絶滅危惧種を保護した結果、増えすぎて対応に苦慮しているという話も聞きます。日本でもクマやイノシシ、シカなどを適切に駆除しなくなった結果、農作物に甚大な損害が発生し、人が襲われる被害も多くなっています。
千葉県の動植物園「行川アイランド」から脱走した「キョン」というシカ科の外来動物が、大量繁殖して今や4万頭にまで増え、農作物を荒らしたり民家の庭の草花を食い荒らしたり、糞尿をまき散らすため、付近の住民の生活を脅かしているとの報道もありました。この「キョン」は繁殖能力(1年間で36%増加)が非常に高く、早急に手を打たないと生態系を破壊するだけでなく、東京都内にまで出没する恐れもあります。現在「キョン」は「特定外来生物」に指定されています。
2021年5月に横浜市でペッとして飼われていた体長3mの大蛇「アミメニシキヘビ(網目錦蛇)」が脱走する事件(飼い主の家の屋根裏で発見・捕獲)があり、6月には茨城県牛久市のペットショップから逃げ出した猛禽類の「ミナミジサイチョウ(南地犀鳥)」が千葉県柏市で発見・捕獲される事件がありました。
確かにこのような外来種の動物の脱走も恐ろしいのですが、「侵略的外来水生植物」と呼ばれる繁殖力の非常に強い植物の蔓延も恐ろしいものです。
今世界中で声高に叫ばれている「プラスチックごみ問題」よりも深刻で、その駆除は日本にとって喫緊の課題です。
前に「動物と人間との共生のために、行政による有効な害獣駆除対策の実行を望む」という記事を書きましたが、これと並行して有害植物の早期かつ効率的な駆除が望まれます。
植物は動物のように動き回ったり吠えることは出来ませんが、繁殖のための「植物の生存戦略」は驚くべきもので決して侮れません。「静かな殺し屋」のような恐るべき存在です。
被害の拡大を食い止めるためには、「早期発見」と「早期駆除」が肝要です。
1.現在問題になっている侵略的外来水生植物とは
(1)オオバナミズキンバイ
①オオバナミズキンバイとは
「オオバナミズキンバイ(大花水金梅)」は、南アメリカ大陸及び北アメリカ大陸南部原産のアカバナ科チョウジタデ属の水生植物です。
岸辺から水面に沿って横方向に茎と葉が伸び、厚みがある群落を形成します。道に落ちた葉や茎の切れ端でも雨が降ったりすると成長でき、焚き火跡からも発芽するほど乾燥・熱にも強い植物です。
元々は見た目がきれいなので、水槽で魚を飼う時に、その中に入れる水草として日本に入って来たものです。
しかし、川や湖沼などの自然に放たれた結果、どんどん繁殖するようになったものです。
「昔上皇様が持ち帰ったブルーギルが湖沼に放たれて大繁殖」し、琵琶湖などの生態系の破壊につながるため、今も駆除に苦労しています。そういう意味では「外来昆虫」の場合と同様で、日本の本来の生態系を壊すほどの脅威となっています。
②日本での繁殖と被害
繁殖力が非常に強いため、自然に分布していなかった地域に侵入した場合、生態系への悪影響が大きくなります。
在来水生植物の生息域を脅かすだけでなく、群落が水底への日光を遮るため、水生動物の生育環境も悪化させます。
日本のような稲作地帯では水田への侵入や、排水設備の周辺で繁茂することによる水害リスクも懸念されています。
2005年、和歌山県日高川町で最初の野生繁殖が判明しました。2007年には兵庫県加西市のため池で野生化していることが確認されました。2009年には琵琶湖でも見つかり、急速に拡大しました。
2017年に野生化が確認された千葉県の手賀沼では、同じく外来種である「ナガエツルノゲイトウ」との混成群落が形成されています。
2019年度の調査では、10万㎡超の範囲で繁茂しているのが確認されましたが、2017年度の調査と比較すると約1.7倍に広がっていました。そして今や「東京ドーム2個分」(約93万㎡)にまで生息域を拡大しているということです。
2014年6月には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法、外来種被害防止法)に基づく「特定外来生物」に指定され、飼育・栽培・保管、運搬、野外への放出などが禁止されました。
大規模な群落を駆除する場合には「重機」で掘り出したり、専用の「水草刈取り船」で刈取り、再生源となる茎や葉の切れ端をネットで回収し、乾燥した上で焼却処分するなど非常に手間がかかっています。
千葉県の手賀沼の「オオバナミズキンバイ」と「ナガエツルノゲイトウ」との混成群落の場合、完全駆除には10年程度かかる見込みとのことです。
