二十四節気の季節感溢れる季語と俳句 晩春:清明・穀雨(その3)生活

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清明

前回まで、「ホトトギス派の俳人」16人(「ホトトギス派の俳人(その16)杉田久女:虚子との確執で有名な悲運の女流俳人」など)と「ホトトギス派以外の俳人」14人(「ホトトギス派以外の俳人(その14)長谷川かな女:大正期を代表する女流俳人」など)を紹介する記事を書いてきました。

ホトトギス派は、「客観写生」「花鳥諷詠」「有季定型(季語のある定型俳句)」を旨としましたが、それに飽き足りない俳人たちが、「無季俳句」や「自由律俳句」などを標榜する「新興俳句運動」を起こしました。

私は、「新興俳句運動」を全否定するつもりはなく、それなりの歴史的意義はあったと思います。しかし、私はやはり季節感溢れる「季語」を詠み込んだ「定型俳句」に魅力を感じます。

そこには、現代の私たちの生活から失われつつある(一部はほとんど失われた)季節感が溢れており、「懐かしい日本の原風景」を見るような気がします。

そこで今回から、「二十四節気」に沿って季節感あふれる「季語」と俳句をご紹介していきたいと思います。

なお、前に「季語の季節と二十四節気、旧暦・新暦の季節感の違い」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。

季語の季節対比表

二十四節気図

「春」は旧暦1月~3月にあたり、「初春」(立春・雨水)、「仲春」(啓蟄・春分)、「晩春」(清明・穀雨)に分かれます。

今回は「晩春」(清明・穀雨)の季語と俳句をご紹介します。

・清明(せいめい):新暦4月4日頃です。「三月節」 すべてのものが生き生きとして清らかに見えます。

・穀雨(こくう):新暦4月19日頃です。「三月中」 穀物をうるおす春雨が降ります。

4.生活

(1)あ行

・藍植う(あいうう):藍の苗を移植すること。藍はタデ科の一年草。染料をとるために栽培する

・青き踏む(あおきふむ):中国の古俗で、春先に野に出て青草を踏んで遊ぶ行事

とこしへの 病躯なれども 青き踏む(川端茅舍)

・青柳衣(あおやぎごろも):春衣のかさね色目の一つ。表裏ともに薄青

・青山吹(あおやまぶき):春衣のかさね色目の一つ。表が青、裏は黄

・畦塗(あぜぬり):田植を前にして、畦をしっかり塗り固めることをいう。水や肥料をしみ出させないための作業。今は機械化もされている。塗り固められた畦は美しく照り輝く

畦塗

畦ぬりや 蓑ふりすすぐ 流れ川(荊口)

塗畦を つゝきこはして 飛ぶ烏(からす)(村上鬼城)

・海女(あま):海に潜って、貝類や海藻類を採取する女性のこと。磯近くでもぐる磯海女と、沖へ出て漁をする沖海女とがいる。春の若布採の解禁のころからから潜り始める

海女

・海女の小屋(あまのこや):海女が暖をとったりする小屋。海女が春の季語なので、これも季節は春となる

・海女の笛(あまのふえ):海面に浮き上がった海女が口を細めて吐き出す息が、口笛となって響くこと。海女が春の季語なので、これも季節は春となる

・鮎汲(あゆくみ):孵化した鮎の幼魚は川を下り、冬の間、海で育ち、春になると川に戻ってくる。それを一箇所に追い集め、杓や網で掬い上げる。最近では鮎漁は初夏まで禁じられている

鮎汲みや 喜撰ケ嶽に 雲かかる(高井几菫)

五日経ぬ あすは戸無瀬の 鮎汲まん(向井去来)

いざ汲まん 桜は咲きぬ 小鮎どき(各務支考)

・眠蚕(いこ):眠りに入った蚕

・磯遊び(いそあそび):磯に出て貝などを採取して遊ぶこと。陰暦三月三日、磯に出て遊
ぶ風習が日本の各地にあった

・磯海女(いそあま):陸からすぐ海に入る海女

磯海女

・磯桶(いそおけ):磯海女が腰綱を結わえ、また採った貝などを入れるため海に浮かべる桶。海女が春の季語なので、これも季節は春となる

・磯人(いそど):陸からすぐ海に入る海女。海女が春の季語なので、これも季節は春となる

・磯嘆き(いそなげき):海面に浮き上がった海女が口を細めて吐き出す息が、口笛となって響くこと。海女が春の季語なので、これも季節は春となる

・磯菜摘(いそなつみ):磯の岩などにつく食用の海藻を摘みとること。海が暖かくなってからの女たちの作業である。ときに高波に見舞われたりする。楽な作業ではない

防人の 妻恋ふ歌や 磯菜摘む(杉田久女)

