1.継ぎ足しのタレが腐らない理由
焼き鳥屋やうなぎ屋の前を通ると、プーンと漂う香ばしくて甘いタレの香り。創業した頃から使っている「秘伝のタレ」を持っている店も少なくありません。
しかし「継ぎ足しのタレは衛生的に大丈夫なのか」と不安に思ったことはありませんか?
そこで今回は、継ぎ足しのタレが腐らない3つの理由をご紹介したいと思います。
(1)低温殺菌されている
焼き鳥屋やうなぎ屋では、いったん焼いた熱々の鶏肉やうなぎをタレに浸けています。これにより、継ぎ足しのタレは低温殺菌され、菌の繁殖を防ぐことができるのです。
よく「名店ほどタレが腐らない」と言われることもありますが、これはお客さんが多いためにタレに浸ける回数が多く、タレが常に低温殺菌されていることによるものです。
ちなみに、低温殺菌というのは「60℃~70℃位で殺菌すること」を意味しています。もちろん定期的にタレを加熱して殺菌する方法もありますが、あまりに高温になるとタレが煮詰まってしまったり、たんぱく質が変性して味が変化したりするので好ましくありません。
この低温殺菌の方法は、牛乳にも用いられています。牛乳の場合も殺菌する温度によって変質してしまう特徴がありますが、低温でも30分加熱することで、風味を損なわずに十分な殺菌効果が得られることが知られています。
(2)塩分や糖分が高い
焼き鳥やうなぎのタレの甘辛い味には、塩分や糖分がしっかりと含まれています。やや専門的な話になりますが、食品に含まれる水分には自由水と結合水の2種類があり、細菌が繁殖できるのは自由水のみです。タレに含まれる塩分や糖分は水と結合して結合水となるため、通常の液体に比べると細菌が繁殖しづらい環境になっています。
しかし、塩分や糖分が多いと言っても、砂糖漬けやジャム・梅干しのような保存食ほど多くはありませんので、そのまま放置していると数日間で腐ってしまいます。
というのも、細菌が繁殖しづらくなる目安は「塩分10%以上、糖分65%以上」。それに対して、例えば一般的なうなぎのタレは、「塩分約8%、糖分25%程度」であり大きく下回っているためです。
つまり、繁殖を抑える程度の塩分と糖分はあってもそれだけでは不十分であるため、さらに低温殺菌することによって、菌が繁殖しづらい環境を保っているのです。
(3)継ぎ足すことで中身が入れ替わる
「100年以上前のタレって大丈夫だろうか?」と思ってしまいがちですが、実際には継ぎ足すことで中身が入れ替わっているため、古いタレはほとんど含まれていないと言われています。
これは、「テセウスの船(テセウスのパラドックス)」のような「継ぎ足しのタレのパラドックス」と言えますね。
タレの中身は、一ヶ月程度で新しいものにほぼ入れ替わっていることが多いそうです。それならば「最初から新しいタレを作っても良いのでは?」という疑問も湧きますが、タレを継ぎ足すことにもいくつかの積極的な意味があります。
①同じ味が提供できる:継ぎ足して使うことによって、今も昔も変わらない味を食べてもらうことができる。
②旨味が凝縮される:鶏肉やうなぎを漬け込むことで、素材の旨味がタレの中にも出てくる。これにより旨味がグンとアップする。
③繁盛店・老舗店であることのPRになる:塩分と糖分の割合から、ただ放置しているとすぐに腐ってしまうタレ。そのタレを腐らせずに継ぎ足しで使い続けていることは、繁盛店や老舗店であることのPRにもつながる。
2.100年以上続く東京の老舗鰻屋
日本人はうなぎが大好きですよね。おいしいうなぎはタレ抜きには語れません。継ぎ足し継ぎ足しで、職人が大切に守り抜いてきた旨味を、100年以上続く老舗店でぜひ味わってみてください。
東京には江戸時代創業を含む100年以上の歴史を誇る老舗鰻屋が10軒以上あります。
(1)川千家(かわちや)/創業1770年代/東京都葛飾区柴又7-6-16
