日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.模様(もよう)
「模様」とは、「図柄・図形。ありさま・様子。らしい様子」のことです。
もようは、漢語「模様」からで、本来の語形は「モヤウ(「モ」は呉音、「ヤウ」は呉音・漢音)」。
漢語の用法では図柄や様子を表し、「雨になる模様」や「雪になる模様」など、名詞の下につけて物事の動向を推測する場合の用法は、ありさまや様子の意味から派生した日本的用法です。
なお、「雨になる模様」と似た表現に「雨模様」がありますが、元々は「雨もよい」で、「もよい(催い)」は物事のきざしが見えることを表し、「模様」とは異なる語です。
余談ですが、模様については「意外と知らない柄・模様・パターンの名前。ノルディック柄、ハウンド・トゥース、ヘリンボーン、ペイズリー等」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
2.摸摸具和/モモンガ(ももんが)
「モモンガ」とは、「体長約18cm、尾長約10~14cmのネズミ目リス科の哺乳類」です。前後肢の間に飛膜があり、木から木へ滑空します。夜行性。バンドリ。ももんがあ。
古く、モモンガはムササビと区別されていませんでしたが、中古には「モミ」と呼ばれるようになりました。
「モミ」が転じて「モモ」となり、鳴き声の「グヮ」が加わって「モモングヮ」、「モモンガー」「モモンガ」と変化しました。
古名の「モミ」から転じた例では「モモ」「モマ」「モモグハ」のなどの方言があり、ムササビや化け物の意味で使用されます。
漢字の「摸摸具和」は、「モモングヮ」と呼ばれていた江戸時代に音から当てられた当て字です。
モモンガに「鼯鼠」の字を用いることもありますが、中国ではモモンガ亜科の総称で、ムササビも含みます。
日本ではムササビに「鼯鼠」が使われており、現代では「摸摸具和」も使われないため、普通はカタカナかひらがなで表記されます。
3.桃(もも)
「桃」とは、「中国原産のバラ科の落葉小高木」です。春に五弁または多重弁の花を咲かせ、夏に肉厚多汁の甘い果実を実らせます。
モモの語源には、「真実(まみ)」が転じたとする説。
実が赤いところから「燃実(もえみ)」の意味。
実が多く成ることから「百(もも)」、もしくは「実々(みみ)」が転じたとする説。
毛が生えていることから「毛々(もも)」の意味など、十数種の説があります。
古くから桃は、民話『桃太郎』で子供が生まれたり、日本神話で悪魔払いに用いられるなど、花や木よりも果実に重点が置かれており、実に意味があると考えられるため、「モ」は「実」の転でしょう。
沢山成ることから「実」を強調した「実々(みみ)」を軸に、「百(もも)」にも通じる語と思われます。
『本草和名』や『和名抄』では「毛毛」と表記され、実に毛が多く生えていることを表しています。
しかし、「モモ」の音が先にあり、後からその状態を表すようになったと考えられ、毛を語源として採用するのは困難です。
漢字「桃」の「兆」は左右二つに離れるさまを表し、「木」+「兆」で実が二つに割れる木を意味しています。
「桃」は秋の季語で、「桃の花」は春の季語です。
・我きぬに ふしみの桃の 雫せよ(松尾芭蕉)
・病間(びょうかん)や 桃食ひながら 李描く(正岡子規)
・桃洗ふ 双手溺れん ばかりなり(石田波郷)
・石を切る 山の麓や 桃の花(湖柳)
4.百舌鳥/百舌/鵙(もず)
「モズ」とは、「くちばしは鋭い鉤状で小動物を捕食するスズメ目モズ科の鳥」です。「モズの早贄(はやにえ)」で知られます。
モズの語源は諸説ありますが、鳴き声に関するものが多く、中でも「モ」は鳴き声、「ズ(ス)」はウグイスやカラスと同じく、鳥を表す接尾語とする説が有名です。
「ス」は妥当ですが、代表的な「モズの高鳴き」と呼ばれる鳴き声は、秋に鳴く「キイーキイー」という高い音で、これを「モ」の音で表現するには無理があります。
「モ」は鳴き声そのものの音でなく、非常に多い数を表す「モモ(百)」で、百鳥の音を真似るところからの名でしょう。
漢字の「百舌(百舌鳥)」も「百の舌を持つ鳥」を表し、共通の認識です。
「鵙」の漢字は、貝の部分が元々は「目」+「犬」で、犬が目をキョロキョロさせることを表します。
それを音符にし、目をキョロキョロさせて虫を捕獲する鳥を表したのが、「鵙」の本字です。
「百舌鳥」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・百舌鳥なくや 入日さし込む 女松原(めまつばら)(野沢凡兆)
・草茎を 失ふ百舌鳥の 高音かな(与謝蕪村)
・鵙の声 かんにん袋 破れたか(小林一茶)
・かなしめば 鵙金色の 日を負ひ来(加藤楸邨)
5.蒙古斑(もうこはん)
「蒙古斑」とは、「乳幼児の臀部などに見られる薄青いあざ」です。小児斑。児斑。
蒙古斑の「蒙古」の意味は、「モンゴル(人)」ではなく「モンゴル人種(黄色人種)」です。
1885年、ドイツのエルヴィン・フォン・ベルツが、モンゴロイド(黄色人種)の特徴として「Mongolian Spot」の名で発表したことから、このあざを「蒙古斑」と呼ぶようになりました。
この発表以前の日本では、蒙古斑ができる原因を、妊娠中の性交により内出血した跡と考えられていました。
6.モルヒネ/morfine
「モルヒネ」とは、「アヘンに含まれるアルカロイドで麻薬の一種」です。塩酸塩が鎮痛・鎮静薬としてガンなどの疼痛(とうつう)に用いられますが、習慣性が強く、多用すると中毒になるため、麻薬に指定されています。モルフィン。モヒ。
モルヒネは、オランダ語「morfine」からの外来語で、英語では「morphine」です。
痛みを鎮め、夢心地にするモルヒネの特徴から、ギリシャ神話に登場する夢の神「Morpheus(モルペウス・モルフィス)」の名にちなみ、「morphium(モルフィウム)と」名付けられ、「morfine(モルヒネ)」と呼ばれるようになりました。
7.勿怪の幸い/もっけの幸い(もっけのさいわい)
「もっけの幸い」とは、「思いがけない幸運」のことです。「物怪の幸い」とも書きます。
もっけの幸いの「もっけ」は、人にたたりをするといわれる死霊や生き霊の「もののけ(物の怪)」のことです。
「もののけ」が「もっけ」となり、「妖怪」「変化」の意味となりました。
それが、室町時代に「意外なこと」の意味になり、「意外な幸運」「思いがけない幸せ」を「もっけの幸い」と言うようになりました。