・磯の口明/磯の口開(いそのくちあけ):磯開(いそびらき)の別称

・磯開(いそびらき):海藻類や魚介類などの解禁日のこと。乱獲を防ぎ、海草や貝などの成長を促すための禁止期間の解除である

・磯祭(いそまつり):磯遊びの牡鹿半島での別称

・一番茶(いちばんちゃ):八十八夜から最初の十五日間につまれた茶

・岩躑躅(いわつつじ):①ツツジ科の落葉低木。高さ約15センチ。葉は茎の先に集まって互生し、広卵形。夏、淡紅色の釣鐘形の小花が咲き、果実は丸く、10月ごろ赤く熟し、食べられる。本州中部から北に分布

②岩や石のほとりに咲いているツツジ

岩躑躅

北岳を 攀(よ)ぢ降りるなり 岩躑躅(杉田久女)

③春衣のかさねの色目の一つ。表が紅、裏が紫

・植疱瘡(うえぼうそう):天然痘の予防接種のこと。ワクチンを刺し円形の傷を付けて接種する。昔は小学校で入学式後に集団で接種した。天然痘の撲滅により、今は行われていない

・独活和(うどあえ):独活の味噌和え

・海下(うみおり):海藻や貝類などの採取をしてもよい日のこと

・遠足(えんそく):見学・運動などのために遠い所へ歩いてゆくこと。現実には秋も遠足シーズンだが、単に遠足といえば春の季語

・沖海女(おきあま):船で沖に出てからもぐる海女

・小田かえす(おだかえす):春、田植えに備えて、冬の間に荒れ放題だった田を鋤で掘り返しておくこと

・お花見(おはなみ):桜の花をめでること。単に花をながめるだけでなく、桜の花の下で行われる宴会も花見という

花見

・お花見レース(おはなみれーす)/お花見レガッタ(おはなみれがった):花見のころに行なわれるボートレース

お花見レガッタ

(2)か行

・蚕棚(かいこだな):蚕を飼う棚

蚕棚

・飼屋(かいや):蚕を飼う家のこと

・嗅茶/嚊茶(かぎちゃ):今年新しく製造した茶を、晩春売り出す前、風味を鑑別し等級付けをすること

・風垣解く(かざがきとく)/風囲解く(かざがこいとく)/風除解く(かざよけとく)」:冬の季節風を防ぐため家の周りを覆っていた板などを取り除くこと。家に春の光が差し込み、明るい気分になる

・果樹植う(かじゅうう):春、果樹を移植すること

・数の子作る(かずのこつくる)/数の子干す(かずのこほす):三月から四月の鰊の漁期に獲れた鰊の卵巣を取り出し、塩漬け・乾燥して、数の子を作ること

・陸人(かちど):陸からすぐ海に入る海女。海女が春の季語なので、これも季節は春となる

・観桜(かんおう):桜花をたずねて村里や野山を逍遙しつつながめ歩くこと

・利茶/聞茶(ききちゃ):今年新しく製造した茶を、晩春売り出す前、風味を鑑別し等級付けをすること

聞茶

・菊植う(きくうう):菊の根株から別れでた芽を苗床に移植すること。前年に挿した芽を植える場合もある。苗を育てるにあたっては、肥料を十分に与えるなど、床作りに手をかける必要がある

煎豆に 菊植ゑし手の 匂ひかな(高井几董)

菊植ゑて 孫に書かする 木札かな(小林一茶)

・蟻蚕(ぎさん):孵化直後の蚕の幼虫。アリのようにみえるためこの名がある

・競漕(きょうそう)/競漕会(きょうそうかい):ボートレースのこと。ボート内の座席が前後に動き、オールを使って船を進めるレース。 八人で漕ぐエイトや四人のフォァ、二人のペアなどの競技がある。 隅田川の花散る中の早慶レガッタが有名で、春の季語になっている

・口明祭(くちあけまつり):磯開の際の祭

・汲鮎(くみあゆ):川上へのぼってくるアユを、寄せ網で一つ所に寄せ 、玉網 などですくい上げること。 また、その アユ

汲み鮎や 青山高く 水長し (黒柳召波)

・畔塗り(くろぬり):春、畦を土で塗り固めること

・桑売(くわうり):養蚕用の桑を売るもの

・桑籠(くわかご):摘んだ桑を入れておく籠

・桑車(くわぐるま):摘んだ桑を運ぶ車

・桑摘(くわつみ):その年の新しい枝に出た葉を蚕のために摘むこと。孵ったばかりの蚕には柔い葉を一枚ずつやる。蚕の成長するにつれて次第に大きな葉を採り、やがて枝ごと採取する。かつては多くの人の手を必要とした作業だった

