二十四節気の季節感溢れる季語と俳句 初夏:立夏・小満(その3)生活

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立夏

前回まで、「ホトトギス派の俳人」16人(「ホトトギス派の俳人(その16)杉田久女:虚子との確執で有名な悲運の女流俳人」など)と「ホトトギス派以外の俳人」14人(「ホトトギス派以外の俳人(その14)長谷川かな女:大正期を代表する女流俳人」など)を紹介する記事を書いてきました。

ホトトギス派は、「客観写生」「花鳥諷詠」「有季定型(季語のある定型俳句)」を旨としましたが、それに飽き足りない俳人たちが、「無季俳句」や「自由律俳句」などを標榜する「新興俳句運動」を起こしました。

私は、「新興俳句運動」を全否定するつもりはなく、それなりの歴史的意義はあったと思います。しかし、私はやはり季節感溢れる「季語」を詠み込んだ「定型俳句」に魅力を感じます。

そこには、現代の私たちの生活から失われつつある(一部はほとんど失われた)季節感が溢れており、「懐かしい日本の原風景」を見るような気がします。

そこで今回から、「二十四節気」に沿って季節感あふれる「季語」と俳句をご紹介していきたいと思います。

なお、前に「季語の季節と二十四節気、旧暦・新暦の季節感の違い」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。

季語の季節対比表

二十四節気図

「夏」は旧暦4月~6月にあたり、「初夏」(立夏・小満)、「仲夏」(芒種・夏至)、「晩夏」(小暑・大暑)に分かれます。

今回は「初夏」(立夏・小満)の季語と俳句をご紹介します。

・立夏(りっか):新暦5月5日頃です。「四月節」 夏の気配が感じられます。

・小満(しょうまん):新暦5月20日頃です。「四月中」 すべてのものが次第にのびて天地に満ち始めます。

4.生活

(1)あ行

・青挿/青ざし(あおざし):炒った青麦の穂を臼でひいて粘りを出し、よって糸状にした菓子。『枕草子』に見えるのが初出で、芭蕉の句にもある。昭和に入ってからも東京・奥多摩で作られていたが、今では幻の菓子となっている

青ざしや 草餅の穂に 出でつらん(松尾芭蕉)

青さしや 清少納言 有りてより(正岡子規)

・青葉肥(あおばごえ):草や木の葉などを緑色の状態で田に鋤き込んだもの。田を痩せさせないための工夫である

・上蔟祝(あがりいわい):上蔟(五月の末、蚕が繭を作るようになること)を農家が祝うこと

・上蔟団子(あがりだんご):上蔟(五月の末、蚕が繭を作るようになること)を祝って団子などを作ること

・小豆蒔く(あずきまく):夏、小豆の種を蒔くこと

・あやめ酒(あやめざけ):菖蒲酒(しょうぶざけ)の別称。菖蒲の葉や根を刻み酒に漬けたもの。厄払いに端午の節句で飲んだ。菖蒲は邪気を祓うとされ、端午の節句には湯に浮かべたり門口に飾ったりもする

・袷(あわせ):袷衣(あわせぎぬ)のことで、表地と裏地を合わせた着物。素肌に直接身につけるものは「素袷(すあわせ)」という。冬に着る「綿入(わたいれ)」から綿を抜いて着る夏物を「綿抜(わたぬき)」という

あわせ出せ 花さへ芥子の 一重なる(小西来山)

二日三日 身の添ひかぬる 袷かな(加賀千代女)

行く女 袷着なすや 憎きまで(炭 太祇)

那須七騎 弓矢に遊ぶ 袷かな(与謝蕪村)

春日野の 鹿にかゞるゝ 袷かな(小林一茶)

芝居町 行き逢ふ人も 袷かな(渡辺水巴)

・粟蒔(あわまき)/粟蒔く(あわまく):五、六月頃、粟を蒔くこと。粟は、イネ科エノコログサ属の多年草。五穀の一つで、日本では米より早く栽培が始まったとされる。五月頃苗床に種を蒔き、秋に刈り取る

藪添ひに 雀が粟も 蒔きにけり(小林一茶)

粟蒔くや 日のさす上に 朝鴉(あさがらす)(岡本癖三酔)

・井浚(いざらい)/井浚え(いざらえ):梅雨の前、井戸の底にたまった土や砂、ちりなどをさらうこと

井浚ひの 始まる萩を 束ねけり(前田普羅)

