エモい古語 自然(その2)植物 風待草・夢見草・花筏・花篝・花筐・待雪草・面影草・柳絮

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梅・桜・桃

前に「エモい古語辞典」という面白い辞典をご紹介しました。

確かに古語は現代の我々が普段あまり使わない言葉ですが、繊細な情感を表す言葉や、感受性豊かで微妙な感情を表す言葉、あるいはノスタルジーを感じさせたり、心を動かされる魅力的な言葉がたくさんあります。

そこで「エモい古語」をシリーズでご紹介したいと思います。

1.梅・桜

・風待草(かぜまちぐさ):ウメの異名。春風を待ってともに花開くことから。「春告草(はるつげぐさ)」「香散見草(かざみぐさ)」「匂草(においぐさ)」「香栄草(かばえぐさ)」「初名草(はつなぐさ)」「木花(このはな)」などさまざまな異名があります。

梅

・梅の花笠(うめのはながさ):春の訪れを告げるウメの花を、ウグイスがくちばしで縫い上げた笠に見立てた言葉。

・飛梅(とびうめ):大宰府への左遷を言い渡された菅原道真が、自邸のウメの木に、「東風(こち)吹かば にほひをこせよ 梅の花 主(あるじ)なしとて 春な忘れそ」と詠みかけたところ、道真への気持ちがおさえられず大宰府の庭まで飛んでついてきたという伝説のウメの木。

・夢見草(ゆめみぐさ):サクラの異名。ほかに「挿頭草(かざしぐさ)」「曙草(あけぼのぐさ)」など。春の季語。

山桜

・桜狩(さくらがり):サクラの花をもとめて歩き回ること。春の季語。

桜狩

・千本桜(せんぼんざくら):数多くのサクラが生えている場所。奈良県吉野山の「吉野の千本桜」が有名。「一目千本(ひとめせんぼん)」はたくさんのサクラを一望できる場所。春の季語。

吉野千本桜

・遠山桜(とおやまざくら):遠方の山に咲いているサクラ。

・墨染桜(すみぞめざくら):茎や葉が青く薄墨色に見える里桜の一品種。または、京都市・墨染町の墨染寺(通称、桜寺)の境内にあるサクラ。

墨染桜

友人を亡くした平安時代の貴族が、せめて今年だけは喪に服すような色に咲いてくれ、とサクラに呼びかける「古今和歌集」収録の「深草(ふかくさ)の 野辺(のべ)の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け」にちなんだ名前。

・花雨(かう):サクラの花びらが雨のように散ること。またはサクラの花に降りかかる雨。

・空に知られぬ雪(そらにしられぬゆき):舞い散るサクラの花びらを、空が降らせた覚えのない雪にたとえた言葉。「空知らぬ雪(そらしらぬゆき)」とも言います。

・桜蘂降る(さくらしべふる):サクラの花びらが散ったあとに咢(がく)に残った濃い紅色のおしべとめしべが降ること。春の季語。

・花筏(はないかだ):水面に散った花びらが連なって流れるさまを筏に見立てた語。春の季語。

花筏

・花篝(はなかがり):

(2)花篝(はなかがり):夜桜の風情を引き立てるため、花の下でたかれる篝火のこと。ゆらめく炎に照り映える花の姿は、凄艶かつ幽玄を極める。落花が火に映しだされ、時に篝火に散り込み燃えるさまはひときわ美しい。京都円山公園の篝火が代表的。春の季語。

花篝

・花雪洞(はなぼんぼり):夜桜の風情を引き立てるために木の下にともす雪洞。春の季語。

花雪洞

2.花一般

・花影(かえい):光を受けて花が落とす影。

・飛花(ひか):風に散る花びら。春の季語。

・花逍遥(はなしょうよう):花を見ながら散歩すること。

・花盗人(はなぬすびと):花の枝を折って持ち去る人。狂言「花盗人」は、捕えられた花盗人が主人とサクラにちなんだ古い和歌の応酬をして許される話です。春の季語。

・萼(うてな):植物の萼(がく)。仏教で極楽往生した者が座るという蓮の花の形をした台(うてな)から名付けられました。

・色つぼむ(いろつぼむ):花のつぼみが色づくこと。

・花笑み(はなえみ):花のつぼみがほころぶこと。または花のつぼみがほころぶような華やかな微笑(ほほえ)み。

・花冷え(はなびえ):花(とくにサクラ)が咲くころの一時的な気温の低下。春の季語。

・花の下紐(はなのしたひも):花のつぼみが開くことを、下裳(したも)のひもが解けるのに見立てた語。

・彌初花(いやはつはな):一番早く咲きだす花。新鮮で心惹かれることのたとえ。

・常初花(とこはつはな):常に咲いたばかりのように清新で美しい花。

・花圃(かほ):花園。花畑。秋の季語。

・花筐(はながたみ):花などを摘んで入れるかご。または食虫植物ミミカキグサの異名。

花筐

花登 筺(はなと こばこ)( 1928年~ 1983年)(本名:花登 善之助)という放送作家がいましたね。団塊世代の私もよく見た「やりくりアパート」「番頭はんと丁稚どん」「細うで繫盛記」「どてらい男」などが代表作です。