桑摘や 枝に夕日の あかね裏(蝶夢)

・桑摘唄(くわつみうた):桑摘みの際にうたわれる唄

・桑摘女(くわつみめ):桑を摘む女

・毛蚕(けご):春、孵化したての黒い毛のはえた幼虫のこと

・小鮎汲(こあゆくみ):春先、稚鮎が堰堤を遡ることができずにいるところをすくいとること

・蚕飼(こがい):絹糸を取るために蚕を飼うこと。年に数回飼うが春に飼う蚕が一番良質な繭を作る。蚕は孵化したときは蟻蚕とよばれ蟻のように 小さいが、大量の桑を食べて成長し、四週間ほどの間に体重が一万倍ほどになる

蚕飼

蚕飼ふ 女や古き 身だしなみ(炭太祇)

・蚕飼時(こがいどき):蚕を飼う時期

・蚕籠(こかご):蚕を入れる籠

・蚕座(こざ):蚕を置いておく場所

・蚕ざかり(こざかり/かいこざかり):蚕の五齢期の食い盛り。忙しさが十日ほど続く

・炬燵の名残(こたつのなごり):暖かくなり、炬燵が片付けられたあとの急に広々とした部屋のようす

・炬燵塞ぐ(こたつふさぐ):春、暖かくなって炬燵ふさぐこと。床を切って炉をすえたところは、板でふさいで部屋を広く使えるようにする

・蚕棚(こだな/かいこだな):蚕を飼う棚

・吾智網(ごちあみ):鯛網の一種。潮の流れや魚の習性、漁場などを知り尽くしたベテラン漁師ならではの漁法で、「吾智」という名前の由来は、「吾」の「智恵」が必要という仏教用語に由来している

・蚕時(こどき/かいこどき):蚕の五齢期の食い盛り。忙しさが十日ほど続く

・蚕の眠り(このねむり/かいこのねむり):蚕が脱皮の前に一日食物もとらずじっとしていること

・牛蒡蒔く(ごぼうまく):春、四月頃に春蒔きの牛蒡の種を蒔くこと

・蚕屋(こや):蚕を飼う家のこと

・小弓遊(こゆみあそび)/小弓引(こゆみひき):昔行われた公家風の遊戯の一つで、小弓をひいて勝負を争った春の競技。うららかな日の遊びということで春の季語になる。源氏物語にも記述が見える

・蒟蒻植う(こんにゃくうう):晩春、畑に蒟蒻芋を植えること。蒟蒻はサトイモ科の多年草で、蒟蒻の原料として栽培される。冬に掘り出した蒟蒻芋を四月に植えかえ、十月から十一月に成長した蒟蒻芋を収穫する

(3)さ行

・催青(さいせい):春蚕の卵が黄色から青黒くなること

・桜重(さくらがさね):春衣のかさねの色目の一つ。表が白、裏は紫

・桜狩(さくらがり):花に誘われて、野や山に桜を訪ね歩いて愛でること。花見のことではあるが、より花を求めて逍遥するおもむき。豪華な花見弁当よりも素朴な飯が、筵を広げるよりも山路を行く杖が似合いそう である

桜狩 奇特や日々に 五里六里(松尾芭蕉)

さくら狩り 美人の腹や 減却す(与謝蕪村)

桜狩り けふは目黒の しるべせよ(宝井其角)

・桜衣(さくらごろも):春衣のかさね色目の一つ。表が白、裏は葡萄染または紫

・桜漬(さくらづけ):桜の花を塩漬けにしたもの。八重桜のつぼみや七分咲きの花を用いる。おもに慶事に桜湯にしてふるまわれる。湯をそそぐと桜の香気が立ち上り、花びらが開くさまはめでたい

・桜人(さくらびと):花見の人をさす。桜を待つ人、桜を愛でる人、桜を尋ねる人、桜を惜しむ人、桜を詠む人、桜を肴に酒を酌む人。 桜のもとにあっては、汝も吾も桜人

夜桃林を 出て暁(あさ)嵯峨の 桜人(与謝蕪村)

葛原や 夕かたまけし 桜人(増田龍雨)

・桜見(さくらみ):桜の花をたずねて、村里や野山を逍遙しつつながめ歩くこと

・桜餅(さくらもち):桜の葉に包んだ餅菓子。

一般には、塩漬けの桜の葉で包んだ餡入りの餅である。江戸時代、向島長命寺の門番山本新六が隅田川の土手の桜の葉を塩漬けにし、その葉を使って桜餅を作ったのが最初とされる。江戸で生まれた菓子のひとつだが、関東は小麦粉地を焼いたもので餡を包み、関西は道明寺糒(ほしい・餅米を蒸し、乾燥させ、引きわったもの)の生地で包んだものが主流。薄い塩味に桜葉のほのかな移り香が楽しめる。葉はおもに塩漬けにしたオオシマザクラの葉を用いる。葉ごと食べるか、葉を取って食べるか、話題になることが多い

