「一寸の虫にも五分の魂」にまつわる面白い話

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フンコロガシ

時代小説・歴史小説の名手である池波正太郎(1923年~1990年)の小説「鬼平犯科帳」シリーズに「一寸の虫」というのがありましたが、「一寸の虫にも五分の魂」ということわざは広く知られています。

1.「一寸の虫にも五分の魂」とは

「体長わずか一寸(約3cm)の虫でさえ、その半分にあたる五分(約1.5cm)という体に似合わず大きな魂を持っている」という意味です。

「どんなに小さく弱い者でも、それ相当の思慮や根性や誇りを持っているから、小さいからといって、侮ってはいけない」というたとえです。

「小糠(こぬか)にも根性」「蛞蝓(なめくじ)にも角(つの)」「痩腕(やせうで)にも骨」も同様の意味です。

英語では次のように言います。

Even a worm will turn.

2.「一寸の虫にも五分の魂」の由来

鎌倉時代の武将で政治家でもあった「北条重時(ほうじょうしげとき)」(1198年~1261年)が記した家訓「極楽寺殿御消息(ごくらくじどのごしょうそく)」の中にある「たとへにも一寸のむしには、五分のたましゐとて、あやしの虫けらもいのちをはをしむ事我にたかふへからす」が由来です。

3.「一寸の虫にも五分の魂」の歴史上の事例

(1)ジャン・ポール・マラーを暗殺したシャルロット・コルデー

フランス革命の大立者で医師のジャン・ポール・マラー(1743年~1793年)は、1789年のフランス革命勃発後の1792年に国民公会の議員に選出され、山岳派(ジャコバン派)に所属して、議会を主導するジロンド派を攻撃し、パリ民衆を蜂起させて最終的に国民公会から追放しました。

マラーの死

シャルロット・コルデー

しかし、持病の皮膚病が悪化して活動不能となり、自宅で一日中入浴して療養中に、面会に来たジロンド派支持者の若い女性シャルロット・コルデー(1768年~1793年)に暗殺されました。彼女は革命裁判所で死刑判決を受け、ギロチンで処刑されました。

ジャック・ルイ・ダヴィッドの「マラーの死」という絵画が有名です。コルデーについては、トニ・ロベール・フルーリーの「カーンでのシャルロット・コルデー」という肖像画も残っています。

(2)猛将ホロフェルネスの首を斬ったか弱いユディット

アッシリア王ネブカドネザルの将軍ホロフェルネスは、西方遠征中にヘブライ人の町ベトゥリアを包囲しました。町が陥落する寸前に信仰深い美貌の寡婦ユディットが敢然と立ちあがり、きらびやかに身を飾って召使女一人を伴い敵陣を訪れました。

4日目にホロフェルネスが彼女を誘惑しようとして開いた祝宴の後、酔いつぶれた彼の首を剣で斬り落としました。ユディットはホロフェルネスの首を持ち帰り、ヘブライ人は敵を打ち破りました。

ホロフェルネスはユディットとともに、ジェフリー・チョーサーの「カンタベリー物語」の中の「修道院僧の話」や、ダンテの「神曲」「煉獄篇」など様々な芸術作品に描かれています。

ホロフェルネスの首を斬るユディット

クリムトのユディト

カラヴァッジョの「ホロフェルネスの首を斬るユディット」やグスタフ・クリムトの「ユディト」という絵画が有名です。

どちらの事例も、弱者の女性の武器である性的魅力によって相手を倒したものです。マラーもホロフェルネスも、相手がか弱い女性だと見て油断したために命を落としました。

4.イソップ寓話の「鷲(わし)と甲虫(こうちゅう)」

鷲に追われた兎が甲虫に助けを求めたので、甲虫は兎を守ろうとしましたが、鷲はそれを無視して兎を殺して食べてしまいました。

甲虫はそれを憤り、鷲が何回卵を産んでも、またどこへ卵を産んでも、それを毀(こわ)してしまいました。

鷲は手こずって、ゼウスに頼んでそのふところに卵を預かってもらうことにしました。ところが甲虫はそれでもゼウスのふところに獣糞の玉を作ってそって入れに行く方法で毀してしまいました。

ゼウスはふと気が付くと、糞ボールがふところに入っているので、汚いと言ってそれを払い落とす時、卵も一緒に割ってしまうのでした。

それ以来、鷲はもうあきらめて、甲虫の現れる季節には産卵しなくなったということです。

なお、ここで「甲虫」というのは、「獣糞の玉」を作るということから、「カブトムシ」のことではなく、「バフンコロガシ」「スカラベ」「マグソダイコク」「ダイコクコガネ」などのコガネムシ科の昆虫と思われます。

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