最近AI化の進展は目覚ましいものがあります。また、大企業においてはAIの活用とともに、効率化を図るために「事務集中部」のような専門部署を作って業務の分業化を進めています。
そこで私が気になるのは、個々の社員の専門知識が低下し、自社の業務の内容を広汎に網羅的に理解している「オールラウンドプレーヤー」が少なくなっているのではないかということです。
1.職人の徒弟制度
近代以前は、外国でも日本でも「職人」は少年時代から「徒弟制度」(apprentice system)で厳しく鍛えられたものです。
中世ヨーロッパには「ギルド」という手工業者の組合がありました。その内部では「親方ー職人ー徒弟」という身分秩序の下で、10~16歳で「徒弟」になり、2~8年程度の期間を親方の家に住み込んで寝食を共にして技術を習得し、さらに3年間ほど「職人」として働いた後、「親方作品」を提出して試験に合格すれば「親方」になることができました。
徒弟制度の中では、現代のように「暴力はダメ」ということもなく、厳しい親方は優しく懇切丁寧に教えてくれるわけでは決してありません。「親方や先輩職人の技術を見て盗め」というだけです。
しかしそのような苦労を経て、優れた職人は育って行ったのだと思います。それは、現代から見ると、封建的で不合理なことや理不尽なこともたくさんあったと思います。しかし、専門技術の伝承という点では、メリットも多かったのではないでしょうか?
2.終身雇用と年功序列制度のもとでの先輩から後輩への専門知識やスキルの伝承
私が若手~中堅サラリーマンの頃は、終身雇用と年功序列制度の時代でした。
その頃も研修所などでの講義形式の集合研修がありましたが、どちらかと言えば会社業務の現場において「on the job training」で、広範な専門知識や実戦スキル(技術・技能)を習得して行くというスタイルが一般的でした。それなりにうまく機能していたと私は思っています。
3.リストラに伴う中堅層の欠落とAI化や分業化の加速による専門スキルの低下
バブル崩壊にともなう企業の業績悪化、合併に伴うリストラの激化などにより、早期退職勧奨や新卒採用人数の削減が行われた結果、中堅層が欠落するなど社員の年齢構成がいびつになりました。
このような状況の中で、中堅層から若手への「on the job training」での広範な専門知識や実戦スキル(技術・技能)の伝承がスムーズに行われなくなったように思います。
また最近はAI化や分業化が進み、個々の社員が広汎でオールラウンドな知識を持てなくなっているのではないかと思います。
4.不測の事態への対応は大丈夫か?
このような状態では、今後発生が確実視されている「首都直下型地震」や「南海トラフ巨大地震」のような大災害が起きた場合、AIが使えず、専門部署も壊滅状態で「手作業」による処理が必要になった時に果たしてきちんと対応できるのか心配になります。
銀行の窓口でも、お札の勘定は機械に掛けて計算するだけで、昔のように担当者がお札を広げて手際よく数える風景は見られなくなりました。
デパートでも、レジの機械が故障か不調だったりすると、たちまち立ち往生となります。とりあえず手計算で処理して急場しのぎをするということをしないので、客の方は長時間待たされることになります。