「蛇」を含む面白いことわざ・慣用句・熟語

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蛇に睨まれた蛙

最近は滅多に蛇にお目にかかりませんが、私が子供の頃は草むらから出てきて小道を横切るシマヘビ(縞蛇)を時々見かけました。蛇の抜け殻もたまに見つけました。ゴルフ場では「マムシ(蝮)注意」の看板をよく見かけましたが、実際に見たことはありません。

ところで、蛇は昔から日本人や中国人には馴染みの深い動物だったようで、「蛇」を含むことわざ・慣用句・熟語はたくさんあります。

今回はその中から面白いものをいくつかご紹介したいと思います。

なお「蛇」「蛇の皮」「蛇の殻」「蛇衣(きぬ)を脱ぐ」は俳句で夏の季語です。

1.「蛇」を含むことわざ・慣用句

(1)蛇に睨まれた蛙

「恐ろしいものの前に出て、身がすくんで動くこともできないさま」のたとえです。また「大敵に狙われて抵抗できないこと」のたとえです。「とても勝ち目のない相手や大きな威勢のある人物に会った時などのさま」を言います。

「蛇に見込まれた蛙」「蛇に遇(お)うた蛙のよう」とも言います。

(2)蛇の生殺(なまごろ)し

「蛇を一思いに殺さず、半死半生(はんしはんしょう)にして苦しめること」です。「物事の決着をつけず曖昧にしておいて、苦しめること」のたとえです。

なお、この「生殺し」の対象となっているのは蛇です。蛇が蛙などを丸ごと捕食する「蛇の丸呑み」のことと勘違いしたり、「蛇の殺し」と間違って覚えている人もおられるようです。

(3)生殺しの蛇に噛まれる

「災いの根源や悪者の息の根を完全に取り去らなかったために、自分の身に害が及ぶこと」です。「蛇の生殺しは人を噛む」も同様の意味です。

(4)蛇に噛まれて朽ち縄に怖(お)ず

「蛇に一度噛まれてからは、蛇に似ている腐った縄を見ただけでも怖気(おじけ)づくこと」です。「一度の失敗に懲りて、必要以上に用心深くなること」です。トラウマですね。

「羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)」「黒犬に噛まれて灰汁(あく)の垂れ滓(たれかす)に怖じる」「舟に懲りて輿(こし)を忌む」「火傷(やけど)火に怖じる」も同様の意味です。

(5)蛇(じゃ)は寸にして人を呑む

「大蛇はわずか一寸の時から、人を呑みこもうとする気迫を持っていること」です。「才ある人は幼少の頃から他人を圧倒するものがあるというたとえ」です。

「虎子地に落ちて牛を食らうの気あり」「竜は一寸にして昇天の気あり」「松は寸にして棟梁の気あり」「良竹は生い出るより直ぐなり」も同様の意味です。

(6)蛇(じゃ)が出そうで蚊も出ない

「何か大きなことが起こりそうだが、実際はこれといって何も出ないことのたとえ」です。

「大山(泰山)鳴動(たいざんめいどう)して鼠一匹」も同様の意味です。この出典はイソップ寓話で、英語では「The mountains have brought forth a mouse.」です。

(7)蛇(じゃ)が蚊を呑んだよう

「少しも感じないで、けろりとしているさま」です。また「物足りないことのたとえ」です。

(8)草を打って蛇を驚かす

「何気なくしたことが、思いがけない結果や災難を招くことのたとえ」です。また「悪いことをした人の中の一人を懲らしめて、関係する他の者を戒めることのたとえ」です。

出典は中国の「書言故事」(故事成語を十二支に分類し解釈を加えた書物)です。

「藪をつついて蛇を出す」「藪蛇(やぶへび)」も同様の意味です。

(9)杯中の蛇影(はいちゅうのだえい/じゃえい)

「疑えば、何でもないことまでが神経を悩ますたねになるということ」です。「杯中」は「盃中」とも書きます。四字熟語としては「蛇影杯」です。

これは「晋書・楽広伝」にある故事に由来します。

晋の楽広という後に尚書(大臣)にもなった人物の友人が、しょっちゅう来ては酒を飲み、歓談してゆくのに、ある時からぱったり来なくなりました。人をやって尋ねさせると「杯を見ると蛇がうごめいていて気持ちが悪かったが、気のせいだろうと無理にグイと飲み干した。それ以来、蛇を腹の中に呑み込んでしまったようで、体の調子が悪くなり訪れる気もしなくなった」とのことでした。

それを聞いて楽広はその部屋の中を見回すと、壁に一張の弓が掛けてあって、それに蛇の模様が描かれていました。この蛇の模様が杯の中の酒に映ったのでした。

そこで無理に友人を再び呼び寄せて、また酒を出し、壁の弓と蛇の絵を指して説明したところ、たちまち病気が治ったということです。

「疑心暗鬼(ぎしんあんき)を生ず」「疑心暗鬼」、「疑いは暗中の人影」「疑えば目に鬼を見る」「落ち武者は薄(すすき)の穂にも怖(お)ず」「幽霊の正体見たり枯れ尾花」も同様の意味です。

2.「蛇」を含む熟語

(1)竜頭蛇尾(りゅうとうだび)

「初めは威勢が良いが、次第に勢いがなくなり惨めな結果になること」です。「虎頭蛇尾(ことうだび)」とも言います。

「竜頭蛇尾」は、中国の仏教書である「碧巌録(へきがんろく)」や「恵徳傳燈録(けいとくでんとうろく)」が由来となっています。

なお、これの対義語は「孫子」に由来する「始めは処女の如く後は脱兎の如し」です。

(2)蛇稽古(へびげいこ)

「稽古事などが長続きしないことのたとえ」です。

蛇は冬眠する動物で、暖かくなる春に冬眠から目覚めて、寒くなり始める秋には土の中に入ってしまいます。「この蛇のように、春に活動を始めて秋にはやめてしまうこと」から、こう言います。

「三日坊主(みっかぼうず)」「一暴十寒(いちばくじっかん)」「十寒一暴(じっかんいちばく)」もよく似た意味です。

「孟子」が出典の「一暴十寒」は、「少しだけ努力して、後は怠けることが多いたとえ」です。「一日目にこれを日に曝(さら)して暖めたかと思うと、次の十日これを陰で冷やす」という意味です。

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