日本語の面白い語源・由来(ひ-⑩)火の車・一入・ビキニ・ビー玉・火蓋を切る・ひょっとこ・鐚一文・独りぼっち

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火の車

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.火の車(ひのくるま)

火の車

火の車」とは、「家計・経済状態が非常に苦しいこと」です。

火の車は、仏教語「火車(かしゃ)」を訓読みした語です。
火車は火の燃え盛った車で、極卒の鬼が生前に悪行を働いた者を乗せて地獄へ運び、責め苦しめるといわれます。

火の車に乗せられた者は、酷い苦しみを味わうことから、苦しい経済状態を表すようになりました。

家計が苦しい意味で「火の車」と言うようになったのは、苦に満ちた世界(娑婆)を、火事にあった家にたとえた仏教語「火宅」と関連付けられたともいわれます。

2.一入(ひとしお)

一入

ひとしお」とは、「他の場合より程度が増すさま。いっそう。ひと際」ということです。「感慨もひとしお」「喜びもひとしお」などと用います。

ひとしおの「しお」は「塩」ではなく、染め物を染料につける回数のことで、ひとしおは染料に一回浸すことを意味します。

二回つけることは「再入(ふたしお)」、何回も色濃く染め上げることは「八入(やしお)」「百入(ももしお)」「千入(ちしお)」「八千入(やちしお)」と言いました。

一回つける毎に色が濃くなり鮮やかさが増すことから、ひとしおは「ひと際」などを意味する副詞として、平安時代頃から用いられるようになりました。

回数の意味で用いる「しお(しほ)」は上代から見られる語で、語源は「湿らす」「濡れる」などを意味する「霑る(しおる)」か、「潮時」「潮合」などの「しお」と考えられています。

漢字で「一入」と書くのは、染め物を入れる意味からの当て字です。

3.ビキニ/bikini

ビキニ

ビキニ」とは、「胸と腰をわずかに覆うだけのセパレーツ型(ツーピース型)の女性用水着」です。ビキニスタイル。

ビキニは、原爆実験に由来します。

1946年~1958年にアメリカの原子爆弾の実験が、中部太平洋マーシャル諸島共和国の北西部に位置する小環礁の「ビキニ」で行われました。

その最初の年1946年の7月5日に、フランスのデザイナー ルイ・レアールが、セパレーツ型の大胆な水着を世界で初めて発表しました。

それ以前に発表されていた大胆な水着が、最も小さい意味で「アトム(原子)」と呼ばれていたことや、同じ年に原爆実験がビキニ環礁で行われたことから、その衝撃をなぞらえ「ビキニ」と呼ばれるようになりました。

4.ビー玉(びーだま)

ビー玉

ビー玉」とは、「子供の遊びなどに用いる直径1~2cmほどのガラス玉」です。

ビー玉の「ビー」は、ポルトガル語で「ガラス玉」を意味する「ビードロ(vidro)」の下略です。
「ビードロ」の語は、室町時代末期から江戸時代にかけて多く使用され、現代では吹くと音がするガラス細工の「ポッペン」を「ビードロ」と呼びます。

ビー玉遊びは、江戸時代に盛んに行われた小石などを投げる子供の遊び「穴一」を受け継ぎ、明治中期から流行しました。

当初、この遊びはラムネ瓶のガラス玉を使っていたため、「ラムネ玉」と呼ばれていましたが「ビー玉」に落ち着きました。

ビー玉の語源には、製造現場の言葉で、規格外で不良品のB級の玉を「B玉」と呼ぶことを語源とする説もあります。

しかし、「ビー玉」という言葉は、子供の遊びの場から生まれた言葉で、子供が製造会社の「A玉」や「B玉」といった言葉を知っていたとは考え難く、「ビードロ玉」の用例は見られるのに対し、B級品の「B玉」が「ビー玉」として発売されたという文献も見当たりません。

5.火蓋を切る(ひぶたをきる)

火蓋を切る

火蓋を切る」とは、「競争・試合・戦争などが始まる。物事に着手する。行動を開始する」ことです。

「火蓋」とは火縄銃の火皿を覆う蓋のことで、「切る」は「開く」「外す」などの意味です。
弾を撃つためには火蓋を開き、火縄の火を火薬に点火するため、戦いを始めることを「火蓋を切る」と言うようになりました。

そこから意味が派生し、物事の着手や行動を開始する意味で使われるようになりました。

6.ひょっとこ

ひょっとこ

ひょっとこ」とは、「片目が小さくて、口のとがった滑稽な顔つきの男の面」のことです。潮吹き。

ひょっとこは、火吹き竹で火を吹いた表情をしていることから、「火男(ひおとこ)」が転じ「ひょっとこ」になったとされます。

火男は東北地方の「竃神(かまどがみ)」といわれ、火男の神は「ひょうとく」とも呼ばれます。

一説には、目が大小不釣合いで徳利のような口をしているため、「非徳利(ひとっくり)」が転じたともいわれますが、かなり無理があるように思えます。

7.鐚一文/びた一文(びたいちもん)

びた一文

びた一文」とは、「ほんの僅かな金銭」のことです。

びた一文の「びた」は、「鐚銭(びたせん・びたぜに)」の略です。
「鐚」の漢字は、「金」と「悪」を合わせた国字で、価値の低い粗悪な銭貨を意味します。

鐚銭は室町中期から江戸初期にかけて私鋳され、特に、中国の永楽銭以外の私鋳銭や、寛永通宝鋳造後の鉄銭を指します。

そのような粗悪な銭すらも出せない意味から、「びた一文まけられない」などと使われるようになりました。

鐚銭の「びた」の語源は、この銭が平たいことから、「薄べた」「平べったい」などの「べた」の転訛と考えられます。

8.独りぼっち(ひとりぼっち)

独りぼっち

ひとりぼっち」とは、「身寄りや仲間がなく、孤独であること」です。「ひとりぽっち」「ひとりぼち」とも。

ひとりぼっちは、「ひとりぼうし(独法師・独り法師)」が音変化した語です。

独法師は、宗派・教団などに属さなかったり、離脱した僧侶の境遇をいった言葉で、あてもなく世の中を彷徨い歩くことを「独法師の三界坊(さんがいぼう)」とも言いました。

そこから、孤独であることを「ひとりぼうし」と言い、音変化して「ひとりぼっち」となりました。

「ぼうし」が「ぼっち」や「ぽっち」に変化した由来は、ポチ袋の「ポチ」と同じく、「ぼっち」や「ぽっち」には「これっぽっち」など「〇〇だけ」の意味があり、孤独であることに関連付けられたと考えられます。