「海苔の不作」は「水質浄化のし過ぎ」が原因!?豊かな海ときれいな海は違う!

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海苔の養殖

ここ数年、海苔の不作が続いているため、海苔の卸値は4年連続で上昇し、5年間で約1.5倍になっています。

一体なぜこんなことになったのでしょうか?その原因は「海がきれいになり過ぎたから」だというのです。今回はこれについて考えてみたいと思います。

1.「海苔の不作」と「水質浄化のし過ぎ」との因果関係

良い焼き海苔は、「真っ黒で、パリパリッと破れる」ものですが、悪い焼き海苔は、「緑色で、なかなか破れない」ものです。この違いは海の栄養素が多いか少ないかが原因です。

名城大学大学院特任教授の鈴木輝明氏は、次のように説明しています。

水清ければ魚棲まず、と言いますけど、きれいな海と豊かな海は、実は違うんです。きれいにするのは、あるレベルまではいいけれど、度が過ぎると、栄養素の少ない、痩せた海、透き通った海になるわけですよ

このように、下水処理などの水質浄化の強化で、海がきれいになりすぎて、海苔の生育に必要な「リン」などの栄養素が減ってしまったのです。これは全国的な傾向で、各地で海苔の生産が減少しています。

「水清くして大魚なし」「清水に魚棲まず」という古語もあります。これは「古人に知恵」とも言うべきもので、そういうことを知らない現代の素人たちが「水質汚濁はとにかく悪い」ということで、「水質浄化」を極端に推し進めた結果です。「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」のたとえ通りです。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。

一般的に水域が、「貧栄養」から「富栄養」へ変化すると「栄養塩」が豊富に存在することになり、日光の当たる水面付近では植物プランクトンが増殖します。またそれを捕食する動物プランクトンも増加します。さらにこれらのプランクトンを捕食する魚介類の増殖につながるというわけです。

2.日本一の海苔の生産地「有明海」を持つ佐賀市の取り組み

高度成長期は、水質悪化が深刻でした。そこで生活排水などの下水処理場に「基準」を設け、リンを除去した排水を海に流すようにしました。その後、下水処理技術がさらに進み、どんどんきれいな水になって行きましたが、結果的に有明海をはじめ全国の海苔が減りました。

そんな中で、近年生産量が増加しているのが九州の有明海です。これは佐賀市が数年前から取り組んでいる「秘策」の成果です。

その「秘策」とは、佐賀市が2007年冬から下水処理の「季節別運転管理」を実施し、「水質基準内」で「リンの除去を少なくした」のです。その結果「真っ黒、ふさふさ」の海苔が戻って来ました。

現在では、瀬戸内海や三河湾など全国35カ所で、佐賀市と同様の対策を実施しているそうです。

3.「環境保護運動」と「海の恵み」はステレオタイプの議論では解決しない

環境問題を前面に押し出した「環境保護運動」では、「透き通ったきれいな海がベスト」「捕鯨はダメ」「プラスチックの使用はダメ」など、ともすればステレオタイプの極論が多いものです。

「海苔問題」だけではありませんが、「海の恵み」を考えた場合、そろそろ「ステレオタイプの環境保護運動」とは決別すべき時期に来ているように私は思います。

4.兵庫県瀬戸内海側での「排水基準緩和」の動き

漁獲高の減少が続いている兵庫県瀬戸内海側では、「海をきれいにし過ぎない取り組み」を進めているそうです。

赤潮防止のために「排水基準」を厳しくした結果、植物プランクトンの生育に不可欠な窒素などの栄養分が減り、漁獲高の減少を招いたそうです。「水質浄化し過ぎの弊害」は、海苔だけの問題ではなく、漁業全体の問題だったということですね。