スズメバチを実際に見かけた人はあまり多くないと思います。
私は小学生の頃、カブトムシやクワガタムシを捕るのに夢中になった少年でしたので、雑木林のクヌギの樹液酒場に集まるカブトムシや蝶に混じって樹液を吸うスズメバチ(下の写真)をよく見かけました。
また、農家の軒下などにスズメバチが大きな巣(下の写真)を作ったのを取り除く作業をする様子を紹介するテレビ番組もたまにありますね。
私の家の周りにいる蜂は、アシナガバチくらいですが、最近、都会でもスズメバチが増えているのだそうです。
そう言えば、先日「ヒメボタル」が生息する新川沿いの桜並木の遊歩道で「スズメバチ発生、危険」という表示があって「立ち入り禁止」の規制線が張られていました。
1.スズメバチが今なぜ都会でも増えているのか?
夏から10月ごろにかけて猛威をふるうスズメバチ。年間1000件以上の被害が発生しています。このように多くの被害が起きているわけは、人の生活圏にスズメバチが近づいているからなのです。
今スズメバチが都会でも増えている理由は、スズメバチが「雑食性」で、どんな所でも生きられる「適応能力が高い」昆虫だからです。
またオオスズメバチとキイロスズメバチとのバトルの結果、オオスズメバチに敗れたキイロスズメバチが人間の生活圏に進出して、「都市型スズメバチ」になったという側面もあります。
最近は、住宅地などの人間の生活圏で被害が増えています。例えば、世田谷区のとあるオフィス街にある植え込みの中や、マンションのベランダのエアコンの室外機の隙間にもいました。東京都でも相談件数は、最近は毎年5000件以上もあります。
日本に生息するスズメバチ8種のうち、最も注意すべきはオオスズメバチとキイロスズメバチの2種類です。
刺されると最も危ないのが最大種のオオスズメバチ。体長はおよそ4センチ。山や森の中で、木の根元や土の中などに巣を作ります。
そして、住宅地での相談件数が多いのが、キイロスズメバチ。体長はおよそ2センチ。実は、このキイロスズメバチこそが人間の生活圏に巣をつくる「都市型スズメバチ」と言われているのです。
では、キイロスズメバチはなぜ人間の生活圏に進出してきたのでしょうか?その裏には、最大種オオスズメバチとのバトルがありました。
オオスズメバチにとって、キイロスズメバチの幼虫は餌。この関係が、キイロスズメバチが人間の生活圏に進出した理由だそうです。
スズメバチに詳しい玉川大学の小野教授は「キイロスズメバチは弱いが故に巣を作る場所と食べ物に融通を利かせる元々の性質があった。都市開発が進み野山が切り崩されると都市で出される生ゴミや空き缶に残ったジュースというのも十分に利用できるキイロスズメバチは波に乗って勢力を拡大してきたという構図が今、私たちの目の前にあるんだろうと思います」と話しています。住宅にも巣を作ることができ、生ゴミなども食べるのがキイロスズメバチです。
2.スズメバチの生態とは?
暖かい時期になると、私たちの生活圏でも見かけるようになるのがスズメバチです。その攻撃性や毒性、群れで攻撃する性質から、世界中で毎年のように被害者を出す非常に危険な生き物です。しかし、スズメバチはなぜ人を襲うのでしょうか。
スズメバチの生態や活発になる時期をよく知っておかなければ、不用意な行動からスズメバチを怒らせ、襲われてしまうかもしれません。スズメバチがどう生活し、どういった特徴を持っているかを知ることが、蜂対策の第一歩となります。
ここでは、そんな蜂の生態について詳しく紹介していきます。自分や家族が蜂被害にあわないよう、しっかり知識を身につけておきましょう。
(1)生活史から見るスズメバチの生態と危険な時期
スズメバチも当然生物なので、「一生の流れ」というものがあります。この流れは基本的に決まっており、これを『生活史』とよびます。ここでは、そんなスズメバチのおおまかな生活史をご紹介します。この活動時期に関してはスズメバチの種類や環境(気温など)によって少々差異が出るため、その点はご注意ください。
①4~5月ごろ:女王蜂の巣作り・産卵
夏場に発生するイメージのあるスズメバチですが、多くのスズメバチはこの時期に動きはじめます。とはいっても、この時期に行動しているのは女王蜂のみであることが多いです。
冬眠から目覚めた女王蜂は、生活に適した場所を見つけるとそこに巣を作ります。ここから1ヶ月程度は、1匹で巣作りと産卵、また働き蜂になる幼虫の世話を進めていきます。
はじめは女王蜂1匹で作成していくため巣の成長ペースは遅く、危険性も高くはありません。また、この時期は女王蜂も巣に定着することに必死であるため、それほど攻撃性も高くないでしょう。そのため、この時期がハチ駆除にとって最適な時期といえるのです。
②6~8月ごろ:働き蜂と巣の成長
この時期になると巣もかなり大きくなり、働き蜂も多数誕生しています。6月ごろはまだ働き蜂も幼虫ですが、これが成長してくると巣の作成ペースも上がり、急速に大きくなっていきます。
