「おみくじ」と言えば、神社仏閣への初詣の折に、「初春の運試し」として引く人が多いようですね。
今回は「おみくじ」について考えてみたいと思います。
1.おみくじとは
「おみくじ」とは、「神社・仏閣等で吉凶を占うために引く籤(くじ)」のことです。漢字で書くと「御御籤」ですが、神社のものは「神籤」、寺のものは「仏籤」と区別することもあるようです。
(1)おみくじの起源
古代において国の祭政の重要事項決定や後継者選定の際、「神の意思」を占うためくじ引きをしたのが起源のようです。
現在のおみくじの原型は、元三慈恵大師良源上人(がんざんじえだいしりょうげんしょうにん)(912年~985年)が創始したとされています。
鎌倉時代の僧侶で時宗の開祖である一遍上人(1239年~1289年)は、「極楽へ行けるチケット」として「南無阿弥陀仏」の六字名号を刷った「名号札(みょうごうふだ)」を出逢う全ての人々に何万枚も手渡したという話を聞いたことがあります。
これも一見「おみくじ」とよく似ていますが、似て非なるもので、信者を増やすための「時宗の宣伝ビラ」のようなものだったのでしょう。「名号札」はどちらかと言えばカトリック教の「免罪符」に近いものです。ただし、「免罪符」は「これを買えば天国に行けるという免罪証書」でカトリック教会の金集めの手段でしたが・・・
(2)おみくじの種類
おみくじの種類は、7種類、12種類、多いところでは17種類まであります。
①7種類
大吉・吉・中吉・小吉・末吉・凶・大凶
②12種類
大吉(とても良い運気)・吉(良い運気)・中吉(まあまあ運気が良い)・小吉(少し運気が良い)・半吉(吉の半分くらいの運気)・末吉(あとになって開ける運気)・末小吉(あとになって少し運気が開ける)・凶(運気が悪い)・小凶(凶より少し運気が悪い)・半凶(小凶より少し運気が悪い)・末凶(半凶より少し運気が悪い)・大凶(今が一番悪い状態。これ以上悪いことは起きない)
③17種類(京都の伏見稲荷大社のおみくじ)
・大大吉(だいだいきち):最高の運気。油断は禁物
・大吉(だいきち):とても良い運気
・凶後大吉(きょう のち だいきち):凶だが、凶の山を越えたところで、これから運が開けいずれは大吉となる
・凶後吉(きょう のち きち):苦難が多いが、心持次第でいずれは吉となる運気
・末大吉(すえ だいきち):今ではないがいずれ良い運気となっていく
・末吉(すえきち):あとになって開ける運気
・向大吉(むこう だいきち):大吉に向かっている良い運気
・吉(きち):良い運気
・中吉(ちゅうきち):まあまあ運気が良い
・小吉(しょうきち):少し運気が良い
・小凶後吉(しょうきょう のち きち):困難が多少なりともあるが、いずれは吉となる運気
・後吉(あときち):現在は違うがいずれは吉になる
・吉凶未分末大吉(よしあし いまだ わからず すえだいきち):現在は吉か凶かは判断できない運気だが、いずれは大吉の運気となる
・吉凶不分末吉(きちきょう わかたず すえきち):吉か凶を分けられない運気。いずれは吉となる
・吉凶相半(きちきょう あいなかばす):吉と凶どちらとも言えない
・吉凶相交末吉(きちきょう あいまじわり すえきち):吉と凶が交わっている運気だが、いずれは吉となる
・吉凶相央(きちきょう あいなかばす):吉と凶の間
京都の伏見稲荷大社のおみくじは上記のように17種類ありますが、大きく分けて「吉に関するおみくじ」「凶から吉へと転じるおみくじ」「曖昧なおみくじ」という3種類のおみくじがあるのが特徴です。「吉に関するおみくじ」が9種類、「凶から吉へと転じるおみくじ」が3種類、「曖昧なおみくじ」が5種類あります。
京都の伏見稲荷大社のおみくじのもう一つの特徴は、「凶」や「大凶」がないことです。「凶」の文字が入っているおみくじでも、「いずれ良い方向へ向かう」という組み合わせになっています。どんなくじを引いても前向きになれるような配慮のようです。
京都の伏見稲荷大社以外の神社でも、同様に多種類のおみくじを用意しているところもあるようです。③の中にある馴染みのないおみくじを引き当てた方は、意味が分かりにくいと思いますのでぜひ参考にしてください。
(3)運気の良しあしの順番
上記の(2)①~③でおみくじの種類を列挙し、②と③についてはその意味を付記しましたが、一般的な「運気の良しあしの順番」に従って並べてあります。
ただし、神社によっては、「大吉の次を吉とするパターン」のほかに、「小吉の後を吉とするパターン」もあり、決まっているわけではありません。
2.変わり種のおみくじ
(1)貴船神社(京都)
京都鞍馬山にある貴船神社は、水の神様を祀る神社です。夏はすぐ下を流れる貴船川の「川床料理」が有名ですね。
「きふね」は「運気が生まれる根源」を表す言葉で、生命に絶対必要な「水」を生み出す社として、古くから信仰を集めてきました。
