最近、萩生田文部科学大臣の「身の丈発言」でにわかにクローズアップされた「英語共通テスト」ですが、連日の報道を見ると確かに不備が多く「問題だらけ」というのが多くの国民の感想ではないかと思います。
1.英語共通テストの問題点
2019年11月1日は、「センター試験」に代わる「大学入試共通テスト」(以下、「共通テスト」と省略)の共通ID申し込み開始日でした。
しかし、同日午前、萩生田大臣は「2020年度の英語民間試験導入を2024年度に延期する」と発表しました。
具体的に決まったことは次の3点です。
①2020年度の英語民間試験の導入は延期とする
②共通テストの英語は2021年1月に実施
③新たな英語試験を今後1年かけて検討し、2024年度からの実施を目指す/英語民間試験の導入についても同様
これは、10月24日BSフジの「LIVEプライムニュース」という番組で、萩生田臣が「裕福な家庭の子供が回数を受けてウォーミングアップできるというようなことがあるかもしれないが、自分の身の丈に合わせて2回をきちんと選んで頑張ってもらえば」などと発言したことが、「身の丈発言」として野党などから問題視されたことが発端です。
余談ですが、1950年に吉田内閣の池田勇人蔵相が「所得の少ない方は麦、所得の多い方はコメを食うというような経済原則に沿った方へ持って行きたい」と答弁したのが、「貧乏人は麦を食え」との見出しで新聞報道され、物議を醸したことがあります。
今回の萩生田大臣の発言が「大臣不適格」とまで非難されたのは、現在の日本が「不寛容社会」だからですが、この発言を契機として「英語共通テストの問題点」があぶりだされ、広く知られるようになったことは、「怪我の功名」というべきかもしれません。
(1)英語共通テストとは
従来のセンター試験と異なる点は次の二つです。
①従来の「マークシート方式問題」に加えて、「記述式問題が導入される」こと
②英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を評価するために、「民間の英語試験の成績が利用される」ようになること(従来は、2技能「読む・聞く」だけの評価でした)
(2)英語共通テスト導入の背景
「急速に進展するグローバル化」が背景です。大学を卒業して、将来的に世界で活躍する若者たちには高度な英語によるコミュニケーション能力が必須となっています。
グローバル企業の中には「会議は英語で行う」とか、総合職には「TOEIC」などの「英語試験」の「一定程度以上の成績」を義務付けるところもあります。
かつてのように英語が「海外勤務する人」とか「貿易関係に従事する人」だけに必要という時代ではなくなっているのです。
前に「英会話体験」の記事にも書きましたが、私自身もそうですが、中学から大学まで8年間も英語の勉強をしていても、「英語の『読む・書く』はできても『聞く・話す』は苦手という日本人が多い」ことも背景にあると思います。
(3)英語共通テストの問題点
①共通テストの英語の配点:センター試験では、「リーディング」と「リスニング」の比率が4:1だったのが、共通テストでは1:1に変わります。「リスニングが苦手な人」や「リスニングの準備が不足の人」には致命傷になります。
②各大学の英語入試の再構築:現在、民間試験の導入を前提に入試の制度設計がすでに終了していますが、民間試験の導入が延期された以上、再設計が必要になります。
③民間試験実施団体・企業への補償:現在のところ言及されていませんが、今後実施団体・企業からの損害賠償請求訴訟が提起される可能性もあります。
④記述式の採点の難しさ:「正答の基準や条件」をどのように設定するかという本質的な問題、実施する側の「採点ミス」や、「自己採点との不一致」が発生する問題のほか、短期間に大量の答案を採点する必要があるため「大学生などのアルバイト」が動員される可能性があり、「採点者の質の問題」が発生する可能性もあることです。
2.小学校からの英語教育
日本人全体の英語4技能(読む・聞く・書く・話す)を底上げする必要があることは異論がないことだと思います。
そのために必要なことは、来年から始まる小学校はもとより、中学校・高校での英語の授業においても、従来の「読む・書く」偏重から「聞く・話す」の比重を上げることです。
