前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。
確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。
そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。
1.雅語
・永久(とわ):いつまでも変わらないこと。とことわ。とこしえ。
・一日(ひとひ):いちにち。または一日中。日一日(ひひとひ)は一日中、夜一夜(よひとよ)は一晩中の意。
・一生(ひとよ):生まれてから死ぬまでの間。終生。
・終日(ひもすがら):朝から晩まで。一日中。
・晦(つごもり):月の光が隠れて見えなくなること。月末。
・間(あわい):あいだ。
・四方(よも):東西南北、前後左右の四つの方向。まわり。ぐるり。
・何処(いずこ):どこ。古くはいずく。何方(いずかた)。
・最果(さいはて):これより先はないという果ての場所。
・遠つ国(とおつくに):遠くの国。または黄泉(よみ)の国。遠国(おんごく)。
・外国(とつくに):都から遠く離れている国。異国(いこく/ことくに)。
・肉(しし):にく。なお、肉叢(ししむら)は肉のかたまり、転じて肉体。
・背(そびら):背中。「せな」とも言います。
・肌(はだえ):皮膚。
・顔(かんばせ):かお。
・顎(あぎと):あご。
・目見(まみ):まなざし。目の表情。
・眦(まなじり):目尻(めじり)。なお、まなかい(眼間/目交)は目と目の間、転じて「目の前」の意。
・目蔭(まかげ):光をさえぎるために手のひらを目の上にかざすこと。
・腕(かいな):二の腕。肩から肘までの部分。
・左手(ゆんで):ひだりて。弓を持つ手であることから。
・右手(めて):みぎて。馬上で手綱(たづな)を取る手であることから。
・掌(たなごころ):手のひら。「たなそこ」、「たなぞこ」とも言います。
・蹠(あなうら):足の裏。「あうら」とも読みます。
・跫音(あのと):足音。
・和毛(にこげ):細く柔らかな毛。うぶ毛。
・嬰児(みどりご):(中世までは「みどりこ」)三歳くらいまでの子供。
・骸(むくろ):からだ。または死骸。
・屍(かばね):死体。または死体の骨。
・屍所(かばねどころ):墓所。または死に場所。
・葬事(はふりごと):葬送。
・汝(なれ):おまえ。親しい人、目下の者に対して用いる人称代名詞。古くは「な」で、助詞をともなって「汝の」「汝が」などと使われました。
島崎藤村の詩を大中寅二が作曲した「椰子の実」の歌詞にも出てきますね。
・吾子(あこ):我が子。古くは一人称代名詞「我/吾」を「あ」「あれ」と言いましたが、中古以降「わ」「われ」が使われるようになりました。
・誰がために(たがために):だれのために。不定称は古くは「た」「たれ」で、近世後期以降「だれ」になりました。
アメリカの小説家であるアーネスト・ヘミングウェイ(1899年~1961年)の長編小説「For Whom the Bell Tolls」の邦題「誰がために鐘は鳴る」が有名ですね。
・輩/徒(ともがら):仲間。
・同胞(はらから):兄弟姉妹。
・族(うから):血族。親族。眷族。
・武士(もののふ):武者。戦士。
・兵(つわもの):武器。または兵士。
・階(きざはし):階段。
・茵(しとね):寝る時の敷物。
・臥所(ふしど):寝るところ。
・御舎/御殿(みあらか):宮殿、御殿をうやまっていう古語。
・獄(ひとや):牢獄。
・園生(そのう):庭。尊んで「御園(みその)」「御園生(みそのう)」とも言います。手入れをする人は園丁(えんてい)。
・断崖(きりぎし):垂直に切り立った険しい崖。岨(そわ。近世以降、そば)とも言います。
・病葉(わくらば):病気や虫食いで枯れた葉。寒くなる前に一足先に散っていく葉であることから、夏の季語とされます。
・蝸牛(ででむし):かたつむり。でんでんむし。まいまい。夏の季語。
・蛇(くちなわ):ヘビの古名。
・削り氷(けずりひ):かき氷。「あてなるもの」(上品なもの)として「枕草子」にも登場します。
「削り氷に甘葛 (あまづら) 入れて、新しき金鋺 (かなまり) に入れたる」<「枕草子」四十二段>
・土塊(つちくれ):土のかたまり。
・真砂(まさご):細かい砂。無数にあるもののたとえ。
・塵芥(ちりあくた):ごみくず。
・笞(しもと):刑罰で使う若枝で作った鞭。
・贄(にえ):神などへの捧げもの。または犠牲。
・鬨(とき):戦場で開戦を告げ、士気を鼓舞する叫び声。「鬨をあげる」「鬨の声」などと言います。
・咎(とが):罪。あやまち。
・よすが:よりどころとするもの。
・雷(いかずち):かみなり。
・海神(わたつみ/わだつみ):海の神。または海。山の神は山衹(やまつみ)。
・調(しらべ):音律。
・言の葉(ことのは):言葉。和歌。
・魔歌(まがうた):悪魔の歌。
・常闇(とこやみ):永久に暗闇であること。心が闇の中にまどうこと。「常夜(とこや)」は永遠に夜が続くこと。
・逆(さかしま):さかさま。なお「道理に反する」の意味では邪(よこしま)という言葉もあります。
・静寂(しじま):静まり返っていること。
・眩暈(くるめき):めまい。
・虚け(うつけ):ぼんやりしていること。またはそのような者。
