「古事記」と「日本書紀」については「日本の国生み神話、最古の歴史書」という程度の知識はあっても、あまり詳しく知らない人が多いのではないでしょうか?
ましてや、これら二つの書物を、現代語訳でも読んだ人はほとんどいないのではないでしょうか?
今回は、この二つの書物について、掘り下げて考えて見たいと思います。
1.「古事記」とは
「古事記」とは、日本最古の歴史書・文学書です。天武天皇(631年?~686年)の命によって稗田阿礼(ひえだのあれ)が「誦習(暗誦して覚えること)」していた皇室の記録「帝紀」と神話・伝説を記した「旧辞」を、元明天皇(661年~721年)の命によって太安万侶(おおのやすまろ)(?~723年)が聞き取って文章に記録し、編纂した書物です。わずか4カ月の短期間で全3巻を編纂し、712年に完成しました。112首の歌が収められています。
天皇家を中心とする国家統一の思想が貫かれていますが、「神話・伝説」も数多く含まれています。
天地開闢から推古天皇の時代までの神々の神話や天皇家の系譜が描かれています。
2.「日本書紀」とは
「日本書紀」とは、奈良時代の歴史書で、「六国史(りっこくし)」の第一です。「帝紀」や「旧辞」のほか、寺院の縁起・諸家の記録・中国や朝鮮の史料なども広く用いています。
全30巻プラス系図1巻を舎人親王や太安万侶らが大人数の作業で長年にわたって編纂し、720年に完成しました。128首の歌が収められています。
天地開闢から持統天皇の時代までの歴史が編年体で記述されています。
3.「古事記」(以下「記」と表示)と「日本書紀」(以下「紀」と表示)の違い
この二つの歴史書の相違点を明確にしましょう。
(1)ヤマトタケルの扱い
景行天皇の息子ですが、「記」では「残虐な恐ろしい息子なので、遠ざけようと熊襲征伐・東征を命じた」、「紀」では「熊襲征伐・東征を成し遂げた自慢の息子」とされています。
(2)英雄などのエピソード
「記」では「出雲神話が重要視され、大国主神が英雄化」、「紀」では「ほとんどのエピソードが省略」されています。
(3)形式
「記」は「物語調」ですが、「紀」は「編年体」です。
(4)編纂の目的
「記」は「日本国内向けに天皇家の歴史と正当性をアピールしたもの」ですが、「紀」は「中国や朝鮮などの外国に向けて日本国家の成立と正当性をアピールしたもの」です。
(5)性格
「記」は「天皇家の私的な歴史を示すもの」で、「紀」は「日本国家の公式の記録を記すもの」です。
余談ですが、私の同期入社の人で、「古事記が愛読書、古事記は非常に面白い」と言って岩波文庫の古事記をよく読んでいる人がいました。その時は、「そんな古い神話・歴史書が本当に面白いのか」と半信半疑でしたが、最近、わかりやすく現代語訳した本や、漫画も出版されるようになり、私も認識を改めました。
蛇足ですが、日本語学者の森博達氏は、「日本書紀の謎を解くー述作者は誰か」という本の中で「日本書紀は、実は中国人が書いたものを日本人が書き継いだ合作である」との見解を述べています。