日本語の面白い語源・由来(と-⑪)土用・とんでもない・兎に角・虎の巻・土壇場・とどのつまり・心太・豆腐

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土用の丑の日

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.土用(どよう)

土用

「土用」と言えば、鰻を食べる習慣のある「土用の丑の日」を思い浮かべる方も多いと思います。この習慣は平賀源内(1728年~1780年)が、暑い夏の「土用の丑の日」に庶民がもっと鰻を食べるように、うまい宣伝方法(「本日、土用丑の日」という張り紙を鰻屋の店頭に出した)を考案したことに由来します。

しかし土用は「夏の土用」だけではありません。

土用」とは、「旧暦で立春・立夏・立秋・立冬の前各18日間」のことです。特に、立秋前の夏の土用をいいます。

土用は、中国の陰陽五行説で、四季の春を木気、夏を火気、秋を金気、冬を水気にあてはめ、各季節の終わり18日間に土気を当てたことに由来します。

ただし、この「土用」は中国語ではありません。

「土気」は各季節の最も盛んなときを指すことから、中国語にあった「土王」か「土旺」が用いられ、発音が訛って「どよう」となりました。

そのため、「用」の字が当てられて「土用」になったと考えられます。

「土用」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・おぼつかな 土用の入りの 人ごころ(杉山杉風)

・人声や 夜も両国の 土用照り(小林一茶

・ほろほろと 朝雨こぼす 土用かな(正岡子規

・わぎもこの はだのつめたき 土用かな(日野草城

2.とんでもない

とんでもない

とんでもない」とは、「思いがけない。意外である。冗談ではない。けしからん。滅相もない」ということです。

とんでもないは、「途でもない(とでもない)」が変化した語です。

「途」は「道」「道程」の意味から、「手段」や「物事の道理」も意味するようになった語で、同じ用法の和製漢語には「途轍」「途方」があります。

その「途」に否定の「無い」をつけ、「道理から外れてひどい」「思ってもみない」などの意味で「途でもない」となり、「とんでもない」となりました。

「思いがけない」の意味で「飛んだ」という語があるため、とんでもないの語源を「飛んでもない」とする説もあります。

しかし、とんでもないが「飛んだ」の否定であれば、「思いがけなくない」「当たり前」といった意味になるため誤りで、反対に「飛んだ」を「とんでもない」の語源と関連づけることも間違いです。

「無い」で否定した「とんでも無い」が語源ですが、「とんでも」が単独で使われた例はないため、「とんでもない」で一語とされる言葉です。

そのため、「とんでもございません」や「とんでもありません」の表現は間違いとされてきました。

しかし、平成19年(2007年)2月文化審議会答申の『敬語の指針』で、相手からの褒め言葉に対して、謙遜しながら軽く打ち消す表現として、「とんでもございません(とんでもありません)」を使っても問題ないとされたことで、現在では間違いではない表現とされています。

ただし、「とんでもない」には強く否定する「もってのほかだ」の意味もあり、「とんでもないことでございます」を使う場合は注意が必要だと『指針』では述べられています。

3.兎に角(とにかく)

兎に角

兎に角」とは、「何はともあれ。さておき」ということです。

兎に角は「とかく」の当て字「兎角」を真似た当て字で、仏教語の「兎角亀毛(とかくきもう)」からと考えられます。

ただし、兎角亀毛の意味は、うさぎに角やカメに毛は存在しないことから、現実にはあり得ないもののたとえとして用いられたり、実際に無いものを有るとすることをいったものです。
意味の面では、「とにかく」や「とかく」と「兎角亀毛」に関連性は無く、単に漢字を拝借したものです。

この当て字は、夏目漱石が多用したことで広く用いられるようになりました。

とにかくは、平安時代から江戸時代まで「とにかくに」の形で用いられていました。
とにかくの「と」は「そのように」、「かく」は「このように」で、いずれも副詞です。

「あれこれと」「何やかや」といった意味で用いられ、転じて「いずれにせよ」などの意味になりました。

4.虎の巻(とらのまき)

虎の巻

虎の巻」とは、「秘訣などを記した秘伝書。教科書の解説本。参考書。ネタ本」のことです。あんちょこ。

虎の巻は、中国の兵法書『六韜(りくとう)』に由来する言葉です。

『六韜』は文・武・竜・虎・豹・犬の六巻から成ります。
そのうちの兵法の奥義が記された秘伝書『虎韜の巻(ことうのまき)』の名が略され、「虎の巻」となりました。

虎の巻は「奥義の秘伝書」の意味から、単に「秘伝書」も意味するようになり、教科書の解説本なども「虎の巻」と呼ぶようになりました。

5.土壇場(どたんば)