・井立て(いだて):八十八夜の頃、田植え前に用水の溝・堰を掃除・修繕すること

・井戸替(いどがえ)/井戸浚(いどざらい):梅雨の前、井戸の底にたまった土や砂、ちりなどをさらうこと

人間の 水は井戸替 星は空(西山宗因)

井戸替の をはりし井戸を 覗きけり(日野草城)

井の底も すつぱりかわく 月よかな(小林一茶)

・藷挿す(いもさす):五月から六月にかけて、苗床で育てた甘藷を畑の畝に植えること

(2)か行

・柏餅(かしわもち):粽(ちまき)とともに、五月五日の端午の節句菓子として知られる。新粉(しんこ)生地で餡を包み柏の葉でくるみ、蒸した菓子。柏の葉は新芽が出るまで古い葉が落ちないため、子孫繁栄の意味がある

柏餅

柏餅 古葉を出づる 白さかな(渡辺水巴)

太郎とは 男のよき名 柏餅(長谷川櫂)

・刈敷(かりしき):田植えに先だって、山野の草の葉や若木の芽などを刈って肥料にすること

刈り敷きの 濁りに浮きて 蛍かな(折口信夫)

・黄繭(きまゆ):黄色い色をした繭

・草肥(くさごえ):田植えに先だって、山野の草の葉や若木の芽などを刈って肥料にすること

草肥の 入道積や 赤蜻蛉(夜臼)

・屑繭(くずまゆ):糸が少なかったり形が悪い繭で、生糸にすることが不適当な繭。多くは紡績絹糸、真綿(まわた)の製造原料として用いられる

・古茶(こちゃ):前年の茶。新茶に対しての夏の季語

もてなしの 新茶のあとの 古茶の客(鷹羽狩行)

壺の底 たゝくや古き 茶の名残(正岡子規)

俳諧の 虚実を見たり 古茶新茶(正岡子規)

新茶入るゝ 袋に古茶の 名残哉(正岡子規)

新茶青く 古茶黒し我れ 古茶飲まん(正岡子規)

・今年麦(ことしむぎ):その年収穫した麦。 新たに収穫した麦

・蚕の上蔟(このあがり/かいこのあがり):五月末頃、繭を作らせるため蚕を蔟(まぶし)入れること。十分発育して桑を食べなくなると蚕の体は透きってくる。これが繭を作り始める兆候であり、この蚕を熟蚕という。熟蚕の時期は蚕によって異なるので、一つ一つ拾い分けて蔟に移し替える

・菰粽(こもちまき):真菰(まこも)の葉で包んだちまき

・鮴汁(ごりじる)/ごりの汁(ごりのしる):金沢特産のゴリを入れたみそ仕立ての汁物で、難しいことから腕前が分かるといわれる金沢ゴリ料理の代表的なもの

・更衣(ころもがえ):江戸時代、四月一日と書いて「わたぬき」と読んだ。この日に綿入れを脱いだからだという。今では冬から春に着用していた衣を夏物に替えることをいう

長持へ 春ぞ暮れ行く 更衣(井原西鶴)

ひとつぬひで 後(うしろ)に負(おひ)ぬ 衣がへ(松尾芭蕉)

越後屋に 衣(きぬ)さく音や 更衣(宝井其角)

衣更て 坐つて見ても ひとりかな(小林一茶)

恋のない 身にも嬉しや 衣がへ(上島鬼貫)

冷々と 雲に根は無し 更衣(渡辺水巴)

衣更へし 腰のほとりや 袴はく(原石鼎)

人にやや おくれて衣 更へにけり(高橋淡路女)

衣更へて たのしき手紙 懐に(星野立子)

(3)さ行

・笹粽(ささちまき):笹の葉でくるんでつくった粽。笹を三角に畳み、これにもち米とうるち米を混ぜて荒びきにしたものを入れて結び、蒸したもので、砂糖入りのきな粉をつけて食べる。長野県山ノ内町などの名物

・笹巻(ささまき):浸水後に水切りしたもち米を笹の葉で巻き、結びひもをかけた後、熱湯でゆで上げた食べ物。笹の葉には防腐性や抗菌性があるといわれていて、昔から保存食や携帯食の包装によく使われる材料だった