(2)ナガエツルノゲイトウ
「ナガエツルノゲイトウ(長柄蔓野鶏頭)」は、南アメリカ原産のナデシコ目ヒユ科の多年草です。日本では「観賞用の水草」として流通していました。
現在は世界中に「外来種」として定着しており、「地球上で最悪の侵略的植物」と呼ばれることもあります。
日本での最初の定着記録は、1989年の兵庫県尼崎市のものです。その後千葉県をはじめ関東・関西・四国・九州など全国各地に分布を拡大しました。
琵琶湖や印旛沼など「ブラックバス」等の生息地で発見されることが多いため、「釣り人が媒介している可能性」も指摘されています。
在来種の植物と競争するほか、水面上にマット状に繁茂することで水流を停滞させたり、船の航行の妨げになったりします。
私のふるさとである大阪府高槻市でも「ナガエツルノゲイトウ」やこれと似た特定外来生物の「ミズヒマワリ(水向日葵)」(下の画像)が繁殖しています。
私も最初は「ミズヒマワリ」のことを知らなくて、芥川にたくさん生えているのを見て「きれいな水草」だなという印象しかありませんでした。
しかしこの「ミズヒマワリ」も「特定外来生物」なので駆除の対象で、放置すると完全除去が大変面倒なことになります。
2.外来生物・侵略的外来生物・特定外来生物とは
(1)外来生物とは
「外来生物」とは、本来の生息地でない場所から人為的に移入されてきた動物や植物のことです。
したがって、渡り鳥やがもたらしたり海流に乗って入って来た植物は「外来生物」とは言いません。
(2)侵略的外来生物とは
「侵略的外来生物」とは、「外来生物」の中でも、人間の健康や生活、そして農林水産業などに大きな影響を及ぼす生物のことです。
動物ではマングースやオオクチバス(ブラックバス)などです。
(2)特定外来生物とは
「特定外来生物」とは、「侵略的外来生物」の中でも「外来生物法」によって規制(飼育・栽培、保管、運搬、野外への放出が禁止)されている生物です。
なお、この「特定外来生物」は「捕獲」「駆除」が可能となっています。害になるものを取り除くわけですから、当然と言えば当然です。
3.ホテイアオイの被害も今や「侵略的外来生物」並み
(1)ホテイアオイとは
「ホテイアオイ」(布袋葵)は、南アメリカ原産のミズアオイ科の水草で、花が青く美しいので観賞用に栽培されています。別名「ホテイソウ」「ウォーターヒヤシンス」です。
皆さんの中にも、涼感のある水草としてホームセンターなどで購入された方もおられるのではないでしょうか?
この「ホテイアオイ」が野生化しているところを遠くから見ると、「尾瀬のミズバショウ」のように美しいものです。
しかし冬はほとんど枯れ悪臭を放って地域の迷惑となるほか、一部の株がわずかに生き延びれば、翌年の春から秋にかけて再び大繁殖します。
もともと繁殖力が強く、富栄養化した水域ではあっという間に水面を覆い尽します。その結果、水の流れを滞らせ、水上輸送の妨げとなり、また漁業にも悪影響を与えるなど日本のみならず世界中で問題となっています。
インドの西ベンガル州では、漁業に大打撃を受けたため、「(美しき)青い悪魔」と恐れられ、インドの他の地方では「ベンガルの恐怖(テロル)」と忌み嫌われています。
(2)ホテイアオイも早急に「特定外来生物」に指定すべき
現在ホテイアオイは、「生態系被害防止外来種(旧名:要注意外来生物)」(*)となっていますが、「特定外来生物」には指定されていません。
その理由は、庭池の装飾用水草や金魚鉢の水質浄化や根が金魚の産卵用に使えて便利なほか、「窒素分吸収能力と旺盛な繁殖力を生かして環境対策としての水質浄化」に利用しようとする試みがあったためです。
しかし、繁殖した植物体をかき集めて処理する手間がかかるため永続性に欠け、「水域に投入しただけで、環境に良いことをしたつもりになって放置している」ケースも目立っており、環境浄化方法としては好ましくないと多くの専門家が批判しています。
手遅れにならないうちに、ホテイアオイも早急に「特定外来生物」に指定すべきだと私は思います。
そうしないと、「オオバナミズキンバイ」や「ナガエツルノゲイトウ」の二の舞になりかねません。
(*)「生態系被害防止外来種(旧名:要注意外来生物)」とは
「要注意外来生物」とは、「外来生物法」に基づき環境省が指定していた「特定外来生物には選定されていないが、適否について検討中、又は調査不足から未選定とされている生物種」のことです。
2015年3月26日を以て廃止され、「生態系被害防止外来種」に名称変更されました。