最近、教育界で「アクティブラーニング」が注目されています。
今年1月以来の「新型コロナウイルス肺炎」の世界的感染拡大(パンデミック)を受けて、この「アクティブラーニング」の積極的活用を検討する動きがあります。
大学の教育改革が叫ばれる中、注目されたのが「アクティブラーニング」で、現在では高校や義務教育でもこれを取り入れる動きが盛んになっています。学習塾でも「アクティブラーニング」の教育方法を取り入れて人気を集めているところがあります。
1.アクティブラーニングとは
教員が講義形式で一方的に教えるのではなく、学生・生徒たちが主体的・能動的に、仲間と協力しながら課題を解決するような指導・学習方法の総称です。「ピア(peer)・ラーニング」という「協働学習」の延長線上にある学習方法と言ってよいと思います。
「受け身の姿勢」から「自ら学ぶ力を身につける姿勢」への転換です。
生徒たちが能動的に学ぶことによって「認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る」(2012年8月中央教育審議会答申)内容だとされています。
グループワークやディスカッション、体験学習、調査学習なども有効とされています。
2.アクティブラーニングを取り入れた学習塾
従来の学習塾や予備校のイメージといえば、「授業が面白くて分かりやすい」「カリスマ講師がいる」「受験技術を上手に教える」といったものでした。
しかし、最近は「授業しません」「教えません」を標榜して、「講義」に比重を置かず、「生徒に主体的・能動的に学ばせる塾」が出現し。注目を集めています。
講義形式だと、本当にわかっている子供も、わかったような気になっているだけの子供も、さっぱりわからない子供も、表面的には「塾に行って勉強した」ということで満足してしまいがちです。
しかし、アクティブラーニングによる個別指導の場合は、それぞれの子供の理解度、学習の進捗度に応じて、きめ細かく指導できます。どこでつまづいているのか、分からなくなっているのかをきちんとフォローできるわけです。
これは英国のパブリックスクールにおいて各学寮の教師が個人指導を行う「チューター」のようなスタイルですね。
(1)松陰塾
直営とフランチャイズの合計で約200校ある学習塾で、「ショウイン」(福岡市)が運営しています。パソコン教材を使って全国展開するアクティブラーニングを取り入れた個別指導塾です。
(2)武田塾
「自学自習を徹底的に管理する」というのがモットーの学習塾です。首都圏を中心に全国に約200カ所あります。
3.アクティブラーニングが注目される背景とメリット
(1)背景
①社会が求める人材の変化
グローバル化や絶え間ないイノベーションが進む変化の激しい「知識基盤社会」は、単に多くの知識を持っているだけではだめで、自由な発想に基づく多様で創造的な対応能力、他者と協働して課題を発見し解決する能力が求められています。
「ソリューション(solution)」とか「ITソリューション」「ソリューション事業(部)」という言葉を最近よく聞きますが、これは顧客のニーズを発見し、それに合わせたハードウェア、ソフトウェア、サービスを提供する「問題解決能力」のことです。
最近よく使われる「リテラシー(literacy)」(情報機器を利用して、膨大な情報の中から必要な情報を抜き出し、活用する能力、応用力)もその一つでしょう。「情報リテラシー」「金融リテラシー」「コンピュータリテラシー」「メディアリテラシー」などと使われます。
②日本人が海外の学生・生徒に比べて応用力が不足していることへの反省
かつて世界的な「学力調査」で、日本人の応用力不足が目立ったため、従来型の教育への反省が生まれたものと思われます。
「アクティブラーニング」導入の成果が現れたのか、2015年の「国際学力比較調査(PISA)」(主に15歳の子供を対象とした学習到達度調査)では、「科学的リテラシー」はシンガポールに次いで2位となりましたが、「数学的リテラシー」は5位(1位はシンガポール)、「読解力」は8位(1位はシンガポール)でした。
ただ、残念なことに2018年の結果は、「科学的リテラシー」が5位、「数学的リテラシー」が6位、「読解力」が15位と軒並み低下しています。
③文部科学省の動向
2014年12月の中央教育審議会答申では、高校教育・大学教育それぞれについて、「アクティブ・ラーニングへの飛躍的充実を図る」(高校)、「アクティブ・ラーニングへと質的に転換する」(大学)と明記されました。
2022年度から高校で導入される新学習指導要領の改訂に向けた諮問(2014年11月)でも、「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や、そのための指導の方法等を充実させていく必要があります」と記載されています。
これを受けた新学習指導要領では、全教科で「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の実現を目標に掲げています。
文部科学省は3月24日、2021年度から全国の中学校で使用される教科書の検定結果を公表しました。新学習指導要領に沿って編集された初の教科書で、グループ活動などの場面が数多く盛り込まれています。
(2)メリット
①新しい社会で必要な能力を養成できること
②自分で学ぶ学び方を習得できること
学校を卒業すると、勉強もしないし、本も読まない人も少なくありません。PISAで日本の読解力」が8位という成績なのは、子供がコンピュータゲームやYouTube、スマホに夢中で、読書する習慣を身につけている子供が少ないことの現れでしょう。
しかし、「人生100年時代」を迎えて「生涯学習(lifelong learning)」の重要性はますます高まっています。
学生時代に「アクティブラーニング」や「読書の習慣」を身につけておけば、有意義な人生を送ることができと思います。本来、勉強は「自学自習」が基本です。
蛇足ながら、以前「スパルタ教育の記事」を書きましたが、その中で日比谷高校の「生徒が教える授業」を紹介しました。「他の人に教えるアクティブラーニングの学習定着率は90%」とのことなので、当時の日比谷高校はアクティブラーニングを先取りしていたのかもしれません。