このあたりから徐々に攻撃性も増しはじめるため、注意が必要となってきます。とくに7~8月には働き蜂もかなり成長しているため、不用意に接触すると刺されてしまうこともあるでしょう。
③8~10月ごろ:来年の女王蜂の出産(特に危険な時期)
働き蜂が多数成長している夏の終わり~秋口にかけては、その巣も最盛の時を迎えます。また、この時期になると来年のことを見据えた産卵がおこなわれるようになってきます。それが、『オス』と『来年の女王蜂』です。
スズメバチの働き蜂は総じて『メス』なのですが、このメスには基本的に生殖能力がほとんどありません(女王不在時は例外的に出産する)。
そこで現行の女王蜂は、生殖用の『オス』と来年女王蜂になる予定の『メス』をここで出産するのです。女王蜂は受精したかしていないかでオスメスを産み分けられるため、そこでコントロールしています(受精した場合がメス)。
このとき生まれるメスは翌年の女王になる義務があるため、現行の女王蜂からはより質のいいエサを優先的に与えられます。そうして育ったメス蜂は、産卵するための能力を得ることができるのです。また、スズメバチは基本的に冬を越せませんが、優先的に育てられたこのメス蜂は冬眠することで越冬できるようになります。
これらのような、巣にとって重要なハチを出産・生育している最中は、働き蜂も非常に巣を警戒しています。そのため、この時期は1年を通してもっとも危険な時期といえるのです。場合によっては7月からこの出産がはじまることもあるため、この時期の巣やスズメバチには絶対に近寄らず、極力刺激しないよう心がけましょう。
④10月下旬~11月以降:来年に向けての準備
このころになると、大きく成長した翌年の女王蜂がオスとともに巣を立ちます。現行の巣も徐々にハチの数が減ってくるころです。しかし、10月ごろだとまだまだ働き蜂は元気に動いていることが多いため、危険な時期といえます。
巣から旅立ち、オスと交尾した女王蜂は来年の出産に向けて冬眠の場所を探します。この場所は、主に地中や木のすき間などが多いといわれています。
11月~12月ごろになってくるとさすがにスズメバチは少なくなってきますが、暖かい場所だと生き残っている可能性はあります。油断はしないようにしておきましょう。
(2)スズメバチの種類とそれぞれの見た目や特徴
スズメバチと一口にいっても、その中にはさまざまな種類があります。種類ごとの特徴を知ることも、スズメバチの生態を知るうえでは大切なことです。ここでは、日本国内でよく見るスズメバチを5種ご紹介していきます。
①オオスズメバチ
日本に住む種の中でも特に有名かつ、攻撃性の高いスズメバチです。
働き蜂の体長が最大約40mmと非常に大きく、かつ毒性も強い点が特徴。また、敵に対する攻撃性も非常に強く、世界中で被害の多い種となっています。
日本では北海道から九州まで広く分布していますが、主に山中や地中などの自然の中に生息していることが多いです。そのため、登山やハイキングにいく場合などは細心の注意を払う必要があるでしょう。
②キイロスズメバチ
オオスズメバチよりも小型ですが、日本ではかなり被害の多いスズメバチです。
その理由としては、オオスズメバチよりも人間の生活圏に近い位置で生活している点が挙げられます。主に自然の中に巣を作るオオスズメバチに対して、キイロスズメバチは家屋の天井裏など、私たちに比較的近い場所によく巣を作るのです。
また、オオスズメバチ同様攻撃的かつ全国に分布しているため、人が刺される被害は後を絶ちません。見た目は他のハチよりも黄色っぽく見分けやすいため、自宅近辺で見かけた場合は注意し、不安であれば駆除・調査を依頼するようにしましょう。
③ヒメスズメバチ
日本にいる種では、オオスズメバチに次いで大型のスズメバチです。腹部の先端、針付近の色が、スズメバチの種類の中では珍しく『黒色』である点が特徴的(対馬にいるヒメスズメバチは先端が黄色いそうです)。
このハチも人間の生活環境に近い場所(屋根裏や軒下など)に巣を作りますが、前述の2種と比べると温厚な性格をしています。本州から四国、九州など広い地域に分布していますが、被害例が少ないのはやはりその攻撃性の低さから来ているのでしょう。また活動期間も5月ごろ~9月ごろと短く、毒性もそれほど強くはありません。
とはいえ、巣や働き蜂を刺激すると刺されてしまうこともあります。不用意に近づかないようにしてください。
④コガタスズメバチ
この種は、都会などでもよく見られます。外見はオオスズメバチによく似ていますが、サイズは一回り小ぶりです。北海道から沖縄にかけて非常に広い範囲に生息していますが、この種もヒメスズメバチ同様それほど攻撃的ではありません。
