私が子供の頃、バナナは「台湾バナナ」でした。価格は高価でしたが、栄養があり非常に甘くて美味しかったように記憶しています。1955年ごろまでは、病気になった時だけ食べられるとか、お土産としてもらうぐらいのものでした。今で言えば、高価なマスクメロンのような感じでした。
バナナについて父から聞いて驚いた話があります。それは、「アフリカでは、猿でもバナナに見向きもしない。それほどありきたりで美味しいと思われていない果物だ。高価で美味しい果物として食べるのは日本人くらいだ」という話です。
1.「台湾バナナ」の品種改良
台湾は気候的にフィリピンに比べて寒いので、フィリピンでは8ケ月で収穫できるのに、台湾では12ケ月~13ケ月もかかり、バナナの生育条件としては不利です。しかし、促成栽培が出来ない分、味と香りが濃いのが特徴です。
台湾が日本統治下にあった時代(1895年~1945年)に、日本人が現地の農民を指導して、日本人の好みに合うように台湾バナナの品種改良を重ねました。
2.「エクアドルバナナ」
しかし、台湾バナナはたびたび台風の被害を受けた上、1962年にはコレラが流行して出荷量が激減し、それに代わって「エクアドルバナナ」が入って来るようになり、一時シェア8割を占めるまでになります。
しかしエクアドルバナナは長距離輸送と品質管理面で問題があり、良質の台湾バナナに徐々に巻き返され、1967年ごろには再び台湾バナナが8割のシェアを取り戻します。
3.「フィリピンバナナ」
一方、「フィリピンバナナ」は、1967年ごろは2%のシェアでしたが、1973年には50%、1974年には70%のシェアを占める躍進を遂げます。その原因は、品質では台湾バナナに及ばないものの、輸送距離が短く品質劣化が少なかったからです。
しかし、バナナの消費大国だった日本では、この時期バナナの消費自体が急激に減少して行きます。これは収穫期をずらして果物を収穫できる「ハウス栽培」の一般化によって、バナナ以外にも果物の選択肢が広がったためです。
このような経緯で、私たちは現在、バナナを安価な果物としてよく食べていますが、青いまま収穫するためかつての台湾バナナほど美味しく感じません。
贅沢な話と言えばそうなのですが、なぜかバナナの有難みが最近は少なくなりました。
4.「バナナ・ボート」の思い出話
本題とは無関係ですが、バナナの記事を書いていて思い出したことがあります。それはジャマイカ系黒人歌手のハリー・ベラフォンテが1956年にリリースして大ヒットした「バナナ・ボート」という曲です。この曲はジャマイカ民謡の一種の「メント」で、ジャマイカ人の港湾荷役夫の労働歌です。
日本では1957年、マンボに続くラテン音楽としてカリプソブームが起こり、その代表曲として紹介され、浜村美智子のほか江利チエミ、旗照夫も歌ってヒットしました。
出だしの「Day-o,Day-ay-ay-o」が「デーオ、ディエエーィオー」と聞こえたり、「me say day,me say day」の部分が「イデデ、イデデ」と聞こえる面白い曲です。子供の私たちは「イデデ、イデデ、痛ててぇ」などと替え歌にして歌って面白がったものです。
5.「新パナマ病」でバナナ絶滅の危機?
(1)原種のバナナは「種あり」
原種のバナナは「種あり」でしたが、品種改良によって今我々が食べているような「種なしバナナ」が生まれました。
その結果、バナナを増やす方法は「株分け」です。しかし、「株分け」によるバナナは「遺伝子が同じクローン」のため、カビなどの病気が一気に広まるというデメリットがあります。
(2)パナマ病
1900年代の初めに「グロス・ミシェル種」という種なしバナナの品種ができ、アメリカで瞬く間に人気となりました。しかし、1950年代にパナマで最初に確認され一気に世界中に広まった「パナマ病」というバナナのカビの病気によってバナナが立ち枯れするようになり、「グロス・ミシェル種」は壊滅的な被害を受けました。
(3)新パナマ病
そこで何年もかけて品種改良をした結果、「グロス・ミシェル種」よりも味は悪いがパナマ病に耐性のある「キャベンディッシュ種」という種なしバナナの品種が生み出されました。現在われわれが食べているバナナの品種です。
しかし、1990年ごろ台湾で「キャベンディッシュ種」も感染する「新パナマ病」が発見されました。その後、中国・インドネシア・マレーシア・フィリピンなど東南アジア各国に感染が拡大しました。
最近では南米コロンビアで、「新パナマ病」の発生が確認され、コロンビア農牧院は2019年8月8日に「非常事態宣言」を発令しました。
「キャベンディッシュ種」も、「グロス・ミシェル種」と同じように絶滅する運命をたどるのでしょうか?
「新パナマ病」に耐性のある品種への切り替えには、数年はかかるそうです。今はバナナは安い「おやつの王様」ですが、この品種改良によって、またバナナが「高価な果物」になってしまわないか心配ですね。
コメント
先日はコメントをいただきありがとうございます。
バナナが高価だったことを私も知る年代です。
あの頃、高価な食べ物といったら「バナナ」に「玉子」でした。逆に安いものとしては「クジラ肉」でした。貧しかった我が家は、クジラ肉の缶詰は安くておいしい食材でした。
今は、逆転してしまいましたね