日本語の面白い語源・由来(す-⑥)李・鱸・凄い・素敵・簾・酢・ずばり・寿司・助六寿司

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すもも

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.李/酸桃(すもも)

すもも

すもも」とは、中国原産のバラ科サクラ属の落葉小高木です。果実は生食するほか、ジャムや果実酒などにします。プラム。

「すももも桃も桃のうち 桃もすももも桃のうち」という早口言葉があるように、すももの「もも」は、果実が桃に似ていることによります。

すももの「す」は、酸味が強いことから「酸っぱい」意味を表す「す」が有力とされる。
うぶ毛の無い桃の意味で「素桃」を語源とする説もありますが、「す」に「酢」が当てられ「酢桃」とも表記されるように、この果実は毛の無いことよりも酸味の方が印象深いため、酸っぱい桃と考える方が妥当です。

「李」の漢字は、「木」+「子(実、実がなる)」で、果実の沢山なる木を表しています。

「李」は夏の季語で、「李の花」は春の季語です。

・葉隠れの 赤い李を なく小犬(小林一茶

・熟れきつて 裂け落つ李 紫に(杉田久女

・毒を盛る 親はなみだの すもゝ哉(志太野坡)

・垣越に 李の花や 星月夜(故来)

2.鱸(すずき)

スズキ

スズキ」とは、スズキ目スズキ科の魚です。全長90センチ。体は細長く、側扁。夏季には河川にも入る出世魚のひとつで、成長するにしたがってコッパ・セイゴ・フッコ・スズキと呼び名が変わります。

スズキの語源は、以下のとおり諸説あります。
身が白く、すすいだような魚なので、「すすぎ」が転じたとする説。
スズキの「スス」は「小さい」の意味で、口が大きい割に尾が小さすぎることからとする説。
スズキの勢いよく泳ぎ回る性質から、「ススキ(進き)」が転じたとする説。
スズキは磯釣りで捕獲される魚であることから、「イス(磯)」を重ねた「イスイス」に長さを表す「キ(寸)」がつき「イスイスキ」となり、「イス」の挟母音「イ」が脱落した「ススキ」が転じたとする説。
スズキは鱗がすすけたような色をしていることから、「ススキ(煤き)」が転じたとする説。

『古事記』にはスズキの名が「須受岐(すしゅき)」として見られるため、「ススキ」の音から辿って間違いないと思われますが、魚類の中でも難解な名前のひとつで断定は困難です。

スズキの漢字「鱸」の「盧」は「コンロのように丸い」と解されていますが、鱗の黒さから「黒い」の意味で、魚偏に「盧」とされたと思われます。

漢字の成り立ちが「黒」に由来するとれば、和名「スズキ」の由来も「ススキ(煤き)」の転と考えて良さそうです。

しかし、様々な説があることからも分かるとおり、スズキに対する捉え方は共通していないため、漢字の成り立ちをスズキの語源に考慮することはできません。

「鱸」は秋の季語、「落鱸」は冬の季語で、次のような俳句があります。

・釣り上げし 鱸の巨口 玉や吐く(与謝蕪村

・打つ櫂に 鱸はねたり 淵の色(宝井其角)

・釣り上ぐる 鱸や闇に 太刀の影(各務支考)

・蘆の穂の いつか月あげ 鱸釣(水原秋桜子)

3.凄い(すごい)

すごい

凄い」とは、ぞっとするほど恐ろしい。非常に気味が悪い。程度が甚だしい。並外れていることです。

凄いの語源には、「じかに」の意味を表す副詞「すぐ(直)」の形容詞化説。
度を越していることを表す「すぐ(過ぐ)」の形容詞化説や、古く、強く恐ろしいことを表した「しこ(醜)」に通じる説があります。

凄いの意味から「直」が影響しているとは考えられず、「醜」は意味が限られるため、度を越していることを表す「過ぐ」の説が妥当です。

古く、凄いは寒く冷たく骨身にしみる感じを表す言葉としても用いられました。

「ぞっとするほど恐ろしい」「ぞっとするほど物寂しい」など、凄いに「身の毛がよだつ」の意味が含まれるのも、その延長にあると思われます。

似た意味を持つ「酷い」は、副詞「ひどく」の形でプラス評価として用いられるようになってきていますが、凄いがプラス評価とマイナス評価の両面で使われるようになったのは最近のことではなく、「恐ろしいほど優れている」といったプラス評価の使用例は古くから見られます。

