直木賞受賞作「テスカトリポカ」とは?作者の佐藤究氏とは?

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テスカトリポカ

第165回(2021年上半期)の直木賞を受賞した佐藤究氏の「テスカトリポカ」は、犯罪小説(クライムノベル)、暗黒小説(ノワール小説)の傑作です。

1.小説「テスカトリポカ」

(1)小説「テスカトリポカ」とは

この小説は、現代の日本・メキシコ・インドネシアが舞台で、麻薬密売と臓器売買を行う人々を描いた長編小説です。

この「テスカトリポカ」という小説は、2021年5月に「山本周五郎賞」を受賞しており、2004年の熊谷達也氏の「邂逅の森」以来、17年ぶり2度目の「直木賞・山本賞ダブル受賞」となりました。

暴力シーン満載の犯罪小説(クライムノベル)、暗黒小説(ノワール小説)で、選考委員の林真理子氏によると、暴力・子供の臓器売買など文学にこれだけの残虐性が許されるのか、1時間以上の議論になったそうです。

執筆中に夢にうなされたという佐藤究氏は、「直木賞という大きな賞で是か非かと言ったら、僕も非です。でも現実はこれ以上のことが起こっている。資本主義リアリズムではこういう連中がシステムの背後にいると分かっていただければ」と話しています。

(2)あらすじ

2013年、メキシコ北東部で勃発した二大麻薬カルテルの戦争。無辜(むこ)の市民をも巻き込み、批判的なジャーナリストや作家を惨殺し、血で血を洗う凄まじい抗争の果てに、2015年、ロス・カサソラスを仕切っている四兄弟の皆殺しを、新興のドゴ・カルテル側がドローンを使った空爆で試みる。

唯一人生き残った三男のバルミロは命からがら国外へ脱出。インドネシア共和国のジャカルタで、移動式屋台のオーナーになり、調理師(エル・コシネーロ)と名乗る一方で、裏では安い麻薬を客に売りさばき、虎視眈々と復讐の機会を狙う日々を送っていた。

そこに裏商売の方の客として訪れるようになったのが、タナカという偽名を使う末永充嗣。もともとは優秀な心臓血管外科医だったのだが、コカイン常習による運転ミスで少年をひき殺し、逮捕から逃れるために整形手術を受けてジャカルタへ。臓器売買のコーディネーターにまで身を落としていた。

その二人が手を組み、ビッグビジネスを計画する。それは<血の資本主義(ブラッド・キャピタリズム)に輝くダイヤモンド>である心臓の売買。日本国内で、さまざまな事情から戸籍を持たない子供たちを保護の名目で連れ去り、生きたまま心臓を摘出し、6億円以上もの高値で心臓病の子供を持つ世界の大金持ちたちに売る。

それを成功させるために、バルミロは故郷で失った<家族(ファミリア)>を再構築。自ら人材をスカウトし、それぞれにスペイン語の呼び名を与え、<おれたちは家族だ(ソモス・ファミリア)>の号令のもと、忠実な部下に育て上げていく。その最後の切り札とも言うべき存在が、2mを超える巨漢の青年・土方コシモだった・・・。

(3)見どころ

アステカの戦士の末裔である祖母から神々の物語を刷り込まれ、敵対者や裏切者の心臓を生きたまま取り出しては究極の神テスカトリポカに捧げる儀式を行うバルミロの物語。

暴力団幹部の父親とメキシコ人の母親の間に生まれ、ネグレクト(児童虐待)によって学校にもろくに通うことなく成長し、13歳で両親を殺して少年院に入所する土方コシモの物語。

両者の運命を合流させる過程で、その他の脇役にあたる人々の家族にならざるを得なかった半生も丁寧に描き、陰惨なシーンが頻出する物語全体にアステカ神話を響かせることで、昏(くら)い聖性と文学性をまとわせています。

2.佐藤究氏とは

佐藤究(さとうきわむ)氏(1977年~ )は、福岡県福岡市生まれで福岡大学附属大濠高校出身の小説家です。

2004年に「サージウスの死神」で、第47回群像新人文学賞の優秀作に選ばれています。その後、佐藤憲胤(さとうのりかず)のペンネームで2冊の単行本を刊行し、執筆を続けましたが、純文学の世界で10年以上を「不良在庫」として過ごしました。

郵便局でアルバイトとして働いていた2015年、誰に頼まれたわけでもない「ゾンビ小説」を書いて知己の編集者にその作品の話をしたところ、江戸川乱歩省への応募を勧められました。

これを受けて、2016年に犬胤究(けんいんきわむ)のペンネームで「QJKJQ」を第62回江戸川乱歩賞に応募し、受賞しました。この作品を「佐藤究」のペンネームに変えて刊行しました。

2018年には、「Ank:a  mirroring  ape」で第20回大藪春彦賞および第39回吉川英治文学新人賞を受賞しています。

3.アステカ神話にある「テスカトリポカ」とは

黒いテスカトリポカ

そもそも「テスカトリポカ(Tezcatlipoca)」とは、「アステカ神話」(*)の主要な神の1柱です。

(*)「アステカ神話」とは、アステカ(1428年頃から1521年までの約95年間、北米のメキシコ中央部に栄えたメソアメリカ文明の国家)時代の中央メキシコで伝えられた神話です。

「テスカトリポカ」は神々の中で最も大きな力を持つとされ、キリスト教の宣教師たちによって「悪魔」とされました。

Tezcatlipoca」は、ナワトル語で「tezcatl(鏡)」と「poca(煙る)」という言葉から成り、「煙を吐く鏡」という意味です。ちなみに「鏡」とは、メソアメリカ一帯で儀式に使用された「黒耀石の鏡」のことです。

その神性は、夜の空、夜の風、北の方角、大地、黒耀石、敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い概念と関連付けられています。この神の持つ多くの別名は神性の異なる側面を示しています。

モヨコヤニ(全能者)、ティトラカワン(我らは彼の奴隷)、イパルネモアニ(我らを生かしている者)、ネコク・ヤオトル(両方の敵)、トロケ・ナワケ(近くにいる者の王)、ヨワリ・エエカトル(夜の風)、オメ・アカトル(2の葦)、イルウィカワ・トラルティクパケ(天と地の所有者)などです。

テスカトリポカの仮面

通常「テスカトリポカ」は、身体は黒く、顔に黒と黄色の縞模様を塗った姿として描かれ、しばしば右足が黒耀石の鏡か蛇に置き換わった姿で表現されます。

これはアステカの創世神話において大地の怪物と戦い、右足を失ったことを表しています。時には胸の上に鏡が置かれ、鏡から煙が生じている様子で描かれる場合もあります。

テスカトリポカの化身

「テスカトリポカ」のナワル(変身後の姿)はジャガーであり、神性のジャガー的な側面が、「テペヨロトル(山の心臓)」という神とされます。



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