土壇場

土壇場」とは、「切羽詰まった場面。最後の場面」のことです。

江戸以前までは、文字通り、土壇場は土を盛って築いた壇の場所を表す言葉として使われていました。

江戸時代に入り、斬罪の刑を執行するときに罪人を「土壇場」に横たわらせたことから、「斬首刑の刑場」を意味するようになりました。

さらに「刑場」の意味から、どうにもならない場面や、最後の決断を迫られる場面を「土壇場」と言うようになりました。

6.とどのつまり

とどのつまり

とどのつまり」とは、「結局のところ。行き着くところ」ということです。多く、思わしくない結果に終わった場合に用いられます。

とどのつまりの語源には、ボラの成魚名「トド」に由来する俗説もありますが、「とど」は「止め」の意味で、「とどこおり(滞り)」や「とどまり(留まり)」などと同根です。

「つまり」は、副詞の「つまり」と同じく「詰まる」の意味です。
「とどのつまり」で、最後に行き着くところを強調した表現です。

「とど」がボラの成魚名に由来する俗説は、ボラは成長するにつれて名前を変える出世魚で、「ハク」「オボコ(クチメ)」「スバシリ」「イナ」「ボラ」といろいろな呼び名に変化していき、最終的には「トド」になります。

色々な名前で呼ばれても、最終的には「トド」になることから、「トドの詰まり」で「結局のところ」を意味する「とどのつまり」という言葉が生まれたというものです。

しかし、魚に由来する言葉で、このような特殊な成り立ちの場合、普通は魚河岸や漁師間で言われていたなど、背景も明らかになっているはずですが、この説には最後の名前であるからという説明しかありません。

また、出世魚として有名なブリではなく、ボラが選ばれた理由も明確にされていません。
「とど」と聞いて最初に思い浮かべるのが、アシカ科の「トド」なので、そうではなく実は魚の「トド」が語源であると説明すれば、雑学として面白くなるため広められただけの説で、根拠となるものは何一つありません。

ちなみに、魚の「トド(ボラ)」も、「とどのつまり」と同じく「止め」の意味から命名されたと考えられています。

また、歌舞伎のト書きでは、「結局」の意味で多く「とど」が使われていますが、これも「止め」に由来します。

その他、とどのつまりの「と」が「十」に由来する説もあります。

これは、18世紀末の『玉菊灯籠弁』に「十どのつまりは居候」の例があるため、最終を「十(と)」とした説です。

しかし、『玉菊灯籠弁』は洒落本なので、この「十」は洒落で当てられたものと考えられます。

7.心太(ところてん)

心太・ところてん

ところてん」とは、「テングサを煮て溶かし、型に流して冷やし固めた食品」です。ところてん突きで細く麺状に突き出し、醤油や酢をかけ、辛子などを添えて食べます。

ところてんの歴史は古く、テングサを煮溶かす製法は、遣唐使が持ち帰ったとされます。

当時は、テングサを「凝海藻(こるもは)」と呼んでおり、ところてんは俗に「こころふと」と呼ばれ、漢字で「心太」が当てられました。

「こころふと」の「こころ」は「凝る」が転じたもので、「ふと」は「太い海藻」の意味と考えられています。

室町時代に入り、「心太」は湯桶読みで「こころてい」と呼ばれるようになりました。
更に「こころてん」となり、江戸時代の書物では「ところてん」と記されています。

「ところてん」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・清滝の 水汲ませてや ところてん(松尾芭蕉

・巡礼の よる木のもとや ところてん(宝井其角

・白雨に 躍り出でけり ところてん(森川許六)

・ところてん 逆(さか)しまに銀河 三千尺(与謝蕪村

8.豆腐(とうふ)

豆腐

豆腐」とは、「柔らかくした大豆を砕いて煮た汁を漉して豆乳を造り、にがりなどを入れて固まらせた加工食品」です。

豆腐は寺院の食物として中国から伝来したもので、漢語の「豆腐」をそのまま借用しました。

「腐」は「腐敗」の意味ではなく、中国でヨーグルトを「乳腐」と呼ぶように、液体に近い固体も指すことから、「豆腐」と書かれるようになりました。

豆腐の「腐(腐る)」と納豆の「納(納める)」の漢字から、中国から伝わった際、日本人が豆腐と納豆を呼び間違えたとする説もありますが俗説です。

豆腐の伝来時期は定かではありませんが、最も古い文献は奈良時代のものとなります。

女房詞では色の白さを壁に見立てて、「御壁(おかべ)」と言います。

「新豆腐」は秋の季語、「湯豆腐」「凍豆腐(しみどうふ/いてどうふ)」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・清みてるや 一葉に沈む 新豆腐(椎本才麿)

・湯豆腐や 蝦夷の板昆布 跳上がり(渡辺水巴)

・湯豆腐の 浮沈を縫うて 朱(あけ)の箸(日野草城)

・凍豆腐に 空頼もしき 北斗かな(静 雲)