二十四節気の季節感溢れる季語と俳句 仲秋:白露・秋分(その6)植物

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秋分

前回まで、「ホトトギス派の俳人」16人(「ホトトギス派の俳人(その16)杉田久女:虚子との確執で有名な悲運の女流俳人」など)と「ホトトギス派以外の俳人」14人(「ホトトギス派以外の俳人(その14)長谷川かな女:大正期を代表する女流俳人」など)を紹介する記事を書いてきました。

ホトトギス派は、「客観写生」「花鳥諷詠」「有季定型(季語のある定型俳句)」を旨としましたが、それに飽き足りない俳人たちが、「無季俳句」や「自由律俳句」などを標榜する「新興俳句運動」を起こしました。

私は、「新興俳句運動」を全否定するつもりはなく、それなりの歴史的意義はあったと思います。しかし、私はやはり季節感溢れる「季語」を詠み込んだ「定型俳句」に魅力を感じます。

そこには、現代の私たちの生活から失われつつある(一部はほとんど失われた)季節感が溢れており、「懐かしい日本の原風景」を見るような気がします。

そこで今回から、「二十四節気」に沿って季節感あふれる「季語」と俳句をご紹介していきたいと思います。

なお、前に「季語の季節と二十四節気、旧暦・新暦の季節感の違い」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。

季語の季節対比表

二十四節気図

「秋」は旧暦7月~9月にあたり、「初秋」(立秋・処暑)、「仲秋」(白露・秋分)、「晩秋」(寒露・霜降)に分かれます。

今回は「仲秋」(白露・秋分)の季語と俳句をご紹介します。

・白露(はくろ):新暦9月7日頃です。「八月節」 しらつゆが草に宿ります。

・秋分(しゅうぶん):新暦9月22日頃です。「八月中」 秋の彼岸の中日で、昼夜がほぼ等しくなります。

7.植物

(1)あ行

・藍の花(あいのはな):タデ科の一年草。中国より伝わり、染料になる植物として古くから栽培されてきた。草丈は70cmくらい。8月の終わりから 10月にかけて、茎の頂点に紅色または白色の小花を穂状花序に多数つける。藍染の原料は茎と葉からとる

藍の花

島原の 外も染むるや 藍畠(服部嵐雪)

・藜の実(あかざのみ):藜はアカザ科アカザ属の多年草。古く中国から渡来し食用として栽培され、野生化し広まった。若葉は赤紫色で、6月から10月、細かい穂をなして花が咲く。10月ころ枝先にたくさんの実をつける。果実に種が一つづつある

藜の実

・秋薊(あきあざみ):秋に見られる薊の総称

・秋桜(あきざくら):コスモスの別称。秋、茎の先端に大きな頭状花をつける

・秋そうび(あきそうび):秋に咲く薔薇の花。小ぶりで色も初夏のものに比べ悪い

・秋の薔薇(あきのばら):秋薔薇に同じ

・秋薔薇(あきばら):秋に咲く薔薇のこと。小ぶりではあるが色に深みがある。四季咲きのものが多く、夏の薔薇のような勢いはない

秋薔薇

・木通/通草(あけび):アケビ科の蔓性落葉低木。春に花を咲かせ、秋に淡紫色の実をつける。実は10cmほどで楕円形。果皮は厚いが、熟すと縦に大きく割れる。多数の黒い種を包むゼリー状の白い果肉は甘く美味である

木通

一夜さに 柵で口あく 木通かな(小林一茶)

日おさへの 通草の柵や 檐(のき)のさき(正岡子規)

・通草かずら(あけびかずら):通草の別称。春、新芽とともに開花し、秋に漿果が実る

・通草棚(あけびだな):通草を栽培する棚。春、新芽とともに開花し、秋に漿果が実る

・あけぶ:木通(あけび)の別称

・朝霧草(あさぎりそう):キク科、ヨモギ属の多年草。原産地は日本で高山の岩場や海岸の崖などに自生。丈は10~30cmくらいで茎はよく分枝してやや斜めに成長する。夏に黄色い花をつけるが、小さく下向きの頭花は目立たない。茎や細い葉全体が白銀の毛で覆われ美しく観賞用にも育てられている

朝霧草

・朝熊龍胆(あさまりんどう):、リンドウ科リンドウ属に分類される多年草。日本の固有種である。和名のアサマ(朝熊)は、最初に三重県の朝熊山(朝熊ヶ岳)で発見されたことに由来する

アサマリンドウ

・薊牛蒡(あざみごぼう):富士薊(ふじあざみ)の別称

・蘆の秋(あしのあき):蘆の葉ずれの寂しい音に風情を感じる秋のこと

・蘆の花(あしのはな):水辺に自生する多年草。薄に似ているがより丈が高く、その花は暗紫色で野性味がある。一斉に風になびく様は勇壮。葭も同じ

蘆の花

蘆の花 折りて船出の 祓せん(椎本才麿)

乳を出して 船漕ぐ海士(あま)や 蘆の花(立花北枝)

蜑(あま)の子の 肌なつかしや 蘆の花(斯波園女)

筏士が 寝てながるるや 蘆の花(岩田涼莵)

蘆の華 漁翁が宿の 煙り飛ぶ(与謝蕪村)

日の暮れや 蘆の花にて 子をまねく(小林一茶)

柴又へ 通ふ渡しや 蘆の花(正岡子規)

・蘆原(あしはら):蘆の生えた秋の原っぱ

蘆原

・荒地の菊(あれちのきく):南米原産の路傍などに多いキク科の一年草または二年草。いわば雑草で、秋に花をつける

・荒地野菊/野塘菊(あれちのぎく):南米原産の路傍などに多いキク科の一年草または二年草。いわば雑草で、秋に花をつける

アレチノギク

・粟(あわ):イネ科一年生の作物。五穀(稲、麦、黍、稗、粟)のひとつで昔は大切にされた。原産地は東アジアだが、世界各地で古くから栽 培されている。草丈は1mほどで、花のあと黄色い実を結ぶ。現在は餅や菓子、小鳥の餌などに利用されるくらいでさほど栽培されない

