日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.葉(は)
「葉」とは、「植物の枝や茎につき、光合成や蒸散などを行う器官」です。多様な形状がありますが、一般に扁平で緑色です。
葉の語源には、薄く平たいことから「ヒラ(平)」、ヒラヒラしていることから「ヒラ」、ハラハラしていることから「ハラ」、落ちて再び生ずることから「歯」にたとえたものなど諸説あります。
一音の語の語源を特定することは難しいですが、枝や茎から出る「葉」と歯茎から出る「歯」は類似しており、関係があると思われます。
ただし、語源が「歯」という訳ではなく、「歯」と同源と考えられます。
「は」の音には「生じるもの」の意味があり、「はゆ(生)」の「は」と思われます。
漢字の「葉」は、三枚の葉が木の上にある姿を描いた象形文字に草冠を加えたものです。
2.甚だしい(はなはだしい)
「甚だしい」とは、「普通の程度をはるかに超えている。激しい」ことです。
甚だしいは、副詞「甚だ(はなはだ)」を形容詞化した語です。
上代に「極端」の意味を表す「はだ(甚)」という語があり、それを重ね合わせた「はだはだ」が変化して「はなはだ」になったと考えられています。
「はだ(甚)」の「は」は「端」の意味で、「だ」は接尾語です。
また、「はな(花)」は目立つものの形容にも用いられる語なので、甚だしいの「はなはだ」は「はな(花)」に「はだ(甚)」を合わせた語とも考えられます。
3.鱧(はも)
「ハモ」とは、「全長約2メートルのウナギ目ハモ科の魚」です。体はウナギに似て細長いく、口が大きく、鋭い歯を持っています。吸い物や蒲焼きなどにします。
古名は「ハム」で、室町時代から「ハモ」と呼ばれるようになりましたが、近世以降も「ハム」の記述は多く見られます。
「ハム」の語源には、鋭い歯で魚を食べることから、「噛む」「食べる」を意味する「はむ(食む)」とする説。
ハモの姿がヘビに似ることから、ヘビやマムシの方言「ハメ」「ハミ」「ハブ」と同源とする説があります。
ハモの特徴や「ハム」に通じる音の面で問題がないため、どちらか一方に絞ることは困難です。
その他、ハモの語源には、鋭い歯に注目した「ハモチ(歯持ち)」説や、鱗がなく肌が見えるようであることから「ハタミユ(肌見)」といった説もありますが、音変化の点で説得力に欠けます。
漢字の「鱧」は、漢音で「レイ」、呉音では「ライ」と読みます。
中国の「鱧」は日本の「ハモ」と外見は似ていますが異なる魚で、「七星魚」とも呼ばれます。
「鱧」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・飯鮓の 鱧なつかしき 都かな(宝井其角)
・大阪の 祭つぎつぎ 鱧の味(青木月斗)
・竹の宿 昼水鱧を 刻みけり(松瀬青々)
・祭鱧 祇園小路も 奥の奥(小澤實)
4.パンツ/pants
「パンツ」とは、「ズボン式の肌着。ブリーフ。ショーツ。パンティー。ズボン。スラックス」のことです。
パンツは、英語「pants」からの外来語です。
「pants」は、「脚衣」「ズボン」を意味する「pantaloons(パンタルーンズ)」の短縮形です。
「pantaloons(パンタルーンズ)」は、「パンタロン」の語源にもなっている語で、昔のイタリア喜劇やパントマイム劇に出てくる痩せこけた老いぼ役の「Pantaleone(パンタローネ)」が、細くて長いズボンをはいているのが印象的であったため、「パンタローネ」という役名から「脚衣」を「パンタルーンズ」と呼ぶようになりました。
英語の「pants」は「下着」としてでなく、「脚衣」といった広い意味で用いられますが、日本では長く「下着」の呼称で「パンツ」が用いられていました。
「ハーフパンツ」や「カーゴパンツ」のように複合語の中では用いられていましたが、「パンツ」の語を単独で用いて「ズボン」を表すようになったのは最近です。
これは、「脚衣」には対応する呼称の「ズボン」がありますが、ふんどしの代わりとなった「下着のパンツ」には対応する呼称がなかったためと思われます。
5.腹(はら)
「腹」とは、「人の体の胸から腰の間でへそがある前面部分。胃腸のある部分。おなか。動物の胸から腰・尾の間の下半分」のことです。