ペンネームはイギリスの劇作家「バーナード・ショー」をもじり、「筺」の読みを変えたものだそうですが、本名の「花登」と「花筐」も念頭にあったのではないかと思います。

・花綵(はなづな):花を編んでつくった飾りつな。または色とりどりの美しい綾模様。「花綵列島(かさいれっとう/はなづなれっとう)とは、花綵のように弓なりに並んでいる列島(アリューシャン・千島・日本・琉球の各列島)のことです。

3.花の名前

・待雪草(まつゆきそう):スノードロップの和名。春の季語。

待雪草

・七里香(しちりこう):ジンチョウゲ(沈丁花)の異名。七里先(一里は約4km)まで花の香りが届くという意味。春の季語。

沈丁花

・つらつら椿(つらつらつばき):葉と葉の間に連なったように咲いているツバキの花のこと。「万葉集」にある坂門人足(さかとのひとたり)の有名な和歌「巨勢山(こぜやま)の つらつら椿 つらつらに 見つつ偲(しの)はな 巨勢の春野を」(意味:巨勢山のつらつら椿を、その名のようにつらつら見ては賛美したいものだなあ。巨勢の春の野を。)から。

つらつら椿

・化椿(ばけつばき):美人に化ける、踊り出すなどの不思議な言い伝えのあるツバキの老樹。

・勿忘草(わすれなぐさ):ヨーロッパ原産のムラサキ科の多年草。恋人のために岸辺に咲くこの花を摘もうとした騎士が川に流されてしまい、「僕を忘れないで」という言葉を残して死んだというドイツの伝説から。英語では forget-me-not と呼ばれ、明治時代に日本に紹介される際に「勿忘草」と訳されました。春の季語。

勿忘草

菅原洋一が歌った「忘れな草をあなたに」という歌がありましたね。

・藍微塵(あいみじん):ワスレナグサ(勿忘草)の異名。

・面影草(おもかげぐさ):ヤマブキ(山吹)の異名。室町時代の歌学書「蔵玉和歌集」に収録されている、男女が泣く泣く別れる際にお互いの面影をうつした鏡を合わせて埋めたところ、そこからヤマブキが芽吹いたという歌から。春の季語。

山吹

故郷の 面影草の 夕ばへや とめし鏡の 名残ならまし。昔、男女あかずして別れ侍りける時、鏡に面影を互にうつして、此鏡を埋み畢んぬ。其所より山吹生ひ出でけると云々。

・香雪蘭(こうせつらん):フリージアの異名。「香雪」は香りのよい白い花を雪にたとえた言葉。春の季語。

フリージア

余談ですが、神戸市東灘区に「香雪美術館」という美術館があります。東洋古美術を中心とした村山龍平(朝日新聞社創立者)の収集品を収蔵展示しています。茶人でもあった村山龍平(むらやま りょうへい)(1850年~1933年)が1973年に開館したものです。館名の「香雪」は村山の号です。

・薔薇(そうび/しょうび):薔薇(ばら)の音読み。「源氏物語」などには音読みで登場します。春の季語。

薔薇

「冬薔薇(ふゆそうび)」は冬枯れのなかで花をつける四季咲きのバラのことで、冬の季語。

・満天星(どうだんつつじ):漢名に和名であるドウダンツツジをあてたもの。漢名はこの木の枝に降りそそいだ霊水が壺状の珠になり、満天の星のように輝いたという中国の故事から。どうだん。まんてんせい。春の季語。

満天星

・鈴振花(すずふりばな):トウダイグサ(灯台草)の異名。春の季語。

鈴振花

・一夜草(ひとよぐさ):スミレ(菫)の異名。「春の野に すみれ摘みにと 来し我そ 野をなつかしみ 一夜寝にける」(意味:春の野原にスミレを摘みにきたのだが、野辺の美しさに心ひかれて、ここでつい一夜を明かしてしまったなぁ)という「万葉集」の和歌から名付けられました。

