1.間違いやすい同音異義語とその使用例
(1)「移動」と「異動」
「移動」は、「物理的に場所を変えること」です。
「異動」は、「職場での地位や勤務が変わるなどの人事上の変動のこと」です。
(2)「決裁」と「決済」
「決裁」は、「上位に立つ権限者が、部下が出した稟議や案に許可や不許可を与えること」です。
「決済」は、「ある売買取引に際して、金銭の支払いによってその取引関係を終了させること」です。
(3)「更正」と「更生」
「更正」は、「改めて正すこと」です。
「更生」は、①生き返ること、蘇(よみがえ)ること、②反省・信仰などによって、心持ちが根本的に変化すること。過去を清算し、生活態度を改めること、③不用品に手を加えて、再び利用できるようにすることの三つの意味があります。「会社更生法」などと使用します。
(4)「応対」と「応待」と「対応」
「応対」は、「相手になって、受け答えをすること」です。
これは、「応対」が正しく、「応待」は誤りです。「接待」との連想からこのような使い方が出て来たのかもしれません。
なお、「対応」は、「相手や状況に応じて、物事をすること」です。
(5)「意思」と「意志」
「意思」は、「自分の考えや思いのこと」です。
「意志」は、「ある行動を『する』ことを決意して、その気持ちをキープしようとする積極的な心の持ち方のこと」です。
通常、哲学や心理学では「意志」、法律用語では「意思」が使われます。
(6)「志向」と「指向」
「志向」は、「考えや気持ちが、ある方向を目指すこと」です。用例:健康志向、上昇志向
「指向」は、「事物がある方向を向くこと」です。用例:指向性アンテナ、指向性マイク
(7)「異議」と「異義」
「異議」は、「一つの意見に対して、反対または不服である意見のこと」です。例:弁護士が、裁判長に対して「異議あり。検察官の質問は誘導尋問です」などと使います。
「異義」は、「異なった意味のこと」です。例:同音異義語
(8)「異常」と「異状」
「異常」は、「正常でないこと、通常でないこと」です。反対語は「正常」です。
「異状」は、「普段とは違った状態、異常な様子のこと」です。
(9)「解答」と「回答」
「解答」は、「問題を解いて答えを出すことや、その答えのこと」です。
「回答」は、「質問や要求・要望に答えることや、その答えのこと」です。
(10)「鑑賞」と「観賞」
「鑑賞」は、「芸術作品などを理解して味わうこと」です。例:音楽鑑賞、絵画鑑賞
「観賞」は、「見て楽しむこと」です。例:植物観賞、観賞魚
(11)「気運」と「機運」
「気運」は、「物事がある方向に進もうとする傾向、時の成り行きのこと」です。
「機運」は、「時のめぐりあわせ、物事をなす時機のこと」です。
(12)「機械」と「器械」
「機械」は、「動力を用いて操作する装置(マシン)のこと」です。例:工作機械、包装機械
「器械」は、「人間が直接動かす、比較的小型で小規模な装置や道具(インストルメント)のこと」です。例:測定器械、光学器械
(13)「起源」と「起原」と「紀元」
「起源」と「起原」は、どちらを使っても同じで、「物事の起こり、始まりのこと」です。
「紀元」は、「歴史の年数を数える時の基準のこと」です。また「年号を建てること、改元」あるいは「年号」という意味もあります。
(14)「既成」と「既製」
「既成」は、「すでに出来上がっていることす。例:既成政党、既成事実、既成概念
「既製」は、「注文に応じて作るのではなく、製品としてすでに出来上がっていること、出来合い、レディーメイドのこと」です。例:既製服、既製品
(15)「時期」と「時機」と「時季」
「時期」は、「あることを行う時、一定の期間のこと」です。
「時機」は、「あることを行うのにちょうど良い機会のこと」です。
「時季」は、「季節。特に、あることが盛んに行われる季節や、そのことをするのに最もふさわしい時期のこと」です。
(16)「辞典」と「事典」と「字典」
「辞典」は、「言葉を集めて配列し、意味や発音、文法や例文を解説したもの」です。他と区別するために「ことばてん」とも呼ばれます。例:国語辞典、英和辞典、古語辞典
「事典」は、「事物や事柄の知識を集めて配列し、内容を詳しく解説したもの」です。他と区別するために「ことてん」とも呼ばれます。例:百科事典、歴史事典、科学事典
「字典」は、「漢字などの文字を集めて配列し、読みや意味、用法などを解説したもの」です。他と区別するために「もじてん」とも呼ばれます。例:書体字典、かな字典
(17)「少数」と「小数」
「少数」は、「数が少ないこと」です。反対語は「多数」です。例:少数意見、少数派
「小数」は、「小さい数。数学において、絶対値が1より小さくゼロよりは大きい数で、普通は十進法であらわしたもの」です。例:小数点、小数第何位
(18)「侵入」と「進入」
「侵入」は、「(他国の領土・他人の家など)立ち入るべきでない所に無理に入り込むこと」です。
「進入」は、「人や物が別の場所からやって来て、特定の場所に来る・通過すること」です。
(19)「進路」と「針路」
「進路」は、「進んで行く道筋、行く手。具体的な目標に向かって行く過程のこと」です。
「針路」は、「羅針盤の針の位置から決めた、船や航空機が進むべき方向。比喩的に、行動を向けるべき方向のこと」です。
(20)「精魂」と「精根」
「精魂」は、「魂とか精神のこと」です。例:精魂を傾ける
