「若山牧水」にまつわる面白い話

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若山牧水

若山牧水(1885年~1928年)は「酒を愛し旅を愛した歌人」「漂泊の歌人」として、有名な宮崎県出身の歌人です。

1.漂泊の歌人

「漂泊の歌人」としての彼の代表的な和歌は、『幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく』です。

この歌は満たされぬ思いや様々な苦悩を胸に秘めて、寂しさの解消される「心の平安(peace of mind)」や「幸福(happiness)」、あるいは心穏やかに過ごすことのできる「安住の地(safeliving land)」を求めて旅を続けた彼の生きざまを表現した歌だと思います。しかし結局、それは見つけられず、酒浸りになり、肝硬変で43歳の若さで亡くなります。

この歌は、ドイツ新ロマン派の詩人カール・ブッセ(1872年~1918年)の「山のあなた」(上田敏の訳)という詩の内容にもよく似ています。

山のあなたの空遠く 「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。 噫(ああ)、われひとと尋(と)めゆきて 涙さしぐみ、かへりきぬ。 山のあなたになほ遠く  「幸」住むと人のいふ。

この「山のあなた」でも、若山牧水の和歌と同じように、「幸福」は見つけられずに終わっています。しかし牧水の和歌と違って絶望感はないように感じます。実は幸福は遠くにではなく近くにあることを感じ取っているようにも思えます。

また、ベルギー象徴主義の詩人・劇作家のモーリス・メーテルリンク(1862年~1949年)の「青い鳥」の物語ともよく似ています。この物語では、幼い兄妹チルチルとミチルが幸せの青い鳥(blue bird)を求めて「過去の国」「未来の国」「夜の国」など様々な場所を遠くまで旅しますが、結局青い鳥を見つけたのは自分の家の鳥かごの中でした。

四国巡礼の「お遍路さん」も、いろいろな悩みを抱えながら、ひたすら四国霊場の札所を経巡り、「安心立命(あんじんりゅうみょう)」を求めているのかも知れません。そういう意味で、若山牧水の最初に挙げた和歌の心境に通じるものがあるように思います。

2.酒を愛した歌人

若山牧水は、旅を愛するとともに、大の酒好きで一日に一升程度の酒を呑んでいたそうです。暑い夏に亡くなったのに、死後しばらく経っても腐臭がしなかったため、「生きたままアルコール漬けになったのでは」と医師を驚嘆させたとのエピソードがあります。

自由律俳句の俳人種田山頭火(1882年~1940年)も旅と酒を愛したようですが、若山牧水よりも破滅的で、同じ自由律俳句の俳人尾崎放哉(1885年~1926年)の方によく似ています。

『この旅、果もない旅のつくつくぼうし』『鈴をふりふりお四国の土になるべく』

余談ですが、若山牧水の和歌については、私には高校時代の思い出があります。この和歌の解釈が今一つ腑に落ちなかったので、授業が終わってから先生に聞きに行きました。そこで、先生から『「幾山河・・・寂しさのはてなむ国ぞの疑問文の詠嘆一旦切れて後の今日も旅ゆくに続くのだ』と説明され、私なりに納得が行きました。

「どれだけ多くの山河を越えてきたことか知れないが、一体この国のどこまで行けば寂しさが無くなるのだろうか?しかしそれでも私は、寂しさが無くなることを願って今日も旅を続けて行く。」と私は解釈しました。

すると、期末試験にこの和歌の解釈が出題されていました。先生が、「これは生徒が理解しにくい和歌に違いない」と判断したのかも知れません。