最近、MMT(現代金融理論)という言葉をよく耳にするようになりました。今回はこのMMTについてご紹介したいと思います。
1.MMTとは
MMT(Modern Monetary Theory)とは、「インフレにならない限り、財政赤字を気にしなくてもよい」という異端の金融理論です。独自通貨を発行する国の政府は、際限なく通貨発行が可能なため、債務不履行(デフォルト)に陥らず、政府債務がいくら増えようと問題ない」というものです。
MMTの提唱者であるニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は、「巨額債務を抱えるのに、インフレも金利上昇も起きていない日本が良い例だ」と述べています。
また、安倍首相の経済ブレーンである浜田宏一内閣府参与も、6月3日首相に「政府は必ず均衡予算にしなければならないという説を主流の経済学者も疑うようになって来た」として、財政赤字拡大を容認する現代金融理論を説明しました。そして「財務省が、政府は金を借りてはいけないというのは嘘だ。借りれば国民生活は豊かになるかも知れない」と述べました。前内閣府参与の藤井聡京大教授もMMT肯定派でした。
2.MMTが注目を集める理由
(1)オカシオコルテス議員
このMMTが、最近日米でにわかに注目されるようになったきっかけは、アメリカの「史上最年少の下院議員」として注目を集めるオカシオコルテス議員(29歳)(民主党)がMMTの賛同者であることです。
彼女のTwitterのフォロワー数は250万人を超え、Instagramのフォロワー数も160万人あり、「2018年の選挙で当選した民主党新人下院議員全員よりもソーシャルメディアへの影響力が大きい」と言われています。
彼女は将来の民主党大統領候補との呼び声も掛かるほどの人気です。
彼女は、赤字の増加を防ぐために民主党が提案した「ペイアズユーゴー原則」にMMTに賛同する立場から反対しました。「ペイアズユーゴー原則」とは、「増税またはそれに見合った支出削減のいずれかによって財源を確保することを義務付ける原則」です。
「グリーンニューディール政策」(自然エネルギーや地球温暖化対策に公共投資することで、新たな雇用や経済成長を生み出そうとする政策)です。
彼女は財源について、「国家にとって、そもそも赤字は問題ではない。グリーンニューディールも、大恐慌の時のニューディール政策と同じように赤字の支出が必要である」と述べています。
(2)MMTに関する初の教科書「マクロエコノミクス」
この本は、大学生を対象にした600ページにも及ぶ教科書です。出版元のマクミラン社によれば、初回印刷分(印刷部数は未公表)はロンドンでの出版パーティーから2カ月で売り切れ、増刷の予定だそうです。
ただ、この本がかつて我々が大学で経済学を学んだ頃のポール・サミュエルソンの「経済学」という教科書のような普遍的なものになるかは疑問です。
3.MMTの問題点
しかし、この「国はいくらでもお札を刷ればよい」というMMTを推進すれば、やがて取り返しのつかない「ハイパーインフレ」になることは目に見えています。MMT推進派の人々は、「インフレになれば、その時点で止めればよい」としていますが、「車が急には止まれない」のと同様、うまくコントロールできない(制御不能になる恐れが強い)のではないかと私は思います。
第一次世界大戦後の敗戦国ドイツの悪夢のような猛烈なハイパーインフレは絶対に避ける必要があります。ドイツは「1918年から1923年までの約5年間で物価は1兆倍」になりました。
日本も、太平洋戦争の敗戦後、「準ハイパーインフレ」とも呼ぶべき猛烈なインフレに見舞われ、インフレが鎮静化した1955年の物価は開戦当初に比べて約180倍に高騰していました。
日本の地方公共団体を見ても、放漫財政の結果、実質財政破綻状態に陥りかけた大阪府のような例もあります。橋下徹元大阪府知事が危機意識を持って立て直しを図りましたが、国については、監督するところがありません。
MMT政策は、日本の国家としての信用を毀損し、日本の国債のさらなる格付下落を招くのではないでしょうか?現在海外投資家の日本国債保有比率が、10%未満だとしても今後増加する可能性もあり、財政破綻の危険がゼロとは言い切れません。
MMTは、決して日本の取るべき金融政策ではないと私は思います。麻生財務大臣に期待したいことは、しっかり安倍首相を説得し、間違った金融政策を取らないようにすることです。
なお、サマーズ元米財務長官やイエレン前FRB議長、パウエル現FRB議長も、MMTに批判的です。