暮らしぶりを表す四字熟語(その1)贅沢・ごちそう・酒・酒飲み

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驕奢淫逸

漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。

そこで今回は、「暮らしぶり」を表す四字熟語のうち、「贅沢」「ごちそう」「酒・酒飲み」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。

1.贅沢

(1)驕奢淫逸(きょうしゃいんいつ)

思うままに贅沢をし、人の道にはずれたみだらな行いをすること。また、そのさま。主に酒色についていう言葉。

「驕奢」は、おごって思うままに贅沢をすること。「淫逸」は、みだらな行いをすること。

(2)魚竜爵馬(ぎょりょうしゃくば)

①古代中国で行われた演芸の一つ。大魚が竜になってうねり歩いたり、大雀や馬の形をしたものが走ったりするなど珍奇な趣向をこらしたもの。

② ぜいたくで珍奇な遊興・娯楽。

(3)錦衣玉食(きんいぎょくしょく)

ぜいたくな暮らしをするたとえ。また、富貴な身分のたとえ。錦のような美しい着物と珠玉のような上等な食べ物の意から。

(4)金塊珠礫(きんかいしゅれき)

贅沢を極めること。「塊」は土のかたまりのこと。「礫」は小石のこと。

金を土のように扱い、宝石を小石のように扱うということから。

「金をば塊(かい)のごとく珠(たま)をば礫(こいし)のごとくす」と訓読します。

(5)軽裘肥馬(けいきゅうひば)/肥馬軽裘(ひばけいきゅう)

非常に富貴なさま。また、富貴な人の外出のときの装い。転じて、富貴の人。軽くて美しい皮ごろもと肥えた立派な馬の意から。

「裘」は皮ごろものこと。「軽裘」は軽くて高価な皮ごろも。略して「軽肥」ともいう。

(6)倹存奢失(けんそんしゃしつ)

節約する人は生き残り、無駄遣いをする人は滅びるということ。

「倹(けん)は存(そん)し奢(しゃ)は失す」と訓読します。

(7)香美脆味(こうびぜいみ)

極めて贅沢な食事のこと。

「香美」は香辛料のきいた、よい香りのする料理。「脆味」は柔らかい菓子。

(8)三汁七菜(さんじゅうしちさい)

本膳料理の膳立ての一つ。三の膳付きの特に丁重なもの。

本膳に一の汁・なます・煮物・飯・香の物、二の膳に二の汁・平皿・猪口 (ちょく) 、三の膳に三の汁・刺身・茶碗、向こう膳には焼き物をつける。

(9)侈衣美食(しいびしょく)

豪華な衣装やおいしい食事のことで、ぜいたくな暮らしのこと。衣類や食べ物に、ぜいの限りを尽くすこと。

「侈衣」は、ぜいたくでおごった衣服。「美食」は、おいしくて豪勢な料理。

(10)奢侈淫佚/奢侈淫逸(しゃしいんいつ)

ぜいたくにふけり、みだらな楽しみや遊興にふけるさま。

「奢侈」は度を越えたぜいたく。「淫佚」はみだらでだらしないさま。また、男女関係のみだらなさま。

(11)奢侈文弱(しゃしぶんじゃく)

おごってぜいたくを尽くし、文事にばかりふけって弱々しいこと。また、そのさま。

「奢侈」は度を越えたぜいたく。「文弱」は学問や詩文など、文事ばかりにふけって弱々しいこと。

(12)酒池肉林(しゅちにくりん)

ぜいたくの限りを尽くした盛大な宴会。また、みだらな宴会のたとえ。酒を池に満たし、肉を林に掛ける意から。

(13)漿酒霍肉(しょうしゅかくにく)

この上なく贅沢なこと。

「漿」は一度沸騰させて冷ました水。または、酢のこんず。
「霍」は貧しい人が食べる豆の葉のこと。

酒を水のように扱い、肉を豆の葉のように扱うという意味から。

「酒(さけ)を漿(しょう)とし肉を霍(かく)とす」と訓読します。

(14)鐘鳴鼎食(しょうめいていしょく)

財産も地位もある人の贅沢な生活のこと。

「鐘鳴」は鐘を鳴らして食事の時間を知らせること。
「鼎食」は祭器としても使われる、三本足の器の鼎に料理を盛って、たくさんの鼎を並べて食事すること。

(15)食前方丈(しょくぜんほうじょう)

きわめてぜいたくな食事のこと。ごちそうが自分の前に、一丈四方もいっぱいに並べられる意から。

「食前」は食事の席の前。「方丈」は一丈四方。「丈」は長さの単位。一丈は約3.03m(周代は2.25m)。

(16)炊金饌玉(すいきんせんぎょく)

たいへん豪華でぜいたくな食事。たいへんなごちそうの意。

黄金を炊いて食物とし、玉を取りそろえて膳に並べる意から。美食を褒めたたえるたとえ。また、他人のもてなしを謝する言葉。

「金(きん)を炊(かし)ぎ玉(ぎょく)を饌(そな)う」と訓読します。

(17)贅沢三昧(ぜいたくざんまい)

