数字を含むことわざ・慣用句と言えば、「三人寄れば文殊の知恵」とか「三つ子の魂百まで」などたくさんあります。
前回は「人数・年齢・回数・年月や時間・距離・寸法」を表す数字を含むことわざ・慣用句を紹介しました。そこで今回は、その他の「一」から「万」までの数字を含むことわざ・慣用句をまとめてご紹介したいと思います。
なお面白い数字の単位についての話は、前に「数字の単位は摩訶不思議。数字の不思議なマジック・数字の大字も紹介!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧下さい。
21.「千」を含むことわざ・慣用句
(1)値千金/価千金(あたいせんきん):千金の値打ちがあること。高い価値のあること。
「千金」とは、①千枚の黄金。千両のかね。② 多額の金銭。また、非常に価値の高いこと。
(2)親の意見と茄子の花は千に一つも仇は無い(おやのいけんとなすびのはなはせんにひとつもあだはない):子の将来を思ってする親の意見は大切なことばかりで、一つとして無駄はないこと。「親の意見と茄子の花は千に一つも無駄は無い」とも言います。
茄子の花は徒花(あだばな)がほとんどなく、咲けば必ずと言っていいほど実をつけるように、親の意見に無駄はないから、きちんと耳を傾けるよう説いたもの。
(3)千慮の一失(せんりょのいっしつ):絶対に失敗しないと思われた賢明な人でも、失敗することがあるということ。十分に考えて準備していても、思わぬ手抜かりがあるということ。
思慮分別のある者でも、時にはまさかというような失敗をすることがあるのだから、どんなに考慮したつもりでいても思いがけない失敗は隠れているということ。
(4)千慮の一得(せんりょのいっとく):愚者でも、千の中に一つぐらいはよい考えもあるだろうということ。自分の意見を謙遜して言う言葉。
『史記』淮陰侯伝に「智者も千慮に必ず一失有り。愚者も千慮に必ず一得有り(知恵者でも必ず千に一つの考え損ないはあり、愚か者でも必ず千に一つのうまい知恵が出る)」とあります。
(5)千金の珠は必ず九重の淵の而も驪龍の頷下に有り(せんきんのたまはかならずきゅうちょうのふちのしかもりりょうのがんかにあり):貴重な物は容易には得られず、非常な危険を冒さなければならないことのたとえ。
「九重の淵」は、深い淵。「驪龍」は、黒色の竜。「頷下」は、あごの下の意味。
貴重な千金の珠は、深い淵の中に住む黒竜のあごの下にあり、その黒竜が眠っている隙でなければ得るのは難しいことから。
(6)人家千軒あれば相持ちに暮らせる(じんかせんげんあればあいもちにくらせる):人家が千軒もあれば、その範囲内で生計を立ててゆくことができるということ。
多くの者がいれば、いろいろな商売があるので、互いに生産物を交換して生活することができるということ。
(7)千三つ(せんみつ):土地や建物の売買や貸金の仲介などを行う人。千の内、三つくらいしか成立しないとの意から。
または、嘘ばかりつく人。嘘つき。千の内、三つくらいしか正しいことを言わないとの意から。
(8)千石万石も米五合(せんごくまんごくもこめごごう):人には必要な物が必要な分だけあれば十分だということ。
千石、万石といった高い俸禄を得ている人でも、一日に食べる米の量は五合にすぎないとの意から。
「千石万石も飯一杯」とも言います。
(9)あの世の千日、この世の一日(あのよのせんにち、このよのいちにち):あの世の極楽で千日暮らすより、この世で一日でも楽しむほうがよいということ。
(10)死しての千年より生きての一日(ししてのせんねんよりいきてのいちにち):死んでからの千年より、この世での一日のほうが大事だということ。
(11)諍い果てての千切り木(いさかいはててのちぎりぎ):時機に遅れて何の役にも立たないことのたとえ。
「千切り木」は棒の切れ端のこと。喧嘩が終わってから、棒切れを持ち出しても役に立たないことから。
「喧嘩過ぎての棒乳切り(けんかすぎてのぼうちぎり)」「諍い果てての乳切り木(いさかいはててのちぎりぎ)」とも言います。
(12)一髪、千鈞を引く(いっぱつ、せんきんをひく):非常に危険なことのたとえ。
「千鈞」は約6.7kgで非常に重い物こと。
一本の髪の毛で、千鈞の重さがある物ものを引っ張ることから。
(13)後ろ千両前一文(うしろせんりょうまえいちもん):後ろ姿はとても美しいのに、前から見ると全然美しくないこと。
<類義語>
・後ろ弁天、前不動(うしろべんてん、まえふどう)
