1.死刑執行の当日告知は「非人道的」として死刑囚が国を提訴
「死刑執行を死刑囚に当日告知する運用は憲法に違反し非人道的だとして、死刑囚2人が11月4日、国に精神的苦痛への慰謝料計約2千万円の支払いなどを求め、大阪地裁に提訴した」との報道がありました。
弁護団によると、死刑を当日告知する運用をめぐる訴訟の提起は初めてとのことです。
訴状などによると、死刑の執行は法務大臣による命令から5日以内の実施が法律で定められているが、告知の時期に関する規定はありません。
現在は死刑囚本人に執行の1~2時間前に伝える「即日告知・即日執行」の手法で運用されているそうです。
原告側はこうした運用について、「法律による適正な手続きを経た刑罰」を定めた憲法の規定に違反していると主張しています。刑事訴訟法は死刑の執行停止や不服申し立ての権利を保障していますが、現在の運用では死刑囚が弁護人に連絡する時間すらないと訴えているそうです。
原告側代理人の植田豊弁護士は「行政の運用によって、不服申し立ての機会を奪われていることが問題だ」とし、「死刑執行への受忍義務はあるが、『即日告知・即日執行』という違法な死刑執行を受忍しなければならない義務はない」などと述べています。
2.死刑執行は法律の規定通り6ヵ月以内に執行すべき
「何の罪もない人が、何の予告もなく突然に命を奪われた被害者の無念の気持ち」を無視した「殺人犯の全く身勝手な主張」だと私は思います。
刑事訴訟法475条1項は「死刑の執行は、法務大臣の命令による。」と定めており、死刑執行を最終判断するのは「法務大臣」です。
この命令は、判決確定の日から6ヶ月以内にしなければならない(刑事訴訟法475条1項)と定められていますが、上訴権回復、再審の請求、非常上告、恩赦の出願・申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は算入されないことになっています(刑事訴訟法475条2項但書)。
このような訴えが起こされたことは大変驚きですが、その背景には次のような問題点があるのではないかと思います。
(1)今は死刑執行までの期間が長すぎる
実際には「死刑確定から執行まで平均5年」かかっています。中には16年とか18年もかかったケースもあります。
これはいくら何でも長すぎます。
(2)法務大臣は法律の規定に従い粛々と死刑執行命令を出すべき
「死刑判決確定後、一定期間内に法務大臣がサインして、死刑を執行する」と法律で明確に定められているのですから、粛々と順次執行すべきではないかと思います。
逆に、ずるずると引き延ばすのは、三権分立に反する行政府の(怠慢)行為ではないでしょうか?
かつて、鳩山邦夫法務大臣が、「死刑の執行は機械的に行えないものか」と発言して物議を醸したことがあります。しかし、この真意は、「死刑囚のうちの誰に対して執行するか、いつ執行するかという判断を法務大臣一人がしなければならない責任の重大さ、苦悩」を表したもので、決して無責任な言葉ではないと思います。
(3)死刑執行命令を出さない法務大臣は職務怠慢で失格
歴代法務大臣の中には、「在任中、全く死刑執行をしなかった人」や「自分は死刑廃止論者だから死刑執行はしないと公言した人」がいました。
前者は、「職務怠慢の甚だしいもの」であり、後者は、「法務大臣就任要請を受け時点で、辞退すべきもの」だと思います。
3.「冤罪」と「再審請求」との関連
「冤罪」を避けるために死刑執行を遅らせる傾向があったのかもしれません。しかし、「再審請求」もあるわけですから、死刑執行を遅らせる正当な理由にはならないと思います。
また「再審請求」が死刑執行の引き延ばしのために利用されているという指摘もあります。
4.死刑執行をめぐる法務省の方針の変化
ただ最近、死刑執行をめぐる法務省の方針に変化が出てきています。
上川洋子法務大臣のもとで行われた2017年の2回の死刑執行は、いずれも「再審=裁判のやり直しを請求中の死刑囚」だったことです。
このため、法務省が従来の方針を変え、再審請求の有無にかかわらず執行する姿勢を明確にしてきたという指摘も出ています。再審請求と死刑執行をめぐっては、「死刑執行を引き延ばすだけの、実質的な意味のない再審請求の繰り返しを避けるためにも、再審請求中でも執行すべきだ」という意見がある一方、「死刑が執行された後に再審が認められる可能性も否定できない以上、再審請求中の死刑執行は避けるべきだ」という指摘もあります。
上川法務大臣は記者会見で、「再審請求を行っているから死刑執行はしないという考え方はとっていない」と述べました。