1.昔の時代劇のセリフは江戸時代の話し言葉を再現
私は子供の頃から、「時代劇」が好きでよく見ましたが、嵐寛寿郎、長谷川一夫、中村錦之助(後の萬屋錦之助)、大川橋蔵、市川雷蔵など名優が揃っていました。
嵐寛寿郎は、映画「明治天皇と日露大戦争」の明治天皇が印象に残っています。長谷川一夫は、大河ドラマの「赤穂浪士」の大石内蔵助がぴったりでした。中村錦之助は陽気な役柄で美空ひばりと共演していたのが印象に残っています。大川橋蔵は、映画「若さま侍捕物帖」もありますがテレビ時代劇の「銭形平次」がはまり役でした。市川雷蔵は映画「眠狂四郎」シリーズが代表的な作品です。
その頃の時代劇のセリフの「言葉遣い」は江戸時代の武士の話し言葉を再現した重厚なものだったように思います。
「忝(かたじけな)い」「ご無礼仕(つかまつ)りまする」「申し上げ奉(たてまつ)りまする」とか「拙者(せっしゃ)」「其方(そち)」「御意(ぎょい)」などの言葉が飛び交っていたように思います。
2.最近の時代劇のセリフは現代の話し言葉で違和感がある
そういう時代劇の雰囲気が、最近の大河ドラマを見ているとあまり感じられません。2016年の「真田丸」の堺雅人さんが演じた真田幸村のセリフがその最たるものです。その原因は、登場人物の心理描写や行動様式を現代的な感覚で作っている上、「言葉遣い」も現代風に変えられていることが大きいと思います。
ブラジル出身の歌手でタレントのマルシアが、来日当時日本語がわからなくて「時代劇」を見て覚えようとしたため、最初のころは時代劇風の言葉遣いになっていたと話していたのを聞いたことがあります。
公家が話す「京ことば」は最近の大河ドラマでも「・・・であらしゃいます」と言っているようですが、武家の言葉は現代風一色です。「時代考証」担当の先生がいるはずなのに不思議です。真田丸の場合は、脚本家の三谷幸喜の力が強くて、現代語で押し通したのかもしれませんね。
3.時代劇にはやはり武士の話し言葉がふさわしい
もちろん私は江戸時代に生きていたわけではありませんし、古語の専門家でもないので、昭和30年代の時代劇の言葉遣いが「正しい江戸時代の武家言葉」なのか検証できませんが、現代劇とは違ってそれらしく感じられてよかったと思います。
NHKは現代劇の大河ドラマや朝ドラで「方言」を熱心に取り入れる傾向があります。その地方の人は喜ぶかも知れませんが、その他の地方の人には「わかりにくい」という印象を持たれているのではないでしょうか?
その一方、私たち大阪の人間が話す「関西弁」「大阪弁」に限って言えば、関西出身でない役者のしゃべる「変なイントネーションの関西弁・大阪弁」に、「生粋の大阪人」の多くはイラついて「そんな大阪弁はあらへんで」と心の中でツッコミを入れていると思います。他の地方の人も、ドラマの方言に、同じような感想を持っているのではないでしょうか?
「方言指導」のスタッフがいくら頑張って指導しても、やはり「方言」をほかの地方出身の役者が自然に使いこなすのは土台無理な話だと思います。そういう事情を考えると現代劇の場合は、変に無理をして下手な「方言」を使わず、「標準語」で通したほうが、その地方の人にもそれ以外の地方の人にもわかりやすく、ありがたいのではないかと私は思います。
例外的なのは現在放送されているNHKの朝ドラ「スカーレット」で、こちらは主演の戸田恵梨香が神戸市出身で父親役の北村一輝も大阪市出身なので、違和感のない関西弁で聞きやすいです。
しかし逆に時代劇の場合は、その時代にふさわしい言葉遣いに戻してほしいものです。できればテレビの時代劇の制作プロデューサーの皆様に、一度ご検討をお願いしたいと思います。「武家言葉」「江戸言葉」が懐かしいのは私だけでしょうか?それとも、これは「時代錯誤」なのでしょうか?
来年の大河ドラマ「麒麟がくる」がどのようなセリフ回しになるのか、注目したいと思います。