よき家や 雀よろこぶ 背戸の粟(松尾芭蕉)

粟畑の 奥まであかき 入日かな(空芽)

粟がらの 小家作らむ 松の中(岩田涼菟)

・粟の穂(あわのほ):熟成期の粟の穂のこと。穂は多くの枝を分け、多数の花を密につける

粟の穂

・粟畑(あわばたけ):粟の栽培されている畑。秋に収穫する

粟畑

・粟飯(あわめし):粟の御飯

粟飯

・粟餅(あわもち):粟でつくった餅

粟餅

・磯菊(いそぎく):主に関東以西の太平洋側沿岸に自生する多年草。花期は10月から11月で、黄色い頭花を散房状につけ、花は筒状花のみで花びらはない。葉は多肉質で裏面は白毛が葉の淵にまで及ぶため、表から見ると白毛でふち取られたように見える

磯菊

・甘藷(いも/さつまいも/かんしょ):石焼きいもでお馴染みの藷のこと。他にも煮物、菓子、蒸かしなど用途は広い。秋に収穫して出回る

・藷(いも):甘藷に同じ

・芋殻/芋茎/芋幹(いもがら):里芋の茎。また、それを日に干したもの

芋殻

根は月に枯れて その芋がらや 雪の飯(松尾芭蕉)

・藷蔓(いもづる):甘藷の蔓。甘藷は秋の季語

芋蔓

・甘藷の秋(いものあき):秋が甘藷の季節であること

・芋の茎(いものくき):芋茎(ずいき)に同じ

・甘藷畑(いもばたけ):甘藷の植わっている秋の畑

・甘藷掘(いもほり):秋、蔓をたよりに紅紫色の皮を被た塊根を掘りだすこと

・岩菊(いわぎく):名前のように海岸から低山にかけての岩場に生育。日本では北陸から九州までの、主に石灰岩地に生育するが、朝鮮半島、中国、シベリア、ヨーロッパ東部と、キクの仲間では最も広い分布を持つ

岩菊

・岩蓮華(いわれんげ):ベンケイソウ科イワレンゲ属の多年草。開花すれば枯死する一稔性植物で、花後に葉腋から腋芽や走出枝をだして繁殖する

岩蓮華

・茴香の実(ういきょうのみ):セリ科ウイキョウ属の多年草。草丈は1~2m。葉は糸状であざやかな黄緑色をしている。夏、枝先に黄色の小花をつけたあと、秋に長楕円形をした茶褐色の実をつける。実の大きさは 7~8mmくらいで、乾燥させて香辛料や生薬にする

茴香の実

茴香に 浮世をおもふ 山路かな(浪化)

・薄紅葉(うすもみじ):緑の残る淡い色の紅葉をいう。紅葉の走りではあるが、深い紅の冬紅葉などとは違った趣を持つ

薄紅葉

錦手や 伊万里の山の 薄紅葉(西山宗因)

色付くや 豆腐に落ちて 薄紅葉(松尾芭蕉)

町庭の こころに足るや 薄紅葉(炭 太祗)

山里や 姻り斜めに うすもみぢ(高桑闌更)

・虚抜き菜(うろぬきな):間引いた菜

・蝦夷龍胆(えぞりんどう):リンドウ科の多年草。高山植物、園芸植物、薬用植物

蝦夷竜胆

・大薊(おおあざみ):キク科の一年草。高さは1mにもなる。葉はアザミに似て大きく、つやがあり、乳白色の斑紋がある。初夏、紅紫色の花をつける。南ヨーロッパ・北アフリカ・アジアの原産で、観賞用。マリアあざみ

大薊

・車前子/車前/大葉子(おおばこ):オオバコ科の多年草。夏、道端や山野など、どこにでも見られる 雑草である。人や車の通る所に生えているというのが、名前の由来である。葉の間から茎を出し、そのまわりに小さな白色の小花を穂状につける。踏まれても花の穂を立て、たくましさを感じさせる草である

オオバコ

・鬼薊(おにあざみ):キク科の多年草。日本特産で、本州の山中に自生。高さ0.5~1m。全体に毛が多い。葉は基部が広く、縁に長いとげがある。6~9月ごろ、粘りけのある紫色の頭状花をつける

鬼薊

・鬼の醜草(おにのしこぐさ):紫苑(しおん)の別称

・おめ葛(おめかずら):木通(あけび)の別称

・思草(おもいぐさ):イネ科やカヤツリグサ科のススキ、ミョウガ、サトウキビなどの植物に寄生する一年草。花の姿からその名がつけられた、別名ナンバンギセル。日本を始め中国、アジアに広く分布する。七、八月頃淡紫色の筒型の花を横向きにつける。万葉集にもその名が出てくる

思草

・おんばこ:車前子の別称

(2)か行

・貝割菜/殻割菜(かいわりな):秋、大根や蕪や小松菜などが萌えでて子葉の開いた頃のもの

貝割菜

・貝割れ菜(かいわれな):貝割菜に同じ

・兜菊(かぶとぎく):鳥兜の別称。秋の青紫の花は美しいが、根には猛毒が含まれる

・兜花(かぶとばな):鳥兜の別称。秋の青紫の花は美しいが、根には猛毒が含まれる

・かみ葛(かみかずら):木通(あけび)の古名

・唐藷(からいも):薩摩薯の別称。秋に収穫して出回る

・刈安(かりやす):イネ科の多年草。ススキによく似ているが、ススキより全体に小さく、80cm~1mくらいで、穂状花序の数も少ない。本州の山地や草原に群生し乾燥させ黄色の染料とする。八丈島ではコブナグサを刈安と呼ぶ。