・甘藷植う(さつまいもうう/かんしょうう):初夏、苗床に植えて生長させた苗を、畑に挿すようにして植えること

甘藷植ゑて 島人灼くる 雲にめげず(大野林火)

・晒井(さらしい):井戸替をすることをいう。一年に一度、夏におこない、井戸の清潔を保つ。七月七日に行われることが多い

さらし井に 魚ももどるや 暮れの月(小林一茶)

晒井や 余所(よそ)へ家鴨(あひる)を あつらへる(岩間乙二)

昼寄席(よせ)に 晒井の声 きこえけり(渡辺水巴)

・上蔟(じょうぞく):熟蚕を蔟(まぶし)と呼ばれる繭を作る場所に入れる操作のこと。かつては指で拾い取って入れていたが,現在では労力節約のため回転蔟を用いた自然上蔟が普及

炉火美しく 上蔟の 夜に入るも(平畑静塔)

・菖蒲酒(しょうぶざけ):菖蒲の葉や根を刻み酒に漬けたもの。厄払いに端午の節句で飲んだ。菖蒲は邪気を祓うとされ、端午の節句には湯に浮かべたり門口に飾ったりもする

相伴に 蚊も騒ぎけり 菖蒲酒(小林一茶)

くちつけて すみわたりけり 菖蒲酒(飯田蛇笏)

軒口は 菖蒲の酒の たるきかな(信徳)

世をままに 隣ありきや さうぶ酒(白雄)

・白衣(しらえ)/白襲(しらがさね)/白重(しろがさね):表裏ともに白をかさねた色目。陰暦四月一日の更衣より用いる

硯する 傍にうつくし 白がさね(服部嵐雪)

白がさね にくき背中に 物書かん(大島蓼太)

・代牛(しろうし):初夏、代を搔くのに用いる牛

・代馬(しろうま):初夏、代を搔くのに用いる馬

・代掻(しろかき)/代掻く(しろかく):代は田のことで、田植えの前に鋤き起こした田に水を入れ、田の底を掻きならし、肥料を土中に混ぜる仕事をいう。昔は牛や馬に代掻を曳かせて行ったが、今は機械で行う

夜を旅に 代掻く小田の 行き戻り(松尾芭蕉)

代かくや ふり返りつつ 子もち馬(小林一茶)

・代じたき(しろじたき):田植えに先だって、山野の草の葉や若木の芽などを刈って肥料にすること

・白繭(しろまゆ):白い色をした繭

・新茶(しんちゃ):お茶は年四回摘み取られるが、その年の最初に摘み取られるお茶を新茶という。一番茶であり、走り茶とも言う。四月の終わりから五月中頃までである。香りはよく、おいしいお茶である。静岡茶や宇治茶が有名

宇治に似て 山なつかしき 新茶かな(各務支考)

霊前に 新茶そゆるや 一つまみ(浪化)

猟人の 念仏を聞く 新茶かな(堀 麦水)

馬繋げ 新茶かほらす 萱が軒(蝶夢)

新茶の香 真昼の眠気 転じたり(小林一茶)

新茶汲むや 終りの雫 汲みわけて(杉田久女)

・新繭(しんまゆ):その夏にできた繭

・新麦(しんむぎ):前年の秋に蒔いてその年の夏に獲れた麦をいう。ライ麦、小麦、大麦など。パンや小麦粉、麦酒などの原料になる

このごろは 新麦くるる 友もあり(服部嵐雪)

新麦や たけのこ時の 草の庵(森川許六)

新麦か さらばこぼれを ほつほつと(広瀬惟然)

・素袷(すあわせ):肌着を着ずにじかに袷を着ること

・菅粽(すげちまき):粽の一種

・堰浚え(せきさらえ)/堰普請(せきぶしん):八十八夜の頃、田植え前に用水の溝・堰を掃除・修繕すること

(4)た行

・大豆蒔く(だいずまく):田植えの後、大豆の種を蒔くこと

・田掻牛(たかきうし/たがきうし):田打に使う牛

・田掻馬(たかきうま/たがきうま):田打に使う馬

・田掻く(たかく)/田の代掻く(たのしろかく):春、田植えに備えて、冬の間に荒れ放題だった田を鋤で掘り返しておくこと

・筍飯(たけのこめし):旬の筍を炊きこんだ御飯

もてなしの 筍飯や 田螺和(たにしあえ)(正岡子規)