(14)海に千年山に千年(うみにせんねんやまにせんねん):経験豊富で抜け目なく悪賢いこと。また、そういう人のこと。
海に千年、山に千年住んだ大蛇は竜になるという言い伝えから。
「海千山千」とも言います。
(15)縁あれば千里(えんあればせんり):縁があれば千里も離れた所の人と会うこともあるし、結ばれることもあるということ。
「縁あれば千里を隔てても会い易し、縁なければ面を対しても見え難し」を略した言葉。
(16)円石を千仞の山に転ず(えんせきをせんじんのやまにてんず):非常に勢いが激しく、抑えようがないことのたとえ。
高い山から丸い石を落とすと、ものすごい勢いで転がることから。
(17)霞に千鳥(かすみにちどり):ふさわしくないことのたとえ。また、あり得ないことのたとえ。霞は春のもの、千鳥は冬のものということから。
(18)餓えて死ぬは一人、飲んで死ぬは千人(かつえてしぬはひとり、のんでしぬはせんにん):餓えて死ぬ人間は少ないが、酒の飲みすぎが原因で死ぬ人間は非常に多いということ。
(19)愚者も千慮に一得有り(ぐしゃもせんりょにいっとくあり):愚か者でも、たまにはいい考え方をすることがあるということ。
「愚者も一得」「愚者にも一得」「愚者の一得」とも言います。
(20)雀の千声鶴の一声(すずめのせんこえつるのひとこえ):つまらない者がいろいろ言うよりも、すぐれた者の一声のほうが勝っているというたとえ。「鶴の一声」だけでも使われます。
(21)千人の諾諾は一士の諤諤に如かず(せんにんのだくだくはいっしのがくがくにしかず):他人の言葉になんでも賛同して従う千人は、権勢に媚びずに正しいと思うことを主張する一人には及ばないということ。
「諾諾」は、他人の言葉にさからわないで従うさま。「諤諤」は、正しいと思うことを恐れはばかることなく述べるさま。
(22)千貫のかたに編笠一蓋(せんがんのかたにあみがさいっかい):大きな元手のわりに利益が少なく、損益が釣り合わないことのたとえ。
「千貫」は銭の単位。一貫の千倍。転じて非常に高価なこと。
千貫の借金の担保が、編み笠一つということから。「一蓋」は「ひとがい」とも読む。
(23)千鈞の重み(せんきんのおもみ):非常に重いこと。または、非常に価値があること。
「鈞」は重さを表す単位。
(24)千金の裘は一狐の腋に非ず(せんきんのきゅうはいっこのえきにあらず):国を治めるには、多くの有能な人材が必要だというたとえ。
「裘」は獣の毛皮で作った衣服。皮衣。「腋」は脇の下。
千金もする皮衣は、一匹の狐のわきの毛だけでは作れないとの意から。
(25)千金の子は市に死せず(せんきんのこはいちにしせず):金持ちの子は、罪を犯しても金の力によって死罪を免れ、町中で処刑されるようなことにならないこと。
また、金持ち子は、金の力で危険を防ぐことができるので、町中で悪者に殺されるようなことはないということ。
金さえあれば身を守ることができるということを皮肉った言葉。
「千金」は金持ち、「市」は町の意。
(26)千金を買う市あれど一文字を買う店なし(せんきんをかういちあれどいちもんじをかうみせなし):文字を覚えるためには、自分で学ぶしかないというたとえ。
市場にはいろんな物が売っていて、高価な物も買うことができるが、文字だけは売っていないとの意から。
(27)千軒あれば共過ぎ(せんげんあればともすぎ):家が千軒もあれば、そこに住む人たちがそれぞれ商売をしたり互いに物の売り買いをしたりして、ともに生計を立てていくことができるということ。
「共過ぎ」は、人々が互いに助け合って生活していくこと。
「千軒あれば共暮らし」とも言います。
(28)千石取れば万石羨む(せんごくとればまんごくうらやむ):人間の欲望は次から次へと大きくなり、きりがないということ。
千石取りになれば、次は万石取りを羨むということから。
(29)千畳敷に寝ても畳一枚(せんじょうじきにねてもたたみいちまい):人一人が必要な物は限られているので、むやみに欲を出すべきではないということ。
千畳もの広さがある部屋に寝ても、人が一人寝るのに必要な畳はせいぜい一枚であるとの意から。
(30)千緒万端、遺漏あることなし(せんしょばんたん、いろうあることなし):あらゆる点で、まったく手落ちがない様子。
「千緒万端」は多くの事柄、「遺漏」は手落ち。
(31)千日の萱を一日に焼く(せんにちのかやをいちにちにやく):長年苦労して築き上げたものを一瞬にして失うことのたとえ。
「萱」は、屋根をふくのに用いる植物の総称。
