「レンタルなんもしない人」とは?学歴や仕事内容は?依頼者はどんな人?

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レンタルなんもしない人

最近、「レンタルなんもしない人」(以下「レンタルさん」)という仕事を始めた大阪大学出身のフリーターが話題になっています。彼の名前は、森本祥司さん(35歳)で、1年ほど前からこの仕事を始めました。

1.「レンタルなんもしない人」(レンタルさん)とは

2018年6月2日、彼は次のような奇妙なツイッターを発信しました。

『レンタルなんもしない人』というサービスを始めます。1人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。
国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます。ごく簡単なうけこたえ以外なんもできかねます。

しかし、このツイートはすぐに話題となり、その存在が知られるようになりました。

2019年に入って、書籍「レンタルなんもしない人のなんもしなかった話」、「<レンタルなんもしない人>というサービスをはじめます。スペックゼロでお金と仕事と人間関係をめぐって考えたこと」の2冊を発売し、漫画化やバラエティー番組への出演、NHKのドキュメンタリーで密着取材を受けるなど、その風変わりで斬新な生き方には各メディアから注目が集まっています。

(1)彼がこの仕事を始めるまでの経歴

大阪大学の大学院を卒業して、周囲が研究者の道へ進む中、学習参考書の出版社に入社します。しかし、いろいろと悩んで、3年で退社しています。その後「ライター業」をやりましたが、しっくりこなくて「自分には何にも向いていない」と思ったそうです。

サラリーマン時代に上司から、「生きているのか死んでいるのかわからない」「なんでいるのかわからないと言われたそうです

(2)彼がこの仕事を始めた経緯

33歳の時にニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」(*)を読んだことで人生観が変わりました。

(*)(筆者注)「ツァラトゥストラ」とは、古代ペルシャの預言者「ゾロアスター」のドイツ語読みで、「ゾロアスター教」の開祖。この本は、彼の言行に仮託して<超人><永劫回帰><力への意志>などを語ったもの。これらの言葉はわかりにくいので以下に説明します。

<超人>とは、「自らの確立した意思をもって超然と行動する人間」のことです。これに対して「人間関係の軋轢に怯え、生活の保障・平安・快適・安楽という幸福を求める一般大衆を「畜群」と批判しています。

<永劫回帰>とは、「人の生は宇宙の永遠の循環運動と同じように繰り返すものであるから、人間は今の一瞬一瞬を大切に生きるべきであるという思想」で、「生の絶対的肯定と、神・霊・魂のような虚構の全面否定」を説くニーチェの根本思想です。

<力への意志>とは、「人間を動かす根源的な動機」のことです。「生きている間に、できる限り良い所へ上り詰めようとする努力」は「力への意志」の表れであり、「我がものとし、支配し、より以上のものとなり、より強いものになろうとする意欲」とも表現されます。

それまで、自分の中にあった「〇〇しなければならない、と縛られていた常識や価値観が覆されて、だいぶ生きやすくなったそうです。余談ですが、俳人の中村草田男も、旧制中学時代に「ツァラトゥストラはかく語りき」を読んで生涯の愛読書になったそうです。

「自分で面白いと思えばそれでよい」という「根拠のない自信」が生まれたそうです。

ニーチェは、人間関係の軋轢に悩みながら生活の保障や安楽のために生きるのではなく、「永劫回帰の人生」の中で、自らの確立した意思を持って「超人」として生きよと説いています。

レンタルさんは、「大のお笑い好き」でもあり、「ネット大喜利」というサイトに6年間くらい投稿していたこともあったそうです。「短文でユーモアのある気の利いたことを言う」ツイッターにも、彼のお笑い好きの一面が現れているようです。

レンタルさんは、最初にご紹介したツイッターにある通り、「無償」(*)でレンタルをしています。「ネット大喜利で知り合ったイラストレーターの奥さんと1歳のお子さんがいるそうですが、どうやって生活しているのか、他人事ながらちょっと気になりますね。

これについて彼は「会社員時代の貯金を取り崩しています。最近は本の発売やメディアの出演もありますし、レンタル業は交通費だけお願いしていますが、別途で頂ける場合はお断りしていません」と語っています。

(*)<2020/1/10追記>「無償」から「有償」に変更

2019/9/16から、「1回1万円に有料化」することを宣言したそうです。理由は、「テレビで紹介された後、『育児放棄』とか『奥さんが可哀そう』『ちゃんと働け』など彼の家庭や家事育児に対する考え方に批判が集中したから」とのことです。

これは、当初の彼のコンセプトからは外れるように私は思いますが、その後の「依頼数の変化」や「お客の反応」はどうなっているのでしょうか?気になるところです。

無料の時にあった「ちょっとした依頼」は業者に頼めば1万円より安い費用で出来るので減ったようですが、今のところ、1日3~4件の依頼はあるそうです。

(3)どんな人がどんな依頼をしてくるのか

依頼者は若い女性が多く、女性ゆえの不安を解消する「なんもしない」リクエストも多いそうです。

「なんもしなくていい。家族でも友人でも恋人でもない。自分のことを全く知らない誰かに、ただそばにいてほしい」という「潜在需要」が確かにあったということです。

これは「心のスキマに寄り添って、それを埋めるサービス」と言えるかもしれません。しかし、「心理療法士」のようなスキルを使って依頼者の心を癒すわけでもなく、的確なアドバイスを与えるわけでもありません。「ただそこにいるだけの、空気のような存在」なのです。