4.素敵(すてき)

素敵

素敵」とは、心をひかれるさま、素晴らしいさまです。

素敵は、江戸時代後期の江戸で俗的な流行語として、庶民の間で用いられ始めました。

当初は「すてき」とひらがな書きが多く、「程度の甚だしいさま」「並はずれたさま」の意味で使われていました。

明治頃から現在の意味に限定した使い方となり、漢字で「素的」の字が当てられるようになりました。

「素敵」の当て字が見られるようになるのは大正頃からですが、「素敵」が一般化したのは昭和に入ってからで、それまでは「素的」が多く使われていました。

素敵の語源には、二つの説があります。

ひとつは、「できすぎ(出来過ぎ)」の倒語「すぎでき」が変化した語とする説。
倒語は江戸時代の江戸で流行したもので、「すてき」の語が使われ始めた時代や場所がマッチするという点では、考慮に値します。

しかし、倒語となっているのが部分的であることや、「すぎでき」から更に変化するなど、単純な形容動詞の割に複雑な変化をしていることから考えがたい説です。

もうひとつは、「すばらしい」の「す」に接尾語の「てき」が付いて、「すてき」になったとする説。

「すてき」が当初は「並はずれたさま」を意味していたことや、のちに「素的」の字が当てられていることから、一見「すばらしい」との関連性はないように見えます。

しかし、「すばらしい」は元々「とんでもない」「ひどい」の意味で使われていた言葉で、同じように意味が変化したとすれば、「すばらしい」を語源とする説は十分に考えられます。

当て字なので「素敵」の漢字の由来は分かっていませんが、「素敵」の他にも「素適」の当て字もあることから、「かなわない」という意味が関係していると思われます。

適わないは「望みが実現しない」の意味、敵わないは「対抗できない」「勝てない」の意味で使われるため、「素晴らし過ぎて敵わない」という意味から、「素敵」が使われるようになり、最も使われる当て字になったと考えられます。

余談ですが、「素敵」にまつわる面白い話があります。

贅沢は敵だ

「ぜいたくは敵だ!」という戦時中の贅沢禁止令の立て看板を風刺し、「敵」の前に「」を挿入して「ぜいたくは敵だ!」に勝手に書き換えた落書きが実際にあったそうです。

この話は「狂歌と落首は庶民たちの声なき声の代弁者?」という記事に書いていますので、ぜひご覧ください。

5.簾(すだれ)

すだれ

すだれ」とは、細く割った葦や竹を、糸で編み連ねたものです。日よけや目隠しとして垂らします。

昔の京町家では、夏になると建具の「障子(しょうじ)」を涼しげな「簀戸(すど)」(下の画像)に入れ替えました。「昔の日本家屋は開放的で季節感にあふれていた」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

簾戸・京町家

すだれは「簀(す)」+「垂れ(だれ)」で、すだれを単に「す」と言うこともあります。

「簀(す)」は、蒸籠(せいろう)や巻き寿司をつくる際に用いられる割り竹を並べて編んだもので、「すだれ」とも呼ばれます。

また、貴人や神仏の前に垂らすすだれは「御簾(みす)」と言います。

「簀(す)」の語源は、「隙」「透く」など「隙間があるもの」の多くに使われる「す」で、これらは全て同源と考えられます。

「簾」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・簾して 涼しや宿の はひり口(山本荷兮)

・吹きあげて 風あまりある 簾かな(五百木飄亭)

・ひと迎ふ 簾の奥に 灯を置きて(高田正子)

・簾捲く 月の渺たる 磯家かな(飯田蛇笏)

6.酢(す)

酢

」とは、酢酸を含む酸味のある液体調味料です。

酢の語源は、口に含んだときにスッとする感覚の「す」と考えれます。

「すずしい」や「すがすがしい」の「す」を語源とする説もありますが、口に含んだ時の感覚を「すがすがしい」や「すずしい」と形容した説なので、ひとまとめにスッとする感覚と捉えて良いでしょう。