刈安

・黄草(きぐさ): (黄色の染料とするところから) 刈安の別称

・きせる草(きせるぐさ/きせるそう):思草の別称。秋に大きな薄紫の花が開き、その形からついた名

・狐花(きつねばな):曼珠沙華(彼岸花)の別称。花がきまって秋の彼岸ごろに咲く有毒植物の一つ

・黍(きび):イネ科の一年生作物。秋風に吹かれると茎は倒れやすい。秋に収穫される五穀の一つ。古くは、米の替わりとして食された。江戸期に入っても、黍団子などにして庶民に食されたが、現在では、栽培量は少ない

黍

いやな風 穂のない黍の によきによきと(小林一茶)

黍の中 嚔(くさめ)飛ばして 誰か来る(鈴木道彦)

・黍刈る(きびかる):秋、黍を収穫すること

・黍団子(きびだんご):黍の粉でつくった団子。黍は秋に収穫する

黍団子

・黍の穂(きびのほ):黍の実が生っている穂のこと。黍は秋に収穫する

黍の穂

・黍畑(きびばた):黍の栽培されている畑。黍は秋に収穫する

・黍引く(きびひく):秋、黍を収穫すること

・貴船菊(きぶねぎく):キンポウゲ科の多年草。丈は、50cm~1mくらい。秋に菊に似た白または淡紅の花を咲かせる。菊というよりアネモネの仲間といった方が正しい。京都洛北貴船に多くみられたことからこの名がある

貴船菊貴船菊

露霜に しうねき深し 貴船菊(我里)

・キャンベルス:キャンベルアーリーはアメリカでジョージ・W・キャンベルによって「ムーア・アーリー」に「ベルビダー×マスカットハンブルグ」を交配して生まれた実生を選抜育成されたラブルスカ種の黒ブドウで、1890年代中頃に発表された。 日本には1897年(明治30年)に新潟県の川上善兵衛氏によって導入された。 川上善兵衛氏は「日本のワインぶどうの父」とも呼ばれている人物で、現在も新潟のワイナリーとして知られる岩の原葡萄園の創始者である。 それ以来、このキャンベルアーリーは「キャンベル」や「キャンベルス」とも呼ばれ、日本に馴染み深いブドウとして広く普及していき、今ではこれを元に沢山の品種が生まれている

キャンベルス

・草の穂(くさのほ):えのころ草、蘆、薄、萱、カヤツリグサ、などが秋に出す穂花のこと。それらが結実して棉状になったものを「草の絮」と呼ぶ。昔は道端などにいくらでもあった。草の穂は子供達の遊びに使われ、親しまれた

草の穂

草の穂は 雨待宵の きげんかな(小林一茶)

草の穂の 飛びきて熱き 顔の前(石田波郷)

・草の穂絮(くさのほわた):ホモノ科やカヤツリグサ科の草は、秋に穂花をあらわして山野路傍をいろどる。それがほおけて、綿状になったさま

草の穂絮

・草の絮(くさのわた):草の穂絮に同じ

・苦参(くらら):マメ科の多年草。「眩草」(くららぐさ)は根をかむとくらくらする程苦いため。漢方では「苦参」(くじん)といい健胃薬とし、茎や葉の煎汁は殺虫剤として用いる。日当たりの良い草原や山野に自生。クサエンジュの別名がある。6、7月頃淡黄色のエンジュ(アカシア)に似た花をつける

苦参

・くれのおもの実(くれのおものみ):茴香の実の別称。秋、楕円形状の果実が熟する。これから香味料や茴香油ができる

・黒葡萄(くろぶどう):ブドウの実の黒紫色のものの称

・黒舞茸(くろまい):サルノコシカケ科の茸の一種で、茎の部分がいくつもに枝分かれして、その先に多数の傘が広がる

・甲州葡萄(こうしゅうぶどう):ブドウの栽培品種の一つ。行基が中国渡来の種子を勝沼の地にまいたのがその起源と伝えられ、また、文治2年(1186年)雨宮勘解由(かげゆ)が発見し栽培をはじめたものともいう。果実は、房が約30cmにも達し、熟すと赤紫色となり白粉をふく。甘味に富み、芳香がある。日本における代表的品種

甲州葡萄

・紅薯(こうしょ):薩摩薯の別称。秋に収穫して出回る

・高麗黍(こうらいきび):玉蜀黍(とうもろこし)の別称

・高粱(こうりゃん):(中国音から) モロコシの一種。主に中国東北部、朝鮮北部の乾燥地帯で栽培される。多くの栽培品種がある

・胡鬼の子(こぎのこ):衝羽根(つくばね)の別称。山地の林中に自生しているビャクダン科の落葉低木

・コスモス(こすもす):キク科の一年草。高さ2mくらいになる。葉は細かく裂け、茎はひょろひょろと伸びる。9月から10月にかけて白やピンクの花をつける。花弁が桜に似ているところから、秋桜ともいわれる

コスモス                        コスモスくらし 雲の中ゆく 月の暈(杉田久女)

コスモスや 茶も売りに来ぬ 駅の昼(巌谷小波)

コスモスに 垣の結び目の 見ゆるかな(原石鼎)

コスモスの 紅のみ咲いて 嬉しけれ(原石鼎)

・小菜(こな): (「こ」は接頭語) 芽を出したばかりの菜。また、一般に貝割菜などの菜を親しんでいう語

・小鮒草(こぶなぐさ):全国の田や畔、野原などに広く分布する、イネ科の一年草。高さは20~50cmくらい。葉は笹に似て、基部は茎を巻く。9月から11月ころ茎の先端に紫褐色の穂状の花をつける。八丈島では刈安とよび、黄八丈の染料にする

