「緑の黒髪」「嬰児(みどりご)」「緑酒」「緑髪」など緑にまつわる面白い話

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緑髪

私は高校2年の時に「若年性再発性網膜硝子体出血(眼底出血)」を患ったこともあって、1時間も読書やパソコン作業を続けると10分くらいは目を休めないと目が痛くなります。

それだけが理由ではありませんが、遠方の景色を見るのもよいのですが、私には「緑の草木」を見る方が目が休まるような気がします。緑色にはそういう不思議な力があるように感じます。「青葉は目の薬」とも言いますよね。

ところで、「緑」の付いた言葉で、ちょっと気になる言葉がいくつかあります。

今回はこれについてご紹介したいと思います。

1.緑の黒髪

「(若い女性の)艶のある美しい黒髪」のことを指しているのに、なぜ「緑の」というのでしょうか?

漢字が中国から伝えられる前から、日本語には新芽や若い枝のことを指す「みどり」という言葉がありました。「みどりたつ」というのは、春になって新芽が出ることで、多くは松の新芽がまっすぐ上向きに伸びることを言います。そこから、「みどりの髪」のように「まっさらの瑞々(みずみず)しく艶やかなもの」を指す場合にも使われるようになったのです。

南北朝時代を舞台にした軍記物語「太平記」の「義貞の首懸獄門事付勾当内侍の事」には次のような文章があります。

日すでに暮れけれども、立ち帰るべき心地もなければ、よもぎが本の露の下に泣きしほれてをはしけるを、その辺なる道場の聖、「余りに御痛はしく見えさせ給ひ候ふに」とて、内へいざなひ入れ奉れば、その夜やがてみどりの髪り下ろし、紅顔を墨染めにやつし給ふ。しばしがほどは亡き面影を身に添へて、泣き悲しみ給ひしが、会者定離ゑしやぢやうりことわりに、愛別離苦あいべつりくの夢を覚まして、厭離穢土えんりゑどの心は日々に進み、欣求浄土ごんぐじやうどの念時々に勝りければ、嵯峨の奥に往生院わうじやうゐんのあたりなる柴のとぼそに、明け暮れを行ひ澄ましてぞをはしける。

生まれたての赤ん坊を「嬰児(みどりご)」と呼ぶのも同様です。

その後、中国から「緑」という漢字が入って来ましたが、これは「グリーン色」(黒ずんだ藍色、深い緑色)のことです。日本でも木の葉っぱがグリーン色なので、「みどり」に「緑」という漢字を当てることになったのです。

「緑の黒髪」に関しては、次のような面白いエピソードがあります。

漫画家の藤子・F・不二雄氏が若いアシスタントに、「女神を緑の黒髪で塗ってくれ」と依頼したところ、件(くだん)のアシスタントは「緑色」に塗ってしまったそうです。しかしそのカラー原稿はそのまま採用されたそうです。

今では、漫画やアニメに「緑色の髪の毛」を持つキャラクターが数多く登場(特に女性が多い)しています。これを「緑髪」(みどりがみ/リョクハツ)と呼ぶそうです。

2.緑酒

旧制第一高等学校の寮歌に「嗚呼玉杯に花うけて」というのがあります。この寮歌は、「自治の理想」と「救国の使命」に燃えるエリートの心意気を歌ったものです。

嗚呼(ああ)玉杯に花うけて
緑酒(りょくしゅ)に月の影宿(やど)し
治安の夢に耽(ふけ)りたる
栄華(えいが)の巷(ちまた)低く見て
向ケ岡(むこうがおか)にそそり立つ
五寮の健児(けんじ)意気高し

ここで言う「緑酒」は、「緑色に澄んだ良質の酒。美酒」のことで、「酒の美称」でもあります。

日本酒(清酒)は無色透明ですが、中国には緑色に澄んだ上質なお酒があったようです。

「紅灯緑酒」(「緑酒紅灯」とも言います)という言葉もあります。これは、上の寮歌の「栄華の巷」のことで、「歓楽街・繁華街の華やかなことの形容」「歓楽と飽食の享楽生活のたとえ」です。

3.「緑」と「翠」の違い

「緑」は「黒ずんだ藍色」ですが、「翠」は「青緑色」のことで、草色や山色などを形容する言葉です。「翠林」「翠苔」「翠煙」などという言葉もあります。

ところでややこしい話ですが、女性の黒い髪の毛を表す言葉に「翠髪(すいはつ)」があります。唐の詩人・王勃の「採蓮賦」に「唯見る翠髪六尺の女神、木に倚りて動かず」と出ています。

このことも「みどりの黒髪」という言葉に混乱をもたらしている一因かもしれません。

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