桜餅

大風の 障子閉しぬ 桜餅(芥川龍之介)

桜餅が 竹皮のまゝ 解かずにある(河東碧梧桐)

・桜守(さくらもり):花を守る人、花の番人のこと。

桜守

・桜湯(さくらゆ):塩漬けにした桜の花を入れた、飲むお湯のこと。 可憐な桜の花びらが一輪浮いた桜湯は、日本の美意識が反映された「飲む風流」

桜湯

・蚕紙(さんし):蚕の蛾に卵を産みつけさせた紙

・三番茶(さんばんちゃ):二番茶のあとに摘まれた茶

・蚕卵紙(さんらんし):蚕の卵を付着させた紙。養蚕農家は業者からこれを買い孵化させた

・塩桜(しおざくら):桜漬のこと

・汐干(しおひ):汐干狩の別称

汐干くれて 蟹が裾引く なごりかな(服部嵐雪)

三月の 四日五日も 汐干かな(森川許六)

ざうり買ふ 小家うれしき 汐干かな(与謝蕪村)

汐干より 今帰りたる 隣かな(正岡子規)

・汐干岩(しおひいわ):汐干潟にある岩

・汐干貝(しおひがい):汐干狩でとれる貝

・汐干籠(しおひかご):汐干狩でとれる貝などを入れる籠

・汐干潟(しおひがた):潮が引いて干潟となった所。あるいは汐干狩をする潟。

旧暦三月(新暦四月)初め頃の大潮に、潮が大きく引いた遠浅の海岸。毎年この時期には蛤や浅蜊、馬刀貝などの潮干狩りに大勢の人々が繰り出す。かつては全国各地にあった干潟だが、湾岸の埋め立てなどで大きく失われた。東京湾最奥部の三番瀬(千葉県)など残された数少ない干潟の保全活動が進められている

・汐干狩(しおひがり):潮が引いた砂浜でアサリ、ハマグリなどの貝をとること。旧暦の三月三日ころの大潮は、潮の干満の差が大きく、干潟が大きくなるので潮干狩りに適している

歩み来ぬ 岬のなりに 潮干狩(加舎白雄)

しほひ狩 もみうら既に ぬれむとす(大江丸)

・汐干船(しおひぶね): 潮干狩をする人を乗せる船。沖に出て潮のひくのを待ち貝や魚などをとる

・霜囲とる(しもがこいとる):春になり、樹木や畑を霜害から防ぐための藁や筵の覆いを取り払うこと

・霜くすべ(しもくすべ):霜害を防ぐために、寒さがぶり返しそうな春の夜、青柴に火をかけ煙を出すこと。

晩春、桑の葉が出て茎が伸びるころに、急に霜が降りすっかり桑の葉が黒くなって枯れることがある。そこで群馬・長野地方の養蚕家は晴れあがって霜の来そうな晩には、かねて畦に用意しておいた青柴や籾殻、松葉などを焚いて煙幕を作り霜害を防いだ。

