ)」の略転と考えられています。
元来、「つま」は男女にかかわらず配偶者を指しました。
そのため、「夫」と書いて「つま」とも読みます。
やがて、男性から見て配偶者や恋人というように、女性を指す言葉として使われるようになりました。
現代では、夫が配偶者の女性を指すときの称として、「つま(妻)」を用いるのが大半です。
3.爪(つめ)
「爪」とは、手足の先端に生える角質の部分のことです。
足の指の先を「爪先(つまさき)」と言うように、爪の語源は、「縁(へり・ふち)」「際(きわ)」など物の「はし」を意味する「端(つま)」で、「指の端」の意味です。
指などで挟んで持つ意味の動詞「つまむ」も「爪」が語源といわれ、「端(つま)」と「爪(つめ)」は深い関係にあります。
着物の「褄(つま)」なども、同源と考えられています。
4.冷たい(つめたい)
「冷たい」とは、温度が低く冷ややかである。思いやりがない。冷淡であることです。つべたい。
冷たいは、「爪痛し(つめいたし)」が転じた語です。
「つめいたし」が「つめたし」となり、「つめたい」になりました。
現代では、肉体の一部が触れた時に感じる温度の低さを形容する語が「冷たい」、体全体で感じる気温の低さを形容する語が「寒い」となりますが、用例が見られるようになった平安時代には「寒さ」を形容した例の方が多くあります。
そのことから、冷たいの語源となる「爪痛し」は、寒さから指先や耳など体の一部が痛く感じられることから生まれ、のちに温度が低い物に触れた時の冷ややかさを形容するようになったと考えられます。
冷たいは、物の温度の低さから、比喩的に人の態度や性格が冷淡であることもいうようになり、「つべたまし」という形容詞も派生しました。
ただし、「つべたまし」には「冷淡である」「気味が悪い」といった、人に対する形容としてのみ用いられ、「冷たい」が温度の低さの形容としては用いられていません。
5。恙無い(つつがない)
「つつがない」とは、無事である、問題が無い、障害が無いことです。
「つつがない」や「つつがなく」の「つつが」は、病気や災難を意味する「恙(つつが)」で、漢字では「恙無い」「恙無く」と書きます。
「つつが」と同源の言葉には、「病気になる」「差し障りがある」などを意味する動詞「恙む(つつむ)」の名詞形「恙み(つつみ)」もあり、「つつみなし」という言い方もありました。
「恙む」は、障害にあう意味の「慎む」「障む」などと同源で、これらは「包む」と同源です。
つつがないの語源には、「ツツガムシ」という虫が病気の原因となることから生まれたとする説もあります。
しかし、「つつがなし」よりも後に見られる「ツツガムシ」の名を語源とするのは、明らかにおかしな説です。
6.束の間(つかのま)
「束の間」とは、ごく僅かな時間、ちょっとの時間のことです。「つかのあいだ」とも言います。
束の間の「束」はと、上代の長さの単位です。
一束が指4本分の幅、つまり一握り分ほどの短い幅のことです。
この幅が時間の長さにたとえられ、ほんのちょっとの時間を「束の間」と言うようになりました。
7.辻褄(つじつま)
「辻褄」とは、合うべき道理、一貫すべき物事の筋道のことです。
辻褄の「辻」は、裁縫で縫い目が十字に合う部分のことです。
「褄」は、着物の裾の左右両端の部分のことで、辻褄はいずれも合うべき部分を意味します。
そこから、道理などが合うことを「辻褄が合う」、ちぐはぐなことを「辻褄が合わない」と用いられるようになりました。
8.月並み(つきなみ)
「月並み」とは、ありふれていてつまらないこと、平凡なことです。月次。
月並みは、元々「毎月」「月ごと」「毎月決まって行うこと」などを意味する語でした。
そこから、和歌・連歌・俳句などで行うなう月例の会を「月並みの会」と言うようになり、俳句の世界では「月並俳諧」という語も生まれました。
月並みが「平凡でつまらないこと」を意味するようになったのは、正岡子規が俳句革新運動で、天保期以後の決まりきった俳諧の調子を批判して、「月並調(月並俳句)」と言ったことによります。