小鮒草

・胡麻(ごま):ゴマ科ゴマ属の一年草。中国から伝わり、昔は灯明の油をとるほか食用としても栽培された。草丈は1.5mくらい。晩夏 に葉の脇に薄紅色の花を咲かせる。9月ごろに刈り取って種を採取する。種は白、黒、茶などいろいろあり、胡麻和えや胡麻塩に利用される。または胡麻油を採ったりする

・菰の花(こものはな):真菰の花に同じ

・紺菊(こんぎく):野菊の一つ。晩秋に濃紫色の花が咲く

紺菊

(3)さ行

・桜紅葉(さくらもみじ):桜の葉が色づくこと。桜の木は日本国中どこにでもあるが、あざやかな朱色にならないのであまり注目されることがない。比較的早く色づく

桜紅葉

早咲の 得手を桜の 紅葉かな(内藤丈草)

霧に影 なげてもみづる 桜かな(臼田亜浪)

・柘榴/石榴(ざくろ):中央アジア原産の落葉高木。秋に結実。ごつごつした硬い果皮を割れば、濃紅のみずみずしい小さな実が宝石のように詰まっている。鑑賞用、食用、薬用に利用される。甘酸っぱく、ほのかな苦みがある

柘榴柘榴

玉と見て 蜂の台(うてな)よ 割石榴(小西来山)

さと割らは 迸りけり ざくろの実(三宅嘯山)

石榴くふ 女かしこう ほどきけり(炭 太祗)

若長が 机のうへの ざくろかな(与謝蕪村)

・笹龍胆/笹竜胆(ささりんどう): リンドウの別名。葉の形が笹に似ているところからいう

・薩摩薯・甘藷(さつまいも):ヒルガオ科の一年生作物。中南米原産。17世紀前半、九州に伝来。種類が多い。初秋から掘り取りがはじまる。紡錘形で紅紫色の塊根は、格別の風味と甘さがあるので、焼いたり、煮たり、蒸かしたりして食されてきた

薩摩芋

頂上や 月に乾ける 薯畑(前田普羅)

・甘蔗(さとうきび):熱帯地方で栽培されるイネ科の大形多年草。茎が太く、丈は5mにもなり、剃刀のような鋭い線形の葉を持つ。茎に甘い汁を多く含み、それを絞って砂糖を採る

サトウキビ

砂糖黍 かじりし頃の 童女髪(杉田久女)

・三七草(さんしちそう):三七の花に同じ

・三七の花(さんしちのはな):キク科サンシチソウ属の多年草。草丈は1mくらい。タ ンポポに似たぎざぎざの葉を持つ。秋、茎の先端に黄色の糸状の花をつける。後に花は絮となって風に飛ぶ

三七の花

・三昧花(さんまいばな):曼珠沙華(彼岸花)の別称。花がきまって秋の彼岸ごろに咲く有毒植物の一つ

・しおに:紫苑の別称

栖より 四五寸高き しをにかな(小林一茶)

・紫苑(しおん):キク科の多年草。アジア北東部や西日本に広く分布。茎はまっすぐで、人の背丈ほどになる。秋に菊のような淡い紫色の花を多くつける

紫苑

乙鳥の 行く空見する 紫苑かな(鈴木道彦)

夕空や 紫苑にかゝる 山の影(閑斎)

淋しさを 猶も紫苑の のびるなり(正岡子規)

床の間や 紫苑を活けて 弓靱(正岡子規)

・紫蘇の実(しそのみ):紫蘇がつける実をいう。花や葉と同様に香りがよい。刺身のつまとしたり、塩漬けやしょうゆ漬けなどにして食す

紫蘇の実紫蘇の実

・したまがり:曼珠沙華の別称

・死人花(しびとばな):曼珠沙華の別称

・島いも(しまいも):薩摩薯の別称。秋に収穫して出回る

・秋明菊(しゅうめいぎく):貴船菊の別称。十月頃菊に似た花を開く

・鍾馗水仙(しょうきずいせん):暖地に自生するヒガンバナ科の多年草。九月頃、毒々しい黄色の花が咲く

鍾馗水仙

・鍾馗蘭(しょうきらん):全国の深山の樹林下、笹原などの柔らかい土を好むラン科の多年草。名の由来は花の形を烏帽子をかぶった鍾馗の姿に見立てたもの。花茎の鱗片状の葉はほとんど目立たない。7月頃淡紅色の美しい花をつけるが、緑葉をもたない寄生ラン

鍾馗蘭

・虱草(しらみぐさ):田五加(たうこぎ)の別称。秋に黄色い小花をつける

・白舞茸(しろまい):サルノコシカケ科の茸の一種で、茎の部分がいくつもに枝分かれして、その先に多数の傘が広がる

白舞茸

・新胡麻(しんごま):その年の秋に収穫したばかりの胡麻

・新大豆(しんだいず):マメ科の作物。夏に花を咲かせ、その後、莢の中に豆を2個から3個実らせる。若い豆は枝豆として食され、完熟した豆は、味噌、醤油、豆腐などに広く利用される

・芋茎(ずいき):里芋の茎のこと。甘酸っぱく煮たり、酢味噌で和えたりする。乾燥して保存食にもする

芋茎

牛の子に 二株付けし 芋茎哉(若山一笑)

芋茎さく 門賑はしや 人の妻(炭 太祇)

取跡や 淋しく見えし ずいき畑(如柳)