・霜除解く(しもよけとく)/霜除とる(しもよけとる):春になり、樹木や畑を霜害から防ぐための藁や筵の覆いを取り払うこと

・就職期(しゅうしょくき):就職する時期

・集団就職(しゅうだんしゅうしょく):四月に地域の中学卒業生がまとまって都会で就職すること

・銃猟停止(じゅうりょうていし):鳥獣保護のため、春に狩猟停止となること

・種痘(しゅとう):天然痘の予防接種のこと。ワクチンを刺し円形の傷を付けて接種する。昔は小学校で入学式後に集団で接種した。天然痘の撲滅により、今は行われていない

・春窮(しゅんきゅう):四月から五月にかけての春の端境期のこと。食料が不足しがちで窮乏した

・植林(しょくりん):木を植えて山林を作ること。春が植林の季節

・白躑躅(しろつつじ):①白い花 をつける ツツジ、 ②春衣のかさねの色目の一つ。表が白、裏が紫

・新数の子(しんかずのこ):春の旬の鰊で作った数の子

・新社員(しんしゃいん):新しく企業に入社した社員のこと。転職の人も新社員であるが、卒業したばかりの新社員の希望と不安がこの季語の本意

・杉苗(すぎなえ):杉の苗木。春に植林する

・頭巾脱ぐ(ずきんぬぐ):暖かくなり、冬の間使った防寒用の頭巾を片づけること

・すじ俵(すじだわら):籾を蒔く前に、発芽をうながすため籾種を種井や種池に浸しておくのに使う俵

・すじ蒔(すじまき):春、籾種を苗代に蒔くこと

・雀小弓(すずめこゆみ):昔行われた春の遊戯で、生きた雀に小さな弓矢を射当てるもの

・捨蚕(すてご):病気の蚕

・捨頭巾(すてずきん):防寒用の頭巾を、春になって着用しなくなること。暖かくなり、冬の間使った防寒用の頭巾を片づけること

・捨橇(すてぞり):雪解けを迎え、うち捨てられた橇

・ストープ除く(すとーぶのぞく):暖かくなって使わなくなったストーブを片づけること

・製茶(せいちゃ):摘み取ったお茶の葉から茶を作ること。蒸した茶の葉を焙炉にのせ、乾燥させながら茶の葉を手で揉んで作りあげる。四五時間もかかる根気のいる作業である

・剪毛期(せんもうき):春、羊や山羊の毛を刈る時期

・橇蔵う(そりしまう):雪国で、雪解けを迎え、冬の間使った橇を物置や納屋などに蔵いこむこと

(4)た行

・鯛網(たいあみ):鯛を獲る網のこと。多くの船で網を絞ってゆく葛(かつら)網、音を立てて鯛を追い込んでゆく吾智(ごち)網などがある

・鯛葛網(たいかつらあみ):鯛網の一種。

葛寄せ網などともいい,主としてタイ漁に用いられた。摂津・紀伊・瀬戸内海を中心に室町時代末期ごろから発達したのではないかとみられている。江戸時代になると筑前・長門・肥前・肥後・薩摩・尾張・江戸湾などにも普及して,その規模もかなり大きくなっていった。これは漁網のほかに振縄と称する威嚇縄具(長大な幹縄にたくさんブリ板をつり下げたもの)を用い、それで海底を引き回してタイを深処より浅瀬に追い出し、その背後から地引網をかけ回すか(地漕(じこぎ)網)、浅処に浮き上がったタイを旋(まき)網で捕獲するか、あるいは敷網を入れておきその上に魚群を追い込んでとるか、地方によって漁網自体はさまざまであった

・鯛地漕網(たいじこぎあみ):鯛網の一種

・鯛縛網(たいしばりあみ):鯛網の一種

・田打(たうち)/田掻(たがき):春田の土を田植えの用意に鋤き返すこと。今は機械で行っているが、昔は牛馬が犂で起こした土を人が鍬で細かく鋤き返した。いよいその年の農事が始まる

田を打つて 弥々(いよいよ)空の 浅黄(あさぎ)かな(小林一茶)

生きかはり 死にかはりして 打つ田かな(村上鬼城)

墓二三 桜と光る 深田打ち(加藤楸邨)

・田掻牛(たかきうし/たがきうし):代を掻くのに用いる牛

・田掻馬(たかきうま/たがきうま):代を掻くのに用いる馬

・種おろし(たねおろし):春、籾種を苗代に蒔くこと

・種案山子(たねかがし):苗床に蒔いた種籾を、雀などに食べられないように据えられた案山子のこと

・種かし(たねかし):春の彼岸の頃、籾を蒔く前に籾種を種井や種池に浸し、発芽をうながすこと

種かしや 太神宮へ 一つかみ(宝井其角)

・種紙/蚕卵紙(たねがみ):蚕の卵を付着させた紙

・種俵(たねだわら):籾を蒔く前に、発芽をうながすため籾種を種井や種池に浸しておくのに使う俵

・種浸け(たねつけ)/種浸し(たねひたし):苗代に蒔く籾種を、俵やかますにいれたまま、発芽を促すため二週間程水に浸すこと。米つくりの中でも大切な作業

古河の 流引きつつ 種ひたし(与謝蕪村)

・種時(たねどき):種浸しを行なう時期。春の彼岸の頃

・種ふせる(たねふせる)/種ふて(たねふて):春の彼岸の頃、籾を蒔く前に籾種を種井や種池に浸し、発芽をうながすこと

・種蒔(たねまき):稲の籾を苗代に撒くことをいう。八十八夜(立春から数えて八十八日目)ころに行う。野菜や花の種を蒔くのは「物種蒔く」「花種蒔く」と言って区別する

種蒔も よしや十日の 雨ののち(与謝蕪村)

種蒔いて 暖き雨を 聴く夜かな(村上鬼城)