つまり「学問としての英語」から「コミュニケーション手段としての英語」能力の向上を図ることです。
(1)教員の質の問題
その場合、問題になるのが「教員の質」です。我々の中学・高校時代の英語教師は、お世辞にも上手とは言えない「ネイティブスピーカーとは程遠い発音」でした。このままでは「聞く・話す」のレベルアップは無理です。
ましてや、今の小学校の教員に中学・高校の英語教師以上の能力を望むのは無理です。そこで対応策として、次のような人材を英語の授業に投入すべきではないかと考えます。
①お雇い外国人(ネイティブスピーカー)の活用
幕末から明治時代にかけて西欧の学問や技術・制度を導入するために、多くの学問分野において多数の「お雇い外国人」を招きました。ラフカディオ・ハーンやエドワード・モース、アーネスト・フェノロサなどが有名ですね。
英語の教育に関していえば、彼らほど高級な「お雇い外国人」は必要ではありませんので、人材は集めやすいのではないかと思います。
②英会話学校の外国人講師(ネイティブスピーカー)の活用
③海外在住経験のある主婦の活用
④同時通訳者など英語のコミュニケーションの高い人材の「(英語学習の)ノウハウ」の活用
⑤「AI」の活用
これは、人間ではなく「ネイティブスピーカーとの双方向の対話が可能なAI」を利用して、コミュニケーション能力を高める学習方法です。先日、英語学習AIロボット「Musio」について次のような報道がありました。
人工知能エンジンおよび人工知能ソーシャルロボットを開発するAKAは、英語学習AIロボット「Musio(ミュージオ)」ユーザーに向けて新しい子ども向けコンテンツやMusioとの生活をより楽しくするグッズとサービスを2019年11月から12月にかけて順次発売・提供すると発表した。
Musioは、英語でコミュニケーションをとれるようになることを目的とした英語学習AIロボット。アメリカのネイティブ英語を話し、自然な英会話ができる「チャットモード」、専用教材とスキャナーを使用し、レベルや目的に合わせた英語学習ができる「チューターモード」、英語を話すために必要な単語・パターン・会話フレーズの反復練習と発音チェックをする「エデュモード」の3つの英語学習機能が搭載されている。
同志社中学校では、「MusioX」(ミュージオエックス)を使った授業を、全国に先駆けて3年前から始めているそうです。
また、オンライン辞書で有名なWeblioが「AIと英語学習ができるサービス」を提供しています。これは、「Skypeを使った自宅でできるオンライン英会話学習」です。
このようなAIを活用した英語学習は、将来的には有望な手法だと思います。
(2)教育内容の問題
まずは従来の「読む・書く」中心の英語教育から、「読む・書く・聞く・話す」の英語の4技能を正しい発音でバランスよく伸ばす努力を数年間は続けることです。
そして中学や高校の授業やテストの中で、4技能習得度合いと授業の進め方の成果や問題点を検証し、ある程度受験生に4技能の習得が定着してから大学入試の「英語共通テスト」を導入するべきだと思います。拙速は禁物です。
なお、アジア諸国の中で「英語のコミュニケーション能力が高い」と言われるシンガポールやマレーシアの英語教育の手法を参考にすることも必要ではないかと思います。
英語教育が発展している国や地域の特徴として、TOEFL・TOEICを開発するETS社の最高執行責任者デイビッドは次の4点を挙げています。
1.英語教育を早期から行っている。
2.英語の指導の質が良い。
3.英語を使用する実践の場がある。
4.英語を身につけることによるインセンティブがある。
(※ベネッセ教育総合研究所、グローバル教育研究室より引用)
シンガポールやフィリピンのように英語が公用語の国と比べて、日本では英語を全く使わなくても日常生活に支障がありませんので、外国語習得には困難が伴います。
そのため、「間違いを恐れない」「恥ずかしがらない」「積極的に英語を使う環境に身を置く」「英語は意思疎通の単なる手段と割り切る」など発想を転換してポジティブになることが必要なようです。