生きる指針を表す四字熟語(その1)戒めの語

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哀矜懲創

漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。

そこで今回は、「生きる指針」を表す四字熟語のうち、「戒めの語」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。

1.戒めの語

(1)哀矜懲創(あいきょうちょうそう)

懲罰を与えるには、相手を思いやる情が必要であること。罰はその罪を悔い改め、人生に新たな道を開くためのもので、悲しみ哀れみの心をもって行うべきことをいう。

「哀矜」は悲しみ哀れむこと。「懲創」はこらしめること。

(2)悪因悪果(あくいんあっか)

悪い行為には、必ず悪い結果や報いがあること。

悪いことをせずに、正しいことをするべきであるという戒めの言葉。

「悪因」は悪い結果をまねく原因。「悪果」は悪い報いや結果。人の行いの善悪に応じて、その報いが現れる(「因果応報(いんがおうほう)」)の悪いほうで、もと仏教の語。

(3)悪事千里(あくじせんり)

悪い行為や噂・評判は、またたくまに世間に知れ渡るということ。

「悪事」は悪い行い、「千里」は遠くの場所という意味。

一般には「悪事千里を行く」「悪事千里を走る」と用いる。

(4)悪木盗泉(あくぼくとうせん)

たとえ困窮しても、わずかな悪事にも身を近づけないたとえ。悪事に染まるのを戒める語。また、悪事に染まること。

「悪木」は役に立たない木。また、とげやにおいがあり人を傷つけたり悪臭で人を困らせる悪い木。「盗泉」は孔子がそこを通ったとき、のどが渇いていたが、その名が悪いといって飲まなかったといわれる泉の名。

悪い木の陰で休んだり、悪泉の水を飲んだりしただけでも身が汚れるという意。「盗泉」の説話は『尸子(しし)』下に見える。

(5)以身殉利(いしんじゅんり)

つまらない人間は、自分の利益や欲望のためだけに一生を費やすということ。

「以身」は自ら、自分自身という意味。「殉利」は利益や欲望に身を捧げるという意味。

「身(み)を以(もっ)て利(り)に殉(じゅん)ず」と訓読する。

(6)一意孤行(いちいここう)/孤行一意(ここういちい)

誰の意見も聞かずに自分の考えだけで行動すること。
相手の意見に左右されない公平さのたとえとして用いることもある。

「一意」は一つのことに専念すること。「孤行」は一人で行くこと。

(7)一粒万倍(いちりゅうまんばい)

一粒の種子をまけば、実って万倍もの収穫を得ることができる意から、わずかなものから多くの利益があがるたとえ。また、わずかなものでも粗末にしてはいけないという戒め。

また、一つの善行が多くのよい結果をもたらすたとえ。

「稲」の異名。

(8)一成不変(いっせいふへん)

一度出来上がったものは、二度と変えるが出来ないということ。

一度出来上がってしまうと、それを変えるは難しいので、慎重を期してすべきであるという戒めの言葉。

「一成」は完成すること。

(9)飲水思源(いんすいしげん)

物事の基本を忘れないという戒めの語。また、他人から受けた恩を忘れてはいけないという戒めの語。

水を飲むとき、その水源のことを思う意から。「思源」は源のことを考える意。

「水(みず)を飲(の)みて源(みなもと)を思(おも)う」と訓読します。

(10)隠忍自重(いんにんじちょう)

怒りや苦しみなどをじっとこらえて、軽々しい行いをしないこと。また、そうするべきであるとする戒めの語。

「隠忍」はつらさなどを表面に出さないで、じっと堪え忍ぶこと。ほんとうの気持ちを秘めて、こらえ忍ぶこと。「自重」は自分の行動を慎むこと。

(11)宴安酖毒/宴安鴆毒(えんあんちんどく)

遊んで楽しむだけの生活を送ることへの戒め。

「宴安」はひたすら遊んで楽しむこと。
「酖毒」は鴆(ちん)という鳥の羽にある猛毒のこと。

ただ遊んで楽しむだけの生活を送ることは酖毒を飲むようなもので、最後には身を滅ぼしてしまうという意味から。

(12)瓜田李下(かでんりか)/李下瓜田(りかかでん)

人から疑われるようなことはしないほうが良いというたとえ。

「瓜田」は瓜(うり)の畑のこと。「李下」は李(すもも)の木の下のこと。

瓜の畑で靴を履きなおそうとしたり、李の木の下で冠を直そうと手を上げたりすると、それを盗むのではないかと疑われてしまうという意味から。

(13)佳兵不祥(かへいふしょう)

戦争を批判する言葉で、すぐれた性能の武器は人を殺すためのものであり不吉なものであるということ。

「佳兵」はすぐれた兵ということから、すぐれた性能のある武器のたとえ。
「不祥」は不吉なこと。

(14)邯鄲之歩(かんたんのほ/かんたんのあゆみ)

他人の真似をしたがうまくいかず、自分自身の本来のものを忘れ、どちらもうまくいかなくなること。

「邯鄲」は中国の地名。中国の戦国時代、燕の田舎の国の青年が趙の都会の邯鄲に行って、都会の人たちの歩き方を真似しようとしたが、それに失敗して今までの自分の歩き方を忘れて這って帰ったという故事から。

(15)既往不咎(きおうふきゅう)

過ぎてしまったことは、とやかくとがめだてしないこと。

「既往」は、済んでしまったこと。また、過去。「咎」は、とがめる。

過ぎてしまったことはとやかく言わないが、将来に向けてこれからは言動をつつしむべきだという戒めのことば。

(16)疑事無功(ぎじむこう)