思う存分にぜいたくするさま。

「贅沢」は身分にふさわしくない必要以上のおごり。「三昧」はそのことに夢中になって、他をかえりみない意を表す語。

(18)象箸玉杯(ぞうちょぎょくはい)

贅沢な生活を言い表す言葉。または、贅沢な欲求が生まれ始めること。

象牙の箸と宝石の杯という意味から。

古代中国の殷(いん)の名臣の箕子(きし)は、主君の紂王(ちゅうおう)が象牙の箸を作ったことを聞き、箸だけでは満足できずに宝石の杯を作り、それに合わせ食事や住居も贅沢になっていき、最後には世界の全てのものを集めても満足しなくなるだろうと恐れたという『韓非子』の故事から。

(19)暖衣飽食(だんいほうしょく)/飽食暖衣(ほうしょくだんい)

衣食に何の不足もない生活のこと。ぜいたくな生活をすること。

「暖衣」は暖かい衣服、「飽食」は十分な食料のこと。「暖」は「煖」とも書く。

(20)置酒高会(ちしゅこうかい)

盛大に酒宴を催すこと。また、酒宴のこと。

「置酒」は酒宴を開くこと。「高会」は盛大な宴会のこと。

(21)長夜之飲(ちょうやのいん)

夜通し酒を飲み、夜が明けても飲み続け、何日にもわたって酒宴を開くこと。

中国殷(いん)の紂王(ちゅうおう)は、夜通し酒を飲み、昼間になっても戸を閉めきったまま灯をともして宴会を続け、120日間にわたる大宴会を開いたという『史記』の故事から。

(22)鼎鐺玉石(ていとうぎょくせき/ていそうぎょくせき)

この上ないほどの贅沢をすることのたとえ。

「鼎」は権威や高い地位の象徴で、祭器として用いられた三本足の器。
「鐺」は三本足の酒を温めるための器。「玉」は宝玉のこと。

鼎を鐺のように酒を温めるために使い、宝玉を石のように扱うという意味から。

「鼎(てい)をば鐺(とう)のごとく玉(ぎょく)をば石のごとく」と訓読します。

(23)肉山脯林(にくざんほりん)

宴会などが、ぜいたくをきわめていることのたとえ。

「肉」は生肉、「脯」は干し肉のこと。ともに当時のぜいたく品。「山」「林」はともに量がたくさんあることのたとえ。

(24)豊衣飽食(ほういほうしょく)

生活に余裕があることのたとえ。

「豊衣」はゆとりのある大きめな服。「飽食」は食べ飽きるほどの食べ物があること。

(25)目食耳視(もくしょくじし)/耳視目食(じしもくしょく)

見た目にとらわれ、味よりも外見が豪華な食べ物を選び、世間の評判を気にして衣服を選ぶこと。衣食の本来の意義を忘れて、ぜいたくな方向に流れていくこと。

「目食」は口に合うかではなく、見た目が豪華なものを食べること。「耳視」は世間のうわさを気にかけて、自分に似合うかでなく、高価な衣服を着るということ。

「目(め)もて食(く)らい耳(みみ)もて視(み)る」と訓読します。

(26)羅綺千箱(らきせんばこ)

意味のない贅沢のこと。

「羅」は透けて見えるほどに薄い絹織物、「綺」は細やかな綾文様のある絹織物のことで、どちらも美しく高価な布のこと。

高価で美しい絹織物の衣服を、千箱の衣装箱に収まらないほどにあっても、一度に一着しか着ることはできないということから、無駄な贅沢を戒める言葉。

「羅綺千箱一暖に過ぎず」を略した言葉。

2.ごちそう

(1)山海珍味(さんかいのちんみ)

山や海で採れた物から作られた、珍しい味のする食べ物。または、非常に豪華な料理のこと。

(2)持粱歯肥(じりょうしひ)

ご馳走を食べること。または、良い食事ができる身分になること。

「持粱」はご馳走が盛られている食器を手にもつこと。「歯肥」は肥えた肉を噛むこと。

「梁(りょう)を持(じ)して肥(ひ)を歯(くら)う」と訓読します。

(3)太牢滋味/大牢滋味(たいろうのじみ)

立派で豪華な料理のこと。

「太牢」は祭りの時に供えるいけにえという意味から、牛、羊、豚の三種の肉のこと。
「滋味」はおいしい食べ物のこと。

(4)珍味佳肴/珍味嘉肴(ちんみかこう)

めったに食べられない、たいへんおいしいごちそう。

「珍味」は珍しくおいしい食べ物、「佳肴」はうまいさかなの意。

(5)美酒佳肴(びしゅかこう)

おいしい酒と、うまいさかな。非常においしいごちそうのこと。

「美酒」はおいしい酒、「佳肴」はうまいさかな、おいしい料理の意。

(6)肥肉厚酒(ひにくこうしゅ)/厚酒肥肉(こうしゅひにく)

ぜいたくな食べ物と酒。肥えてたいへん美味な肉と、上等なうまい酒。

「肥肉」は鳥やけものの肥えておいしい肉、「厚酒」はおいしい酒の意。

(7)美味佳肴(びみかこう)

