スパコン富岳登場で前機種「京」の移設や再利用は?勿体ないようだが非現実的!

フォローする



スパコン京

2009年の民主党政権時代に、「事業仕分け」で蓮舫議員から「2位じゃダメなんですか?」というインパクトのある有名な文句で、予算が削られて開発が遅れたスーパーコンピュータ「(けい)」ですが、2011年6月に「計算速度世界一」(10.5ペタ。毎秒1京回を超える計算速度)となり、日本の科学技術力の高さを証明して面目を施しました。

その「京」も2019年8月で稼働を終了し、後継機種の「富岳(ふがく)」にバトンタッチすることになりました。「富岳」は2021年頃から運用開始の予定です。

「京」の本格稼働開始は2012年でしたので、7年間の運用だったことになります。

1.スパコン「富岳」とは

スパコン富岳

次世代スパコン「富岳」は、「京」の100倍のスピードを3倍程度の消費電力で実現できるそうです。

2.前機種「京」の移設や再利用は?

神戸のポートアイランドの「理化学研究所」にあるスパコン「京」は、8月30日に稼働を終了し、9月以降に解体を始め、同じ場所に後継機の「富岳」を設置することになっています。

ところで、素人の私には、開発費などに793億円もかかった「京」のハードウェアを、移設したり、再利用しないと勿体ないような気がするのですが、現実問題としては無理なようです。

移設や再利用が無理な理由は次のようなものです。

(1)年間100億円の維持費が必要

電気代や冷却用の水道代、メンテナンス費用に100億円が必要で、経年劣化する中、巨額の経費をかけて運用する施設ではないということです。

(2)全体で864台あるラックを分割して全国の大学に設置することも無理

新たに水冷施設の建設が必要で、移設に6千万円、年間維持費に1億円以上かかる上、今後の保守点検作業の保証も出来ないということです。

(3)分解して「基板」(システムボード)や「記憶装置」(メモリー)を販売するのも無理

「基板」や「CPU」は「京専用」に設計されており、一般のパソコンに利用できるような汎用性がないということです。

そういうわけで、結局理化学研究所では、部品から金属などの素材を抽出して売却し、撤去費用の一部に充てるほか、「計算科学の歴史的資料」として、全国の科学館に一部を収蔵してもらう働きかけを進めているそうです。

3.スパコン開発競争の現状について

ところで、最初に述べた蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」発言について、今一度冷静に振り返ってみたいと思います。

というのも、陸上競技水泳などスポーツの世界で、「スピード競争」が過熱し様々な弊害が出ています。また、ゴルフにおいても「飛距離競争」が行き過ぎているように感じます。

そういうわけで、スパコン開発競争においても、「計算速度世界一」だけを追求するのが正しいのか疑問に思うようになったのです。

元内閣府参事官で「構想日本総括ディレクター」の伊藤伸氏によれば、あの発言の真意は次のようなものだったそうです。

①スピードだけを求めるのではなく、大事なのは利用者(研究者)の使いやすさである

②「10ペタ」の計算速度のスパコンに対する産業界のニーズは本当にあるのか?

③アメリカが2012年までに10ペタのスパコンを開発しようとしている中、仮に日本のスパコンが世界一になっても、いつまでも世界一ではいられない

④サイエンス(科学)の世界には「費用対効果」の考えは必ずしもなじまないが、1000億円以上の税金が投入されることの成果が見えないのは問題ではないか?

これを見ると、私も「一理ある」と感じます。

この事業仕分けの結果文部科学省は「利用者側視点」に転換したそうです。開発するスパコンと国内のスパコンをネットワークで結んで共同化したり、開発時機を遅らせ開発費総額も削減しています。

2019年6月のスパコンの「計算速度ランキング」では、「京」は世界で30位、国内で3位でした。世界一はアメリカの「サミット」の149ペタ、日本一は産総研の「ABCI」(世界で8位)の19.9ペタです。

そういう経緯から、「京」の後継機の「富岳」では、「利用者の使いやすさに重点を置き、実用性をさらに向上させる方針」(2019/9/3毎日新聞)となり、スピードの世界一は狙わないことになったそうです。

また今年8月末で稼働を終了した「」も、スピードで世界一から外れて以降も、メモリアクセスの速度や性能などの優位性を測るHPCチャレンジ賞」の4部門全てで1位(2016年)になるなどスピード以外の特性を大いに伸ばしました。

さらに「大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析」に関する性能ランキングGraph500」では、2015年6月から2019年6月まで9期(5年)連続で1位を守りました。これはまさに、「スピードに拘らない開発の成果」と言えそうです。

こうして振り返ってみると、私は蓮舫議員の発言を誤解していたようです。多くの世間一般の人も「事業仕分けはパフォーマンス」という先入観があったため、誤解していたのではないでしょうか?