日本語の面白い語源・由来(ゆ-②)ユッケ・憂鬱・百合・柚子・湯・油断・湯たんぽ

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ユッケ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.ユッケ

ユッケ

ユッケ」とは、「牛肉の赤身を細く切り、醤油・ごま油・にんにく・砂糖・コチュジャンなどで和え、中央に卵黄をのせ、ネギや松の実を散らした朝鮮料理」です。

ユッケは、韓国語で「肉」を意味する「ユク(Yuk)」と、「刺身」「なます」を意味する「フェ(Hoe)」が合わさった語で、「肉の刺身」を意味します。

ユッケの肉には、「ランプ」と呼ばれるモモ肉を使用するのが一般的ですが、マグロや馬肉、牛タンなどで作られるものもあります。

2.憂鬱(ゆううつ)

憂鬱

憂鬱」とは、「心が晴れないこと。気分がふさがってこもりがちなこと。また、そのさま」です。

漢語「憂鬱」からで、『管子』や『韓詩外伝』などの中国古典が出典です。
憂鬱の「憂」は、「心配」「悩み」「とどこおる」といった意味です。
憂鬱の「鬱」は、「茂る」「群がる」「盛ん」のほか、「ふさがる」「こもる」「蒸れる」の意味もあります。

漢字の読みは「ゆううつ」ですが、母音の「う」が続くため、「体育」を「たいく」と読むように、「ゆうつ」と誤読されることが多いようです。

3.百合(ゆり)

百合

ユリ」とは、「夏に漏斗状の花をつけるユリ科ユリ属の総称」です。多年性で地下に鱗茎があり、食用になるものもあります。

ユリの語源は、風に吹かれて花がゆらゆらすることから「ユリ(揺り)」の意味のほか、「ヤヘククリネ(八重括根)」の意味、花が傾くことから「ユルミ(緩み)」の意味、鱗茎が寄り重なることから「ヨリ(寄り)」など諸説あります。

この中では、「揺り」の説が定説となっています。
最も古い説では、ユリ属の一般名称である朝鮮語の「nari」が転じたとする説があります。

「揺り」などの日本語に由来する説は「nari」の説よりもかなり遅いことから、「nari」に由来することが忘れられ、日本語に語源を求めたという見方がある反面、音韻変化が不自然との見方もあり、この説が正しいとは言い切れません。

ユリの漢字「百合」は、根が重なり合う様子を表すといわれることから、「ヤヘククリネ(八重括根)」や「ヨリ(寄り)」の説も考えられます。

「百合」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・花をやれ とかく浮世は 車百合(西山宗因)

・かりそめに 早百合生けたり 谷の房(与謝蕪村

・飴売の 箱にさいたや 百合の花(服部嵐雪)

・偽りの なき香を放ち 山の百合(飯田龍太)

4.柚子(ゆず)

柚子

柚子」とは、「中国原産のミカン科の常緑低木」です。白い花が咲き、黄色い扁球形の実を結びます。果皮は香気が高く、果汁は酸味が強いのが特徴です。香味料・マーマレード・菓子の材料などにします。

柚子は、中国語の「柚(ユウ)」から平安時代には「ユ」と呼ばれ、「ユズ」と呼ぶようになったのは江戸時代以降です。

「ユズ」も中国語の「柚子(ユウヅィ・ユウツ)」に由来します。
「柚子」は「柚(ユ)の実(ズ)」という意味で、植物そのものが「ユ」、その果実を「ユズ」というのが本来の形です。

現在では「ユズ」の呼称で統一されているため、「柚」の一字で「ユズ」と読ませることもあります。

この植物から酢を採ることは古くから行われており、1603年の『日葡辞書』にも「ユノス(「柚の酢」の意味)」という語があるため、ユズの「ズ」を「酢」の意味と解釈するものもありますが、韓国でも「柚子(ユジャ)」と言うことから「酢」と関連付けるのは困難です。

「柚の酢」は「ユズ」の呼称が定着した要因のひとつとに過ぎず、語源は「柚の実」の意味の「ユウヅィ(ユウツ)」と考えるのが妥当です。

冬至の「柚子湯」が有名ですが、「柚子」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・柚の色に 心もとりぬ 魚の店(市原多代女)

・荒壁や 柚子に梯子す 武者屋敷(正岡子規

・騒然と 柚の香放てば 甲斐の国(飯田龍太)

・柚子打の 出てゐる愛宕 日和かな(長谷川櫂)

5.湯(ゆ)

湯

」とは、「水を煮えたたせて熱くしたもの。入浴するため、沸かした水。風呂。温泉。出湯(いでゆ)」のことです。

湯の語源には、温泉が湧き出る意味の「いづ(出)」の反や、「湧」の字音からなど諸説あり、有力とされているのは「ゆるむ(緩む)」の意味とする説です。

冷水は縮まるようなものであるのに対し、湯は身も緩やかになるものなので妥当な説といえます。

6.油断(ゆだん)

油断

油断」とは、「気を許して注意を怠ること」です。

油断の語源には、有力とされる語源が二説あります。

ひとつは、『北本涅槃経 二二』の「王が臣下に油を持たせて、一滴でもこぼしたら命を断つと命じた」というから、「油断」の語が生まれたとする説。
もうひとつは、「ゆったり」「のんびり」という意味の古語「寛に(ゆたに)」が、音変化して「ゆだん」になったとする説です。

『北本涅槃経』の説が正しければ、「ゆだん」の漢字表記は全て「油断」となるはずですが、古辞書には「油断」のほか、数々の漢字が用いられているため考え難いものです。

「ゆたに」が音変化して「ゆだん」になったとする説は、用例が見当たりません。
ただし、四国の一部地域では「ごゆっくりしてください」という意味で「ゆだんなされ」と言うこところもあり、確定は難しいですがやや有力と言えます。

その他、行灯などの油の準備を怠ったため夜中に油が切れ、敵に襲われ命を落とすことから「油断」になったとする説もあります。
しかし、他の漢字が用いられたことが考慮されておらず、そのような文献も見られないため、漢字に当てはめて作られた後世の俗説と考えられます。

7.湯たんぽ(ゆたんぽ)

湯たんぽ

湯たんぽ」とは、「暖房用具のひとつ。中に湯を入れ、寝床や足・腰などを暖める金属・ゴム・陶器製の容器」です。

湯たんぽの「たんぽ」は、「湯婆」の唐音読みです。
中国では唐の時代から湯たんぽの存在が見られ、「湯婆子(tangpozi)」「湯婆(tangpo)」と呼ばれました。

婆は「妻」や「母親」の意味で、妻や母親の温かい体温を感じながら寝るように、お湯を入れた容器を代わりに抱いて寝ることから付いた呼称です。

「たんぽ(湯婆)」のみで「湯たんぽ」を表しますが、日本では「たんぽ」のみでは意味が通じず、温める容器のことと解釈したことから、日本に伝わった際に「湯」が付け加えられ「湯湯婆」となりました。

日本へ湯たんぽが伝わったのは、室町時代頃とされます。
「たんぽ」の語源には叩いた時の音に由来する説もありますが、日本語起源の言葉という仮定を元に考えられた説で、叩いた時の音は関係ありません。

「湯たんぽ」「湯婆(たんぽ)」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・起さるる 声も嬉しき 湯婆かな(各務支考)

・勤行に 起き別れたる 湯婆かな(炭太祇)

・先づよしと 足でおし出す たんぽかな(小林一茶

・なき母の 湯婆やさめて 十二年(夏目漱石