日本語の面白い語源・由来(ほ-②)ポスト・幇間・棒・絆される・墨守・保障・星・杜鵑・忘八

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ポスト

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.ポスト/post

京都府美山町の郵便ポスト

ポスト」とは、「郵便物を投函する箱。郵便受け。地位。役職。部署。支柱。標柱」のことです。

ポストは、英語「post」からの外来語です。

「post」は、「あるところに置く」「配置する」「立てる」といった意味のラテン語「ponere」の過去分詞男性形が、フランス語「poste」を経て16世紀に英語化し、女性形になって郵便の「post」になりました。

支柱や杭、地位や役職の意味の「ポスト」も、郵便の「post」と同源です。

2.幇間(ほうかん)

幇間

幇間」とは、「宴席などで遊客の機嫌をとり、酒宴を盛り上げることを職業とする男。太鼓持ち。男芸者」のことです。

幇間の「幇」は助けるの意味。「間」は人と人の間、つまり人間関係のことで、「幇間」は客と客、客と芸者の間を助ける、酒宴の雰囲気が途切れた際に興を助けるという意味となります。

幇間の俗称が「太鼓持ち」であることから、「幇間」と書いて「たいこ」や「たいこもち」と呼ぶこともあります。

また、正式な師匠に付かず、見よう見まねで行う者は「野幇間(のだいこ)」といいます。

夏目漱石の『坊っちゃん』にも、赤シャツに取り入るお調子者(太鼓持ち)の美術の先生が「野だいこ」というあだ名で登場しますね。

3.棒(ぼう)

犬も歩けば棒に当たる

」とは、「手に持てるほどの細長い木・竹・金属などの総称」です。

「ぼう」は、「棒」の呉音読みです。

漢字の「棒」は、「木」と「奉(両手でささげる)」からなる会意形声文字で、両手で捧げ持つことのできる細い木の意味です。

古くは、棒術に使う武具や、刑罰の道具としての「棒」を指すことが多く、「棒」の字には「うつ」「たたく」といった意味もあります。

4.絆される(ほだされる)

絆される

絆される」とは、「人情にひかれて心や行動の自由が束縛される。身体の自由を束縛される」ことです。

絆されるは、動詞「絆す(ほだす)」に受け身の助動詞「れる」が付いた語です。
絆すには、馬などを綱で繋ぎ留めるほか、人の自由を束縛する意味があります。

自由を束縛されるという意味から、絆されるは情に縛られることも意味するようになりました。

5.墨守(ぼくしゅ)

墨守

墨守」とは、「自己の主張や昔からの習慣を頑固に守ること」です。四字熟語では「墨守成規(ぼくしゅせいき)」です。

墨守の「墨」は、中国春秋時代の思想家 墨子(ぼくし)のことです。

墨子が、宋の城を楚の攻撃から九回にわたって守り通したという故事から、かたく守り通すことを「墨守」と言うようになり、古い習慣や自説を頑なに守って変えないことを意味するようになりました。

6.保障(ほしょう)

保障

保障」とは、「責任をもって、害がないよう保護し守ること」です。

中国では「保」が「小城」、「障」は「砦(とりで)」を意味し、本来、保障は城と砦によって防衛するという意味でした。

そこから、戦争以外の場にも拡大して「保障」が用いられるようになり、責任をもって、その状態が損なわれないようにすることを意味するようになりました。

7.星(ほし)

星

」とは、「夜空に点々と小さく光って見える天体」です。

星の語源には、「ほそひ(細火)」や「ほし(火気)」、「ほしろ(火白・日白)」「ほいし(火石)」など諸説あります。

この中では「ほいし(火石)」の意味とする説が妥当と考えられます。

なお、星に関しては「金子みすゞの詩『星とたんぽぽ』から、目に見えないものと昼の星について考える」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。

8.杜鵑/時鳥/不如帰(ほととぎす)

ホトトギス

ホトトギス」とは、「全長約30センチのカッコウ目カッコウ科の鳥」です。日本には夏鳥として渡来します。

ホトトギスの名は「ホトホト」と聞こえる鳴き声からで、「ス」はカラスやウグイスなどの「ス」と同じく、鳥類を表す接尾語と考えられます。

漢字で「時鳥」と表記されることから「時(とき)」と関連付ける説もありますが、ホトトギスの仲間の鳴き声を「ホトホト」と表現した文献も残っているため、鳴き声からと考えるのが妥当です。

江戸時代に入ると、ホトトギスの鳴き声は「ホンゾンカケタカ(本尊かけたか)」「ウブユカケタカ(産湯かけたか)」、江戸時代後期には「テッペンカケタカ(天辺かけたか)」などと表現されるようになり、名前が鳴き声に由来することが分かりづらくなりました。

「トッキョキョカキョク(特許許可局)」という鳴き声は、戦後から見られます。

ホトトギスには、「杜鵑」「時鳥」「不如帰」「子規」「杜宇」「蜀魂」「田鵑」など多くの漢字表記があり、「卯月鳥(うづきどり)」「早苗鳥(さなえどり)」「魂迎鳥(たまむかえどり)」「死出田長(しでのたおさ)」など異名もあります。

「ホトトギス」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・野を横に 馬引むけよ ほとゝぎす(松尾芭蕉

・ほとゝぎす きのふ一聲 けふ三聲(向井去来)

・岩倉の 狂女恋せよ ほとゝぎす(与謝蕪村

・江戸入りの 一ばん声や ほととぎす(小林一茶

9.忘八(ぼうはち)

べらぼう・大河ドラマ

NHK大河ドラマ『べらぼう』に登場する「忘八」という言葉は、女郎屋の主人たちが自らを指す言葉として描かれています。彼らは道徳を完全に捨て去り、金儲けのためだけに行動し、遊女たちを人間扱いしないほどの冷酷さを露わにしています。

「忘八」という言葉は、江戸時代に広まったもので、本来は以下の八つの徳目を「忘れた」者を指します:

  • (忠義)
    主君や国家への忠誠心。個人よりも公の利益を優先する精神。
  • (親への孝行)
    親を敬い、家族を大切にする姿勢。家制度が重視される日本社会では重要な徳目。
  • (思いやり)
    他者を慈しみ、助け合いの精神を持つこと。
  • (正しい行い)
    正義や公正さを重んじ、不正を避ける行動。
  • (礼儀)
    人間関係における敬意や礼節。儀礼的な行為だけでなく、相手を尊重する心も含む。
  • (知恵)
    物事を理解し、正しい判断を行うための知性。
  • (信用)
    言葉や約束を守り、誠実であること。
  • (てい)(兄や目上の者に素直に仕える)
    年長者に従順に仕えること。また兄弟や長幼の間の情が厚いこと。

これらの徳目は当時の社会で守るべき基本的な価値観とされていましたが、「忘八」と呼ばれる人々はそれらを完全に無視し、欲望のままに生きる者として蔑まれていました。