一夜草

・三千代草(みちよぐさ):モモ(桃)の異名。三千年に一度実をつけ、これを食べれば不老不死がかなうとされる古代中国のモモの故事から。春の季語。

桃

・遊蝶花(ゆうちょうか):パンジー(三色菫)の異名。チョウが舞う姿に似ていることから。「胡蝶花(こちょうか)」とも言います。春の季語。

パンジー

・柳絮(りゅうじょ):花が咲いたあとにできるヤナギの種子で、白い綿毛のついたもの。中国では晩春に春の風に乗って白い柳絮が雪のように飛びただようのが風物詩となっており、古くから漢詩に詠まれてきました。春の季語。

柳絮

・花の宰相(はなのさいしょう):シャクヤク(芍薬)の異名。

芍薬

ボタン(牡丹)を「花の王」または「花王」と呼ぶのに対する言葉。

余談ですが、「花王石鹸」や「月のマーク」でおなじみの花王株式会社の社名の由来は、「花の王」の「牡丹」ではなく、「顔を洗う」の「かおを」からです。

・君影草(きみかげそう):スズラン(鈴蘭)の異名。花が葉の下に咲いて影に隠れているように見えることから。「谷間の姫百合」とも言います。夏の季語。

鈴蘭

・虞美人草(ぐびじんそう):ヒナゲシ(雛罌粟、雛芥子)の異名。楚の項羽の辞世の詩に合わせて舞ったのちに自害した項羽の愛人・虞美人の墓の上にヒナゲシが咲いたという中国の故事から。フランス語から「コクリコ」とも呼ばれます。夏の季語。

ヒナゲシ

・夏雪草(なつゆきそう):ウツギ(空木)の異名。雪のように白い花を夏に咲かせることから。夏の季語。

ウツギ

・未草(ひつじぐさ):スイレン(睡蓮)の異名。未(ひつじ)の刻(午後二時ころ)に咲くとされたことから。夏の季語。

ヒツジグサ

・風鈴草(ふうりんそう):カンパニュラ(釣鐘草)の異名。「蛍袋(ほたるぶくろ)」とも言います。夏の季語。

フウリンソウ

・茉莉花(まつりか):モクセイ科ジャスミン属の常緑低木。「茉莉(まつり)」とも言います。花はジャスミン茶(茉莉花茶)の香りづけに使われます。夏の季語。

茉莉花

・忘れ草(わすれぐさ):ユリ科カンゾウ(萱草)の異名。身に付ければ故郷への思いや恋愛の憂いを忘れる草として和歌に詠まれました。恋忘れ草(こいわすれぐさ)。夏の季語。

カンゾウ

・死人花(しびとばな):ヒガンバナ(彼岸花)の異名。「曼殊沙華(まんじゅしゃげ)」「幽霊花(ゆうれいばな)」とも言います。秋の季語。

彼岸花

・黄金日車(こがねひぐるま):ヒマワリ(向日葵)の異名。

向日葵

・鹿の花妻(しかのはなづま):ハギ(萩)の異名。古代のシカがハギを好んでよく寄り添っていたことから。秋の季語。

ハギ

・萩の花摺り(はぎのはなずり):ハギ(萩)の花が咲いている野原を歩いて、服がハギの花の色に染まること。

・九里香(くりこう):モクセイ(木犀。金木犀や銀木犀の総称)の異名。九里先まで花の香りが届くという意味。秋の季語。

金木犀

・月草(つきくさ):ツユクサ(露草)の古名。朝咲いても夕方には枯れてしまうことから、または染料が変色しやすいことから、はかなさの比喩として使われます。「蛍草(ほたるぐさ)」「帽子花(ぼうしばな)」などの異名もあります。

露草

・爪紅(つまくれない/つまぐれ):ホウセンカ(鳳仙花)の異名。ホウセンカの花の汁で女子が爪を赤く染めていたことから。貝原益軒の「大和本草(やまとほんぞう)」に、女児がホウセンカの花とカタバミの葉をもみあわせて爪を赤く染めると記されています。秋の季語。

鳳仙花

・星見草(ほしみぐさ):キク(菊)の異名。「古今和歌集」にある藤原敏行の和歌「久方(ひさかた)の 雲の上にて 見る菊は 天(あま)つ星ぞと 過(あやま)たれける」(意味:殿上の雲の上で見る菊は、空の星かと見間違えてしまいました)で、天の星に見紛うほどだと歌われたことから。秋の季語。