・芋茎干す(ずいきほす):里芋の茎を干すこと。芋は秋の季語

・捨子花(すてごばな):曼珠沙華(彼岸花)の別称。花がきまって秋の彼岸ごろに咲く有毒植物の一つ

・須走牛蒡(すばしりごぼう):富士薊の別称

・千振(せんぶり):リンドウ科の二年草。白に薄紫の細い筋が入る五弁の花が9~11月に開く。草丈は10~25cm。これを摘み取って陰干しにし、煎じて飲めば胃に効く漢方薬になる。「千回振り出しても(煎じても)苦い」ことから「千振」という名がついた

千振

(4)た行

・田五加(たうこぎ):日本全国の田や畔、水田、湿地などに生えるキク科の一年草。丈は1m近くにも及ぶ。葉は対生し3つから5つに深く裂けるが、上部の葉は裂けない。筒状花の黄色い花を枝先に一つ8月から9月頃つける。実は扁平で2本のトゲを持ち歯のような形をしている

田五加

・高黍(たかきび):インド原産のイネ科の一年草。4月下旬に種をまき、10月ころに穫り入れる。丈は3mほどになり、秋、茎の頂点に赤褐色の穂をつける。乾燥させたあと、穂から実をしごき採り食用とす る。粉にして団子にしたり、高黍酒にしたりする

高黍

・竹の春(たけのはる):竹は、たけのこの出る時期、栄養を奪われて衰える。秋になると勢いを取り戻し、葉も青々としてくる。この状態を竹の春という

竹の春

おのが葉に 月おぼろなり 竹の春(与謝蕪村)

松の葉の 隣も青し 竹の春(勝見二柳)

・竹の実(たけのみ):竹はイネ科マダケ属の多年生常緑竹。日本の山野に広く自生する。花はめったに咲かないが一度咲いてしまうと竹そのものを枯らしてしまう。実は麦に似ており粉にして食用とする。旱魃のときなどに開花することが多く、昔は飢饉の助けになった。秋に実るとは限らない

竹の実

・蓼藍の花(たであいのはな):茎葉から染料藍をとるために栽培される植物で、秋に白い小花が穂状になって集まり咲く。藍の花

蓼藍の花

・田稗(たびえ):田に植わっている稗

・玉黍(たまきび):玉蜀黍(とうもろこし)の別称

・竹春(ちくしゅん):竹が秋になって新葉の緑が鮮やかになり繁茂するさま

・散る柳(ちるやなぎ):柳の細い葉が散ること。秋になって黄ばみはじめ、秋風とともに散る柳を見て、秋の深まりを実感する

・衝羽根/突羽根(つくばね):ビャクダン科ツクバネ属の落葉低木。高さは1~2mくらいで、栂や樅などに半寄生する。雌雄異株 で雌株は初夏、枝先に淡緑色の四弁の苞をもった花をつける。果実は長さ1cmほどで、茶褐色の楕円球。苞がそのまま残って、 羽根つきの羽根のように見える

ツクバネ

・摘み菜(つまみな):秋の間引菜の別称

・蔓竜胆/蔓龍胆(つるりんどう):リンドウ科の蔓性の多年草。山地から高山に生え、茎は地をはい、他に絡みつく。葉は長卵形で3本の脈が目立ち、対生する。秋、淡紫色の鐘形花を開き、赤色の液果を結ぶ

蔓竜胆

・デラウェア:小粒で果皮が赤紫色の「デラウェア」は、アメリカで偶発実生として発見された品種。1850年代に命名され、日本へは1872年(明治5年)頃に伝わった。

1房が100~150gくらいで粒は小さめ。強い甘みとほどよい酸味が調和し、さっぱりとした味わいである。夏になると店頭で目にする定番品種の1つで、白ワインの原料としても利用される

デラウェア

・天蓋花(てんがいばな):曼珠沙華(彼岸花)の別称。花がきまって秋の彼岸ごろに咲く有毒植物の一つ

・唐黍(とうきび):玉蜀黍(とうもろこし)の別称

唐秬(とうきび)や 軒端の萩の 取りちがへ(松尾芭蕉)

古寺に 唐黍を焚く 暮日かな(与謝蕪村)

唐黍や ほどろと枯るる 日のにほひ(芥川龍之介)

唐黍焼く 母子我が亡き 後の如し(石田波郷)

・玉蜀黍(とうもろこし):イネ科の一年生作物。アメリカ大陸原産、草丈は2~3mほど。大地から肥を吸い上げる力が強いため、痩せた土地でもよく育つが、地力を消耗させる。北海道産が有名。ゆでたり焼いたりするほか、ポップコーンやコーンフレークなどにもなる

玉蜀黍

・当薬(とうやく):千振の別称。秋、白地に紫の線が入っている花が集まり咲く

・木賊/砥草(とくさ):木賊は、青々として棒状に直立する。姿は竹に似て、はるかに小さく、茎は杉菜に似て、はるかに大きい。観賞用に庭園に植えられるほか、茎が充実する秋に刈り取って乾燥させ、研磨材や漢方薬に用いる。「研ぐ草」であることからこの名がある

木賊

ものいはぬ 男なりけり 木賊刈り(大島蓼太)

・鳥兜/鳥頭(とりかぶと):キンポウゲ科の多年草。丈は1mほどになる。秋、紫色の花を下向きにつける。根は猛毒であるが、漢方薬にもなる

鳥兜

今生は 病む生なりき 鳥兜(石田波郷)

(5)な行

・中抜き菜(なかぬきな):秋の間引菜の別称

・菜間引く(なまびく):秋に大根や蕪や小松菜など菜類の畑から間引きをすること

・なんばん:玉蜀黍の別称

・南蛮煙管(なんばんぎせる):思草の別称

・南蛮黍(なんばんきび):玉蜀黍の別称

・ぬかご:零余子の別称

きくの露 落て拾へば ぬかごかな(松尾芭蕉)

笹竹の 窓にはひこむ ぬかご哉(椎本才麿)

さむしろや ぬかご煮る夜の きりぎりす(立花北枝)