酢の起源は、紀元前5000年頃の古代バビロニアの記録にも残っているように、世界的には古いものです。

日本へは4~5世紀頃に中国から伝来しましたが、江戸時代までは製法が広まっておらず、酢は上流階級のものでした。

江戸時代以降は庶民の手にも届くようになり、味噌や醤油とともに普及していきました。

「酢作る(酢造る)」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・酢造るや 細々として 落る花(松瀬青々)

7.ズバリ(ずばり)

ズバリ当てましょう

昔、司会が泉大助さんでアシスタントが松本めぐみさん(後の加山雄三夫人)の「ズバリ当てましょう」という人気クイズ番組がありました。「値段当てクイズ番組」の元祖で、松下電器産業(現在のパナソニック)1社提供でした。

ズバリ」とは、物事の急所や核心を正確に突くさまです。遠まわしでなく、単刀直入に指摘するさま。ずばっと。

ズバリは、刃物で勢いよく切ったり刺したりするさまを表す語として、鎌倉時代から用いられました。

上記の用法からわかる通り、「ズバリ」は擬音語に由来します。

的確に物事を言い当てたり、核心を突くさまを意味するようになったのは、勢いよく的確に切るさまから派生したものです。

この意味で「ズバリ」が用いられた例は、古い文献には見当たらず、明治以降に多く見られるようになりました。

8.寿司/鮨/鮓(すし)

寿司

すし」とは、酢で味付けした飯に、魚介類などの具をのせたり、混ぜ合わせたりした食品です。

すしの語源は、「酸っぱい」を意味する形容詞「酸し(すし)」の終止形です。

古くは、魚介類を塩に漬け込み自然発酵させた食品を「すし」といい、発祥は東南アジア山間部といわれます。

「酢飯(すめし)」の「め」が抜け落ちて、「すし」になったとする説もあります。

しかし、飯と一緒に食べる「生成(なまなれ)」や、押し鮨の一種である「飯鮨(いいずし)」は、上記の食品が変化し生まれたもので、時代的にもかなり後になるため、明らかな間違いです。

すしの漢字には、「鮓」「鮨」「寿司(寿し)」があります。

「鮓」は塩や糟などに漬けた魚や、発酵させた飯に魚を漬け込んだ保存食を意味したことから、すしを表す漢字として最も適切な字です。

「鮨」の漢字は、中国で「魚の塩辛」を意味する文字でしたが、「鮓」の持つ意味と混同され用いられるようになったもので、「鮓」と同じく古くから用いられています。

現代で多く使われる「寿司」は、江戸末期に作られた当て字で、「寿を司る(つかさどる)」という縁起担ぎの意味のほか、賀寿の祝いの言葉を意味する「寿詞(じゅし・よごと)」に由来するとの見方もあります。

「寿司」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・鮒鮓(ふなずし)や 彦根の城に 雲かかる(与謝蕪村)

・ふるさとや 親すこやかに 鮓の味(正岡子規

・鮎鮓(あゆずし)の 馴れあふころを 月暗く(長谷川櫂)

圧(お)すや 加茂のまつりも 過ぎし雨 (飯田蛇笏)

9.助六寿司(すけろくずし)

助六寿司

助六寿司」とは、いなり寿司と巻き寿司を詰め合わせたものです。

助六寿司の「助六」は、歌舞伎十八番の一つです。

「助六所縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」の通称で、主人公の名前でもある「助六」に由来する。
助六の愛人吉原の花魁で、その名を「揚巻(あげまき)」という。
「揚巻」の「」を油揚げの「いなり寿司」、「巻き」を海苔で巻いた「巻き寿司」になぞらえ、この二つを詰め合わせたものを「助六寿司」と呼ぶようになりました。

一説には、助六が紫のはちまきを頭に巻くことから「巻き寿司」に見立て、揚巻を「いなり寿司」に見立てたともいわれます。

「揚巻寿司」ではなく「助六寿司」となった由来は、江戸っ子らしい洒落であえて「助六」の名を使ったとする説や、この演目の幕間に出される弁当であったからという説もあります。

しかし、単に外題の「助六」からと考えても不自然ではありません。