目黒なる 筍飯も 昔かな(高濱虚子)

・玉繭(たままゆ):繭の美称

・粽/茅巻(ちまき):餅菓子の一つ。一般に、新粉や葛粉で作った生地や羊羹を笹の葉で包み、蘭草で縛り蒸したもの。端午の節供に用いるのは、古代中国の屈原の伝説にちなむという。屈原は詩人としても名高い楚国の政治家で、悪政を憂え、汨羅(べきら)の淵に投身。命日の五月五日に用意された供養物が、粽のルーツとされる。日本では平安時代の端午の儀式に用意されているが、当時は米を茅(ちがや)や真菰(まこも)の葉で巻き、煮たと考えられる。甘い菓子として広まるのは江戸時代で、全国各地には、葉の種類や形も異なるさまざまな粽がある

粽

あすは粽 難波の枯葉 夢なれや(松尾芭蕉)

文もなく 口上もなし 粽五把(服部嵐雪)

がさがさと 粽をかじる 美人かな(小林一茶)

草の戸の 粽に蛍 来る夜かな(正岡子規)

あはれさは 粽に露も なかりけり(正岡子規)

・粽解く(ちまきとく):端午の節句の粽を食べるため包みを解くこと

粽解いて 蘆吹く風の 音聞かん(与謝蕪村)

粽とく 二階も見ゆる 角田川(小林一茶)

賑(にぎやか)に 粽解くなり 座敷中(八十村路通)

粽ほどく 手もとは似たり 経の紐(立花北枝)

・粽結う(ちまきゆう):端午の節句の粽を作ること

粽結ふ 片手にはさむ 額髪(松尾芭蕉)

・どぶさらえ:溝を清掃すること。下水道の未発達の頃、蚊の発生を防ぐため近所一斉に溝を浚った。又農家では、田に水が行き渡るように田植え前に溝の泥をあげ周辺の草を刈った

(5)な行

・苗市(なえいち)/苗木市(なえぎいち):初夏の苗木を売る市。三月から四月にかけて苗木を植えるよい時期である。庭木や果樹などの苗木が寺社の縁日の市で売られる。近頃は大型店舗の屋外でも市が立ち、野菜の苗等と共に売られる

苗木市 熊本言葉 荒々し(高野素十)

苗木市 売れ残るもの 芽吹きけり(伊藤伊那男)

・苗売(なえうり):昔、春になって草花や野菜の苗を街中で売り歩いていた人のこと。現在は、苗売は見かけなくなり、店先で草花や野菜の苗は売られている

苗売の 立ちどまりつつ 三声ほど(高浜虚子)

苗売の 来そめし空の ひかりかな (久保田万太郎)

苗売の 来そめて祭 来りけり(久保田万太郎)

苗売の 結飯とり出し 食ひにけり(阿波野青畝)

苗売の 踏み去る道に 日の力(原石鼎)

苗売の 土に束ねし もの並べ(高浜年尾)

・菜殻(ながら):菜種の種を取り去ったあと

・菜殻焚き(ながらたき)/菜殻焼く(ながらやく):菜殻を焼きはらうこと

菜殻焚 焼身の火の 国ならず(百合山羽公)

車窓暮れ 菜殻焼く火の 来ては去る(長谷川素逝)

・菜殻火(ながらび):菜殻焚きの火

鴟尾(しび)躍(おど)る しばし大和の 菜殻火に(阿波野青畝)

菜殻火に 皆立ちたまふ 仏達(川端茅舎)

燎原の 火か筑紫野の 菜殻火か(川端茅舎)

菜殻火の 燃ゆる見て立つ 久女いたむ(橋本多佳子)

・茄子植う(なすうう):苗床で成長した茄子の苗を畝に植えること。五月のなかば頃が目安とされる。最近ではホームセンターなどでも手軽に茄子苗をもとめられるので、家庭菜園で植えられることも多い

茄子植うる 人に尋(たずね)て 嵯峨の庵(いお)(士朗)

・茄子苗(なすなえ):苗床で育てられた茄子の苗。初夏、畑に定植する

茄子苗に 撒(ま)く灰飛ばす 旱風(ひでりかぜ)(中村汀女)

茄子苗の しばらく乾く 厨(くりや)かな(石田波郷)

茄子苗の 落ちつき早も ー花持つ(高濱年尾)

