日本語の面白い語源・由来(う-⑦)浮世・鬱陶しい・美しい・後ろめたい・五月蠅い

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喜多川歌麿・浮世絵

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.浮世/憂世(うきよ)

浮世絵・歌川国芳

浮世と言えば「浮世絵」を思い浮かべる方が多いと思いますが、「浮世」とは、世の中、俗世間のことです。

浮世の「うき(浮)」は、「苦しい」「辛い(つらい)」を意味する「憂し」の連用形「憂き」が本来の形で、平安時代には「つらいことが多い世の中」を言いました。

やがて、仏教的思想が定着しその厭世観から、この世を「無常のもの」「仮の世」と考えるようになり、「うき世」も「はかない世の中」の意味になっていきました

「はかない世の中」を表すようになったため、漢語の「浮世(ふせい)」を当てた方がふさわしくなり、漢字では「浮世」と表記されるようになりました。

江戸時代に入ると、「はかない世の中であれば浮かれて暮らそう」という、現世を肯定した享楽的世間観が生まれ、男女の恋情や遊里で遊ぶことの意味となり、「浮世絵」や「浮世話」のように名詞の上に付いて「当世の」「現代風の」「好色な」といった意味も表すようになりました。

2.鬱陶しい(うっとうしい)

うっとうしい

鬱陶しい」とは、心が晴れ晴れしない、気分が重々しい、陰気である、邪魔でわずらわしいという意味です。

鬱陶しいは、心がふさいで晴れないことを意味する漢語「鬱陶(ウッタウ)」が形容詞化された語です。

現代では「鬱陶しい」と形容詞の形で用いられますが、日本でも古くは漢文語法で「鬱陶」が用いられていました。

もとは、人為的な事柄に対して使われた言葉ですが、「梅雨の季節はじめじめして鬱陶しい」など天候にも使われるようになりました。

さらに、心が晴れないような事柄に対して抱く感情から、「うるさい」「邪魔である」といった意味でも「鬱陶しい」は使われるようになりました。

3.美しい(うつくしい)

美人

美しい」とは、形・色・音などがきれいであると感じられるさまです。

美しいは、上代では妻子など自分より弱い者に対して抱くいつくしみの感情を表しました。
万葉集』には、「父母を見れば尊し妻子見れば米具斯宇都久志(めぐしうつくし)」とあります。

平安初期以降、うつくしいは小さいものや幼いものに対する「かわいい」「いとしい」といった感情を表すようになり、平安末期頃から「きれいだ」を意味するようになりました。

漢字の「美(美しい)」は、「羊」+「大」で、形の良い大きなヒツジを表しています。
これは、中国古代の王朝「周」の人々が、ヒツジを最も大切な家畜としていたことに由来すると考えられています。

4.後ろめたい(うしろめたい)

後ろめたい

後ろめたい」とは、良心に恥じるところがあって気がとがめる、やましいことです。

後ろめたいは本来は、「不安だ」「気がかりだ」という意味で用いられた言葉で、そこから「油断がならない」「気が許せない」という意味に転じました。

さらに、他人から「油断ならない相手」と思われるのではないかというところから、自身のやましさをいうようになった語です。

後ろめたいの語源は次のように諸説あります。

「うしろめいたし(後ろ目痛し)」もしくは「うしろべいたし(後ろ辺痛し)」で、後ろから見て心が痛むの意味からとする説

「後ろ目痛し」もしくは「後ろ辺痛し」を語源とし、のちのことを考える(将来を見る)と心が痛むという意味から、「不安」を表すようになったとする説

「後ろ辺痛し」を語源とし、後方が気になる意味で「不安」を表すようになったとする説

「うしろめいたし(後ろ目甚し)」を語源とし、「甚し」は「甚だしい」の意味で、後ろを見たくて仕方ないことから、「不安」を表すようになったとする説

このうち定説となっているのは「後ろ目痛し」の説ですが、古く「ウシロベタシ」の形が見られるため、「後ろ辺痛し」とも考えられます。

ただし、「冷たい」を「つべたい」や「ちべたい」と言う地方もあることから、「うしろべいたし」の「べ」が「辺」ではなく、「目」を表しているとも考えられます。

後ろめたいの語源は「後ろ目痛し」か「後ろ辺痛し」のいずれかと思われますが、それ以外の部分は特定が困難です。

5.五月蠅い/煩い(うるさい)

うるさい

うるさい」とは、物音が大きくて邪魔である、やかましい、邪魔でわずらわしいという意味です。

うるさいの語源は、「心」を意味する「うら」の母音交替形「うる」に、「狭い」を意味する形容詞「さし(狭し)」が付いた「うるさし」です。

うるさしは、何らかの刺激で心が乱れ、閉鎖状態になることを意味しました。
うるさしと同系の語には、「うるせし(「さし」の母音交替形)」がありますが、「立派だ」「優れている」「巧みである」という意味なので、「うるさし(うるさい)」と同源ではないとも言われます。

しかし、うるさいは「技芸がすぐれている」といった意味でも用いられ、細かいところまで気づくという点では意味が近いことから、同源と考えて間違いなさそうです。

うるさいは、漢字で「五月蝿い」と書きますが、これは夏目漱石の当て字です。

五月の蝿と書くのは、陰暦5月頃に群がり騒ぐハエを「五月蝿(さばえ)」と言い、「騒く」「荒ぶる」にかかる枕詞には「五月蠅なす(五月蝿のようにの意)」があるように、陰暦5月頃のハエは特にうるさいことからです。