・金色(こんじき):黄金の色。黄金色(こがねいろ)。
・銀/白銀(しろがね):銀の古名(古くは「しろかね」)。なお、黄金は「くがね」、銅は「あかがね」です。
「万葉集」にある山上憶良(やまのうえのおくら)(660年~733年頃)の「子等を思ふ歌」という歌にも出てきます。
銀(しろがね)も 金(くがね)も玉(たま)も 何せむに まされる宝 子に如(し)かめやも
・鉄(くろがね):鉄の古名。なお、掘り出したまま精錬していない鉱物、あるいは鉄を粗金(あらかね/あらがね)と言います。
有名な「軍艦マーチ」という軍歌の歌詞にも出てきますね。
・白らか(しららか/しろらか):はっきりと白いさま。
・か黒し(かぐろし):<形容詞>黒々としている。
・早緑(さみどり):若草や若葉の緑色。
余談ですが、第三高等学校(旧制高校)の寮歌「逍遥の歌」(紅萌ゆる丘の花)の歌詞にも早緑が出てきます。
・直青(ひたあお):一面に青いさま。一面に紅色であるさまは直紅(ひたくれない)、一面に黒いさまは直黒(ひたぐろ)、一面に白いさまは直白(ひたしろ)と言います。
・あえか:<形容動詞>か弱い様子。きゃしゃ。
・清か(さやか):<形容動詞>はっきりとしているさま。形容詞は清けし(さやけし)。副詞は清に(さやに)。秋の季語。
・漫ろ(すずろ):<形容動詞>当てもなく心のおもむくままにすること。漫ろ歩きは散歩。漫ろ心は落ち着かない心。漫ろ事はつまらない浮ついたこと。
・なよびか:<形容動詞>手ざわりや肌ざわりが柔らかいさま。
・円か(まどか):<形容動詞>丸いさま。おだやかなさま。なお円(つぶ)らは、丸くてかわいいさま。
・時じく(ときじく):<形容動詞>季節外れであるさま。いつでもあるさま。「古事記」に登場する「非時香果(ときじくのかのみ)」は、いつでもよい香りを放つタチバナ(橘)の実のこと。
・ゆくりなく:<副詞>思いがけず。
・幽き(かそけき):音や色などが今にも消え入りそうなほどほのかなさま。古語「幽けし」の連体形。
・幼い/稚い(いとけない):<形容詞>あどけないさま。
・頑是ない(がんぜない):<形容詞>聞き分けがない。
・あやなす:美しくいろどる。
・殺める(あやめる):危害を加える。殺す。
・いざよう:ためらう。
・慈しむ(いつくしむ):かわいがる。
・穿つ(うがつ):穴を空ける。なお、「毀(こぼ)つ」は、壊す、破壊するの意。
・舂く(うすづく):太陽がまさに沈もうとしている。
・倦む(うむ):同じことの繰り返しに退屈する。
・笑む(えむ):ほほえむ。花が咲く。
・訪う(おとなう):おとずれる。原義は「音をたてる」で、訪問を知らせる、手紙を送るの意も。
・叫ぶ/哭ぶ(おらぶ):さけぶ。わめく。「喚(おめ)く」とも言います。
・梳る(くしけずる):くしで髪をとかす。
・眩めく(くるめく):目がくらくらする。
・希う(こいねがう):強く願う。切に望む。
・言問う(こととう):尋ねる。
・閲す(けみす):よく見る。調べる。調べて読む。
・さんざめく:大勢でにぎやかに騒ぐ。
・弑する(しいする):主君や親など目上の者を殺す。
・斃れる(たおれる):事故などで急に死ぬこと。
・謀る(たばかる):だます。
・揺蕩う(たゆたう):ゆらゆらとただよう。
・蹲う(つくばう):ひれ伏す。うずくまる。
・蔑する(なみする):見下す。
・凪ぐ(なぐ):風がしずまる。なお、薙ぐは刀や鎌を横に払って切ること。
・睨める(ねめる):にらむ。
・羽搏つ(はうつ):鳥が羽ばたきをする。
・仄めく(ほのめく):かすかに姿や光が見える。
・吼ゆ(ほゆ):「吠える」の文語形。
・微睡む(まどろむ):少しうとうととする。
・身罷る(みまかる):死ぬ。
・黙す(もだす):沈黙する。口をつぐむ。名詞は黙(もだ)。
・夢む(ゆめむ):夢見る。
・嘉する(よみする):ほめたたえる。言祝(ことほ)ぐ(言葉で祝う)。
・蹌踉う(よろぼう):よろよろと歩く。蹌踉(そうろう)は足元がよろめくさま。
・戦慄く(わななく):恐怖や緊張などで震える。
・問わず語り(とわずがたり):聞かれてもないのに語り出すこと。ひとりごと。
・綯い交ぜ(ないまぜ):さまざまな色糸をより合わせて紐を作ることから、いろいろなものをまぜ合わせて一つにすること。
・幼少の砌(ようしょうのみぎり):高貴な人の幼いころ。
・夜の帳が下りる(よるのとばりがおりる):(帳とは室内を区切るたれ衣のこと)夜になって暗くなる。
・以て瞑すべし(もってめいすべし):それによって心置きなく死ねるだろうという意味で、それで満足すべきであるということ。
・閻浮の花散る(えんぶのはなちる):人がこの世を去るのを、閻浮樹 (えんぶじゅ)の落花にたとえて言います。閻浮樹とは閻浮提 (えんぶだい)の森林にあるとされる巨大な常緑樹。
・夢寐にも忘れない(むびにもわすれない):眠っている間も忘れることがない。
・百重(ももえ):幾重にも重なっていること。五百重(いおえ)も八百重(やおえ)も同じ意味。
・八百万(やおよろず):数の限りなく多いこと。千万(ちよろず)も同じ意味。
千万(ちよろず)という言葉は、「蛍の光」にも出てきますね。
・千尋(ちひろ):非常に長いこと。また海などが極めて深いこと。
・百千(ももち):百や千。数が多いこと。