日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.瞬き(まばたき)
「まばたき」とは、「まぶたを閉じて、すぐに開くこと」です。またたき。
まばたきは、動詞「まばたく(瞬く)」の連用形が名詞化した語です。
まばたくの「ま」は「目」の意味で、複合語の中で用いられる時の形です。
まばたくの「ばたく」は、「たたく」意味の動詞「はたく(叩く)」です。
2.不味い/拙い(まずい)
「まずい」とは、「味が悪い。おいしくない。下手だ。具合が悪い。醜い」ことです。
まずいは、「味が足りない」「充足感が得られない」ところから、「貧しい」が語源です。
元は「マヅシ」の口語で、「マヅシ」は「まずしい(貧しい)」の文語でもあります。
まずいは味覚に対して用いられた言葉で、現代でも多くはその意味で用いられます。
それが、「つたない」「都合が悪い」「醜い」の意味でも使われるようになったのは、まずいが「不足している」の意味から生じた言葉だからです。
3.混ぜる/交ぜる/雑ぜる(まぜる)
「混ぜる」とは、「あるものの中に他のものを加えて一つにする。数種のものを一緒にする」ことです。かきまぜる。
混ぜるには、「まざ(間雑)」に動詞を作る「る」が付いたとする説や、「目」に動詞を作る「さる(ざる)」が付いたとする説などあります。
「まぎれる」や「まぐわい」などは「目」が語源となっていますが、混ぜるが「目」に由来するとした場合、どのような状態になることを表すか定かではありません。
そのため、「まざ(間雑)」の方が有力ではありますが、決定的ではなく、語源は未詳です。
漢字の「混」の「昆」には「仲間」や「群れ」などの意味があり、「水」+「昆」の「混」は、丸くまとまることを表しています。
4.真っ赤な嘘(まっかなうそ)
「真っ赤な嘘」とは、「明らかな嘘。全くの嘘」のことです。
真っ赤な嘘が「赤色」である理由は、「赤」は「明らか」と同源で「全く」「すっかり」などの意味があるためで、「赤の他人」などの「赤」も同様です。「真っ赤」は、「赤(明らかであること)」を強調した表現となっています。
真っ赤な嘘の語源には、「大きい」「多い」といった意味を持ち、漢訳されて「摩訶不思議」の「摩訶」にもなっているサンスクリット語の「マハー(maha)」に由来する説もあります。
この説は、「大きな嘘」の意味で「マハーな嘘」と言っていたのが「摩訶な嘘」となり、「真っ赤な嘘」になったとするものですが、雑学の世界で作られた真っ赤な嘘です。
5.瞼/目蓋(まぶた)
「まぶた」とは、「眼球の表面を覆う薄い皮膚」のことです。眼瞼(がんけん)。まなぶた。まぶち。
まぶたは「目の蓋(ふた)」の意味で、「ま」は「目」が複合語の中で用いられる時の形です。
古くは、「まなぶた」と言い、「な」は「の」の意味の古い格助詞です。「まぶち」は「まぶた」が変化した語ではなく、「目のふち」の意味です。
まぶたの漢字には、語源そのものを表す「目蓋」の他に「瞼」もあります。
「瞼」の右側の「僉」は、「引き締める」「被せる」といった意味を表します。
6.眦(まなじり)
「まなじり」とは、「目尻。耳に近い方の目の端」のことです。
古く、まなじりは「マナシリ」と清音で、「眥」や「眼尾」などと表記されました。
「ま」は「目」が複合語の中で用いられる時の形です。
「な」は「まなこ」の「な」と同じく、「の」の意味の古い格助詞。
「じり(しり)」は物の最後や末端部分を表す「しり(後・尻)」で、まなじりは「目の後(しり)」の意味です。
「まなじり」から変化した「まじり」が平安時代から用いられ、のちに「めじり(目尻)」となりました。
現代では「目尻」が一般的に用いられ、「まなじり」は目を大きく見開くことや、怒ったり決意したりするさまをいう「眦を決する」や「眦を裂く」の句の中で用いられる程度です。
7.睫/睫毛(まつげ)
「まつげ」とは、「まぶたのふちに生えている毛」です。
まつげの「ま」は、「まぶた」「まゆ」「まばたき」などの「ま」と同じ「目」の意味で、複合語の中で用いられる時の形です。「つ」は古形の格助詞で「の」の意味。つまり、まつげは「目の毛」の意味です。
漢字の「睫」の右側は、すれすれに接するという意味を持つ字で、「睫」は目に触れそうな位置にある毛の意味があります。
「睫」の一字で「まつげ」を表しますが、「睫毛」とも表記され、いずれも間違いとはされていません。
「睫毛」の表記は、「眉」を「眉毛」、「髪」を「髪の毛」と呼ぶことに近いようにも思えます。
しかし、和語の「まゆ」や「かみ」には「毛」の意味が含まれているものの、語源から見ると位置のみを表した語であるため、後に「毛」が付いてもおかしくない語なので、「まつ毛」のように元から「毛」の意味が含まれる言葉とは異なります。