私が子供の頃、母親が「暮しの手帖」という雑誌を購読していました。私が特に印象に残っている記事は、「各社の石油ストーブの発火実験による比較」というものです。「暮らしの手帖」編集部で実際に実験して、独自に「安全性」や「操作性の良否」その他の性能を判定したものだったと記憶しています。
今なら「消費生活センター」がやるようなことを行っていたもので、当時としては先進的な取り組みであったと思います。
ところで、最近「ハルメク」という「通信販売限定」の雑誌が、50代の女性(主婦層)に大変人気となっているそうです。今回は、この雑誌の人気の秘密を探ってみたいと思います。
1.「ハルメク」とは
「ハルメク」は、株式会社ハルメクが発行する50代以上の女性向け雑誌で、「シニア女性誌」部門で人気No1(2018年7~12月の実売部数21.5万部)となっています。全女性誌中3位、全雑誌中6位です。一般書店では買えない通信販売限定の定期購読誌です。
1996年に50代からの生き方暮らし方応援雑誌「いきいき」として創刊し、20周年を迎えた2016年5月号から雑誌名を「ハルメク」に変更しました。「心豊かな生き方、暮らし方を応援します」というのがコンセプトで、50代からの女性が前向きに明るく生きるために、本当に価値ある情報を提供する編集方針です。
最近の特集記事には、次のようなものがあります。
(1)50代からのスマホ 今より賢く使う簡単、便利のコツ
「ハルメク世代」(50代以上の女性をこう名付けています)の8割がスマホを使う状況なので、「使っているからこそぶつかる疑問やモヤモヤを徹底的に解消する企画」や「今よりもっと賢くお得に使うための簡単・便利なコツを紹介する企画」
(2)50代からのぽっこりお腹はこうして解消!
そろそろ薄着の季節で、お腹まわりが気になりますが、「運動するのは嫌、食べるのも我慢したくない」という「ハルメク世代」に、「がんばらない、無理しない」「5つのぽっこりお腹解消法」と、「日々の生活でぽっこりがすっきりになる習慣」を紹介
この雑誌は、「ハルメク世代」に的を絞って、彼女たちの関心が高い事柄を徹底的にわかりやすく、かつ受け入れやすい形で記事を提供して成功しているようです。ハルメク世代のニーズに、まさにピンポイントでマッチした記事を提供しています。
購読層を幅広く設定する一般的な「婦人雑誌」「総合雑誌」は、どうしても「総花主義」となり、「帯に短したすきに長し」という弊害に陥りがちです。
2.「暮しの手帖」とは
「暮しの手帖」は、1948年(昭和23年)9月に「美しい暮しの手帖」として創刊された「家庭向け総合生活雑誌」です。(1953年12月から「暮しの手帖」に改名)
2016年上半期のNHK朝ドラ「とと姉ちゃん」でも「暮しの手帖」をモデルにした『あなたの暮し』という雑誌が登場しました。
「暮しの手帖」の長年にわたる目玉企画は「商品テスト」でした。その他の主な内容は、家庭婦人を対象としたファッション、飲食物・料理、医療・健康関連の記事でした。
「商品テスト」は2007年で終了しましたが、高度成長期の日本の工業製品の品質改善に寄与しました。
「石油ストーブから出火させた商品テスト」では、「暮しの手帖」は、「初期消火はバケツ1杯の水で可能」と主張し、「毛布をかぶせよ」と指導する東京消防庁と対立しました。
消防庁消防研究所での実験の結果、「暮しの手帖」の意見が正しいことが証明されました。
3.二つの雑誌の成功の理由
(1)読者層の絞り込み
(2)ターゲットの読者層に関心・興味のある記事に特化した編集方針
(3)情報の取捨選択を行い、総花主義に陥らないようにしている
(4)ターゲットの読者層が理解しやすいよう、わかりやすい説明に徹している
この最後の(4)については、このような雑誌ばかりでなく、パソコンやスマホ、新しい電気製品や電子機器の「取り扱い説明書」(俗称「トリセツ」)についても、メーカーさんには心掛けてほしいことです。
特に我々のような「高齢者」や「機械音痴の人」にとっては、切実な問題です。福沢諭吉は「良い文章とは猿でもわかる文章である」という趣旨のことを述べていますが、「サルでもわかるトリセツ」「簡潔でわかりやすく、かつ明快な説明」を目指してほしいものです。
今後ますます「超高齢化社会」になって行く日本においては、このように「最新の技術や、みんなが知りたい情報を、的を絞って簡潔に分かりやすく解説すること」へのニーズが従来にも増して高まると私は思います。