・抜菜(ぬきな):秋の間引菜の別称

三日月や 影ほのかなる 抜菜汁(河合曽良)

・野菊(のぎく):山野に咲く菊の総称。色もさまざまで、野路菊は白、油菊は黄、野紺菊は淡い紫、海辺に咲く白い浜菊も美しい

野菊野菊

撫子の 暑さ忘るる 野菊かな(松尾芭蕉)

名もしらぬ 小草花咲く 野菊かな(山口素堂)

重箱に 花なき時の 野菊哉(宝井其角)

朝見えて 痩たる岸の 野菊哉(各務支考)

なつかしき しをにがもとの 野菊哉(与謝蕪村)

足元に 日のおちかかる 野菊かな(小林一茶)

湯壷から 首丈出せば 野菊かな(夏目漱石)

百丈の 断崖を見ず 野菊見る(高浜虚子)

蝶々の おどろき発つや 野菊の香(前田普羅)

頂上や 殊に野菊の 吹かれをり(原石鼎)

かがみ折る 野菊つゆけし 都府楼址(杉田久女)

・野路菊(のじぎく):野菊の一つ。兵庫県の県花

野路菊

(6)は行

・白山蓬(はくさんよもぎ):朝霧草の別称。全体が絹毛に被われて白っぽい。秋に黄色い小花をつける

・羽子の木(はごのき):衝羽根の別称。秋に結実し、実の先端には四枚の葉状の苞が正月につく羽根のように付いている

・蓮の実(はすのみ):蓮はスイレン科ハス属の水生多年草。水田に栽培されるほか、池や沼などに観賞用に植えられる。白やピンクの大きな花をつけたあと、蜂の巣状の実をつける。松の実やクコの実と並び、健康食品として珍重される

蓮の実

蓮の実を 袖に疑ふ 霰かな(井原西鶴)

稲妻に 負けず実の飛ぶ 蓮(はちす)かな(小西来山)

蓮の実の 泥鷺をうつ 何ごころ(山口素堂)

蓮の実の 飛(とぶ)や出離(しゅつり)の 一大事(正岡子規)

・蓮の実飛ぶ(はすのみとぶ):蓮の花が終わると、蜂の巣状に穴があいた円錐形の花托(かたく)になり、熟れた実が、この穴から飛び出して水中に落ちる。 実の皮は黒く固い。 その中の白い子葉の部分は甘く生のままで食べられる

蓮の実飛ぶ

・畑稗(はたびえ):畑に植わっている稗。秋に収穫する

・八丈刈安(はちじょうかりやす):小鮒草の別称で、刈安とは別種

・八朔梅(はっさくばい):八朔のころに咲く梅のこと。「八朔」は陰暦の8月1日のこと。「朔」は「朔日」のことで一日を意味する。八重の淡紅色の花をつける珍しい梅である

八朔梅

盆やすみて 八朔梅の 星月夜(松木淡々)

八朔の 梅咲く国に 生まれたし(野沢凡兆)

・初紅葉(はつもみじ):いち早く紅葉し山野に秋の訪れを告げるもの。櫨や七竈、ぬるでの類。紅葉の本格派である楓は、これよりずっと遅れて紅葉する

初紅葉

山ふさぐ こなたおもてや 初紅葉(宝井其角)

秋もはや 岩にしぐれて 初紅葉(森川許六)

いづちより いづち使ぞ 初もみぢ(黒柳召波)

さし出たる 枝にもあらず 初紅葉(桜井梅室)

葉唐辛子(はとうがらし):唐辛子の葉。佃煮など唐辛子の味や風味がある秋の味覚である

葉唐辛子

・花真菰(はなまこも):真菰が秋につける大きな円錐状の花穂

・浜菊(はまぎく):本州北部の太平洋沿岸、茨城から青森にかけて自生するキク科の多年草。高さは30~60cmくらいで、10月から11月にかけマーガレットに似た白い舌状花をつける。葉は光沢を持ち、肉厚で粗い鋸歯状。美しいので花壇にも植えられる

浜菊

・蕃薯(ばんしょ):薩摩薯の別称。秋に収穫して出回る

・稗/穇(ひえ):イネ科ヒエ属の一年草。中国を経て縄文時代に渡来したといわれる。葉はイネに似ており、種子は三角形の細粒。古来、粟や黍などと同じく救荒作物であった

稗

飛騨人や 股稗かしぐ かんばの火(前田普羅)

・稗刈(ひえかり):秋、稗を収穫すること

・稗引く(ひえひく):秋、稗を収穫すること

・彼岸花(ひがんばな):曼珠沙華の別称。花がきまって秋の彼岸ごろに咲く有毒植物の一つ

・菱の実(ひしのみ):菱は池や沼にはびこる水草である。夏、水面に白い花を咲かせ、秋には菱形の堅い実を結ぶ。実は、二つの突起を持つ。栗に似た風味があり、生食、あるいは蒸すと美味。菱餅は元来この粉をついた餅である。採取には舟や盥を使う

菱菱の実

菱盛るや いづれ田貝の 蓋と見え(立花北枝)

菱取の 岸ばかり漕ぐ 小舟かな(夕雨)

鄙なれば 売る茹菱や 水に雁(松瀬青々)

・風船葛(ふうせんかずら):ムクロジ科フウセンカズラ属の蔓性多年草。一年草として栽培されることもある。葉は互生し、蔓は2~3mほどに伸び る。夏に白い小花を咲かせ。秋に風船に似た3~4cmほどの 緑色の果実をつける

風船葛

・富士薊(ふじあざみ):キク科の多年草。日本のアザミの中で最も大きく、富士山周辺に多い。長さ70cm近くの羽状の大きな葉には棘があり、根もとにあつまる。8月から10月にかけ、6~10cmの紅紫色の花をつける