・茄子苗植う(なすなえうう):苗床で生長させた茄子の苗を畑に移すこと

・菜種打つ(なたねうつ):初夏、菜種を打って種をおとすこと

菜種打つ 向ひ合せや 夫婦同志(夏目漱石)

・菜種殻(なたねがら):菜種油を絞ったかすのこと

夕空に 此頃燃やす 菜種殻(中村汀女)

・菜種刈(なたねかり):アブラナは花が終わると細長いさやに入った種をつける。アブラナ全体が茶色になったころ根元から刈り取り天日干しした後、筵などに打ちつけながら種をおとす。種はしぼって菜種油にし、残った菜殻は焼いて肥料とした。菜殻火、菜殻焼くなど、菜殻を焼く光景が詠まれてきた

減反の 小佐渡にひとり 菜種刈(黒田杏子)

菜種刈る(なたねかる):初夏、菜種を刈り取ること

・菜種焚く(なたねたく):初夏、菜種を取ったあとのアブラナの種殻を田で燃やすこと

・菜種干す(なたねほす):初夏、菜種を干すこと

・生繭(なままゆ):中の蛹を殺していない繭

(6)は行

・初袷(はつあわせ):夏になってその年はじめて袷(あわせ)を着ること。また、その袷。衣がえで陰暦四月一日から冬衣を袷と着がえた

初袷 着て抱(いだ)き来し 祝ぎ心(ほぎごころ)(稲畑汀子)

・陳茶(ひねちゃ):前年の茶。新茶に対しての夏の季語

・古袷(ふるあわせ):古い袷

(7)ま行

・蚕簿(まぶし/えびら):蚕に繭を形成させるのに都合がよいように作った蚕具。わら、針金、割竹などで波形にしたもの、わらと割竹で網目状にしたもの、板紙で区切ったものなど。蚕は、糸を吐いてこれにからげ、しだいに繭をつくる

・豆植う(まめうう):夏至の前後、秋に収穫するための豆を植えること。五月から六月にかけて行われる。畝に穴を作り二、三粒づつ植えてゆく

豆植うる 畑も木べ屋も 名処かな(野澤凡兆)

畦豆を 植うる女に 畦長し(小方比呂志)

豆植うや 山鳩の鳴く 森のかげ(沖田光矢)

・豆蒔く(まめまく):豆の種子を畑にまくこと

閑古鳥 なけば豆蒔く 水内郡(沢木欣一)

立ち跼(かが)み 豆蒔く少女 雷(らい)遠し(三谷昭)

・豆飯(まめめし):莢から出したえんどう豆を炊き込んだ飯のこと。昆布、塩、酒などで薄く味をつける。炊き上がりは豆の緑が鮮やかで、見た目にも涼味がある

すき嫌ひ なくて豆飯 豆腐汁(高浜虚子)

山妻に 豆飯炊かせ 同人等(山口青邨)

豆飯や 人寄せごとに 心浮き(中村汀女)

豆飯や 長寿の父の 象牙箸(高橋悦男)

豆飯や 娘夫婦を 客として(安住敦)

・繭(まゆ):蚕の作る繭のことで、とくに、春蚕の作った繭を指す。色は白や薄茶、形はくびれた俵形や楕円形、球形などで生糸の原料になる。俳句では夏に分類。夏蚕や秋蚕の繭には、別途、秋繭という季語がある

道ばたに 繭干すかぜの あつさ哉(森川許六)

繭烹(まゆにる)や 身をかざるべき ことでなし(高桑蘭更)

・繭市(まゆいち):繭の取り引きをする市

・繭買(まゆかい):繭を扱う仲買人

繭買や おとなひかざす 古扇( 飯田蛇笏)

・繭掻(まゆかき):できあがった繭を蔟 (まぶし) から取る作業

繭を掻く 町の外れに 温泉寺(おんせんじ)(川端茅舎)

・繭籠(まゆかご):繭を取るときに使う籠

・繭相場(まゆそうば):その年の繭の取引額

・繭問屋(まゆどんや):繭を扱う問屋

・繭干す(まゆほす):さなぎが蛾にならないよう乾燥させて殺すこと

繭干すや 農鳥岳に とはの雪(石橋辰之助)

