刑事裁判の費用はどのくらいかかるのか?無罪・控訴や上告・払えない場合はどうなるのか?

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刑事裁判

前に「民事裁判の費用はどのくらいかかるのか?裁判費用は相手に請求できるのか?」という記事を書きましたが、刑事裁判の費用はどのくらいかかるのでしょうか?

また、無罪・控訴や上告・払えない場合はどうなるのでしょうか?

今回はこれらについて、わかりやすくご紹介したいと思います。

1.刑事裁判の訴訟費用

(1)主なものは「国選弁護人の弁護費用」と「証人の旅費日当」

刑事裁判における訴訟費用は、「刑事訴訟費用などに関する法律」によると次のようになっています。

① 裁判所が証人に支給した旅費・日当・宿泊料。

② 鑑定人・通訳人・翻訳人に支給した旅費・日当・宿泊料・鑑定料・鑑定に要した費用。

③ 国選弁護人に支給した旅費・日当・宿泊料・報酬。

主なものは、「国選弁護人の弁護費用」と「証人の旅費日当」です。

「国選弁護人」(*)は国が弁護人を選任する制度です。

勾留後は全ての被疑者が国選弁護人をつけることができますが、資力が50万円未満の場合に限るなど一定の要件があります。

(*)国選弁護制度とは、刑事手続において被疑者・被告人が経済的困窮などの理由で私選弁護人を選任できない場合に国費で裁判所が弁護人を選任する制度です。

大別すると、起訴前の被疑者国選弁護と、起訴後の被告人国選弁護制度との二本立ての制度になっています。この制度によって就任する弁護人を、国選弁護人といいます。

これらの費用は一旦は国が立て替えますが、判決で訴訟費用を被告人の負担とする」という判断がなされると、刑の確定後に国から訴訟費用の請求が行われます。

一般的には、実刑となるケースでは訴訟費用が負担させられないことが多く執行猶予資力がある場合負担させられることがあります。

ただ、実刑判決の場合でも負担させられることがあります。

(2)「訴訟費用の支払い踏み倒し」多発の実態

訴訟費用・刑事事件

「産経WEST」(2016/5/17付)に興味深い記事がありましたので、少し長いですが引用します。

 刑事裁判で有罪判決を受けた被告人が、裁判にかかった訴訟費用の支払いを免れ、結果的に徴収不能となるケースが過去5年間で約5900件、総額約5億3100万円に上っていることが16日、分かった。全体の件数との比較では、およそ6人に1人が事実上、支払いを踏み倒している計算になる。いずれも国が代わって負担しており、徴収率を高める方策が求められそうだ。

訴訟費用の大半を占めるのが、国選弁護人への報酬とみられる。本来は経済的に困窮した被告人らのために国費で弁護士をつける制度だが、公判を通じて裁判所が資力ありと判断した場合は被告人に負担させ、検察が徴収実務に当たる。

 産経新聞が最高検への情報公開請求で入手した資料によると、平成22~26年度の5年間で被告人が訴訟費用の支払いを命じられた件数は約3万1600件。総額約35億1900万円で、1件当たりの平均額は約11万1千円だった。

 この間、繰り越し分を含めて3万4987件で手続きが完了したが、約16・9%にあたる5919件では請求時効(5年)などに伴い徴収不能となった。

 地域別では東京地検がトップで1306件、次いで大阪地検が756件。いずれも徴収対象の3割近くで回収断念に追い込まれている。

 「訴訟費用は支払わなくてOK。被告人にはそう伝えている」。ある弁護士はそう声を潜めた。長年にわたり問題が放置されてきた訴訟費用の未納問題。公正さが厳しく問われるべき刑事裁判の手続きだけに、現状は言うまでもなく改める必要があるだろう。

 ただ、識者らは「徴収額以上の費用がかかっては仕方がない。少ないコストで納付率を上げる工夫を考えるべきだ」と口をそろえる。

 採算を度外視して徴収率を上げるのではなく、資力のある人間から確実に徴収する逃げ得を許さない仕組み作りが重要だ。

 取材を通じて、法曹関係者からは「早期の支払いに対しては費用を減額する」などの方策も挙げられた。

 「問題が注目されると『それだけ未納が多いなら自分も払わない』という人が出てくる」と懸念する声も聞かれたが、関係者が知恵を絞り、現実的な解決策を検討すべき時期に来ている。(時吉達也)

2.無罪の場合はどうなるか?

刑事裁判で無罪判決を獲得すれば訴訟費用はかかりません

有罪になった場合は、それまでの過程でかかった費用の全てまたは一部を、被告人が負担する場合があります。

刑事裁判は、そもそも被告人が罪を犯したことによって訴訟費用が生じたという関係にあることから、このように定められたものです。

刑事訴訟法上、刑の言い渡しをした時は、裁判所は原則として、被告人に訴訟費用の全部または一部を負担させなければならないと定めています。

実務上は、訴訟費用を被告人に負担させるケースはほとんどありません。

ただし、刑事裁判で私選弁護士に依頼した場合は、弁護士費用が必ずかかります

3.控訴や上告の場合はどうなるのか?

京都アニメーション放火殺人事件で、2024/1/26に青葉真司被告の弁護人が、死刑判決を不服として「控訴」しましたが、費用が払えるのか疑問に思った方も多いのではないでしょうか?

控訴」とは第一審の判決に不満があるときに不服を申し立て、高等裁判所に対して審理のやり直しを求める手続です。

なお、高等裁判所がした判断に対して不満がある場合には、さらに上級の最高裁判所に不服を申し立てることができます。これを「上告」といいます。

「控訴」や「上告」すること自体には費用はかかりません。

被告人が控訴の段階で支払う可能性があるのは、法律に定められた「訴訟費用」に該当する費用のみです。

「訴訟費用」は有罪になった場合にのみ負担の可能性がありますが、実際には裁判所から請求されることはほとんどありません。

4.払えない場合はどうなるのか?

被告人が刑事裁判で有罪になれば訴訟費用の一部、または全部を裁判所から請求される可能性があります。

しかし、先ほど述べたように実務上は、訴訟費用を被告人に負担させるケースはごくまれです。

裁判が無罪で終われば被告人は訴訟費用を払う必要はありません。

万が一、有罪になった場合は、訴訟費用を負担しなければならない場合があるかもしれません。

もし、訴訟費用が支払えない場合はどうなってしまうのでしょうか?

訴訟費用を納付しない場合、差し押さえを行うことも可能です。

被告人が貧困のため、訴訟費用が支払えないことが明らかな場合もあります。その場合は、必ずしも被告人に訴訟費用を負担させなくてもよいとされています。

被告人が納付可能か否かは

  • 定職の有無
  • 給料、その他の収入
  • 資産
  • 移住関係
  • 家族関係・家族の状況
  • 社会復帰後の生活の安定性

などで決定されます。