「体調不良の途中棄権」や「負傷しながらのタスキ繋ぎ」について考える

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女子駅伝

10月21日(日)に福岡県で行われた「全日本実業団対抗女子駅伝予選会(プリンセス駅伝)」で、二つの大きなアクシデントが起こりました。

1.負傷しながらのタスキ繋ぎ

一つ目は、第二区間で岩谷産業の飯田怜さん(19)が、残り約200mの地点で走れなくなり、「四つん這い」になりながらもタスキを繋いだというものです。

飯田怜さんの「四つん這い」タスキ繋ぎについては、称賛の声がある一方、将来ある選手にそこまでさせる前に関係者は競技を中断させるべきだったという声があります。レース後の診断で、「右脛骨の骨折で全治3~4ヵ月」とのことでした。

2.体調不良の途中棄権

もう一つは、第三区間で三井住友海上の岡本春美さん(20)が、トップを走っていましたが、脱水症状で意識朦朧となり、体調不良で途中棄権したというものです。

岡本春美さんの場合は1位でタスキを受け取り、トップを快走していたのですが、ラスト1km付近から急に様子がおかしくなり、蛇行したり逆走したりし始めました。

解説の増田明美さんも、「もうこれは無理なので、監督が到着していなくても止めた方がいい」「このままだと後ろに倒れてしまう可能性もあるので、止めた方がいい」と訴えていました。

3.「競技中止の判断基準と伝達ルール」をあらかじめ決めておくべき

「どの時点でストップをかけるか」は、選手の気持ちや監督の気持ち・考えもあってなかなか難しいところですが、結果から見れば今回の二つのアクシデントについては、「もう少し早い時点で止めるべきだった」ということでしょう。

飯田怜さんの場合は、監督が「止めてくれ」と主催者側に伝えていたそうですが、レースの現場には伝わらなかったようです。

4.「選手ファースト」で事故発生を予防すべき

男子の「箱根駅伝」などと違って、今回の女子駅伝では、監督は自分のチームの選手が走っている間近にはいなかったようです。今後の事故発生予防の「課題」として残る問題です。

岡本春美さんの「脱水症状」については、私も真夏のゴルフの最中に「熱中症」か「脱水症状」で目の前が真っ暗になり気分が悪くなった経験があるのでわかるのですが、彼女の場合は大事な駅伝というレースのことが頭にあって、意識朦朧になりながらも走り続けようとしたのだと思います。

5.過去のオリンピックの事例を教訓とすべき

1984年8月5日の猛暑のロサンゼルス五輪で、脱水症状でフラフラになりながらもゴールまでたどり着いたスイスのアンデルセン選手のことが、脳裏にあったのかも知れません。

しかし、「脱水症状」は命の危険もある恐ろしいものです。話は飛びますが、2020年の東京五輪のマラソンでも、「熱中症」や「脱水症状」による悲劇が起こるのではないかと心配になります。

2019年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(はなし)~」の主人公の金栗四三(かなくりしそう)氏(1891年~1983年)も、1912年(明治45年)の「ストックホルム五輪」のマラソンに出場しましたが、競技途中で、日射病になって倒れてしまいました。近くの農家の人に介抱され、意識を取り戻したのはレースが終わった翌日の朝だったそうです。これが「消えた日本人」という語り草となり、1967年(昭和42年)にスウェーデンのオリンピック委員会の五輪55周年記念式典に招待され「オリンピック史上最も遅い記録(54年8ケ月6日5時間32分20秒3)でゴールイン」するという「伝説」を生みました。

この「ストックホルム五輪」のマラソン当日は、最高気温40度という記録的な暑さで、折り返し地点に給水所がありましたが、彼は立ち寄っていませんでした。参加者68名中およそ半数が「途中棄権」したそうです。レース中に倒れて翌日死亡した選手までいた過酷な状況であったようです。この話を聞くと、2020年の「東京五輪」がちょっと心配になって来ますね。

箱根駅伝でも、毎年ではありませんが、体調不良で「ブレーキ」になる選手が出ることがよくあります。「ブレーキ」になった選手の気持ちとしては、「多少体調が悪くても、箱根駅伝で走るチャンスを逃したくない。この調子なら多分大丈夫」ということで、出場を強行したのでしょう。しかし、結果としては、チームにも迷惑を掛けることになります。その判断は、なかなか難しいところではありますが・・・

いずれにしても、今後の対策として、マラソンや駅伝の競技連盟において「選手の負傷や体調不良の場合の競技中止に関する判断基準」を取り決めること、主催者側と監督との連絡体制を緊密にすること、主催者側の現場での対応マニュアルを取り決めること、救護の看護師・医師の待機態勢の明確化などが考えられます。

「選手ファースト」で、将来性のある若い人の選手生命を断ったり、縮めたりしないよう十分な配慮をお願いしたいものです。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」「命あっての物種」です。