千日もかけて刈り集めた萱をたった一日で燃やしてしまうとの意から。
(32)千日の旱魃に一日の洪水(せんにちのかんばつにいちにちのこうずい):千日も続く日照りと、たった一日ですべてを流してしまう洪水とは、同じくらいの被害をもたらすということ。水害の恐ろしさをいった言葉。
(33)千に一つ(せんにひとつ):非常に珍しいこと。
多くある中のたったひとつとの意から。
(34)仙人の千年、蜉蝣の一時(せんにんのせんねん、かげろうのいっとき):長い短いの違いはあっても、どちらも一生であることに変わりないことのたとえ。
また、同じ一生でも長短の差が大きいことのたとえ。
(35)千の蔵より子は宝(せんのくらよりこはたから):たくさんの財産よりも子どもの方が大切だということ。
(36)千里眼(せんりがん):遠くの出来事や将来のこと、人の心の中を見通す能力のこと。また、その能力を持つ人のこと。
中国後魏の楊逸は、情報網をめぐらして遠方の情報をつかんでいたので、人々が「千里の遠くまで見通す眼を持っている」と驚いたという故事から。
なお「千里眼事件とは?御船千鶴子や長尾郁子は本当に透視能力があったのか?」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。
(37)千里の馬は常にあれども伯楽は常にはあらず(せんりのうまはつねにあれどもはくらくはつねにはあらず):有能な人材はいつの世にもいるが、その能力を見出して育てる優れた指導者は少ないということのたとえ。
「千里の馬」は、一日に千里も走れるほどの優れた馬。転じて、優れた才能の人物。
「伯楽」は牛馬の良し悪しを見分ける名人のこと。転じて、人物を見抜いて、その才能を引き出し育てる優れた指導者のこと。
いつの時代にも、一日に千里を走るほどの優れた馬はいるが、その名馬の能力を引き出す伯楽は、いつもいるわけではないということから。
(38)千里の野に虎を放つ(せんりののにとらをはなつ):災いのもとになりそうな危険なものを放っておくことのたとえ。
広い野原に虎を野放しにするとの意から。「虎を野に放つ」とも言います。
(39)千里一跳ね(せんりひとはね):大きな鳥があっという間に千里も飛んでしまうように、物事を一気に行って大成功することのたとえ。
(40)中流に船を失えば一瓢も千金(ちゅうりゅうにふねをうしなえばいっぴょうもせんきん):つまらないものでも、場合によってはとても価値があるというたとえ。
流れの真ん中で船を失ったときには、ひょうたん一個でも浮き袋の代わりになるとの意から。
(41)面の皮千枚張り(つらのかわせんまいばり):きわめて恥知らずで厚かましいことのたとえ。
顔の皮が千枚張り合わせたほど厚いとの意から。
(42)手千両(てせんりょう):手先が器用なことや手に技術を持っていることは、千両にも匹敵する値打ちがあるということ。
(43)虎は千里行って千里帰る(とらはせんりいってせんりかえる):子を思う親の深い情愛のたとえ。また、勢いが盛んなことのたとえ。
虎は一日に千里の道を進み、またその千里の道を戻ってくるということから。
(44)虎は千里の藪に栖む(とらはせんりのやぶにすむ):優れたものは、広々として奥深い所にいるということ。
虎は千里もあるような広い藪にすんでいるということから。
(45)波に千鳥(なみにちどり):絵になるような取り合わせのよいもののたとえ。
(46)籌を帷幄に運らし、勝ちを千里の外に決す(はかりごとをいあくにめぐらし、かちをせんりのほかにけっす):計画や戦略の巧妙なことのたとえ。
「籌」は計略、「帷幄」は幕を張りめぐらした本陣、「千里の外」は遠い場所のこと。
本陣で計略を練り、遠く離れた戦場で勝利するとの意から。
「籌策を帷幄の中に運らし、勝ちを千里の外に決す」とも言います。
(47)仏千人、神千人(ほとけせんにん、かみせんにん):世の中には悪い人間もいるが、仏や神のようなよい人間もたくさんいるということ。
(48)誉め手千人、悪口万人(ほめてせんにん、わるくちまんにん):ほめる人が千人いれば、悪口を言う人は一万人いるということ。
世の中は褒める人よりもけなす人のほうが多いということ。
「誉め手」は「褒め手」とも書きます。
(49)目千両(めせんりょう):千両の値打ちがあるほど魅力的な目。
(50)目元千両、口元万両(めもとせんりょう、くちもとまんりょう):目元は千両、口元は万両に値するほど魅力的であるという、美人を形容する言葉。