豪勢でおいしい料理のこと。

「美味」はおいしいこと。「佳肴」は素晴らしい料理のこと。

(8)爛腸之食(らんちょうのしょく/らんちょうのし)

食べ過ぎること。

「爛腸」はたくさんのご馳走を食べて内蔵をただれさせること。
腸をただれさせるほどの、たくさんの肉や酒などのご馳走を食べるという意味から。

(9)鹿鳴之宴(ろくめいのえん)

客を招待して、もてなす酒宴のこと。または、中国の唐の時代、官吏登用試験に受かって、都に上る時に開いた宴会のこと。

「鹿鳴」は鹿が鳴いて仲間を呼び、野原でよもぎを食べる姿を歌った詩の名前で、客をもてなす宴会のたとえ。

社交場として明治政府が建てた、鹿鳴館の語源とされている。

3.酒・酒飲み

(1)開懐暢飲(かいかいちょういん)

楽しい気分で、自由に好きなだけ酒を飲むこと。

「開懐」は自由で広々とした心のこと。「暢飲」は良い気分でのんびりと酒を飲むこと。

(2)儀狄之酒(ぎてきのさけ)

味のよい酒のこと。

「儀狄」は人の名前で、中国の夏の時代に、酒を生み出したとされている伝説上の人物。または、酒のたとえ。

中国の夏の国の禹王が儀狄の酒を飲み、そのうまさから、酒に溺れて国を滅ぼす者が出ると言い、酒を禁じたという『戦国策』「魏策」の故事から。

(3)高陽酒徒(こうようのしゅと)

酒飲みのたとえ。また、世を捨てた、ただの酒飲みだと自分をあざけって言うことば。

中国秦の時代の末期、沛公(はいこう)(劉邦のこと)が高陽の近くに進軍したとき、酈食其(れきいき)という者が沛公に面会を求めた。しかし、酈食其が儒者のような装いをしていたため、儒者が嫌いな沛公は面会を断った。そのとき、酈食其は「私は高陽の酒徒であって、儒者などではない」と言ったという『史記』「酈生」の故事から。

(4)壺中之天(こちゅうのてん)

別世界、別天地のこと。また、酒を飲んで俗世間を忘れることのたとえ。

中国後漢の時代、汝南(じょなん)(河南省の地名)に費長房(ひちょうぼう)という者がいた。市場の役人をしていたとき、薬を売る老人が商売を終えると、店先につるしていた壺の中に飛び込むのを見た。費長房は老人に仙人の術を教えてくれるように頼み壺の中に入れてもらったところ、中には立派な建物があり、美酒とおいしい料理がずらりと並んでいた。費長房は老人と一緒にそれを飲み食いして、壺から出てきたという『後漢書』「方術・費長房」の故事から。

(5)清聖濁賢(せいせいだくけん)

酒の異名。

「聖」は聖人、「賢」は賢者。

魏の曹操(そうそう)が禁酒令を出したとき、酒好きの人が清酒を聖人、濁り酒を賢人と呼んで、ひそかに飲んでいたという故事から。

(6)浅酌低唱(せんしゃくていしょう)

ほどよく酒を味わい飲みながら、小声で詩歌を口ずさんで楽しむこと。

「浅酌」はほどよく酒を飲むこと。「低唱」は小さい声で歌うこと。

(7)天之美禄(てんのびろく)

酒をたたえていう美称。

「禄」は、俸禄。天から授かった素晴らしい贈り物の意から。

(8)洞庭春色(どうていしゅんしょく)

みかんを使って発酵、熟成させて作った酒のこと。

「洞庭」は中国にある湖の名前、洞庭湖のことで、洞庭湖の春の景色という意味から。

中国では立春の日にこの酒を飲んでいたとされている。

(9)杯賢杓聖(はいけんしゃくせい)

「杯」と「杓」を賢者と聖人にみたてて酒を飲むことを美化した言葉。

(10)麦曲之英(ばくきょくのえい)

酒のこと。

「麦」と「曲」の漢字を組み合わせると、酒の原料の「麹の異体字」(*)になるということから。「英」はすぐれているものという意味。

(*)麹の異字体

(11)百薬之長(ひゃくやくのちょう)

酒をたたえることば。酒はどんな薬よりも効く、最もすぐれた薬であるということ。

「百薬」は、数多い薬。あらゆる薬。「長」は、上に立つ。

(12)米泉之精(べいせんのせい)

酒のこと。

米を発酵・熟成させる手法が酒の主な造り方であることから。

(13)忘憂之物(ぼうゆうのもの)

酒の美称。憂いを忘れさせてくれる意から。

出典(陶淵明の「飲酒」)の「此(こ)の忘憂の物に汎(う)かべて、我(わ)が世を遺(わす)るるの情(じょう)を遠くす」による。

(14)流觴飛杯(りゅうしょうひはい)

宴会を開いて、心行くまで酒を飲むこと。

「流觴」は庭園の川にさかずきを浮かべること。
「飛杯」はさかずきを何度も交わすこと。