「ユダヤ人」と言えば、ナチスドイツによる「ユダヤ人迫害」「ホロコースト」に代表されるように、古来差別や迫害を受けて来た民族ですが、他の民族と異なり、「言語」ではなく信仰する宗教の「ユダヤ教」で括られる唯一の民族です。
1.民族とは
「民族」(または「民族集団」)(ethnic group、ethnicity)とは、「言語・人種・文化・歴史的運命を共有し、同族意識によって結ばれた人々の集団のこと」とされています。
世界史における「民族」の定義は、「同じ言語、文化を共有する集団」であり、国籍の違いは関係ありません。
ペルシャ人はペルシャ語を、クルド人はクルド語を話す人々を指します。
「エスニックジョーク」という笑いを誘うブラックジョークがありますが、確かにそれぞれの民族には一般的に共通した行動傾向があります。
このように普通「民族」は「同一言語を話す集団」を指す場合が多いのですが、「ユダヤ人」(ユダヤ民族)だけは、世界各地に散らばっており、さまざまな言語を話しますが「ユダヤ教」が共通項となっています。
なお、「アメリカ人」は、「民族」ではありません。「アメリカ(合衆国)」は、原住民族よりも移民が大多数を占める国であり、「祖先の民族名」を付けて「ドイツ系アメリカ人」(German American)とか「中国系アメリカ人」(Chinese American)などと言います。
2.ユダヤ人とは
「ユダヤ人」とは、「ユダヤ教を信仰する人々」で、ヘブライ人とも呼ばれます。世界各地に離散した旧約聖書のヘブライ人を継承するパレスチナに起源を持つ人々の子孫や、ユダヤ教に改宗した人々のことです。
親がユダヤ教を信仰していたり、本人がユダヤ教信徒であれば「ユダヤ人」と定義されており、その人の国籍とは全く関係がありません。
有名な理論物理学者のアルベルト・アインシュタイン(1879年~1955年)は、ドイツ・スイス・オーストリア・アメリカの国籍を持っていましたが、もっぱら「ユダヤ人」と紹介されています。
3.差別・迫害を受けたユダヤ人の苦難の歴史
新バビロニア王国のネブカドネザル2世が南ユダ王国を滅ぼした際、エルサレムにいた11万人以上のユダヤ人をバビロンに連行・移住させた「バビロン捕囚」がありました。第1回はB.C.597年で、第2回はB.C.586年に行われました。
B.C.538年に新バビロニアを滅ぼしたアケメネス朝ペルシャの王キロスによって、捕囚のユダヤ人は解放され、帰還を許されましたが、大部分は離散しました。
A.D.70年にローマ帝国によってユダヤ王国が滅ぼされた後、ユダヤ人は世界各地に離散しました。
以後、中世を通じてキリスト教社会から差別・迫害を受け、多くの職業から排斥されたため、学問・芸術・金融業・商業に従事して多くの成功者を生み出しました。
近代に至って新たに起こった「反ユダヤ主義」の迫害の中で、「シオニズム運動」(ユダヤ人のパレスチナ回復・祖国建設をめざした運動)を起こし、1948年に「イスラエル共和国」を建設しました。ちなみに「パレスチナ」はユダヤ教で神がイスラエルの民に与えると約束した「約束の地」とされる土地です。
4.ユダヤ人の著名人
ユダヤ人には、資本論を著したカール・マルクス(1818年~1883年)、精神科医のジークムント・フロイト(1856年~1939年)、画家のマルク・シャガール(1887年~1985年)、原子爆弾開発プロジェクト(マンハッタン計画)を主導した理論物理学者ロバート・オッペンハイマー(1904年~1967年)、映画監督のスティーヴン・スピルバーグ(1946年~ )、Facebookの創業者の一人マーク・ザッカーバーグ(1984年~ )など錚々たる著名人がいます。
このように多くの分野で成功者や優秀な人材が輩出しているところを見ると、ユダヤ民族はやはり非常に優秀な民族だと言わざるを得ません。
アドルフ・ヒトラーは、「アーリア人は優秀な文化創造者でユダヤ人は劣等な文化破壊者」と決めつけていますが、それが誤りであったことは明らかです。