富士薊富士薊

・富士牛蒡(ふじごぼう):富士薊の別称

・二葉菜(ふたばな):間引菜の別称。秋、大根や蕪や小松菜などが萌えでて子葉の開いた頃のもの

・葡萄(ぶどう):ブドウ科。蔓性でどんどん伸びる。葉は心臓形でぎざぎざしている。緑色の粒状の花をつける。8月から10月にかけて実が熟し、食用、ジャム、ワインなどになる

雫かと 鳥もあやぶむ 葡萄かな(加賀千代女)

枯れなんと せしをぶだうの 盛りかな(与謝蕪村)

後の月 葡萄に核の 曇り哉(夏目成美)

黒葡萄 天の甘露を うらやまず(小林一茶)

黒きまで 紫深き 葡萄かな(正岡子規)

亀甲の 粒ぎつしりと 黒葡萄(川端茅舎)

掌(てのひら)に 葡萄を置いて 別れけり(前田普羅)」

葡萄食ふ 一語一語の 如くにて(中村草田男)

・葡萄園(ぶどうえん):葡萄の生えている畑園。葡萄は秋の季語

・葡萄棚(ぶどうだな):葡萄を栽培する棚。葡萄は秋の季語

・芙蓉の実(ふようのみ):初秋に芙蓉の花が散った後、秋の半ば頃にできる球形の実のこと。熟すると裂けて飛散する

芙蓉の実

・文豆/緑豆(ぶんどう):マメ科ササゲ属の蔓性一年草。国内よりも多くは中国で栽培される。春に黄色い蝶形の花を咲かせ、秋に莢果をつける。莢の長さは7~10cmくらい。中に10個以上の小さな緑色の豆をみのらせる。豆はもやしや春雨の原料になる

緑豆

・穂草(ほぐさ):ホモノ科やカヤツリグサ科の草などに、秋が深まる頃に現れる穂花のこと

・干藷(ほしいも):薩摩薯を干して乾燥させた菓子。甘藷は秋の季語

・穂紫蘇(ほじそ):花が終わった秋、実が縦に並んで穂状に実るもの。なかに芥子粒のような黒い種がある

・杜鵑草(ほととぎす):ユリ科の多年草。秋、茂みの中にまぎれるように咲く。小豆色の花片には小さな斑があり、時鳥のようなというのでこの名が付いた。他に白花や黄花の杜鵑草があり、茶席などで喜ばれる

杜鵑草

(7)ま行

・舞茸(まいたけ):サルノコシカケ科のキノコ。食用として馴染み深く、天然のものはまことに貴重である。見つけた人が舞踊らんばかりに喜ぶことからその名がついたと言われている。また、その姿形が舞っているようなのでその名になったという説もある。近年では栽培されて、四季を通して食することができる

舞茸

・真菰の花(まこものはな):湿地帯に生えるイネ科の多年草。高さ1~2m。8月下旬から10月にかけて円錐状の小花を多くつける。風にそよぐ姿は風情がある

真菰の花

・間引菜(まびきな):大根や蕪は隙間がないように蒔くが、芽生えて密集すると、通風や採光のため定期的に間引く。このときに間引いたものを間引菜という。お浸しや汁の実、胡麻和えなどに使う

・まんじゅさげ:曼珠沙華の別称

・曼珠沙華(まんじゅしゃげ):曼珠沙華は天界に咲く赤い花を表す梵語。秋、田畑の畦や土手に咲くヒガンバナ科の多年草で群生する。墓地の近辺にみられることも多いため彼岸花の名がつく。毒があるといわれるが鱗茎には澱粉が多く食用にもなる。昔は飢饉に備えて植えられていたという説もある

曼珠沙華

此ごろの 西日冷じ 曼珠沙華(大島蓼太)

まんじゆさげ 蘭に類ひて 狐啼く(与謝蕪村)

仏より 痩せて哀れや 曼珠沙華(夏目漱石)

かたまりて 哀れさかりや 曼珠沙華(田中王城)

曼珠沙華 落暉も蘂(しべ)を ひろげけり(中村草田男)

九十九里の 一天曇り 曼珠沙華(加藤楸邨)

西国の 畦曼珠沙華 曼珠沙華(森澄雄)

曼珠沙華 食ひちぎられし ごとくなり(長谷川櫂)

・実石榴(みざくろ):石榴の実のこと

・深山龍胆(みやまりんどう):、リンドウ科リンドウ属の多年草の高山植物

ミヤマリンドウ

・零余子(むかご):自然薯、長薯、つくね薯などの蔓や葉が黄ばむ頃、葉腋にできる肉珠をいう。珠芽ともいう。緑褐色の粒であるが、大きさも形も色もさまざまである。茹でたり飯に炊き込んでむかご飯にしたりする。熟れてくるとほろほろこぼれ落ちる

零余子

うれしさの 箕にあまりたる むかごかな(与謝蕪村)

ほろほろと むかご落ちけり 秋の雨(小林一茶)

むかごもぐ 稀の閑居を 訪(と)はれまじ(杉田久女)

・零余子とり(むかごとり):秋、零余子を採ること

・球芽(むかぶ):零余子(むかご)の別称。秋にとって、炒ったり、茹でたりして食用にする

・豨薟(めなもみ):キク科の一年草。全国の山地、荒地、林道の脇などに自生。茎は角ばって毛が密生している。葉は対生し裏面は柔らかな毛で覆われる。花は黄色で筒小花と舌状花からなり、五つの総苞片を持ち粘液をだす。オナモミに対する名であるが、余り似ていない。花期は九月頃で果実は粘毛があり、衣服につきやすい