・種蒔おっこ(たねまきおっこ):八甲田山で消え残った雪が、老爺が種を蒔く姿に似ていること

・種蒔桜(たねまきざくら):辛夷の花のこと。種蒔きの時期に咲くことから

・田を打つ(たをうつ)/田を返す(たをかえす)/田を鋤く(たをすく):春田の土を田植えの用意に鋤き返すこと。

・暖炉納む(だんろおさむ)/暖炉外す(だんろはずす):暖炉は作り付けのものが多いのではずしたり納めたりすることはあまりないが、暖かくなれば自然に火の気も途絶えがちになる。取り外しのきく暖炉やストーブなどは物置などにしまわれる

・茶つくり(ちゃつくり):製茶のこと

・茶摘(ちゃつみ):茶の新芽を摘むこと。四月上旬から始まるが、八十八夜以後が最盛期になる。摘み始めてから最初の十五日間が一番茶、葉がやわらかく最も良質とされる。日を置いて、二番茶、三番茶、四番茶が摘まれるが、「茶摘」は、一番摘みの始まる晩春の季語とされる

茶摘み

一とせの 茶も摘にけり 父と母(与謝蕪村)

菅笠を 着て覗き見る 茶摘かな(各務支考)

・茶摘唄/茶摘歌(ちゃつみうた):茶畑で茶葉を摘むときに歌われる仕事歌

百姓も 麦に取りつく 茶摘歌(向井去来)

・茶摘籠(ちゃつみかご): 摘まれた茶の芽をいれる籠

・茶摘笠(ちゃつみがさ):晩春の茶摘のときにかぶる笠

・茶摘時(ちゃつみどき):茶摘をする時期で特に一番茶の時期をいう

・茶摘女(ちゃつみめ):茶摘みをする女

・茶の試み(ちゃのこころみ):江戸時代、四月上旬の新茶を諸大名はじめ貴人茶人に贈ったこと

・茶の葉選り(ちゃのはえり):出来上がった茶葉を選り分けること

・茶揉み(ちゃもみ):製茶の過程の一つ

・茶山(ちゃやま):茶の栽培された山

・茶山時(ちゃやまどき):晩春の茶摘の時期

・躑躅の衣(つつじのころも):春衣のかさね色目の一つ。表が蘇芳色、裏は青

・手始(てはじめ):その年の新茶の芽を、はじめて摘むこと

・踏青(とうせい):春に新しく芽生えた青草を踏みながら野山に遊ぶこと。旧三月三 日に行われていた中国の風習に由来する

踏青

踏青や 野守の鏡 これかとよ(松本たかし)

(5)な行

・苗木植う(なえぎうう):三月から四月初旬にかけて杉、檜などの苗を植える。観賞用の庭木や果樹も、このころに植えると根がつきやすい

・名残の猟(なごりのりょう):狩猟禁止の日が近い頃にする狩猟

・菜の花漬(なのはなづけ):春の菜の花(あぶらな)とその葉を塩漬けにしたもの。京都名産の一つ。

・二番茶(にばんちゃ):一番茶のあとに摘まれた茶

・入社式(にゅうしゃしき):四月の入社のための式

・塗畦(ぬりあぜ):春、畦を土で塗り固めること

・野遊(のあそび):春の山野に遊ぶこと。飲食を楽しんだり、遊びに興じたり、花や草を摘んだりして過ごす

野遊びや 草のむしろも 譲り合(雙鳥)

野遊びや 肱つく草の 日の匂ひ(大須賀乙字)

野遊や よそにも見ゆる 頬冠(村上鬼城)

・野がけ(のがけ):春の野に出て、花をつんだり草をとったり食事をしたりして楽しむこと

(6)は行

・掃立て(はきたて):養蚕で、孵化した蚕児を羽掃で掃いて種紙から離し蚕座に移す作業

・蓮植う(はすうう):晩春、池に蓮根を植えること。蓮は古くから食用、薬用に栽培されてきた。植え付けに備え、蓮田に十分肥料を施し、代掻きを済ませる。四、五月ごろ、芽のしっかりとした種蓮を泥の中へ植え付ける

・初磯(はついそ):磯開の別称

・初出社(はつしゅっしゃ):四月、初めて会社に出ること

・花合せ(はなあわせ)/花比べ(はなくらべ):桜を持ち寄った人々が花の優劣を競い、和歌などを詠んだ遊び

・花軍(はないくさ):花の枝をもって打ち合う遊戯。二組に別れ、花をつけた桜の枝をもって打ち合うことをいう。玄宗と楊貴妃が、二組に分かれて花で打ち合ったという唐の故事が由来とされる。なお、「花合せ」を指す場合もある

・花篝(はなかがり):夜桜の風情を引き立てるため、花の下でたかれる篝火のこと。ゆらめく炎に照り映える花の姿は、凄艶かつ幽玄を極める。落花が火に映しだされ、時に篝火に散り込み燃えるさまはひときわ美しい。京都円山公園の篝火が代表的

