<2021/9/7追記>森友問題につき「再調査の必要はない」と、当初の追及の姿勢から豹変
森友学園問題を巡る財務省の決裁文書改ざんについて「再調査は考えていない」と必要性を否定しました。
2日夜のBS-TBS番組では「調査が十分かどうかは国民が判断する話だ。国民は足りないと言っているわけだから、さらなる説明をしないといけない。国民が納得するまで努力することが大事だ」と述べ、十分な説明が必要との認識を示していました。
安倍前首相や麻生氏からの牽制を見ての明かな豹変です。最初は思い付きの人気取りで言ったのかもしれませんが、明らかに主張に一貫性がなく、「竜頭蛇尾」のそしりを免れません。
今回の自民党総裁選に真っ先に出馬表明したのが岸田文雄氏です。最初は「菅首相と岸田氏の一騎打ち」の構図と見られていましたが、菅首相の「総裁選不出馬表明」によって、河野太郎氏や石破茂氏i(後に不出馬で河野氏支持表明)など複数の候補者が参戦する当初とは全く異なる様相となりました。
国民に人気の高い河野太郎氏や、自民党員に人気の高い石破茂氏、安倍前首相の支持を取り付けた高市早苗氏など手ごわい相手です。
1.岸田文雄氏とは
64歳の岸田文雄(きしだ ふみお)氏(1957年~ )は、早稲田大学法学部卒の衆議院議員(9期)です。宏池会会長(第8代)で、自由民主党広島県連会長です。
内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、規制改革、国民生活、再チャレンジ、科学技術政策)、外務大臣(第143代・第144代)、防衛大臣(第16代)、自民党国会対策委員長(第52代)、自由民主党政務調査会長(第58代)、自民党たばこ議員連盟副会長などを歴任。血液型AB型。
中小企業庁長官、衆議院議員を務めた岸田文武は父。戦前戦後に衆議院議員を務めた岸田正記は祖父。参議院議員・経済産業大臣を務めた宮澤洋一は従兄弟です。
2.政策や主張
自民党総裁候補の岸田文雄氏は「令和版所得倍増計画」を公約に掲げています。
(1)経済・財政
①財政再建派
財政出動に関しては、財政健全化の見通しがない中で実施しても、将来への不安を増大させることになりかねないと否定的な立場を取ってきました。また「財政健全化の道筋を示すことで、消費を刺激して経済の循環を完成させる」と主張しています。
今回の総裁選では、コロナ対策「岸田4本柱」として、「医療難民ゼロ」、「ステイホーム可能な経済対策」、「電子ワクチン接種証明活用・検査の無料化拡充」、「感染症有事対応の抜本的強化」をあげました。
そして「数十兆円規模の経済対策を実施」するとし、非正規、女性、子育て世代、学生などコロナ禍で困っている人に対する給付金を支給や、学校休校の際の親の臨時的な休業手当の創設をすると明らかにしています。
この経済対策が過去の主張と矛盾しないのか、また「バラマキ」にならないのか心配です。
さらに、危機対応能力の強化として、国・地方が人流抑制や医療資源確保において、より強い権限を持てるための法改正、公衆衛生上の危機発生時に国・地方を通じた強い指揮権限を有する「健康危機管理庁(仮称)」を設置するとしています。
②格差是正
アベノミクスを評価しつつも、格差の拡大を招いていることを指摘し中間層への分配を主張しています。
③新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策
当初は岸田氏が主導していた「減収世帯への30万円の給付」が検討されていましたが、政府はこれを撤回し、「全国民への一律10万円給付」を行う形となりました
④デジタル田園都市構想
地方創生策としてデジタル田園都市構想を主張しています。
⑤中小企業重視
商工族出身であるため、自動車工業界、中小企業零細対策などに詳しく、大手自動車メーカーのサプライチェーンを何重にもなって下支えする中小の下請け業者や、地域社会・商店街の小売店など、中小企業・小規模事業者を守ることを重要視しています。
⑥年金の財政一元化
国民年金と厚生年金の財政一元化ないしは調整を主張しています。