・身欠鰊(みがきにしん):春に取れた鰊の頭と尾と切り去り、二枚におろして(二つに裂いて)干したもの。初夏に出回る。煮物や甘露煮、にしん蕎麦などに利用される

・溝浚え(みぞさらえ):溝を清掃すること。下水道の未発達の頃、蚊の発生を防ぐため近所一斉に溝を浚った。又農家では、田に水が行き渡るように田植え前に溝の泥をあげ周辺の草を刈った

・麦打(むぎうち)/麦搗(むぎかち):扱(こ)き落とした麦の穂を打って脱粒させる初夏の農作業。麦は穂のまま落ちるので、さらに打って実を落とさねばならない。麦打ち棒を用いるが普通は殻竿を使う。現在では脱穀機の作業に変わる。麦打ちで出た麦の塵を焼くことを麦焼という

神苑の 四方(よも)より麦を 打つこだま(川端茅舍)

・麦刈(むぎかり)/麦刈る(むぎかる):五月から六月にかけて熟れた麦を刈り取る作業。刈り取った麦は干して乾燥させるため晴れた日が選ばれる。昔は、梅雨の前の強い日差しの中での手作業であった。長袖のシャツと麦藁帽子をかぶっての作業は重労働であった

麦刈りて 遠山見せよ 窓の前(与謝蕪村

麦刈るや また一しきり 通り雨(久保田万太郎)

麦刈て 近江の海の 碧(あお)さかな(石井露月)

・麦車(むぎぐるま):初夏の麦刈り道具

麦車 馬におくれて 動き出づ(芝不器男)

・麦扱(むぎこき):初夏に刈った麦の穂を落とす作業。かつては、金属または竹製の歯を櫛状に並べた千歯扱きという器具に麦の穂をかけて引っぱった。足踏み式の脱穀機の時代もあったが、近年では全て機械化されている

麦扱や 暫く曇る 塀の先(非群)

・麦扱機(むぎこきき):刈り取った麦の穂から実をこき取る道具。 古くは、鉄や竹の歯があって、櫛に似た形をしていたもの。 現在は回転式の脱穀機が使われる

・麦叩(むぎたたき):扱き落とした麦の穂を打って脱粒させる初夏の農作業

・麦搗き(むぎつき):麦打に同じ。

麦搗きや むしろまとひの 俄雨(上島鬼貫)

・麦の殻竿(むぎのからさお):麦打の道具

・麦笛(むぎぶえ):麦の茎に細工を施し、笛のように吹く。麦藁で作ったものは麦藁笛という

麦笛や 山のぼるとき くだるとき(久保田万太郎)

麦笛を吹く 曇り出した風の そひ来る (河東碧梧桐)

・麦埃(むぎぼこり):麦打ちの際でる埃

・麦飯(むぎめし):初夏に収穫した大麦や裸麦を混ぜた御飯

・麦焼き(むぎやき):麦打ちの後、麦藁の屑などを燃やすこと

・麦藁/麦稈(むぎわら):刈り取った麦を乾燥させ、脱穀して穂を落とした後の茎のこと。丈夫な小麦の麦藁はかつて屋根葺きに用いられ、柔らかい大麦の麦藁は籠に編んだり、飲み物のストローに用いられた。今は主に帽子や畑に敷くのに用いられている

むぎわらハ 麦掃庭の ははきかな(上島鬼貫)

麦藁も そこらちらばふ 庵かな(八十村路通)

麦わらに 破れたる笛の 声もかな(加藤暁台)

・麦藁笛/麦稈笛(むぎわらぶえ):麦笛のこと

里の子や 麦藁笛の 青葉山(椎本才麿)

むら雀 麦わら笛に をどるなり(小林一茶)

(8)や行

・厄身欠(やくみがき):春鰊の頭と尾と切り去り、二つに裂いて干したもの。初夏に出回る

(9)ら行

・緑肥(りょくひ):草肥の別称

(10)わ行

・綿抜(わたぬき):布を二枚合わせて仕立てた衣服で、綿の入らないもの

・棉蒔(わたまき)/棉蒔く(わたまく):五月頃、棉の種を蒔くこと。棉はアオイ科の一年草。実が熟すと、割れて中から白い綿状の繊維とそれに包まった種が出てくる。四月下旬から五月上旬にかけて種をまき、実は初秋に摘み取る。種まき後一週間くらいで発芽するが間引きも必要となる

開墾の 鍬のあとより 棉蒔きぬ(高浜虚子)