日本語の面白い語源・由来(ほ-①)棒に振る・放送・ぼる・ボストンバッグ・菠薐草・放題・ボタン

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棒に振る

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.棒に振る(ぼうにふる)

棒に振る

棒に振る」とは、「これまでの努力や苦心を無にしてしまう」ことです。

棒に振るの由来には、魚や青物を入れた天秤棒を担いで売り歩くことをいう「棒手振り(ぼてふり)」からとする説があります。
この説は、棒手振りで全て売り払い、物が無くなる意味から。または、売り払ってもあまり利益が上がらないことからということです。
しかし、これらの意味から、それまで積み上げてきたものを無にすることに繋がるか疑問で、「棒に振る」と「棒手振り」いう字面の似た言葉から作られた説に思えます。

棒に振るの類語には「棒になる」があります。
この「棒」は、俳諧や狂歌などで作に点をつける時、駄作に引いた線のことで、せっかく作り上げた作品に線を引かれて駄目になることから、「棒になる」と言うようになりました。

「振る」には「置き換える」の意味もあるため、「なる」が「振る」に変わっても不自然ではありません。

また、「振る」には「失う」の意味もあり、「無にする」が強く表現できるため、「棒に振る」がより多く使われるようになったと考えられます。

2.放送(ほうそう)

放送

放送」とは、「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」です。

放送は、船舶の無線通信に由来する和製漢語で、元々は漢字の通り「送りっぱなし」の意味で使われていた言葉です。

1917年(大正6年)、船舶の無線通信で、発信元の分からない無線通信を受けました。
これが「送りっぱなし」の通信であったことから、通信士が通信日誌に「放送」と記したのが最初です。

1922年(大正11年)、放送制度の立案に際し、「broadcasting」の訳語として「放送」が採用されたことから、ラジオやテレビなどで番組や情報を伝えることを「放送」と言うようになりました。

3.ぼる/ぼられる

ぼる

ぼる」とは、「法外な料金を要求する。不当な利益をむさぼる」ことです。
ぼられる」とは、「法外な料金を要求される」ことです。

ぼられるは、ぼるの受け身の形です。
ぼるの語源には、「むさぼる」の上略と、「暴利」の動詞化説があります。
「料理」から「料る」、「羽織」から「羽織る」など、同じように名詞を動詞化した例はあり、「暴利」から「ぼる」への変化は不自然ではありません。

また、「暴利」は明治26年(1893年)、「ぼる」は大正7年(1918年)の使用例が古く、大正7年は騒動が起きて、政府が「暴利取締令」を出したでもあり、時代的にもピッタリ合います。

ただし、「ぼうり」の動詞化であれば「ぼうる」となるはずですが、省略された「ぼる」の形で現れる点は疑問が残り、「むさぼる」の上略説を否定するほど有力ではありません。

4.ボストンバッグ/Boston bag

ボストンバッグ

ボストンバッグ」とは、「底が長方形で、開口部が大きくファスナーで開閉するまたは布でつくられた旅行用手提げかばん」です。

ボストンバッグは「和製英語」で海外では通じないと言われることもありますが、英語「Boston bag」からの外来語で和製英語ではありません。

「Boston bag」という名前は、アメリカのボストン大学の学生達が、大きくて重たい教科書や参考書などを持ち歩くために愛用していたことに由来します。

アメリカでは1920〜25年頃にボストンバッグが流行し、日本では大正末期から製造され、昭和初期に口金式からファスナー式に移行したことで広く普及しました。

5.菠薐草/法蓮草/ほうれん草(ほうれんそう)

ほうれん草

「ほうれん草」(英語:spinach)と言えば、団塊世代の私はまずポパイを思い出します。

ポパイとほうれん草

ほうれん草」とは、「中央アジアから西アジア原産のヒユ科の一、ニ年草で代表的な葉菜」です。

ほうれん草は、江戸時代初期に中国から渡来したもので、名前も中国名に由来します。
中国ではほうれん草を「菠薐」と称し、「ポーレン」や「ホリン」のような発音であるため、日本では「ほうれん」となり、「草」がついて「ほうれん草」になりました。

中国名の「菠薐」は、西城の「頗稜国」からこの野菜が渡来したことに由来し、「頗稜国」はネパールかペルシアを指していたといわれます。

つまり、ほうれん草は「ネパール(ペルシア)の草」が語源といえます。
漢字の「菠薐草」は上記のとおりで、「法蓮草」の表記は音からの当て字です。

「菠薐草」は春の季語で、次のような俳句があります。

・腕力と 菠薐草は 苦手にて(小林鱒一)

・病んでゐる 身に山盛りの 菠薐草(田畑幸子)

・小ぎれいに 男所帯や 菠薐草(阿部紀子)

・洗ふ手を 止めて辞書引く 菠薐草(北畠明子)

6.放題(ほうだい)

放題

放題」とは、「自由勝手にふるまうこと。また、そのさま」です。多くは「食べ放題」「飲み放題」や「言いたい放題」など他の語に付いて、思いのまま動作することや、作用や状態が進むのをそのままにしておくことを表します。

放題は元々「傍題」と書き、和歌・連歌・俳諧などで、主題から離れたものを対象に詠むことをいったことこから、本題からはずれて勝手きままに行う意味が生じました。

「傍」が漢音では「ハウ(ホウ)」のため「放」と混用したのか、近世初期頃には「傍題」が「放題」と書かれるようになりました。

古くから現代と同じ用法で使われた例も多いですが、その他に、礼儀正しくないことや下品なことの意味で「放題」を用いたり、「あなたの望み通りに」という意味で「そなた放題」と用いた例も見られます。

7.ボタン/釦/鈕/button

ボタン

ボタン」とは、「衣類の合わせ目などに用いるもの。機械などを作動させるための小さい突起物」のことです。

衣類のボタンはポルトガル語の「botão」から。スイッチのボタンは英語「button」からの外来語です。

「botão」と「button」は同源で、花のつぼみを意味する古代ゲルマン語の「button」や古代ラテン語の「bottanei」が由来といわれます。