円山公園花篝

燃え出づる あちらこちらの 花篝(日野草城)

・花衣(はなごろも):お花見に行く時に女性が着る晴れ着のこと。古くは「桜がさね」という襲の色目を「花衣」といった。また、元禄期には花見小袖が流行した。現在では特定のものをさしては言わないが、散りゆく花の中の着物姿などは実に華やかである

きてもみよ 甚べが羽織 花ごろも(松尾芭蕉)

筏士(いかだし)の 蓑やあらしの 花衣(与謝蕪村)

・花散らし(はなちらし):折角の桜の花を台無しにしてしまう迷惑な風や雨のこと。

元々「 花散らし 」という言葉は中部以西の地方で、旧暦3月3日、雛の節句の頃に、海辺に出て酒盛りなどをして遊んだ習慣を指した

・花疲(はなづかれ):花見に出掛けたあとの疲れ。そのころの気候や、人出の多い中を歩き回った疲れもあるが、花の美しさに酔いしれたあとの疲れは大きい。ものうさやけだるさ。単なる疲れではなく艶なるものを秘めた言葉でもある

寝心も 花くたびれの 夜頃かな(大島蓼太)

草臥(くたび)れて ねにかへる花の あるじかな(与謝蕪村)

・花漬(はなづけ):牡丹桜の花の塩漬け

・花菜漬(はななづけ):春の菜の花(あぶらな)とその葉を塩漬けにしたもの。京都名産の一つ。花菜漬という名前もその色もいかにも春らしく、口に含んだ時のほのかな香気が好まれる

・花菜摘(はななつみ):菜の花を摘むこと

・花の主(はなのあるじ/はなのぬし):花の咲いている木の持ち主

・花の宴(はなのえん):花見をしつつ酒宴を行うこと

・花の踊(はなのおどり):桜の花の下で踊ること

・花の客(はなのきゃく):春の花見客のこと

・花の酒(はなのさけ):花見の宴で飲む酒

・花の袖(はなのそで):花衣の別称

・花の袂(はなのたもと):花衣の別称

・花の茶屋(はなのちゃや):花見に設けられる茶屋

・花の幕(はなのまく):咲き誇る桜の花を幕にみたてた言い回し

・花人(はなびと):桜の花をみる人

・花雪洞(はなぼんぼり):夜桜見物の花の下、そこここに設置された雪洞のこと

・花見(はなみ):桜の花をめでること。単に花をながめるだけでなく、桜の花の下で行われる宴会も花見という

草枕 まことの花見 しても来よ(松尾芭蕉)

半ば来て 雨に濡れゐる 花見かな(炭太祇)

みよし野は 右往左往の 花見かな(安原貞室)

・花見衣裳(はなみいしょう):花見にゆく女性の晴れ着、花見衣装のこと

・花見扇(はなみおうぎ):花見をするときに使う扇

・花見笠(はなみがさ):花見のときの笠

・花見客(はなみきゃく):お花見に来た人。花見(特に観桜)のために桜の名所を訪れた人。

・花見小袖(はなみこそで):花見にゆく女性の晴れ着、花見衣装のこと

・花見衣(はなみごろも):花衣の別称

・花見酒(はなみざけ):花見の宴で飲む酒

平樽や 手なく生まるる 花見酒(井原西鶴)

・花見衆(はなみしゅう):花見をする群衆

・花見樽(はなみだる):花見酒の入った樽

・花見疲(はなみづかれ):花見に歩き回り心身の疲れること

・花見手拭(はなみてぬぐい):花見をするときに使う手拭

・花見の席(はなみのせき):咲き誇る桜花の下に敷く筵。「花筵」のこと

・花見船(はなみぶね):岸の花をながめ楽しむために浮かべる船

・花見戻(はなみもどり): 花見に出かけた帰り。また、その人

・花筵(はなむしろ):花見の宴に使う筵を言ったが、転じて、花見の宴そのものをさすようにもなった。また、花が散り敷いているさまを筵に見立てていう場合もある

片尻は 岩にかけけり 花筵(内藤丈草)

・花巡り(はなめぐり):桜花をたずねて村里や野山を逍遙しつつながめ歩くこと

・花毛氈(はなもうせん):「花筵」のこと

・花戻(はなもどり):花見に出かけた帰り

・花守(はなもり):寺や庭園、山野等の桜の木の手入れをしたり、番をしたりする人。和歌から派生した季語である

一里は みな花守の 子孫かや(松尾芭蕉)

花守や 白きかしらを つき合はせ(向井去来)

花守の 身は弓矢なき かがしかな(与謝蕪村)

