「マクスウェルの悪魔」とは何か?わかりやすくご紹介します。

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マクスウェルの悪魔

前に「ラプラスの悪魔」と「シュレディンガーの猫」という物理学に関する面白い話をご紹介しましたが、もう一つ「マクスウェルの悪魔」という面白い話があります。

今回はこれについてわかりやすくご紹介したいと思います。

1.「マクスウェルの悪魔」とは

(1)マクスウェルの悪魔

「マクスウェルの悪魔」とは、1871年にイギリスの理論物理学者マクスウェルが提唱した思考実験、ないしその実験で想定される架空の働く存在のことです。

彼は「熱力学第二法則」に疑問を持ち、分子の動きを観察できる架空の悪魔を想定することによって、「熱力学第二法則」で禁じられた「エントロピーの減少」が可能であるとしました。

ちなみに「エントロピー」とは、熱力学における不可逆性の度合いを、数値化したものです。

(2)「熱力学第二法則」とは

「熱力学第二法則」は、「エントロピー増大の法則」とも呼ばれますが、おおよそ次のようなことです。

・熱エネルギーの流れる方向に関する性質

熱いものと冷たいものを一緒に放置しておくと、熱は必ず熱い方から冷たい方に流れ、最終的には全体が同じ温度になるが、勝手に熱い部分と冷たい部分に分かれることはない

・エネルギーの質の高さ・低さに関する性質

電気を熱に変えるのは簡単(電気ヒーターなど)だが、熱を電気に変えるのは難しい

・微粒子の混合・散乱に関する性質

コーヒーと牛乳を混ぜるのは簡単だが、コーヒー牛乳をコーヒーと牛乳に分けるのは難しい

(3)「マクスウェルの悪魔」の実験内容

①空気を密閉し外界から完全に孤立させた箱を用意し、その中央を壁で仕切る。その結果できる二つの部屋をA・Bとする

②この仕切りには小さな窓がある。この窓には空気の分子の速さを見分けて、窓を開閉できる「悪魔」が付いている。この「悪魔」には、窓を開けたり閉めたりして、Aには遅い分子を、Bには速い分子を誘導する性質がある。この際、分子に直接触れることはないため、エネルギーのやり取りはない。また、この窓はとても軽く、開閉に必要なエネルギーは無視できるほど小さい

③しばらくすると、遅い空気分子の入ったAと、速い空気分子の入ったBという二つの部屋ができる

(4)永久機関の可能性

もし、一家に一匹「マクスウェルの悪魔」がいれば、温度差を使って冷房も暖房も冷蔵庫も電気なしで使うことも可能になります。「永久機関」の誕生です。

ピストン(シリンダー)を例に取れば、普通は温度差を作り出すためにガソリンを燃やさないといけませんが、「マクスウェルの悪魔」はエネルギー源なしで温度差を作れるので「永久機関」になるというわけです。

(5)「マクスウェルの悪魔」に関する様々な議論

「マクスウェルの悪魔」は発表当時から議論の的となり、いろいろな仮説が立てられてきました。

「悪魔が分子を観察する時にエネルギーを消費する」という説が有力だった時もあります。しかし、1973年にエネルギーを消費せずに観察する方法が見つかり、この説は否定されました。

(6)熱力学と情報理論の融合および最近の動向

その後も研究が進み、「熱力学と情報理論の融合」という意外な方向に発展します。熱力学にはエントロピーという量がありますが、情報理論にもエントロピーと呼ばれるものがあります。

悪魔は分子を観察して、動作を変えます。この時、観察結果を一旦記録しなければなりません。そのまま続けて行くと、確かに熱力学に反するような現象が起こります。

しかし悪魔は観察した情報を記録し続けているので、「メモリー」を消費しています。この「メモリー」を消去すると熱が発生することがわかっています。その熱は、悪魔が熱からエネルギーを取り出した時に消費した熱と一致するのです。

無限のメモリーを持っていれば、第二種永久機関のようなものが作れますが、メモリーを消去すると、それまで得てきたエネルギーが帳消しになってしまうのです。これがわかったのは1982年のIBMの研究員の研究結果によるものです。

2010年には、東京大学と中央大学の共同研究で実際に「マクスウェルの悪魔」と同等の操作(情報をエネルギーに変換)を実現した実験報告も出ました。「マクスウェルの悪魔」の完全解決の日はそう遠くないかもしれません。

2.マクスウェルとは

マクスウェル

ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831年~1879年)は、イギリス(スコットランド)の理論物理学者です。エディンバラ大学およびケンブリッジ大学で学び、1871年にはケンブリッジ大学の実験物理学の初代教授となっています。

彼はマイケル・ファラデー(1791年~1867年)による「電磁場理論」をもとに、1864年に「マクスウェルの方程式」を導いて、古典電磁気学を確立しました。

さらに電磁波の存在を理論的に予想し、その伝播速度が光の速度と同じであること、および横波であることを示しました。

また1871年には、「マクスウェルの悪魔」の思考実験を示して、クラウジウスが提唱した「熱力学第二法則」に疑問を投げかけました。

ちなみに、アインシュタイン(1879年~1955年)は、1920年代にケンブリッジ大学を訪問した際、「自分の業績はニュートンよりもマクスウェルに支えられた所が大きい」と述べています。

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