1.野田の藤
令和6(2024)年度上期に発行される新五千円札の裏面の図柄に、日本固有の藤の一種で、大阪市福島区野田が発祥とされる「野田藤(ノダフジ)」が採用されました。ノダフジは江戸時代、全国的に有名で人気がありましたが、戦火に見舞われ、地域住民らが再生に尽力した歴史があります。
4月下旬に見頃を迎え、見事な紫のカーテンを作りますが、「新紙幣を機に、多くの人に存在を知ってもらえれば」と関係者は期待を寄せているそうです。
新五千円札にノダフジを採用した理由を財務省の担当者は、「古事記や万葉集にも登場するなど古くから多くの人に親しまれている」と説明しています。近代的な女子高等教育に取り組んだ津田梅子(1864年~1929年)を肖像画とする新五千円札は紫色が基調なので、紫の花が美しいノダフジとも色合いがなじむと判断されたようです。
一般にはあまり知られていませんが、大阪市福島区野田の「野田の藤」は江戸時代、「吉野の桜」「高雄の紅葉」とともに全国的に知られた三大名所の一つでした。
また「藤」に限っても、「牛島の藤」(埼玉県春日部市)、「春日野の藤」(奈良春日大社)と並ぶ「日本三大名藤」の一つに数えられています。
藤は樹齢がとても長く、日本各地に樹齢何百年の藤があります。「牛島の藤」は、樹齢1200年あまりで、「特別天然記念物」に指定されています。
「野田藤」が見られるのは、次のような場所です。見頃は例年4月下旬から5月上旬までです。
(1)下福島公園(大阪市福島区)
(2)大阪城公園(大阪市中央区)
(3)熊野街道の信達宿(しんだちしゅく)(大阪府泉南市)
(4)葛井寺(ふじいでら)(大阪府藤井寺市)
「摂津名所図会」には、「野田藤春日の林中にあり昔より紫藤名高くして」と紹介されています。
1364年には室町幕府の二代将軍足利義詮が、住吉詣での帰途に来遊し、次のような和歌を詠んでいます。
「いにしえのゆかりを今も紫のふじなみかかる野田の玉川」
1594年春には豊臣秀吉が野田藤を見物し、その見事さを称賛しています。その後「吉野の桜 野田の藤 高雄の紅葉」とわらべ歌にも歌われたそうです。
しかし、戦前まで残っていた野田藤の古木は、アメリカの空襲によってほとんどが焼失したそうです。
2.藤の種類
つるが「右巻き」と「左巻き」の二種類があります。「右巻きの藤」は「フジ」または「ノダフジ」と呼ばれ、「左巻きの藤」は「ヤマフジ」または「ノフジ」と呼ばれます。
3.藤にまつわる言葉など
(1)藤の花言葉
「決して離れない」「優しさ」「歓迎」「恋に酔う」などです。藤のつるは太くて長く、巻き付く力がとても強いそうです。この一度絡みついたら、がっちりと離さないという藤のつるの性質に由来する花言葉です。
この花言葉を「男女の情念」として捉えると、少し怖い気もします。
藤は独力で直立出来る木ではなく、他の木など何かに絡みつかないと生きていけません。実際、藤のつるが樹木にしっかり巻き付いて、その樹木を倒してしまうこともあるそうです。
(2)藤浪
「藤浪」とは藤の花房のことです。
藤の花は平安時代に盛んに和歌に詠まれましたが、古くは万葉集にも藤の花の歌あります。
「藤浪の花は盛りになりにけり 平城(なら)の京(みやこ)を思ほすや君」(大伴四綱)
(3)藤袴(ふじばかま)
秋(8月~10月ごろ)に散房状に薄紫色の小さな花を付けます。
余談ですが、藤袴は、「秋の七草」の一つです。ちなみに「秋の七草」は、萩・尾花・葛・撫子・女郎花・藤袴・桔梗です。
(4)藤娘
「大津絵」の画題で、娘が黒の塗り笠に藤尽くしの衣装で藤の花枝をかたげている姿のことです。
また、大津絵に題を取った歌舞伎舞踊(日本舞踊)の演目、およびその伴奏の長唄のことを指す場合もあります。
(5)花札
花札の4月札が「藤」です。余談ですが、花札には次のような「月札」という種類があります。
1月:松、2月:梅、3月:桜、4月:藤、5月:菖蒲(アヤメ)、6月:牡丹(ボタン)、7月:萩(ハギ)、8月:芒(ススキ)、9月:菊、10月:紅葉、11月:柳、12月:桐