柴又帝釈天門前の茶店として、安永年間に登場した川千家。帝釈天参道には老舗が立ち並び、さながら「おいしいものテーマパーク」の様相。参道をのんびり散策しながら、うなぎで一杯なんていう休日もオツですね。
(2)大江戸(おおえど)/創業1800年/東京都中央区日本橋本町4-7-10
うなぎを切らずにそのまま焼いて、長いまま提供するスタイルの「いかだ」。このお店の名物でもある土曜日の「いかだday」は、開店11時ジャストに訪れるのがおすすめ! 器の端で折り返されたうなぎを、目でも舌でもご堪能ください。
(3)ての字 西新橋本丸/創業1827年/東京都港区西新橋3-19-12
徳川二の丸御用商として創業した歴史を持つ名店。よく脂がのっている身はフワッとしていて、やや厚めで柔らか。タレは甘辛のやや甘め。鰻問屋直営のボリューム感のあるこってりした蒲焼を楽しめます。
(4)色川(いろかわ)/創業1861年/東京都台東区雷門2-6-11
浅草らしい提灯屋や酒屋、江戸友禅の店が立ち並ぶ路地裏の老舗では、皮、身ともにホクッと柔らかいバランスの良いうな重をいただけます。店主のムダのない仕事ぶり、常連客との小気味の良いやりとりなど、東京下町ならではの「粋」が感じられるお店。
(5)竹葉亭(ちくようてい)/創業1866年/東京都中央区銀座5-8-3
銀座でうなぎを、というときには必ずその候補の一つに挙がるほどの名店。銀座の一等地で、このお味とお値段なら納得です。同じくらい人気の鯛茶漬けも上品なお味で、どちらをオーダーするか迷ってしまうほど。永井荷風ら、多くの文人墨客にも愛されたお店です。
私は「リーガロイヤルホテル大阪」B1にある「東京竹葉亭」によく食べに行きます。「鰻丼・桜の肝吸い付き」をいつも頼んでいます。
これについては「私の馴染みの美味しい店をご紹介。ささやかな私の美味礼賛!」という記事にも書いていますので、ぜひご覧ください。
(6)近三(きんさん)/創業1869年/東京都中央区日本橋小伝馬町15-16
うなぎの白焼き、うな重、きも吸、お漬物が付いた「白焼きセット」をシェアしながら、冷酒で乾杯するのも夏ならではの楽しみ方。サッカー解説で有名な松木安太郎さんの実家です。
(7)つきじ宮川本廛(みやがわほんてん)/創業1893年/東京都中央区築地1-4-6 宮川本店ビル
築地3丁目交差点を曲がったあたりから、うなぎを焼く香ばしい魅惑的な香りが漂います。首都圏の「宮川」の総本山として続く老舗でいただくうなぎは、あっさりした蒲焼ながらも、脂のノリもよくボリューム感があって食べ応えがあります。
(8)うなぎ久保田/創業1897年/東京都千代田区外神田5-6-9
明治30年に川魚問屋からスタートしたうなぎ店。多彩なランチメニューのなかには、ランチ限定20食の「うな丼」や「白焼きなべ定食」などのほかにも、こだわりのある卵をつかった料理も多く、どれを選ぶか迷ってしまうほど。また、創業以来使い続けているという、100年超えの糠床につけたお新香も美味!
(9)うなぎ秋本/創業1910年/東京都千代田区麹町3-4-4
東京では珍しい甘口のタレと、フワッとトロトロのうな重が楽しめる明治末期創業の名店。皮は薄くトロッとした食感ながらもやや厚めの身は、口に入れると溶けてしまうほど!ぜひ、ふんわりトロトロのうなぎをご堪能ください。
(10)やっこ/創業1789年/東京都台東区浅草1-10-2
江戸前正統派を感じるうなぎは、身の脂をしっかりと落としたあっさりした蒲焼で、タレは醤油系ひかえ目、ほどよくタレが身に染み込んでいます。勝海舟やジョン万次郎も食したという、名店の味をぜひお楽しみください。
(11)すず金(すずきん)/創業1877年/東京都新宿区馬場下町61
箸袋の裏に「我輩もかつて食した、ここの蒲焼」と書いてあるほど、夏目漱石も通ったという蒲焼。皮目のジューシーさとひかえめなタレとうなぎの風味、ご飯とのバランス、すべてマル。地元の人に愛されるリーズナブルな料金設定も嬉しいところ。