メナモミ

・気連草(めなもみそう):豨薟(めなもみ)の別称

・桃吹く(ももふく):棉の蒴果が裂けて、中の棉がふきだすことをいう。コットンボー ルといわれる実が桃の形状に似ていることから、「桃吹く」とい われる

桃吹く

・蜀黍(もろこし):玉蜀黍(とうもろこし)の別称。高黍の別称

・もろこしきび:高黍の別称

(8)や行

・やえなり:文豆の別称

・焼唐黍(やきとうきび):焼いた玉蜀黍(とうもろこし)のこと

焼唐黍

・柳黄ばむ(やなぎきばむ):秋になって柳の細い葉が黄ばんでくること

・柳散る(やなぎちる):秋の中頃、葉は黄ばみ、一葉ずつ、時をかけて散り尽す。たおやかに揺れて散るさまは、秋そのもの

庭掃きて 出でばや寺に 散る柳(松尾芭蕉)

船よせて 見れば柳の ちる日かな(炭 太祇)

柳散り 清水涸れ石 処々(与謝蕪村)

柳散るや ただ土くれの 西東(加舎白雄)

柳散るや 少しタベの 日のよわり(加藤暁台)

柳散り 棄屑流るる 小川かな(正岡子規)

柳散る 紺屋(こうや)の門の 小川かな(夏目漱石)

散り残る 柳が触れる 心地かな(五島高資)

・山薊(やまあざみ):西日本、四国、九州の山野に生える多年草。高さは2mにもなる。太い角ばった茎は直立し20~30cmの棘の多い葉をびっしりとつける。8月から10月茎に直接花をつける。頭花は小形の穂状でアザミに似る

山薊

・山女(やまひめ):通草(あけび)の別称。春、新芽とともに開花し、秋に漿果が実る

・幽霊花(ゆうれいばな):曼珠沙華(彼岸花)の別称。花がきまって秋の彼岸ごろに咲く有毒植物の一つ

・油点草(ゆてんそう):ユリ科の多年草の杜鵑草(ほととぎす)の別称。十月頃に百合の花を小さくしたような花が咲く

・葭の秋(よしのあき):晩秋、葉の色もあせて、風に鳴る葉ずれの寂しい音に独特の風情がある

・葭の花(よしのはな):秋、葭から大きな穂がでて、その先につく紫色の小花のこと

葭の花

・葭原(よしはら):葭の生えた秋の原っぱ

・嫁菜の花(よめなのはな):山野の湿地を好むキク科の多年草。秋、青紫色の花をつける

嫁菜の花

(9)ら行

・蘭(らん):洋ランと東洋ランがある。春蘭、寒蘭などの東洋ランは鎌倉時代に栽培されるようになり、カトレア、胡蝶蘭などの洋ランは明治以降に西洋から渡来した

蘭

蘭の香や 蝶の翅(つばさ)に たき物す(松尾芭蕉)

門に入れば 蘇鉄に蘭の にほひ哉(松尾芭蕉)

香を残す 蘭帳蘭 のやどり哉(松尾芭蕉)

蘭の香や 菊より暗き ほとりより(与謝蕪村)

夜の蘭 香にかくれてや 花白し(与謝蕪村)

蘭のかや 異国のやうに 三ヶの月(小林一茶)

清貧の 家に客あり 蘭の花(正岡子規)

・蘭の秋(らんのあき):蘭の芳香が秋風の中で山谷の清幽を思わせること

・蘭の香(らんのか):秋に咲く蘭の香りが、秋風に漂うこと

・琉球薯(りゅうきゅういも):薩摩薯の別称。秋に収穫して出回る

・竜胆/龍胆(りんどう):リンドウ科リンドウ属の多年草。本州、四国、九州の山野に広く 自生する。草丈は20cm~1mくらい。葉は対生し、 縁にざらつきがある。9月から10月にかけて、茎の先端や葉腋に 青紫の花を咲かせる。根茎は薬用になる。秋の山を代表する花である

竜胆

竜胆の 花かたぶきて 殊勝さよ(八十村路通)

りんだうや 枯葉がちなる 花咲きぬ(与謝蕪村)

竜胆の とがりてつよき 匂かな(蓮寸)

好晴や 壺に開いて 濃竜胆(杉田久女)

・狼把草(ろうはそう):田五加(たうこぎ)の別称。秋に黄色い小花をつける

(10)わ行

・わさ田(わさだ):早稲をうえた田。九月頃には収穫できる

・早稲(わせ):稲の品種で早く実を結ぶもの。稲は本来暖かな地方を起源とするが、夏が短い北の地方では、開花も熟成も早い品種の早稲を用いることが多い

家めぐり 早稲にさす日の 朝な朝な(松瀬青々)

・早稲刈る(わせかる):九月頃、早稲を刈ること

・早稲田(わせだ):早稲をうえた田。九月頃には収穫できる

・早稲の香(わせのか):早稲の穂の香。九月頃には収穫できる

早稲の香や 分け入る右は 有磯海(松尾芭蕉)

早稲の香や 聖(ひじり)とめたる 長がもと(与謝蕪村)

早稲の香や 夜さりも見ゆる 雲の峰(小林一茶)

早稲の香や 伊勢の朝日は 二見(ふたみ)より(各務支考)

早稲の香や 雇ひ出さるゝ 庵の舟(内藤丈草)

早稲の香や 有磯めぐりの 杖の跡(浪化)

旅寝して 早稲の香りの どこよりぞ(長谷川櫂)

・早稲の穂(わせのほ):早稲から出る穂

・棉(わた):アオイ科の一年草。実が熟すと、割れて中から白い綿状の繊維とそれに包まった種が出てくる。これを「棉吹く」「桃吹く」という。割れる前の青い実は形が桃に似ている

・棉の桃(わたのもも):綿の実が桃に似た形をしていること

・棉吹く(わたふく):ワタの子房が発育して蒴果となり、モモの実に似た形をすること