信じることができずに、疑いながら行動しても、よい結果が期待できないということ。

一度やると決めたことは、迷うことなくやり遂げるべきであるという戒めの言葉。

「疑事(ぎじ)功(こう)無(な)し」と訓読します。

(17)兢兢業業(きょうきょうぎょうぎょう)

恐れ慎んで物事を行う様子。

「兢兢」は恐怖や不安などで小刻みに震える様子。「業業」は失敗しないかと心配すること。

物事を行うときには、用心深く行うべきであるという教えをいう。

(18)金玉之言(きんぎょくのげん)

非常に重要な忠告。または、戒めの言葉。

「金玉」は黄金と宝石。黄金と宝石のように貴重な忠告という意味から。

(19)梧鼠之技(ごそのぎ)

様々な技能をもっているが極めている技能がないこと。または、役に立つ技能が一つとしてないこと。

「梧鼠」はむささびのことで、飛ぶ、木に登る、泳ぐ、穴を掘る、走るという五つのスキルがあるが、どれも極めてはいないことから。

(20)再思三省(さいしさんせい)

「再思」は考え直す、「三省」は一日に何度も反省することで、何度も考え直して、反省すること。

(21)釈近謀遠(しゃくきんぼうえん)

身近なところや今をおろそかにして、いたずらに遠いところや、はるか将来のことばかり考えること。「釈」は捨てる意。

実際的なことを考えず、迂遠なことをするたとえ。また、身近なところや今を、よく考えるべきであるという戒めの語。

「近(ちか)きを釈(す)てて遠(とお)きを謀(はか)る」と訓読します。

(22)諸悪莫作(しょあくまくさ)

悪事を働くことを戒める言葉。様々な悪事・悪い行いをしない、してはならないということ。

「莫」は否定を意味する言葉。「七仏通戒偈」の冒頭の一句。

(23)小隙沈舟(しょうげきちんしゅう)

些細なことでも軽く見ないで、慎重に取り組むべきであるという戒めの言葉。

「小隙」は少しの隙間。「沈舟」は舟が沈没すること。

少しの隙間でも、その部分から水が入って舟が沈没してしまうので、少しの隙間にも気をつけるべきであるということから。

「小隙(しょうげき)舟(ふね)を沈(しず)む」と訓読します。

(24)垂堂之戒(すいどうのいましめ)

子供や才能のある人などの大切な人は、危険から遠ざけておくべきという戒め。

「垂堂」は軒の端の下に近づくこと。
瓦が落ちてくる危険がある場所に近づかないという意味から。

(25)前車覆轍(ぜんしゃふくてつ/ぜんしゃのふくてつ)

先人の失敗を学び、今の戒めにすること。教訓とすべきである先人の失敗。

前の車がひっくり返った時の轍(わだち)の意から。

「前車」は、前を行く車のこと。「覆轍」は、ひっくり返った車の轍わだち跡。転じて、先人の失敗の意。

(26)怠慢忘身(たいまんぼうしん)

やるべきことをやらずに、自身を磨くことを忘れること。

そのようにしていると、災いが降りかかるということを戒めた言葉。

「怠慢(たいまん)身(み)を忘(わす)る」と訓読します。

(27)多言数窮(たげんすうきゅう/たごんすうきゅう)

口数が多すぎると、逆に上手い言い方が出来なくなって困るということ。
または、口数が多すぎると言葉の意味が軽くなって力がなくなるということ。

「窮」は処置に困って苦しむこと。喋りすぎることを戒めた言葉。

「多言は数窮す」と読むことが多い言葉。

(28)多蔵厚亡(たぞうこうぼう)

欲の深い人は財産だけに固執するために、人間関係だけではなく、財産も全て失うということ。財産を蓄えれば蓄えるほどに失うものも多くなるという意味から。

欲をおさえて、相応のところで満足することが大切であるという戒め。

「厚亡」はたくさんのものを失うということ。

「多(おお)く蔵(ぞう)すれば厚(あつ)く亡(うしな)う」と訓読します。

(29)天網恢恢(てんもうかいかい)

天が張りめぐらした網は広く、目が粗いようだが、悪人・悪事は決して取り逃がさないということ。

天道は厳正であり、悪は早晩罰を受けるということで、悪事を戒める言葉。

「恢恢」は広く大きいさま。「天網恢恢疎(そ)にして失わず」「天網恢恢疎にして漏らさず」の略。

(30)薄唇軽言(はくしんけいげん)

口数が多く、口が軽いこと。

おしゃべりな人を遠まわしに非難する言葉。

(31)誹刺諷誡(ひしふうかい)

人のことを批判して、間接的に戒めること。

「誹刺」は他人のことを悪く言うこと。「諷誡」は遠まわしに戒めること。
「誹刺」は「非刺」とも、「諷誡」は「風戒」とも書く。

(32)迷者不問(めいしゃふもん)

道に迷う人は、人に相談せずに、自分勝手に行動してしまうからだというたとえ。転じて、分からないことは、積極的に人に尋ねるべきだという戒め。

「迷者」は、自分の行く道を分かっていない者の意。

「迷える者は路(みち)を問わず」の略。

(33)薬石之言(やくせきのげん)

欠点を正すのに役立つ忠告という意味。

「薬石」は石の鍼(はり)治療や薬剤のこと。

人を戒める言葉を薬にたとえている。

(34)油断大敵(ゆだんたいてき)

注意を少しでも怠れば、思わぬ失敗を招くから、十分に気をつけるべきであるという戒め。

「油断」は気をゆるめること。油断は大失敗を招くから、どんなものより恐るべき敵として気をつけよ、という意。