腹の語源には、「原(はら)」「平(ひら)」などと同源で「広(ひろ)」に通じるとする説。
中高に張っていることから「張り」の意味とする説。
朝鮮語で「腹」の意味の「peri」からなど諸説あり、中でも「張り」の説が有力です。
現代では、人の心は胸にあると考えられていますが、古代では腹に心があると考えられていたため、感情や気持ちの意味で「腹」を用いた言葉が多くあります。
6.パジャマ/pajamas
「パジャマ」とは、「上着とズボンから成る、ゆったりとした寝巻」です。
パジャマは、アメリカ英語「pajamas」からの外来語で、英語では「pyjamas」、フランス語では「pyjama」といいます。
これら「パジャマ」を表す語は、ヒンディー語の「パージャーマー(paayjaamaa)」に由来します。
「パージャーマー」はインドの民族服で足首までのゆったりしたズボンのことで、19世紀頃、このズボンをイギリス人が寝巻として履くようになったことから、ゆったりとした寝巻を「パジャマ(pyjamas)」と呼ぶようになりました。
ヒンディー語の「paayjaamaa」は、「脚衣(ズボン)」を意味するペルシャ語の「Payjama」が語源です。
ペルシャ語「Payjama」は、「pay」が「足(脚)」、「jama」が「布」で、「脚を覆う布」という意味から「脚衣」を表すようになりました。
7.麻疹(はしか)
「はしか」とは、「麻疹ウイルスによる急性伝染病」です。くしゃみや咳などの飛沫感染によって起こります。潜伏期間は約10日間。発熱や咳など風邪のような症状に始まり、口内に白斑が現れ、赤い発疹が顔から全身に広がります。ましん。
はしかの語源には、「芒(はしか・のぎ)」とする説があります。
芒とは、稲や麦などイネ科植物の穂の先に針のように尖った堅い毛のことで、これに触れたように痛がゆくなることから、「はしか」と呼ばれるようになったといわれます。
一見、音からこじつけられた説のようにも見えますが、「芒」を形容詞化した語に「はしかい」があり、「ちくちくと痛がゆい」「こそばい」といった意味で用いられていることから、はしかの語源は「芒」と考えられます。
漢字の「麻疹(痲疹)」は「ましん」からの当て字なので、この漢字に語源をもとめることは不可能です。
「麻疹」は春の季語です。
8.花/華(はな)
「花」とは、「種子植物の生殖器官で、葉の変形である花葉、茎の変形である花軸から成るもの」です。ある時期に開き、多くは美しい色や香りを有します。
花の語源は、美しく目を引くことから物の突き出た先の部分を意味する「端(はな)」とする説、開く意味の「放つ」の「はな」とする説、「葉」に接尾辞の「な」が付いたとする説、「早生(はやくなる)」の意味、「春成(はるなる)」の意味など諸説あります。
植物学的に花は葉と茎の変形したものであり、特に目を引くのが葉の変形した花びらであることから、「葉」に接尾辞の「な」が付いたとする説が有力と思われ、これに「端(はな)」の意味が加わっていることも考えられます。
平安初期まで花は主に梅の花を言い、平安時代後期から桜(ただし、「ソメイヨシノ」ではなく、「山桜」)の花を言うようになりました。以降、日本を代表する花は桜となっています。
漢字の「花」は、つぼみが開き咲いて散るという、植物の部分の中でも著しく姿を変える部分であることを表して、草冠に化けると書きます。
漢字の「華」は、芯がくぼんで丸まった花を表したもので、元は別字であったものが混同され、花と同様の意味で用いられるようになりました。
「豪華」や「華がある」など、「花のような」といった形容詞的な意味を含んで用いらることが多くなったことから、現在では漢字を使い分けるとすれば「花」を植物に対して用い、「華」を形容的に用いるのが一般的となっています。
9.半畳を入れる(はんじょうをいれる)
「半畳を入れる」とは、「他人の言動を茶化したり、非難したり、野次ったりすること」です。「半畳を打つ」「半畳」とも。
半畳は、江戸時代の芝居小屋で敷く、畳半分ほどの茣蓙(ござ)のことです。
現在の座席指定料のようなもので、昔の芝居小屋の客席は土間であったため、観客が入場料として半畳を買い、これを敷いて見物していました。
役者の演技が気に入らないとヤジを飛ばし、この半畳(茣蓙)を投げ入れたことから、「半畳を入れる」と言うようになりました。