「建物の高さ」競争と「バベルの塔」

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バベルの塔

1.馬鹿と煙は高い所へ上る

私が子供の頃、高い所へ上った悪童に、別の子供たちが「馬鹿と煙は高い所へ上る」とよく囃(はや)し立てていました。、「賢い子供は、高い所(危険な所)には行かないが、何も考えない馬鹿な子供はそういう危険な所を好む」ということを、煙に引っ掛けた言葉です。

しかし、このことわざの本来の意味は、「愚か者はおだてに乗りやすい」ということです。そう言えば夏目漱石の「坊っちゃん」の冒頭にも、同級生に「二階から飛び降りられるか?弱虫やーい」と囃し立てられたので、飛び降りて腰を抜かしたという話がありましたね。

ところで、「豚もおだてりゃ木に登る」ということわざがあります。これは一見「馬鹿と煙は高いところへ上る」と似ていますが、こちらは、「能力の低い者でも、おだてられて気を良くすると、能力以上のことをやり遂げてしまうこともある」という意味です。「馬鹿と鋏は使いよう」と同じですね。

2.建物の高さ競争

閑話休題、本論に入りましょう。1995年(平成7年)に完成した大阪南港の「ワールドトレードセンタービル(通称WTCコスモタワー)は、高さ256mで、当時横浜市の「ランドマークタワー」(1993年完成、高さ296m)に次ぐ日本で二番目の高さでした。なお、大阪府泉佐野市には、ほぼ同じ高さの「りんくうゲートタワービル」があります。

現在、日本一高いビルは、2014年に完成した大阪市阿倍野区の「あべのハルカス」で、高さは300mです。世界一高いビルは、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイにある「ブルジュ・ハリファ」で、高さは828mもあります。このビルの先端は、ゴシック建築の「尖塔」のようで、いかにも「世界一の高さを狙った」感じがします。

また、最近東京や大阪では超高層の「タワーマンション」が続々と誕生しています。現在日本で一番高いタワーマンションは、2009年に完成した大阪市中央区にある「The Kitahama(北浜タワー)」で、高さは209mあります。ほぼ同じ高さの「ザ・パークハウス西新宿タワー60」が二番目です。また現在世界で一番高いタワーマンションは、2015年に完成したアメリカのニューヨークにある「432パーク・アベニュー」で、高さは426mもあります。

3.高層マンションの問題点

(1)活動性や学習意欲が鈍る

ある家庭教師が面白い話をしていました。教え子の中で、「タワーマンション」に住む子供は、一戸建ての家や普通のマンションに住む子供達に比べて、学習意欲が低く、成績も伸びないそうです。これは、全ての「タワーマンション」の子供がそうだとは言えないと思いますが興味深い話です。

学校から帰って一度、「タワーマンション」の自分の部屋に入ると、地上へ降りるのが億劫になるということです。それで、友達と遊ばなかったり、活動性や学習意欲が鈍るという現象が起きるのかも知れません。あまり高い所は、人間が日常生活をするのには適当でない可能性もあります。

(2)停電や火災・洪水・大地震など緊急時の対応が難しい

また、「停電」になったり、マンションの一室で火災が起こった場合はどうなるのでしょうか?「大地震」で「エレベーター停止」になった場合はどうなるのでしょうか?「タワーリング・インフェルノ」という映画のようなパニックが起きるのではないでしょうか?

私は、40年ほど前にアメリカのニューヨークに仕事で出張した時、ツインビルのワールドトレードセンタービル(528m)に上ったことがあるのですが、一度に100人以上が両側の扉から入れるエレベーターが何基もあるのには度肝を抜かれました。上層階はまさに雲の上です。高層ビル群を眼下に見下ろす格好です。この二つのビルは、2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」で破壊されてしまいました。このテロにもし私が遭遇していたらと想像するとぞっとします。

4.「イカロスの翼」と「バベルの塔」の教訓

「イカロスの翼」というギリシャ神話があります。蝋で固めた翼によって自由自在に飛翔する能力を得るが、太陽に接近し過ぎたことで蝋が溶けて翼がなくなり、墜落死するという話です。これは「人間の勇気の象徴」という解釈もありますが、「人間の傲慢さが自らの破滅を招く」という「テクノロジー批判」だという解釈もあります。

「超高層ビル」や「タワーマンション」は、人間の弛(たゆ)まぬ進歩の証とも言えますが、人間の果てしない飽くなき欲望の結果で、危うさをはらんでいると言えるのではないでしょうか?最近「免震偽装」問題が発覚しました。これが「超高層ビル」や「タワーマンション」で起きているとすれば、安全上重大な問題です。

やはり行き過ぎは駄目で、「過ぎたるは及ばざるがごとし」です。旧約聖書の創世記に「バベルの塔」の話があります。実現不可能な天に届く塔を建設しようとして崩れてしまったと言われるこの塔にちなんで、「空想的で実現不可能な計画」を比喩的に「バベルの塔」と言いますね。「超高層ビルやタワーマンション」も、バベルの塔とならないことを祈るばかりです。