しかし「知らん顔」をしているわけではなく、相手の秘密めいた打ち明け話に耳を傾けたり、相手が話しかければ、適当に相槌を打ったり、簡単な会話を交わしたりします。

「レンタルなんもしない人のなんもしなかった話」の中に具体的な依頼者と依頼内容が出ていますので、いくつかご紹介します。

①結婚式を眺めにきてほしいという依頼。事情により友達呼ぶの控えてたけど少しは誰かに見てもらいたい欲が出てきたとのこと

②離婚届の提出に同行してほしいという依頼。一人だと寂しさがあるのと、少し変な記憶にしたいという思いもあるとのこと。『最後に、お疲れ様でした(旧姓)さんと言ってもらえますか』と頼まれその通りにした

③「自分に関わる裁判の傍聴席に座って欲しい」との依頼。民事裁判で、依頼者は被告側。初裁判の心細さというより、終わって一息つく時の話し相手が欲しいとの思いで依頼に至ったらしい

④「引っ越しを見送ってほしい」との依頼。友達だとしんみりし過ぎてしまうため頼んだとのこと。元の部屋~東京駅だけの付き合いだったけど、いろいろ楽しい会話もあり、演技のない名残惜しさで見送れた

⑤気の進まない婚活の作業を見守ってほしいとの依頼。唸り声を10分に1回くらいあげながら、登録作業に勤しんでいた

2.「レンタル家族」とは

「レンタル家族」は「家族代行サービス」とも呼ばれる「有料レンタルサービス」で、「便利屋」の一種です。レンタルをしてでも「家族」を必要とする様々なニーズがあるようで、多くの企業が参入しています。

介護施設に入居している高齢者を見舞いに来てくれる「レンタル孫」や、結婚することを許してくれない父親の代わりに両家の挨拶に出席する「レンタル父親」などがあります。

このほか、「レンタル母親」「レンタル彼氏」「レンタル彼女」「レンタル夫」「レンタル妻」などもあるそうです。妹が欲しすぎる家族への「レンタル妹」のような「兄弟代行」まであるそうです。

しかし、やむを得ない事情があるにせよ、」これはあくまでも「ニセ家族」であり、何か空しいものを感じるのは私だけでしょうか?

また、「ニセ家族」の正体がバレて、かえって修羅場になるなどのトラブルにならないのか、他人事ながら心配です。その日にはバレなくても、後日「ニセ家族」だったことがバレた場合、どう辻褄を合わせて取り繕うのでしょうか?

3.鶴田浩二の「ニセ戦友」の話

余談ですが、鶴田浩二(1924年~1987年)という有名な俳優・歌手がいましたが、「彼がテレビに出て『海軍航空隊時代の戦友』として紹介した人は、本当の戦友ではなかった」とテレビの裏事情に詳しい人から聞いたことがあります。

彼は関西大学専門部(商科)在学中に、「学徒出陣令」により徴兵され、終戦まで「海軍航空隊」に所属し、特攻基地を飛び立つ戦友たちを見送っていました。

1953年には海軍予備学生の手記を原作とした「雲流るる果てに」という映画に主演しています。この映画は、若き特攻隊員の苦悩を描いたものです。

この映画に主演して以来、彼は「特攻隊の出身、特攻崩れ」だと称していました。しかし、実際は「海軍航空隊整備科予備士官」で、出撃する特攻機を見送る立場でした。

鶴田が、1974年に読売テレビの「帰って来た歌謡曲・鶴田浩二・戦友よ安らかに」という番組に出演した時のことです。「元海軍少尉小野栄一こと鶴田浩二」が、太平洋戦争で特攻隊として死んでいった戦友に歌を捧げ、一緒に出演した6人の「同期の桜」と当時の思い出話をするという趣向でした。

「元特攻隊員」と称していた嘘がバレて、同隊の「戦友会」から軍歴詐称だと猛抗議を受けたそうです。

これは「同期の」ならぬ「同期のサクラ」というわけで、洒落にもなりません。

ただ、この話は、嘘が多いテレビ局の番組制作者や、映画会社の宣伝部にも責任の一端はありそうです。

4.「笑うせぇるすまん」の話

「レンタルなんもしない人」とは全く関係がありませんが、これが、「心のスキマを埋めるサービス」だということで思い出したのですが、今から30年ほど前に藤子不二雄Ⓐ(1934年~2022年)原作のブラックユーモア漫画「笑うせぇるすまん」というのがありました。テレビアニメやドラマ作品としても放映されましたので、ご記憶の方も多いと思います。

「謎のセールスマン『喪黒福造(もぐろふくぞう)』が現代人の心のスキマに入り込み、ちょっとした願望を叶えてやりますが、約束を破ったり忠告を聞き入れなかった場合にその代償を負わせる」という筋立てで、一話完結のオムニバス形式の物語となっており、なかなか面白い作品でした。

老若男女、この世は心の寂しい人が多い。そんな人の心のスキマを埋め、どんなささやかな願い事でもボランティアで叶えるのが「喪黒福造」です。黒ずくめで常に笑みを浮かべる不気味な雰囲気を持ち、「お客様」を見つけると、その「心のスキマ」を埋めるサービスを提供し、それに伴う「約束事」を厳守するように注意します。

サービスを実行して、その「心のスキマ」が埋まると、「お客様の満足」が「喪黒の報酬」となるのですが、約束を破ったり、欲張って更なるサービスを要求したりすると、「契約違反」とみなし、「ペナルティー」として人差し指で「お客様」に向かって指を差し、「ドーン!!!!」と叫んで破滅に追いやるという怖い結末を迎えるお話です。


レンタルなんもしない人のなんもしなかった話 [ レンタルなんもしない人 ]


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