軒先などの開けた場所に巣を作ることが多いですが、この巣が特徴的で初期のものは反転させたとっくりのような形状をしています。このような巣を早期に見つけた場合は、ハチ駆除業者に相談してみましょう。
⑤モンスズメバチ
こちらも全国的に生息する、攻撃性の高いスズメバチです。床下や屋根裏など目立たない場所に巣を作るため、被害に気づいたときにはすでに蜂の巣も大きく成長していたなんてこともあります。
このハチは腹部の黒部分が多い点が特徴的ですが、最大の特徴はそこではありません。モンスズメバチ最大の特徴は、夜間でもある程度飛行し、活動できる点です。
スズメバチは基本的に夜間あまり活動しません。そのため、夜飛んでいる蜂を見かけたらこのモンスズメバチかもしれません。夜間とはいえど油断せず、しっかり注意しておくようにしましょう。
(3)スズメバチの毒性とアナフィラキシーショックの恐怖
スズメバチの毒針は、主に働き蜂であるメスが持っています。これは、本来産卵管であった器官が変化したものだからです。そのため、オスには毒針がありません。
この毒には人体に危険をおよぼす成分が含まれているのはもちろん、仲間に警報を知らせる成分を含んだフェロモンも含まれています。蜂に襲われる際、複数の蜂に追われることが多いのはこのためです。
そんなスズメバチの毒針による被害は、大きく分けて2種類あります。
『患部が数日間はれたり、痛んだりする』症状と『刺されてすぐに全身に異常が出る』症状です。とくに問題なのはもちろん後者で、主に蜂の毒によるアレルギー反応によって引き起こされています。これを、『アナフィラキシーショック』といいます。
このアナフィラキシーショックはアレルゲンとなる物質が体内に入ることで発生するといわれています。蜂の場合は刺されることによってその毒が体内に入ってしまうため、そこからアナフィラキシーショックにつながるケースが多いでしょう。
このアレルギーを持っている確率は低いですが、蜂の毒に対するアレルギーの耐性がある人でも1度刺されることでアレルギー体質になってしまうこともあるため注意が必要です。
アナフィラキシーショックが発生すると呼吸困難や吐き気、じんましんなどの症状が出てしまう危険性があり、最悪の場合死亡してしまうこともあります。たった数十分で意識がなくなったり、心臓が停止してしまうこともあるため、蜂に刺された後に気分が悪くなった場合は無理せず病院にいき、すぐに検査を受けるようにしましょう。
そんなスズメバチの毒針、『2回刺されると危険』といううわさを聞いたことはないでしょうか。しかしこのうわさは、完全に正解ともいい切れません。
前述したように、1回蜂に刺されると蜂毒のアレルギー体質になり『やすく』なります。そのため2回目の方が危険というのは間違いではありませんが、あくまでなりやすくなるだけなので2回3回刺されたら確実にショックが起きる、というわけでもありません。
逆に、1回目でも蜂毒のアレルギー反応が出てしまうケースももちろんあります。はじめからアレルギー体質という方は少ないとされていますが、実際にはじめて刺された人がアナフィラキシーショックで搬送される事例は出ています。そのため、まだ1度も刺されていないからといって油断するのはいけません。
(4)スズメバチに刺されないための対策
スズメバチ被害は、主に巣やスズメバチ自体を刺激したことにより起こります。自分から刺激しにいくことはもちろんいけませんが、スズメバチの巣は隠れた場所にあることも多いため意図せず刺激してしまうこともあるでしょう。
このように不意に狙われてしまうことを防ぐためにも、日頃からの対策は大切です。とくに山や森など、スズメバチの生息していそうな場所では、以下のような対策を心がけましょう。
・濃い色の服装は避ける(黒でなければよいわけではない)。
・襲われそうになった場合は、髪や肌をかくすための白色など、薄い色の帽子や布を被ってじっとする。
・強い香水などは蜂に反応されやすいため、極力つけない。
・茂みや木の周りなどでむやみに騒いだりしない。
・蜂がいても騒いだり、手で追い払ったりしない。(とくに払うときの手は刺されやすいので注意)
また、もしも刺されてしまった場合は症状の有無に関わらず、すぐに救急車を呼ぶか病院に急行し、治療を受けるようにしてください。
(5)駆除は専門業者に依頼するのが安全
自宅にスズメバチの巣がある場合、なんとか自分で駆除してしまいたい、と考えてはいないでしょうか。
たとえ初期の女王蜂しかいない巣だとしても、刺されてしまう恐れはあります。また、巣がある程度成長している段階になっている場合は、巣に近づくことすら危険です。
スズメバチは種類にもよりますが、非常に数が多く攻撃性も強いため、プロでも時間のかかる作業となります。
身の安全のためにも、巣を見つけた場合や蜂が家の周りを飛び回っている場合は、自分で無理に対処せず、プロの専門業者に駆除を依頼するようにしましょう。