この神社のおみくじは、「水占い」です。最初は何も書かれていない半紙ほどの白紙の紙を、社務所右手の山側にある「御神水」と呼ばれる小さな池に浮かべます。すると、水に浮かべた紙に、水の神様の力で文字が浮き出してくるという仕掛けです。
(2)氷室神社(奈良)
奈良の氷室神社は、氷の神様を祀る神社で、おいしいかき氷でも有名です。
この神社のおみくじは、氷で占うマニアックな「氷みくじ」です。これは社務所でもらった白紙のおみくじを氷の上にペタリと貼り付けると、おみくじの内容が浮かび上がってくるという仕掛けです。
(3)清水寺(京都)
清水寺は、778年創建と伝えられる歴史の古い京都の代表的寺院の一つで「清水の舞台」で有名ですが、時代の最先端を行くような「電子おみくじ」を2006年から取り扱っています。
これはお守りに印刷した2次元バーコードを携帯カメラで読み取り、おみくじサイトにアクセスして運勢を占える「八福神お守り(電子おみくじ付き)」というものです。
サイトで1~9までの数字から一つを選ぶと、清水寺の普通のおみくじと同じ内容の「大吉」「吉」「凶」などの運勢と、「縁談」「待ち人」などの本文が表示されます。
(4)伊勢神宮(三重県)
三重県伊勢市にある伊勢神宮は、皇祖神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀り、天皇が退位や即位の報告をしたり、首相が新年に参拝することで有名ですね。戦前は「国家神道」の中心として国によって維持されていましたが、戦後は「宗教法人」となりました。
ところで、「伊勢神宮のおみくじ」はどのようなものでしょうか?ほかの神社とは別格のおみくじなのでしょうか?
実は「伊勢神宮にはおみくじがない」のです。その理由は次のようなものです。
①伊勢神宮の主祭神であり、日本国民の総氏神である「天照大御神」が鎮座しているので、「吉凶を占うおみくじ」のようなものは必要ないこと
②「お伊勢参り」に出かけて、無事に詣でることができたこと自体が幸運であること
③伊勢神宮は個人的なお願いをする場所ではないこと
神職の方曰く、「これらのことをおみくじに置き換えると、『参詣するだけで大吉』になる」そうです。
3.おみくじにまつわる歴史上のエピソード
今年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公である明智光秀は、本能寺の変を起こす数日前に京都愛宕神社に参籠し、戦勝祈願をするとともに連歌会を催しています。
またその時、愛宕神社のくじを何回も引いたという話も残っています。一応表向きは毛利攻めの戦勝祈願ということになりますが、謀反成功祈願の内意があったかもしれません。
一回目が「凶」、二回目も「凶」、三回目も「凶」だったと言われています。
4.おみくじは枝に結び付けるべきか持ち帰るべきか?
引いた後のおみくじを境内の木の枝などに結び付ける習慣・風習があります。「結ぶ」が恋愛の「縁を結ぶ」に通じることから江戸時代から行われているものです。「神様との縁を結ぶ」として木に結び付けられるようになったとも言われています。
ただ近年は、木に結ぶと木の生育が悪くなるとして、おみくじを結び付ける専用の「みくじ掛け」(2本の柱の間に棒や縄を渡したもの)を設置する寺社も増えています。
5.おみくじで「凶」が出た時の対処法
おみくじで「大吉」が出ると、喜んで自慢する人もいると思いますが、「凶」や「大凶」が出たりすると愕然となり、落ち込む人も多いのではないでしょうか?
しかし、「おみくじで凶が出たらラッキー」と考えたほうが良いと私は思います。。
「凶」は、「今後悪いことが起こる」という意味ではありません。「将来的に見て、悪いことが起こらないように今の自分を見直し、ダメなところは正して運勢を良い方向に持って行くべし」という神様からのメッセージと見る考え方です。
浅草寺のおみくじは、「凶」がよく出ることで有名ですが、その内容は次のように書かれています。
凶が出た人もおそれることなく、辛抱強さを持って誠実に過ごすことで、吉に転じます。凶の出た人は、観音様のご加護を願い、境内の指定場所にこの観音百籤を結んで、ご縁つなぎをしてください。
なお、「凶」のおみくじを、利き腕と反対の手で木の枝に結ぶと、「困難な行いを達成した」(修行した)ことになり、「凶」が「吉」に転じるという説もあります。
しかし、持ち帰って財布などに入れておき、今年1年の自分の反省の糧として大切にするというのも良い対処法ではないかと私は思います。
最後に蛇足ながら、「おみくじ」にまつわるトリビアを一つご紹介します。
「おみくじ」は、明治中期までは大きな神社が自前で作っていました。現在は、山口県周南市にある「女子道社(じょしどうしゃ)」が、全国の神社・仏閣のおみくじの7割近くを製造しています。
「女子道社」とは、山口県周南市にある「二所山田神社(にしょやまだじんじゃ)」が設立した月刊新聞社で、機関紙発行の資金源として始めたのが「おみくじ」です。ちなみに、おみくじの自動頒布機(自動販売機)を考案したのも同社です。