⑦「地方に出来る事は地方に、民間に出来る事は民間に」という小さな政府論の否定
三位一体改革によって都道府県に移譲された商工会議所の事業費・人件費の財源を、再び国に移譲することを主張しています。
(2)憲法と平和
①憲法改正に賛成ながら「9条改正」論でもない
「憲法は時代の変化に応じて然るべきもの」との考えです。ただし、「9条改正の改憲論が存在し、そういった改憲論者が存在するということは分かっているが、直ちに9条を改正するという話ではない」という煮え切らない主張です。
②集団的自衛権を肯定
集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈を見直すことに賛成です。
③核武装には反対
「日本の核武装については検討すべきでない」との立場です。
④党内穏健派
「自民党が右傾化していると言われるが、保守穏健派があると示すためにも、仲間の応援に飛び回りたい」と党内の穏健派をアピールしています。
⑤バランス重視
「今の日本の政治において気になることがあります。強いリーダーシップ、米国中心外交、タカ派的体質が強調されることです。それぞれの意義を否定するものではありませんが要はバランスが大切だと思っています。」と述べています。
(3)教育
①所得連動型授業料返還
高等教育における「所得連動型授業料返還方式」の導入を主張しています。
②国立大学法人化問題
国立大学の法人化について問題点が多発していることを認め、官民による資金投入や大学運営上の制限撤廃を主張しています。なお、国立大学法人化は2004年に実施済です。
(4)その他
①原発再開派
エネルギー政策に関しては、原子力規制委員会の新基準を満たした原発は再開すべきとの立場です。
②女性宮家創設に反対
女性宮家の創設に反対の立場です。
③選択的夫婦別姓制度
2014年頃は「選択的夫婦別姓制度の導入にどちらかといえば反対」でしたが、その後考えが変わり、2021年3月25日に発足した「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」に「呼びかけ人」として参加するに至っています。
④議員定年制
自民党の議員定年制見直しに反対の立場です。
⑤自民党の役員任期を1期1年、連続3期までに制限
党執行部の権限が強くなりすぎたとして、自民党の役員任期を1期1年、連続3期までに制限することを主張しています。
⑥森友・加計問題追及
「森友学園」や「加計学園」の問題について、安倍晋三前首相の説明は不十分との立場です。
「国民が納得するまで説明を続けることが政府の姿勢として大事だ」と主張していますが、これは明らかに「安倍前首相を敵に回す」ことで、「国民の声」を味方につけられるかどうか危険な賭けと私には見えます。
3.エピソード・人物像
①酒豪伝説
宏池会に所属し、派閥会長を務めた古賀誠との関係が近く、古賀の側近とされました。宏池会の政治家らしく酒豪で知られ、自民党青年局における台湾との交流では、青年局長であった安倍晋三や、小此木八郎、浜田靖一らが揃ってあまり酒を飲まないため、酒に強い台湾の政治家らの歓迎を一手に引き受け、ビールも紹興酒もマオタイも次々に乾杯して文字通り杯を空(乾)にしたという「酒豪伝説」があります。
②東大受験に3度失敗
親族のほとんどが東京大学を卒業している中で東大受験に3度失敗し、東大を卒業した従兄・宮澤洋一と比べて自分の資質を疑問に思ったこともあったということです。
③人の意見を受け止めるタイプのリーダー
酒の席で彼の「聞き上手」が発揮されたようです。
④何事もそつなくこなすジェネラリスト
⑤敵を作らない
岸田氏は「理念をはっきり主張しないことによって敵を作らない順応型」であるから有力な地位が持てたのだとも指摘されています。
これが「首相」としての資質にふさわしいかと言えば 、大いに疑問が残ります。平穏無事な時ならともかく、中国・ロシア・北朝鮮問題など外交・防衛面で喫緊の課題が山積している中において、毅然とした外交姿勢を示し、日本の国益を守ることができるのか不安です。