「精根」は、「心身の精力と根気のこと」です。例:精根が尽きる
(21)「制作」と「製作」
「制作」は、「美術作品、映画、テレビ番組など芸術作品の創作活動のこと」です。例:卒業制作
「製作」は、「実用的な物品、器具などのものを作ること」です。
(22)「精算」と「清算」
「精算」は、「金額などを細かく計算することや、料金などの過不足を計算し処理すること」です。例:出張費の精算、経費の精算
「清算」は、「債権・債務などの貸し借りに結末をつけることや、解散した会社や組合などの財産処分をすること」です。例:借金の清算、清算会社
(23)「絶対」と「絶体」
「絶対」は、「他に比較・対立するものがないことや、他のなにものにも制約・制限されないこと」です。例:絶対君主、絶対の真理
「絶体」は、「どうにも逃れられない窮地・立場に追い込まれること」です。例:絶体絶命
(24)「体制」と「体勢」と「態勢」
「体制」は、「社会・政治・組織などの継続的な仕組みのこと」です。例:資本主義体制、経営体制、新体制
「体勢」は、「体全体の構えや姿勢のこと」です。例:無理な体勢、着陸体勢
「態勢」は、「ある物事に対する身構えや態度のこと」です。例:受け入れ態勢、警備態勢
(25)「追求」と「追及」と「追究」
「追求」は、「目的の物を手に入れるために、どこまでも追い求めること」です。例:利益の追求、幸福の追求
「追及」は、「どこまでも追い詰めて、責任や欠点を問いただすこと」です。例:責任の追及、余罪の追及
「追究」は、「不明なこと・未知のものを、どこまでも深く調べて明らかにしようとすること」です。例:真理の追究、美の追究
(26)「同志」と「同士」
「同志」は、「同じ理想・目的や、主義・主張を持つ人のこと」です。
「同士」は、「相互にそのような関係にあること」です。例:いとこ同士
(27)「特徴」と「特長」
「特徴」は、「他と比べて目立つところが良いか悪いかは関係なく、他の人とは違って目立つところのこと」です。例:特徴のある顔、犯人の特徴
「特長」は、「他よりも特に優れた点のこと」です。例:新商品の特長、個人の特長を生かす
(28)「平行」と「並行」
「平行」は、「二つの直線が交わらないこと」です。例:平行線、平行四辺形
「並行」は、「並んで進むこと。二つ以上のものが同時に行われること」です。例:線路に並行する道路、国語と英語を並行して学ぶ
(29)「保証」と「保障」と「補償」
「保証」は、「責任を持って、間違いないと請け合うこと」です。例:品質保証、身元保証
「保障」は、「地位や権利などに害のないように保護すること」です。例:安全保障、警備保障、社会保障
「補償」は、「損失・損害を補い、償うこと」です。例:損失補償、災害補償
(30)「椿事」と「珍事」
「椿事」は、「思いがけない重大な出来事」のことです。たとえば、普段営業成績の悪い会社員が
大口の契約を獲得したりなどです。
一方「珍事」は、「単に珍しい出来事」に対して使われる言葉です。
なお、「椿事」の語源には諸説ありますが、ここでは二つご紹介します。
①誤用が由来であるという説
「椿」の音は「珍」と同じですが、「めずらしい」という意味はありません。 ちなみに「椿」には「長く生きる」という意味があります。 この意味で使う熟語には「椿寿(ちんじゅ)」があります。
もともとは「樁事(とうじ)」と書くはずが誤って、「椿事」になったという説です。ちなみに、「樁事(とうじ)」の「樁」は「日」の部分が「臼」になっています。「樁事(とうじ)」は事柄を数える際に用いられるものです。
「椿」と「樁」は似ていますが別字です。 「樁」という漢字が一般的でないことから、「椿」と間違って書き記され、それが一般化したというわけです。
②『荘子』にある話が由来するとする説
「椿」は中国の古典『荘子』に書かれている、伝説中の長寿の大木「大椿(だいちん)」という珍しい霊木を指すことに由来しているという説です。
「大椿」は、8千年を春とし、8千年を秋として、人間の3万2千年がその1年にあたるという大木で、花を咲かせることは滅多にないことから、このような思いがけない出来事を「椿事」と呼ぶようになったという説です。
2.パソコンの誤変換に注意すべきこと
最近、テニスの大坂なおみ選手が出て来て、彼女に関する記事を書いた後、普通に「大阪」と書いたつもりが、パソコンの「学習効果」で最後に使った用例が先頭に来るため、「大坂」になってしまうことが何度かありました。
また、正しく漢字を選択していても、最終的に上書き保存するのが後になった場合は、いつの間にか「誤変換」になっていることもあります。
パソコンは便利なもので、「ローマ字」もしくは「かな」を入力すれば候補が出て来るので、それを選べばよいわけで、漢字を正確に知らなくても文章が書けてしまいます。
しかし、同音異義語のようにまぎらわしい、間違いやすい言葉の場合は、正しい使い方かどうかをよく確認する必要があります。
あいまい・あやふやなまま使うと、後で恥をかくことになります。サラリーマンの場合は、「こんな言葉も知らないのか」と上司から思われる恐れもあり、大変まずいことになります。
自信がない時は、辞書で確認するなり、インターネットで検索して違いを確認するなりして、正しく使うようにしましょう。
そういうわけで、パソコンで文章を作成したあとは、必ず見直しするようにしたいものです。自戒を込めて・・・