菊

・吾亦紅/吾木香(われもこう):バラ科の多年草。語源には諸説ありますが、神が赤い花を集めていたときに忘れられそうになったので「吾も亦(また)紅なり」(私も赤い花なんですよ・・・)と名乗り出たことから名付けられたという俗説があります。秋の季語。

ワレモコウ

・夕化粧(ゆうげしょう):オシロイバナ(白粉花)の異名。夏の夕方にひっそりと花を咲かせることから。秋の季語。

オシロイバナ

・雪見草(ゆきみぐさ):雪の季節まで花が残っている「寒菊(かんぎく)」の異名。冬の季語。

寒菊

・金盞銀台(きんせんぎんだい):スイセン(水仙)の異名。「金盞」は金の盃のことで、白い花弁に黄色の副冠がある姿を見立てたもの。冬の季語。

水仙

・空色小花(そらいろおばな):オオイヌノフグリの異名として、白樺派の歌人・木下利玄(きのしたりげん)が短歌に用いた造語。オオイヌノフグリにはこのほか、「天人唐草(てんにんからくさ)」「星の瞳」などの異名もあります。

オオイヌノフグリ

・国色天香(こくしょくてんこう):ボタン(牡丹)の異名。または非常に美しい女性の形容。「国色」は国で一番美しい色。「天香」は天のものかと思うほどのよい香り。

牡丹

4.草・木

・若草(わかくさ):芽生えたばかりの柔らかくみずみずしい草。「若草の」で、「つま(夫・妻)」にかかる枕詞になります。新草(にいくさ)。

・和草(にこぐさ):生え始めたばかりの柔らかい草。和歌では「にこよか」「にこやか」などを導くために使われます。

・雑草/荒草(あらくさ):荒れ地に生える雑草。

・茨/荊/棘(うばら):「いばら」の古い表記。とげのある木の総称で、自生する野薔薇も指します。平安時代には、「むばら」と表記されました。荊棘(けいきょく)。夏の季語。

・夕影草(ゆうかげぐさ):夕方の薄明かりのなかに見える草。または夕方、物陰に咲く草花。

・何時迄草(いつまでぐさ):木や岩石、壁などを這うように生えるツル植物キヅタ(木蔦)の異名。「常春藤」とも書きます。

木蔦

・貝割菜(かいわりな):大根や蕪(かぶ)などの芽生えたばかりの菜。若い双葉が開くさまを貝を二つに割った形に見立てた言葉。秋の季語。

貝割菜

・袖振り草(そでふりぐさ):ススキの異名。秋風に揺れるさまが別れを惜しんで袖を振っているように見えることから。尾花(おばな)。秋の季語。

ススキ

・真菰/真薦(まこも):水辺に生えるイネ科の多年草。夏の季語。

真菰

・覇王樹(はおうじゅ):サボテンの異名。にょろり。「仙人掌(せんにんしょう)」とも言います。夏の季語。

サボテン

・相思樹(そうしじゅ):マメ科の常緑樹。美しい妻を王に奪われて自殺した夫と、「夫と一緒に埋葬してほしい」と遺言を残してそのあとを追った妻が向かい合わせに埋められたあと、それぞれの墓から樹が一本ずつ生えてきて枝と根がつながり合ったという中国の故事にちなんだ名前。

相思樹

・照り葉(てりは):紅葉して日光に照り映える葉。秋の季語。

・夕紅葉(ゆうもみじ):夕日に照り映える紅葉。秋の季語。

・落ち葉船(おちばぶね):水面に浮かびただよう落ち葉を船に見立てた言葉。

・木の葉沓(このはぐつ):一面に散り積もった木の葉。くつと同じように足の下にあることから。

・木の実時雨(このみしぐれ):木の実が熟して次々と落ちるのを時雨に見立てた言葉。木の実雨。秋の季語。

・木霊/木魂/谺(こだま):樹木に宿る精霊、老木などに棲む妖怪。山や谷で音が反響するのはこの精霊が返事していると考えられたことから、やまびこを意味することもあります。古くは「こたま」。

・紫のゆかり(むらさきのゆかり):何かを好きになるとつながりのあるものまで好きになってしまうこと、または推しにつながりのあるもの。「草のゆかり」とも言います。

「古今和歌集」の和歌「紫の 一本(ひともと)ゆゑに 武蔵野の 草はみながら あはれとぞ見る」(意味:一本の美しい紫草があるおかげで、武蔵野の草はすべて素敵に思える)にちなんだ言葉。

この和歌は「源氏物語」の異称である「紫のゆかりの物語」の由来でもあります。三島食品が販売している赤しそのふりかけ「ゆかり」の商品名も、この和歌に由来するようです。