旧フランステレコムのディディエ・ロンバール元CEOら当時の経営陣によるモラルハラスメントで2年間で35人もの大量の従業員が相次いで自殺した問題で、2019年5月6日にパリの裁判所で裁判が始まりました。
裁判の行方には、実業界・労働組合・労働問題の専門家らも高い関心を寄せているそうです。
1.モラルハラスメントの具体的内容
2008年から2009年の2年間という短期間に35人もの自殺者が出たのは驚きです。
中でも、「従業員の自殺19件、自殺未遂12件、うつ病を発症しての病気休職も発生」した8件のケースが焦点となっているようです。
その中には会社側の「恐怖経営」を告発する遺書を残して自殺した技術者の男性(51)や、同僚たちの目の前で窓から飛び降りた女性従業員(32)も含まれています。
旧フランステレコムは、2004年に民営化しましたが、これに伴って大々的な事業再編とリストラが行われました。
検察当局は、希望退職者を募る目的で会社側とロンバール被告が、従業員の不安をかき立てる方針を導入して、自殺を選択せざるを得ないほど精神的に追い詰めたと考えているようです。
2.日本での課題
私の若いころには「セクシャルハラスメント」「パワーハラスメント」「モラルハラスメント」などの言葉は存在しませんでした。戦前の理不尽な「絶対主義的天皇制」ほどではないにしても、人事権を持つ会社の上司の権限は絶大で、「命令と服従」の考え方が支配していたと言っても過言ではありません。逆らえば、低い人事評価をされたり、左遷されかねません。
最近は、コンプライアンス遵守が叫ばれる中で、建前上は各種ハラスメントの根絶を宣言している企業が多いように見えます。
しかし、「建前と本音」は異なりますので、学校での「いじめによる自殺問題」と同様、「実態把握」が必要です。
3.刑事罰の明文化の必要性
私は、「いじめ」と同様、「セクシャルハラスメント」「パワーハラスメント」「モラルハラスメント」はそう簡単にはなくならないと思っています。
ですから、そういう事態が起こった場合に、責任者を公正かつ厳格に処罰出来る「刑事責任を定めた法整備」が急務だと私は思います。民事上の「損害賠償請求権」を認めるだけでは抑止力として不十分だと思います。
麻生財務大臣がいみじくも「セクハラ罪という罪はない」と発言しましたが、そういう考え方が今でも存在するのは、刑事責任を定めた法整備が行われていないからです。
「罪刑法定主義」ですから、刑法に定められた「暴行」「傷害」「脅迫」「強要」「強制わいせつ」「名誉棄損」「侮辱」などの罪に該当しない場合でも、「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」について犯罪成立の構成要件をきちんと明確化した特別刑法を制定すべきではないでしょうか?
つい先日も、芦屋市役所で50代の男性幹部が複数の職員に対して数年間にわたってパワハラをしていた事実が発覚しました。市議会で議員が質問をしましたが、市側は「個別の事案については答えられない」の一点張りで、質問が打ち切られました。
この事案などは、学校での「いじめ問題」と同じ構図で、市役所の保身体質がはしなくも露呈した感じがします。やはり当該幹部を告訴ないし告発でもしなければ、問題の解決の糸口はつかめないと思います。そして最終的には加害者を罰する法整備が不可欠だと思います。
いずれにしても、今回のフランスのこの裁判の行方に注目したいと思います。