花守の あづかり船や 岸の月(炭太祇)

・花柳衣(はなやぎごろも):春衣のかさねの色目の一つ。表が白、裏は青

・花山吹(はなやまぶき):春衣のかさね色目の一つ。表が黄、裏は薄萌黄

・花を主(はなをあるじ):桜の花の番人のこと、もしくは桜の花の持ち主のこと

・浜の口明/浜の口開(はまのくちあけ):「磯開」の別称

・春遊(はるあそび/しゅんゆう):春の野に出て、花をつんだり草をとったり食事をしたりして楽しむこと

・春田打(はるたうち):①田植えの前に、水田を鋤き返して土の塊を細かくする農作業。

②年頭に稲作過程を模擬実演して豊作を祈る予祝行事。また、子どもなどが祝言を唱え、家々を回って餠などをもらい歩く行事。田打ち正月

・春の日傘(はるのひがさ)/春日傘(はるひがさ)/春パラソル(はるぱらそる):春の日焼けを防ぐための日傘。春といっても、夏が近くなると日差しは日々強くなり、日焼けを防ぐために女性は日傘を用いることが多い

・羊剪毛(ひつじせんもう)/羊の毛刈る(ひつじのけかる):晩春に羊の毛を刈ること

・船人(ふなど):①船乗り。船方。② 船に乗っている人。船客

・糸瓜蒔く(へちままく):春、四月頃に糸瓜の種を蒔くこと

・焙炉師(ほいろし):製茶に携わる人

・焙炉場(ほいろば):茶の焙炉をする所

・ボートレース:ボート内の座席が前後に動き、オールを使って船を進めるレース。 八人で漕ぐエイトや四人のフォァ、二人のペアなどの競技がある。 隅田川の花散る中の早慶レガッタが有名で、春の季語になっている

(7)ま行

・松の緑摘む(まつのみどりつむ)/緑摘む(みどりつむ):三、四月ごろ庭の松の若緑の伸びたのを、あまり長くならないうちに、適当に摘み取ること。秋の「松手入」とともに松の姿を美しく整えるための大切な作業

松の緑摘む

・もち躑躅(もちつつじ):春衣のかさねの色目の一つ。表が薄紫、裏が濃蘇芳

・籾おろす(もみおろす)/籾蒔く(もみまく):春、籾種を苗代に蒔くこと

・籾つける(もみつける):春の彼岸の頃、籾を蒔く前に籾種を種井や種池に浸し、発芽をうながすこと

(8)や行

・山羊の毛刈る(やぎのけかる):山羊の毛を剪毛すること

・柳重(やなぎがさね)/柳衣(やなぎごろも):春衣のかさねの色目の一つ。表が白、裏は青

・山遊(やまあそび)/山いさみ(やまいさみ):春の山に出かけ、遊ぶこと

・山吹衣(やまぶきごろも):春衣のかさねの色目一つ。表が浅紅、裏が黄。花山吹襲の衣

・斎種まく(ゆだねまく):籾種蒔きを神聖なものとしていう言い回し

・養蚕(ようさん):春、蚕を飼うこと

・夜桑摘む(よぐわつむ):春蚕の食欲が盛んで、昼だけでは間に合わず、提灯をつけて夜も桑を摘むこと

・夜桜(よざくら):夜の桜花。また、夜の桜花見物のことをいう。桜の木の周囲に雪洞や燈籠をともしたり、篝火を焚いたりする。闇の中に浮かび上がる桜は、昼間とは異なる妖艶さを秘めている

夜桜

・四番茶(よばんちゃ):三番茶のあとに摘まれた茶

(9)ら行

・猟期終る(りょうきおわる):鳥獣保護のため、春に狩猟停止となること

・猟名残(りょうなごり):狩猟禁止の日が近い頃にする狩猟

・炉の名残(ろのなごり):塞いでしまう炉を懐かしく思う気持ち

・炉塞(ろふさぎ):冬のあいだ使っていた炉を春になって塞ぐこと。炉蓋や畳を入れて塞ぐ。かつては陰暦三月晦日に塞ぐものと決まっていた。茶道では、炉塞の前に炉の風情を惜しむ心から、炉の名残と称して茶会を催す。また、炉を塞いだあとは、風炉を用いる

炉塞ぎの 日や来合はせる 畳さし(横井也有)

炉ふさぎや 老の機嫌の 俄か事(炭太祇)

炉ふさぎや 床(とこ)は維摩(ゆいま)に 掛替る(与謝蕪村)

・炉蓋(ろぶた):炉をふさぐ蓋

(10)わ行

・若緑摘む(わかみどりつむ):「松の緑摘む」に同じ